お姫様舞踏会2(第9話)
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜
作:kinsisyou
   
「そうですか……そんなことが。相手は一国のお姫様です。我が方で暫くの間静養させましょう」

 飛鳥姫から報告を受けたギネビア姫は、救出されたユリア姫に何事もなかったことに安堵していた。ユリア姫も舞踏会に招待していたのだが、なかなか到着しないのでおかしいと思い軍隊を派遣しようとしていた矢先のことだったのである。
 有璃紗姫も外出から戻ってきて、外の空気を満喫してきた様子であった。飛鳥姫から報告を受け、有璃紗姫も驚きを隠せない。
「まあ、そんなことがあったのですか。御者は気の毒ですが、ユリア姫に何事もなかったのが救いですわ」

 夕刻に差し掛かり、グランドパレスは俄かに活気を帯び始めていた。晩餐会の準備に追われ執事やメイドが忙しなく動き回っている。リシャールはその間自分はどの辺に姫様方を案内すればいいかを事前にチェックしていた。しかし、テーブルや椅子が見当たらない。と、執事長のラムチョップに話を聞く。
「ラムチョップ、もしかしてテーブルや椅子はまだなのか?」
 リシャールにそう訊かれてラムチョップは器用に片方の眉を釣り上げると抑揚のない声で事務的に話す。
「実は……今回は舞踏会前夜ということで顔合わせですからより気楽にやりたいとのギネビア様の御意向で立食形式をとっております。このためテーブルや椅子は申し訳程度、と言いましょうかフリーシートになります。それよりこうして事前に会場を視察なされるとは殊勝な心がけですな」
 立食形式と聞いて、実は余計な心配をしているリシャール。普通の晩餐会では決められた場所に座り、このため賓客の動きは殆どない。しかし、立食形式だと賓客の動きが大きくなるので接待役は大変だ。そして顔合わせということは自分が接待している姫君に他の者が近付くのも自由というわけである。即ち接待役にとって自らの格を見せ付けられる絶好の場ということでもある。
 下級貴族の出自であるリシャールにとって、これは大いに不利とも言うべきかもしれない。何しろ上級貴族も多く参加するこの舞踏会。金満とはいえ小さな領地しか持たぬ自分にとっては本来場違いなイベント。あれほどまでに美しい方々だ。他の接待役も放ってはおかないだろう。リシャールの憂いは深い。

 そして間もなく迎える晩餐会。参加者が一堂に顔合わせする舞踏会前イベントであり、ギネビア姫は気楽にしてほしいという願いとは裏腹に、水面下では誰と踊ろうかなどと算段している様子はさながら外交戦争の様相を呈していた。そんなビリビリした雰囲気がイヤでも会場を包み込む。何しろ舞踏会の真の目的は集団お見合いであり、そして外交そのものである。接待役にしても招待されている参加者にしても親善大使という矜持を以って臨む以上、仕方のないことかもしれない。
 そんな様子も何処吹く風、まだ準備中の会場にてメイドや執事、楽団などが忙しなく動き回る中、こちらでも準備が進んでいた。今回舞踏会を撮影するため同行していた花代がカメラのセッティングを進めている。その光景は旧世界の中では何処か浮いていた。カメラテストのためメイドたちを撮影したり、大型の機材も多いので男手に手伝ってもらったりしている。カメラは大変珍しいせいか、皆さんの注目度は高い。
「ふう、このテのカメラは準備が大変ですわ。それより映画用の撮影機材も準備しないといけませんわね」
 因みに今回の撮影のために用意した機材の重量は合計で2トンにもなる。何しろ撮影用機材の他に編集用機材もあり、新世界である日本に帰るとやり直しは殆ど利かないためこの場で印刷、上映可能な状態にしておかねばならないのである。そんな様子を見かねて有璃紗姫の侍女である若菜も手伝ってくれる。
「ああ、若菜さん、申し訳ありません。公爵家の御令嬢に手伝っていただくなんて」
「いえいえ、気になさらないで」
 花代が申し訳なさそうにするのも無理はない。何しろ若菜は日本の華族の頂点に位置する近衛家の出身である。同じく華族で男爵家である宮脇家の出身である花代とは家格が違いすぎる。貴族間でもそうであるように、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、そして正式な爵位ではないが準爵として華族としての扱いを受ける末端華族も含め華族間でも格の違いが存在する。中でも公、侯は別格であり、伯、子、男とはある種の線引がされている。因みに日本の華族のステータスは他国の貴族とは比べ物にならないくらい高く、世界最古の歴史を誇る皇室のバックボーンがあることが大きいと言えよう。なので接待役の中に花代や若菜を狙っている者がいたとしても不思議はないだろう。
 花代にとっては苦手な大型の機材ばかりであるが、そこはプロとして手馴れたもので、撮影準備は手際よく進められていく。
 と、そこへリシャールが通りかかった。
「かなり大変そうですね。できることなら手伝いましょうか」
 見慣れない大型の機材であるが、如何にも重たそうなのでこれは力仕事に違いないと思ったリシャールが手伝いを買って出た。
「申し訳ありません。助かりますわ」
 花代もここはその言葉に甘えることにした。実際、当時の撮影機材は現代のそれのように小さく軽くなく、まだまだでかくて重たいものが少なくなかった。花代の指示された場所に機器を設置していくのだが、旧世界にいて機械には疎いリシャールでもそれが大変高価なものであることはわかる。なので扱いも慎重になる。
 機器を設置すると後は配線だがこちらは花代一人でも問題ないという。あとで花代から聞いたことだが、これらの撮影用機材は新世界にもまだ貴重なものばかりなのだとか。
「「おかげで助かりましたわ。ありがとうございます」」
 花代と若菜の二人からお礼を言われ照れくさいリシャール。
「そんな、大したことじゃないですよ」
 
 こうして、各国からやってきた高貴なる方々の来場を待つのみとなった。メインイベントである舞踏会ほどは緊張しなくても済むとはいえ、決して気楽なイベントではあるまい。このミッドランドの国益と国運を賭けた外交はもう始まっているのである……。
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