魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(2)


  第5話 真の敵、恐怖の魔神バール・ダイモン
原作者えのきさん

 
 城には、街の人々全員が捕らえられていました。広大な城の中に、何千人もの気絶した
民が押し込められていたのですから、彼等が目覚めた時の騒動は大変なものでした。
 「ありがとうございます・・・ありがとうございます天使さま・・・戦女神さま・・・」
 顔に喜びを浮かべ、私達に感謝の握手を求めてくる民達に、私も兵達も戸惑うばかりで
す。
 「あ、あの。お礼には及びませんわ、武神の勤めを果たしただけですから。」
 休みなく握手をしていた私に、頭の上からミルミルが声をかけてきました。
 (なにか変です〜。この人達、みんな変です〜。)
 「はい、どうも・・・え?何が変なの?」
 (だーかーらー、街の人みんなが変なんです〜。みんな顔だけ笑ってて、本当はぜんぜ
ん笑ってないです〜。)
 「もうっ、忙しいんだから話しかけてこない・・・で?」
 慌ただしく握手をしていた私は、ミルミルの言葉にハッとしました。
 確かに・・・皆の笑顔が不自然なんです。作り笑いと言うか、ただ顔だけ笑っているの
に気がつきました。
 恐怖と緊張で顔が引きつっているのかとも思いましたが、1人か2人だけならまだしも、
解放された全員が同じ顔で笑っているのです。
 先にも言いましたが、ミルミルは人の善し悪しを見分ける才能があり、何かよくない気
配を感じているミルミルは、ヘルメットに変身したまま私の頭に止まっています。
 (おかしいです、ぜったいにおかしいです。)
 私もまた、この子と同じように不安を募らせていました。
 民達の様子は表情だけでなく、行動も変だったのです。似たようなセリフで礼を述べ、
同じように頭を下げて、同じように下がる・・・これの繰り返しでした。
 そして、肝心の人物、ノクターン国王の姿が見えないのに気がついた私は、大臣らしき
人物に尋ねました。
 「あの、国王陛下は御無事ですか?どこにも居られないので心配しているのですが。」
 すると、返ってきた返答も不可解なものでした。
 「・・・ええっと・・・国王さまは・・・今、御不在であります・・・」
 「御不在?では何処へ行かれたのですか。」
 「・・・はい・・・御病気を患われておりまして・・・お休みなされております・・・」
 それは、明らかに偽りの返答でした。
 他の大臣や高官に尋ねても同じです。誰も彼も曖昧な返答で国王の所在をごまかしてい
るのです。
 ただならぬ異変を感じた私は、大急ぎでラムゼクスの元へ走りました。
 するとラムゼクスは、酷く憤慨した顔で頭から湯気をたてております。
 「あの不届き者めっ。職務怠慢だ敵前逃亡だっ!!見つけたら只ではすまさんぞっ、軍
法会議にかけてやるっ!!」
 彼の怒鳴り声を聞いた私は、未だに姿を見せないウィルゲイトに憤慨しているのだとわ
かりました。
 「まだウィルゲイトは帰って来ませんの?」
 「あ奴の根性を叩き直して・・・おお、こ、これは姫様。お見苦しい所をお見せしまし
た。じつは、姫様の仰るとおりウィルゲイトの馬鹿者が戻ってきませんでして・・・」
 「まあ落ち着いてラムゼクス、ウィルゲイトの事も心配ですが、それよりももっと心配
な事がありますの・・・」
 声を潜める私を見て、ラムゼクスも異変を悟りました。
 「心配な事ですと?それは如何なる事ですか。」
 私とミルミルは、事の次第をラムゼクスに告げました。
 話を聞いたラムゼクスは、眉間にしわを寄せて呟きます。
 「う〜む、それは言われてみれば確かに・・・なんと言いますか、洗脳されている感じ
かと思いますな。」
 「ええ。それと、先程の魔族達にリーダーがいない事に気付きました。この事をラムゼ
クス、あなたはどう思います?」
 「リーダーはアホの手下を見捨てて逃亡を図ったのではないかと、それがしは思います。
なにせ、魔族は忠義も手下を思いやる心もない不逞の輩が雁首を揃えておりますゆえ。ま
あ、民達は何がしかの薬物でも飲まされたか、魔法で性根を抜かれたかと・・・」
 ラムゼクスがそこまで言った時です。
 城で働いているらしいメイドの若い女の子が、他の者と同じ作り笑いで私の元に歩み寄
ってきました。
 「・・・戦女神さま・・・天使さま・・・助けて頂いてありがとうございます・・・」
 その子は私の手を握り、しきりに感謝の言葉を述べています。
 ラムゼクスが、民は魔族に何かされたのではと言った言葉を思い出し、思い切ってメイ
ドの子に尋ねました。
 「ねえ、あなたは魔族に変な事をされませんでしたか?例えば、妖しい薬を無理やり飲
まされたとか、恐ろしい魔法をかけられたとか・・・」
 尋ねた途端、メイドの子は身体をビクンと痙攣させ、しばらく動かなくなりました。
 そして、再びニコニコ笑いながら私の手を握ってきたのです。
 彼女の顔は笑っていましたが、目は、何かを激しく訴えるかのように私を見つめていま
す。口をパクパク動かしているのですが、喋る事ができない状態です。
 恐ろしい目にあったのだと直感した私でしたが、その私の腕に、メイドの子はブルブル
震える指で文字を書きました。
 メイドの子が訴えた驚愕のメッセージは・・・
 
 ・・・ニゲテ・・・ハヤク、ニゲテ・・・
 
 私の全身に、凄まじい恐怖が電撃となって走りました!!
 先程の魔族達は囮で、本命が他に潜んでいるのです。
 「ら、ラムゼクスッ!!大変ですっ、私達は罠に嵌められましたわっ!?」
 迫りくる危険を、ラムゼクスもミルミルも速やかに察しました。
 「むむっ、これはいかんっ!!総員、ただちにフォルテ城から退却せよっ!!」
 ラムゼクスの叫んだ先には、若い娘に感謝を告げられて鼻の下を伸ばしている兵達がい
ます。
 「どーしたんですか隊長?そんなに大声出して。」
 「ウィルゲイト参謀なら、まだ戻ってませんけど。」
 呑気な兵達に、ラムゼクスの怒声が飛びます。
 「惚けとる場合かバカモ〜ンッ!!敵がすぐそばに迫っておるのだぞっ!?」
 その声に我に返った兵達は、大慌てで退却をしようとしました、が。
 ・・・すでに遅かったのです・・・
 
 ーーーヴオオオ〜ッ!!
 
 大地を揺るがす大音響が響き、民達が糸の切れた操り人形のようにバタバタと倒れ始め
ました。
 異変は更に続きます。
 大理石でできた白亜の壁が、どす黒い色に染められ、そこに邪悪な顔が浮かび上がった
のです。
 
 ーーーグワ〜ハッハッハ〜ッ!!
 
 浮かぶ顔から邪笑いが発せられ、転がっていた民やメイドの子が激しく痙攣を起こしま
した。
 驚いた私がメイドの子を抱き抱えると、メイドの子は服の胸元を破いて叫びました。
 「・・・た、たすけてええーっ、く、くるしいいい〜っ!!」
 見ると、露になった小さな乳房に、邪悪な紋章が描かれています。
 私もラムゼクスも兵達全員も、突然の事に動けなくなってしまいました。
 そして・・・黒くなった壁から、新手の魔族達が大挙して押し寄せてきたのです。それ
も、先程の獣人達よりも強いクラスの者達でした。
 ゲラゲラと高笑いが響く中、私達は、自分達の何倍もの大軍勢に取り囲まれてしまいま
した。
 まさに袋のネズミとはこの事です。完璧に・・・私達は嵌められてしまったのです・・・
 恐怖を振り払い、ラムゼクスは叫びます。
 「おのれ魔族どもめっ、謀りおったなっ。許さんぞっ!?」
 そんなラムゼクスの叫びを嘲笑う声が、地の底から響いてきました。
 『グフフ〜、謀ったとは笑止ぞ・・・騙される貴様らが愚かなのだ〜。』
 壁に闇の扉が開き、そこから・・・恐怖の悪魔が現れたのです!!
 「ふはは〜っ、わしの名はバール・ダイモン。地獄の最強魔神であるぞ〜。愚か者ども、
しかと見知り置け〜。」
 それは、まさに悪夢が実体化したかの如き悪の権化・・・
 黒い巨体が邪悪に躍動し、腐臭のようなおぞましい波動が私達の精神を切り裂きました。
 恐るべき魔神の出現に、ミルミルは泣き叫びました。
 「うわあ〜んっ、姫さまコワイです〜っ。」
 ヘルメットから元の姿に戻ったミルミルを抱きしめ、私は震える口を開きます。
 「だ、大丈夫よミルミル・・・あなたを必ず守ってあげるから・・・」
 完全に恐怖の虜となってしまった私は、ただ震えて怯えるしか術はありませんでした・・
・
 そして、これが悪夢と絶望の始まりであり、私を闇に堕とす大陵辱の始まりでありまし
た・・・


 To・Be・Continued・・・


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