魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫11)


  第43話 闇より現れたる者、それは魔戦姫!!
原作者えのきさん

 平原で起きた異変を、アリエルも目撃していた。
 絶体絶命だったマリエルとミュートの人々は、突如現れた黒衣の淑女によって救われた
のだ。
 物言わぬマリーに寄り添いながら、呆然と平原の様子を見る。
 「・・・いったい、なにが・・・」
 それは、アリエルの慟哭を聞き届けた(何者か)が成し得た所業なのだろうが・・・
(何者か)が(神)でないことは一目瞭然だった。マリエル達を守っている(闇)がそれ
を物語っている。
 だが、相手が何者かなどアリエルには関係なかった。愛する弟を守ってくれたなら誰で
もいい、それが悪魔であろうとも・・・
 
 黒衣の淑女は、転落したアリエルを探すべく峡谷の淵に降り立った。
 峡谷は深く、谷底を見つめながら淑女は歩く。
 「あの崩れた橋から転落したようですわね。」
 呟く淑女に、先ほどの(銃と兜)が返答する。
 (はい、水面に落ちたのが幸いしたと思われます。)
 (川の流れからして、多少下流に流されているでしょう。)
 独り言を呟いているようにも見える淑女が、(銃と兜)と共にアリエルを探していた時
である。
 物陰から1人の男が槍を持って飛び出してきた。
 「やいやいやいっ!!てめえは何モンだあっ。この猛槍超撃大将軍ゲバルドさまの(ピ
ー)を舐めさせてやるぜクソ女めが〜っ!!」
 騒々しく現れたのはゲバルドだった。槍を淑女に突き付け、なおも口汚く喚き散らす。
 「この槍をてめえのオマ○コに突き刺してヒイヒイ言わせてやるっ。土下座して謝って
も許さねえぜ〜っ、ケツ踏みつけてムチでビシバシって・・・あら?」
 喚いていたゲバルドの目が点になる。淑女がゲバルドを無視して通り過ぎたのだ。
 「・・・ここからアリエル姫の居場所を探りなさい・・・そうですわ、もう1人・・・
侍女が危険な状態ですって?それは早く助けないと・・・」
 虫ケラの如く矮小なゲバルドの存在など、気高き闇の女王の目に全く入っていないのだ
った。
 存在すら見てもらえなかったゲバルドは、大激憤して淑女に襲いかかった。
 「うが〜っ!!無視すンじゃねえ、クソ女が〜っ!!」
 血に染まった槍が淑女の背中に突き刺さると思われた、その瞬間!!
 
 ―――バシィ―ンッ!!
 
 ゲバルドの槍が、両腕もろとも木っ端微塵に砕け散ったのだ。
 「う、うぎゃあああ〜っ!!う、腕がっ、うでがああ〜っ!!」
 流血と激痛でのたうつゲバルド。
 淑女の周囲に不可視のバリアーが張られており、無謀な戦いを挑んだゲバルドが蹴散ら
されたのだ。
 振り返った淑女は、侮蔑の目で矮小なゲバルドを見下す。
 「うるさいですわね、あなたのようなゲスは殺す値打ちもありませんわ。地獄には自分
で歩いて逝きなさい。」
 一瞥をくれた淑女は、ゲバルドに向って指をパチンと鳴らした。すると・・・
 「うああっ、あ、足が勝手にっ!?」
 ゲバルドの足がガクガクと動き出し、自分の意思とは関係なく後ろへと歩み始めたのだ。
 「こ、この先は確か・・・ひええっ!!」
 ゲバルドの歩む先は・・・断崖絶壁だった!!
 「た、た、助けてくれ〜っ!!なンで俺が死ななきゃならねぇんだよお〜っ!?猛槍超
撃大将軍ゲバルドさまがなんでええ〜っ!?」
 悲鳴を上げるゲバルドは、先の無くなった腕をバタバタさせて泣き叫ぶ。しかし、気高
き闇の女王は無視したままである。
 そして断崖絶壁がゲバルドに迫る。
 「うわっ!?うあああぁぁぁ・・・。」
 絶叫が闇へと飲み込まれ、谷底へ堕ちて逝くゲバルド。
 ゲバルドなど歯牙にもかけない淑女は、(銃と兜)と共にアリエル捜索を続けた・・・
 
 その頃、呆然と平原を見つめていたアリエルの耳に、落下するゲバルドの悲鳴が聞えて
きた。
 「・・・ぁぁぁあああ〜っ、うわらばっ!!」
 グシャッという鈍い音が響き、再び静寂が戻る。
 「今の声は、さっきの槍使いの声・・・上で何が?」
 不思議に思うアリエルの身体が、不意に浮き上がった。いや、マリーの身体もだった。
 「あ、ああ・・・」
 呆気に取られたアリエルは、見えない力に翻弄されるまま上空へと運ばれる。
 浮かんで行く先は、落下した橋の元であった。
 目に見えない力で谷底から浮きあげられたアリエルとマリーは、絶壁から離れた場所に
降ろされた。
 何が起きたかも理解できぬまま、呆然としていたアリエルの前に、 黒いドレスに鎧兜、
そして手に大型銃を持った淑女が現れる。
 そして淑女の身体に装着されていた黒い鎧兜が、カシャンと音を立てて外れ、宙を舞っ
た。
 空中で1つになった鎧兜が、なんと・・・黒いメイド服を着た侍女に変身し、さらに大
型銃も侍女の姿になって淑女の脇に控える。
 黒いベールで顔を覆った侍女を脇に従え、黒衣の淑女は口を開いた。
 「私の名は魔戦姫リーリア。闇の正義を司り悪を滅する者です。あなたがアリエル・ノ
クターン姫ですね?あなたの呼び掛けに答え、魔界より参じました。」
 おぼろげな月灯りに、黒衣の淑女・・・魔戦姫リーリアと名乗る者の美しき素顔が浮か
ぶ・・・


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