魔戦姫伝説(アンジェラ外伝) 初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(2)


  第3話 平和の眠りが破られる時、戦いの開始。
原作者えのきさん

 
 神王から魔族討伐の命を受けた私、武神の姫君アンジェラは、多くの家臣と兵を伴って
人間界のノクターン王国を目指しました。
 私も兵達も、自分達は誇り高き武神の一族であり、神族を恐れている(はず)の魔族に
など敗北しないと思っておりました。
 末妹で非力な私を守ってくれる頼もしき兵達・・・
 揺るぎない勝利を確信していた私達でしたが・・・それが脆くも覆されようとは、夢に
すら思ってなかったのです・・・
 
 飛行能力を使い、悠然と大空を駆ける武神の兵団は、雲を貫き人間界へと直行します。
 高々度から急角度で地上に降りる感覚・・・飛行に不慣れな私は、落下する恐怖で目眩
を起こしてしまいました。
 「あ、ああ・・・こ、こわい、ですわ・・・」
 冷たく強烈な疾風が、私の華奢な身体から容赦なく体温を奪い、背の翼をもぎ取ろうと
荒れ狂います。
 くじけそうになる私を、心優しき老戦士のラムゼクスが庇ってくれました。
 「大丈夫ですか姫様、それがしの腕にお掴まりください。」
 その逞しき腕は、歴戦において武神の一族を勝利に導いた戦士の豪腕。そして、いつも
私を守ってくれる温かき腕・・・
 私はラムゼクスに掴まって、目指す地上を垣間見ました。
 鉛色の雲が晴れると、景色は鮮やかに一変しました。新緑の大地が拡がる大陸。その肥
沃な大陸の中央に、目指すノクターン王国はありました。
 冷たい風が、太陽の温かい日差しに吹き飛ばされ、苛烈だった飛行がウソのように快適
になりました。
 温暖な気候と豊かな国土に恵まれたノクターン王国は、まさに理想の国と言っても過言
ではありません。
 神王にも認められたこの国は、天界と人間界を繋ぐ拠点ともなっており、そこを魔族が
襲撃したとなれば神族として見過ごすわけにはいかないのです。
 兵団は水平飛行で移動しながら、ノクターンの首都フォルテに向います。
 平和の国の中核たる、理想の街フォルテ。明るさと解放感に満ち溢た美しい町並みは、
民が平穏に暮らしている証でもありました。
 しかし・・・フォルテ上空を旋回していた私達は、街に異様な気配が漂っているのを感
じました。真昼なのに民の姿が独りも見当たらないのです。
 しかし人影は見えなくとも、邪悪な気配は確実にします。闇の者が暗躍している証拠で
す!!
 兵達は一斉に敵の居場所を探りました。
 光の属性を有する神族と、闇の属性を有する魔族・・・相反する者同士ですから、光に
浮かぶ影を見つけるが如く、探知するのは雑作もありません。
 ラムゼクスの眼が鋭い輝きを増します。
 「隠れても無駄だぞ魔族どもっ。いかに姿をくらまそうと、それがしの眼はごまかせん
っ!!」
 一閃、ラムゼクスの手から破魔の光が放たれ、建物の一角を貫きました。
 すると建物の壁が揺らぎ、隠れていた魔族達がバタバタと転がり出てきたのです。
 「ぎィエ〜ッ、な、なんデ俺達の居場所がわかったんダ〜ッ!?」
 矮小な体躯のバケモノ・・・それは建造物の影に潜むモンスター、ガーゴイルでした。
 武神の兵団に恐れ戦き、ピョンピョン飛び跳ねながら逃げるガーゴイル達をラムゼクス
は見逃しません。
 「愚か者め、我らから逃げられると思うでないっ。弓隊前へっ!!」
 弓を持った兵が一斉にガーゴイル達を狙い撃ちします。
 逃げる者の背に弓を放つなど快い事ではないのですが、それでも悪しき敵を倒すが我ら
の勤め・・・兵達は容赦なく敵を殲滅しました。
 仲間を倒された生き残りのガーゴイルが、口汚くわめいています。
 「コ、このクソッタレ神族どモが〜っ。八つ裂きにシてブタのエサにしちゃる・・・ウ
ぎょっ!?」
 騒ぐガーゴイルの首を掴んだラムゼクスは、怒りの眼で睨み問い詰めました。
 「街の者を何処へ連れ去った?言えっ!!」
 「んギュ〜、い、言ウよお〜。街の連中ハ城に閉じ込めてル〜。」
 指差す方向は、ノクターンのフォルテ城でした。どうやら、そこに街の人々が捕らえら
れているらしいのです。
 それを聞いたラムゼクスは、兵達に目を向けて指令を下しました。
 「今からフォルテ城に突入するっ、総員戦闘準備せよっ!!」
 覇気溢れる声と共に、手から破魔の光が放たれ、首を掴まれていたガーゴイルは悲鳴を
上げて消滅します。
 兵団は陣形を組み、フォルテ城に向いました。
 そして私とラムゼクスに、参謀のウィルゲイトが声をかけてきました。
 「今の戦闘で倒したガーゴイルの数は12名、残りの魔族63名は城にいると思われま
すので、私が先に偵察してまいります。」
 そう言い残すと、翼を広げて速やかに城の上空へと飛び去りました。
 先んじて行動したウィルゲイトを見て、ヘルメットに変身して私の頭を守っているミル
ミルが怪訝な声で不満を言いました。
 (姫さま、ミルミルはあいつキライです〜。あの陰険メガネ、なに考えてるかわからな
いです。)
 知的で無感情なウィルゲイトを毛嫌いしているのでしょう。
 私はミルミルの文句を聞いて、笑いながら答えました。
 「そんな事を言わないの、人を見た目で判断しちゃダメよ。」
 ウィルゲイトは若いながらも、武神の一族で一番明晰な頭脳を誇る参謀です。
 情報収集能力にも長けている彼を信頼している私は、偵察に向うと言ったウィルゲイト
に疑いを懐いていませんでした。
 無論、それはラムゼクスや兵団の総員も同じ考えです。
 しかし・・・この時のミルミルの言葉を深く考慮すべきでした。
 ミルミルは見た目より勘のいい子で、良い人と悪い人を見定める事に優れています。も
しミルミルの懸念を受け入れていたら、あんな事には・・・
 自分達が裏切りの罠に足を踏み入れようとしているなど、その時の私や兵団の全員は全
く思っていなかったのです・・・


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