魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(2)


  第4話 偽りの勝利と裏切りの陰謀
原作者えのきさん

 
 やがて、私達は白亜の城の前に辿り着きました。
 眼前にある見事な城。それは平和の象徴であり、王国の栄誉を讃える建造物であります。
 平和的政策でノクターンを建国した初代国王は、(永久の繁栄)を意味する名の首都フ
ォルテを建設し、多くの民に安住の地を提供しました。そして幸せに喜んだ民が、平和を
与えてくれた事の謝礼として建てた城、それがフォルテ城です。
 首都と同じ名の城は、多くの人々を分け隔てなく受け入れてきましたが、平和であるは
ずのフォルテ城に、招かれざる者が潜んでいるのです・・・
 私の背中に冷たい汗が流れ、不安と恐怖で身体が震えました。
 「ウィルゲイトはまだかしら・・・偵察って、こんなに時間がかかるの?」
 偵察の報告に戻ってくるはずのウィルゲイトは、総員戦闘配置についたというのに戻っ
てきません。
 焦れたラムゼクスが檄を飛ばしました。
 「ええいっ、あのたわけは何をやっておるのだ。もう待っておれんっ、正面から突入す
るぞーっ!!」
 正面の巨大な扉は堅く閉じられていますが、空を飛べる私達には関係ありません。高い
壁を飛び越し、真正面から乗り込みました。
 上空から見下ろした城の様子は静かでした。しかし、静けさが逆に恐怖を増加させます。
 魔族達は少数と聞いている兵達は落ち着いており、沈黙の城内に潜む敵を探りました。
 「ラムゼクス隊長っ、城内中枢に魔族の存在を多数確認しましたっ!!」
 部下の報告を聞いたラムゼクスは頷きます。
 「残りの魔族どもだな。行きますぞ姫様っ。」
 「ええ、参りましょうっ。」
 勇気を振り絞り、私は兵と共に戦いの場へと身を委ねます。
 ステンドグラスを蹴破り、総員城内へと突入しました。
 粉々に砕けたガラスが虹色に輝きながら舞い落ち、太陽の光を背にした私達は燦然と床
に降り立ちます。
 突入した場所は舞踏会に使われる広いホールでした。
 奥行きのある空間は、日の当たらぬ場所を作っています。その闇に隠れるように、魔族
達が潜んでいました。
 「うおっ!?神族どもだっ!!」
 上空より突如現れた私達を見て、魔族達は驚愕しています。魔族達の種類は、先程のガ
ーゴイルよりは戦闘レベルの高いモンスターでした。
 オーク、ワー・ウルフ、リザードマン・・・ブタ、狼、トカゲの卑しい獣人達が、私達
を見て吠えわめきました。
 「ぶひひっ、神族どもが来るなんて聞いてねーよっ!?」
 「そんなの知るかっ、ブーブーうるせえよブタ公っ。」
 なにやら仲間内で文句を言い合っている様子で、統率が全く取れていません。
 速やかに、ラムゼクスが私に名乗りを上げるよう促しました。
 「姫様、お願い致します。」
 「わかりましたわ。」
 頷き、私は騒いでいる魔族達に向って名乗りました。
 「我らは天界の正義を司りし武神の一族っ!!そして私は武神の姫アンジェラ。そなた
達、魔族の悪行はお見通しですっ。卑劣なる狼藉を止め、早々に闇へ帰りなさいっ!!」
 騒いでいた獣人達が、おおっと驚きの声をあげ、そして凶暴な眼で私を睨みます。
 「がるる〜っ、生意気な小娘め〜。テメエのケツを喰ってやる〜っ!!」
 襲いかかってきたワー・ウルフを前に、私は思わず竦んでしまいましたが、ラムゼクス
が守ってくれました。
 「さがれ下郎めっ!!」
 手から放たれる破魔の光で、ワー・ウルフの頭部が消し飛びます。
 そして戦いの火蓋が切って落とされました。
 「くたばれクサレ神族ども〜っ!!」
 「地獄に堕ちろっ、悪しき魔族がっ!!」
 剣が光を放って闇を切り裂き、悪の者を次々倒します。
 戦力も技量も、完全に獣人を上回る神族の兵団が、瞬く間に敵を城の奥へと追い詰めま
した。
 逃げ惑う獣人達を追うと、その先に多くの民の姿が見えました。
 「ラムゼクス、あれを見て。街の人々が捕らえられてますわっ。」
 私が人質の民達を指差すと、ラムゼクスがすぐに対応します。
 「おおっ、やはり城に捕らわれていましたか。危険ですから姫様はお下がりください。」
 残った獣人は残り10名ですが、こちらの犠牲も被害も全くなく、もう勝利は目前です。
 しかし獣人達も往生際が悪く、人質の民を楯にして抵抗しています。
 「て、てめえら〜。一歩でも近寄ってみやがれっ、こいつらの命はねーぞっ!?」
 矮小な悪党らしいセリフでギャアギャアわめく獣人達を見て、私は思いました。
 「この獣人を指揮してるのは誰かしら・・・リーダーが見当たりませんわ。」
 魔族の数は75人いると聞いていましたが、先程から見ていた限りではリーダー格の者
がいないのです。
 街の人々を城に閉じ込めるだけの事をするには、統率者が必要ですが、どれもそれに相
応しくはありません。
 卑屈に騒ぐ獣人達に、ラムゼクスは余裕で歩み寄りました。
 「一歩でも近寄ったらどうとか抜かしておったな?どーした、やってみろ。」
 「あ、いや、その〜。だ、だから近寄ったら、ええ〜っと(大汗)。」
 「能書きは地獄でほざくがよいわっ!!」
 閃光が煌き、あっと言う間に残りの獣人も滅せられました。
 塵芥となって消え去る獣人達の後には、多くの民達が縄で縛られて気絶しております。
 すぐさま私は、倒れている民に歩み寄り声をかけました。
 「大丈夫ですかっ?魔族達は全員倒しましたわよ。」
 1人を介抱すると、なぜか全員が次々目を覚ましました。
 「う、んん・・・あなたは・・・戦女神さま・・・」
 「おお、私達を助けて下さったのですね・・・ありがとうございます・・・」
 私の背の翼を見て、民達は同じリアクションで感謝を述べるのでした・・・


次のページへ
BACK
前のページへ