魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫11)


  第40話 迫る危機、そして絶体絶命!!
原作者えのきさん

激しい砲撃と、悲鳴を上げて逃げるミュートの人々を見て、アリエル達は絶望に苛まれ
た。
 「あ、ああ・・・マリエルッ、マリエルーッ!!」
 悲しき絶叫は爆音に掻き消され、深い悲しみが襲いかかる。どんなに叫んでも、愛する
マリエルを助けに行けない。逃げる人々を救えない・・・
 しかし強大な悪は、アリエル達に悲しむ暇すら与えなかった。周囲からガサガサと足音
が響き、武装した兵士が姿を現したのだ。
 「いたぞーっ!!アリエルだあ〜っ!!」
 嬉々たる声と共に凶刃が煌き、娘達は恐怖に立ち竦む。
 だが、その窮地にもアリエルは怯まなかった。
 「マリーッ、松明を消してっ!!」
 その声に反応したマリーが、素早く松明を消した。途端に周囲が暗くなり、今度はガル
ダーン兵が慄く。
 「うおっ!?アリエルが見えねえぞっ?」
 右往左往する兵士から逃れるべく、アリエルは指示を出す。
 「右に逃げなさいっ、全員で一斉にっ!!」
 そして転がるように、アリエル達は右の斜面を走り逃げた。
 苦境に立たされていても、やはりアリエルは戦女神であった。
 殆ど無意識に、身体に刻まれた戦いの判断力が働き、窮地を脱したのだ。
 だが、周囲を囲まれたアリエル達に再び兵士達が襲いかかる。
 マリーは、カバンの中からムロトにもらった護身用拳銃を取り出し、無我夢中で乱射し
た。
 「このこのーっ!!姫様に指一本触らせへんでっ!!」
 メチャクチャな乱射ではあったが、暗闇でうろたえる兵士達を威嚇するには十分であっ
た。
 その隙をつき、さらに逃亡を図るアリエル達。
 しかし、彼女達の逃げる先には、絶望的な状況が待っていたのだった・・・
 
 その頃、ゲンカイの命をかけた陽動作戦によって、ガルダーン軍は多いに遅れをとって
いた。
 焼き放たれた茂みで大騒ぎした兵士達は、ミュートの民がとっくの昔に逃げてしまった
のを知る。
 顔中ススだらけになっているゲバルド将軍は、地団駄を踏んで悔しがった。
 「ちっくしょおお〜っ!!よくも俺をコケにしやがって〜っ。マリエルはどこだ〜っ!?
」
 ギャアギャア喚くゲバルドに、アリエルを捕えに向っていた手下が走り寄って来た。
 「将軍っ!!アリエルを発見しましたよっ。この山の斜面で逃げまわってますっ!!」
 その報告に、ゲバルドは怒りの矛先を変えた。
 「そうかあ〜っ、(マ)リエルめえっ。俺がこの手で始末してやるぜえっ!!」
 どうやら、ゲバルドはアリエルとマリエルの名前を勘違いしているらしい。槍を振り回
し、土煙を上げて走り出したゲバルドを、手下達はボーゼンと見ている。
 「あ、あの〜。自分はアリエルって言ったんですけど〜。」
 そんな兵士の声も、全く耳に入っていなかった・・・
 
 暗闇を走り抜け、ようやく兵士達から逃れたアリエル達であったが、走る彼女達の前に、
絶望的な虚空が広がった。そこは・・・断崖絶壁であった。
 深い峡谷の間に一本の吊り橋がかけられており、それだけがアリエル達の救いの綱とし
て暗闇に浮かんでいる。
 ためらっている暇は無かった。地獄に下ろされたクモの糸に縋るが如く、アリエル達は
吊り橋を渡り始めた。
 ここを渡れば、絶望から脱する事ができると信じていたが・・・それも儚く潰える事と
なった。吊り橋の向い側からも、兵士達が現れたのだ。もはや、万事休すとなった・・・
 娘達は、震えながらアリエルを抱きしめ守っている。
 「もう、もうここまでだわ・・・」
 しかし、マリーは諦めなかった。カバンの中から、最後の武器である小型の手投げ爆弾
を取り出し、向かい側の兵士達と対峙した。
 「ここまで来て諦められまへんわっ。何が何でも、姫様をノクターンにお連れするんや
っ!!」
 マリーの手から爆弾が投げられ、向い側の兵士達が爆風で飛ばされる。
 チャンスとばかりに向い側へとひた走った。だが、あと少しで渡れるとなったその時で
ある。
 「ふははは〜っ!!やっと追い詰めたぜ(マ)リエルよおお〜っ!!」
 アリエルとマリエルの名前を勘違いしているゲバルドが、吊り橋を掴んで揺すり始めた
のだ。古く脆弱な吊り橋が危なく揺れ、アリエル達は渡るのを阻止されてしまった。
 手足の動かないアリエルを抱きしめ、必死で激しく揺れる吊り橋に縋りつくマリーと娘
達。
 それを見ていたゲバルドは、肝心の(マリエル)がいない事を知り、吊り橋を揺するの
を止めた。
 「んんっ?(マ)リエルのガキがいねえぞ、どーいうこった。」
 目を凝らして見れば、吊り橋にいるのは(アリエル)なのだ。
 そこで始めて、自分は大きな勘違いをしていた事に気付く。
 「アリエル、マリエル・・・ぬが〜っ!!間違えたじゃねーかっ、くっそーっ!!」
 激しく憤慨したゲバルドは、怒りを露に、槍で吊り橋のロープを切断した。
 渡る寸前だったアリエルが、無情にも奈落の底へと転落する。
 「きゃあああーっ!!」
 それを見たマリーが、アリエルを追って谷へと身を躍らせた。
 「ひめさまーっ!!」
 アリエルを腕に抱き、共に闇の虚空へと吸い込まれていった・・・




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