リレー小説2『魔戦姫伝説』


 第1話 サーヤの初陣.2
山本昭乃

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ..」
 ひとりの少女が森の中を走りぬけた。
 森を抜けると、目の前に青い空と緑の丘が広がる。
 少女は丘の頂上で立ち止まって振り返ると、両手を口に当て、森に向かって叫んだ。
「サーヤさまぁっ! こっちこっちぃっ!!」
「はぁっ、はぁっ、待ってよ、リンっ!!」
 サーヤと呼ばれた少女が、ドレスの裾をつまみながら、小走りに少女の後を追う。
 さらにその後を、ふたりより年長の女性が歩き、彼女らに声をかける。
「姫様、リン、こんな所を走っては、転んでしまいますよ!」
「だいじょうぶよ、ベスぅっ、って、あ・・・・」
「ふぅ..」
 ため息と苦笑を同時に漏らしながら、ベスと呼ばれた女性が、草原に接吻をした姫に歩
み寄る。手を差し伸べようとして、両手にバスケットを抱えている事を思い出し、丘の上
でくすくす笑っているもうひとりの侍女をにらむ。
「リン! いつまで人に荷物を持たせるんです?」
「はぁーい、きゃははは」
 かけ寄りながらもまだ笑っているリンの前にバスケットの片方を置くと、ベスはサーヤ
に手を伸ばす。
「さ、姫様」
「うん、ありがとう」
 立ち上がったサーヤにリンがかけ寄り、ベスと共に慣れた手つきで彼女のドレスの乱れ
を直していく。
 薄いピンクのシルクオーガンジーを幾重にも重ね、スカート左右のドレープには共布の
巻バラがあしらわれた、文字どおりの可愛らしい、花のようなドレス。
 対するふたりは、白と紺のツートーンのメイド服。
 会話と服装からして、彼女らはこの国の王女とその侍女たちであるようだった。
 しゃがみこんでドレスの乱れを直していたリンが、いきなりスカートに抱きついて顔を
うずめる。
「わーい、ふわふわ」
「うふふ、気に入ってくれた?」
 サーヤが笑う。
 さらに小声で「またベスがいない時に着せてあげるわね」
「わーい」
「姫様、リンはあなたの妹やお友達ではなく..」 (いますよ、森の出口に潜んでます)
「さあ、リン。案内して」            (私も感知しました)
「はいっ!!」                  (10人くらいですね)
「話を聞きなさい、って..」苦笑しつつ、
「私も着せてもらおうかな..」          (正確には8です)


 リンの案内で丘に上がったふたりは息をのんだ。
「ほら!!」
「わあっ!!」
「これはすごい..」
 3人の眼下には、赤、青、黄、白、さまざまな色に咲き乱れる花園が広がっていた。


「すてき..」 花園に腰を下ろしたサーヤは夢心地だった。
「姫様もお美しくいらっしゃいますよ」昼食の準備をしながらベスが笑う。
「ありがとう。でもおだてても、ドレスは貸してあげませんわよ」
「ぅ.. お、おたわむれを。侍女の身で姫様のお召し物など、無礼にもほどが..」
「いいわよ。隠さなくたって」
サーヤがくすくす笑う。
「は.. ではリンのいない時に..」   (丘の向こう側にまで移動しました)
 ベスはサーヤをおだてたわけではない。薄ピンクのドレスの裾をいっぱいに広げて花園
に腰を下ろし、花を愛でて優雅に微笑む姿は、誰が見ても息をのむ美しさであったろう。
「サーヤさまぁっ!!」
リンが両手を振りながら走り寄る。
 頭にはカチューシャの代わりに、花を編んだ冠を載せていた。
「にあいます?」スカートをつまんで優雅にくるくる回って見せる。
「おかえりなさい。よく似合ってるわよ」
「えへへ、でしょう?」           (まだかな?)
「私の分も作ってくれない?」
「いいですけど、姫さまの冠と交換なら、わたしのをさしあげますよ」
「これですか?」サーヤは頭上に頂くティアラを指差し、「いいですよ」
「姫さま〜っ」
ベスが頭を抱える。
「ドレスやネックレスならともかく、姫様が頂いておられるそれは、王家の証しであり、
軽々しく..」                  (目標の心拍数増加、動きます!)
「ネックレスならよろしいんですって」     (動きましたね)
「う〜ん、どうしようかな〜」         (ゆるさないから..)
 丘の上からおぞましい雄叫びが上がったのは、その時だった。
「ひへへへへへぇっ!!」
 下卑た笑い声を上げながら、刃物を手にした汚いなりの男たちが、丘を駆け下り、サー
ヤ達を取り囲む。
「きゃああっ」
「いやああっ」
 サーヤとリンが悲鳴を上げ、肩を寄せ合ってうずくまる。
 ベスは脅えきった表情を見せながらも、ふたりをかばうように賊達の前に立ちはだかり、
必死に声を絞り出す。
「な、何者ですかあなたがたは!? こちらの方は..」
「へへへへ、知ってるぜ、この国のお姫様だろう?」
「それを知っていて..」
絶句するベス。
「へへへ.. 護衛もなしにピクニックに来るなんて、まだあの時の死体は見つかっちゃ
いねえようだなぁ」
 リーダー格らしい男がゆっくり歩を進め、他の男たちもゆっくりと包囲を狭めていく。
「いいか、今度はイカレちまったからって勝手に山に捨てるんじゃないぞ。こんな上玉揃
いなら、高く売れるんだからな」
 賊達の包囲がさらに狭まる。中にはよだれを垂らし、前をしごき出す者までいた。
「や、やめなさい..」
「おねがい..こないで..」
 サーヤたちの哀願の声が、賊達の嗜虐心に火をつけた。
 一斉に襲いかかる山賊たち。ある者はサーや姫に後から抱きついて胸をもみしだき、あ
る
者はリンのスカートをめくりあげ、粘液で濡れ光るモノを彼女のおしりにこすりつける。
「あっ、あっ、あっ、あはぁっ..」
「いやあぁぁぁっ! やめてえぇぇぇっ!!」
 ベスはひとり抵抗を試みるが、武器も持たないただの侍女が山賊にかなうはずもなく、
さ
らに目の前に刀を突きつけられ、ショックで腰を抜かしてしまった。
「ひぃ..」
「やめねえか! 今ヤっちまったら、お頭や留守番の連中があとでうっせえぞ!!」
 リーダー格の男が再び一喝し、賊達はしぶしぶながらも行為を打ち切る。
「そういえばお頭も、おれたちがヤり終わったガバガバのじゃなくて、初物をぶちヌキ
てぇっていってたよなあっ」 賊のひとりの声に、全員が下卑た笑いであいづちを打つ。
「さあっ、連れて行け!!」
 賊達は、恐怖と恥辱に抵抗の気力すらなくしてしまったサーヤたちを肩に担ぎ上げると、
森の中に消えて行った。

 あとには、土足で踏みにじられたランチセットと、リンの花冠だけが残された。

(私たちの分に加えて、花と食べ物の恨みも背負っていただきましょう..)



前のページへ 次のページへ
BACK