お姫様舞踏会2(第10話)
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜
作:kinsisyou
   
    そして迎えたプレイベント。舞踏会の前に開かれる晩餐会。
 会場となった大ホールの隣室の小ホールは豪華に飾り立てられ、壁際にセッティングされたテーブルには紅い絹のクロスがかけられ、その上には豪華な料理が並び会場を彩る。

 小ホールの一段高い舞台では楽隊が厳かな音楽を奏でており、あとは来賓の入場を待つのみだ。尚、晩餐会は堅苦しいものにしないことと、あくまで顔合わせであることから始まる時間と終わる時間のみを設定しているだけで特段スケジュールやイベントは設けないことにしていた。このため時間内でればいつ来場しようが自由である。

 花代と撮影スタッフもカメラの準備はOK。既にスイッチも入っており、あとはスタッフによる微調整のみだ。今回は記録映画の撮影もあるため当時大変高価かつ貴重だった8ミリビデオカメラもセットされている。

 と、早速タキシードやドレスで着飾った貴族の男女が数人来場してきた。着飾ってはいるが、幾分服装は軽めでどちらかというと普段着にやや装飾を追加した程度だ。それでも絢爛豪華なのはやはりミッドランドでの舞踏会だからであろう。

 次に現れたのはトパーズにエスコートされたオーロラ姫とファミーユ姫の一行。前回に引き続き、ピエトロがエスコートしている。前回の対応について受けがよかったことからピエトロにエスコートをリクエストした結果、この組み合わせが実現したのだった。
 来場者はまだ10数人程度、晩餐会も始まったばかりで会場は小ホールとはいえかなりガランとしており、早速料理に舌鼓を打つ。料理はビュッフェ形式なので好きなものを取って各々テーブルに向かう。船旅で仕方ないとはいえ散々グロッグを飲んでいながらしっかりとお酒を味わう。当然このお酒はフルア家から提供されたものだ。
 そして、お茶目にもカメラを覗くファミーユ姫。相当に珍しいのか、夢中になってレンズの向こうを覗きこむ。因みに撮影側から見ると、動物や人間がドアップで映るのを連想すればいいだろう。撮影後は当然編集されるのだが、このドアップは間違いなく採用されるはずである。
「まあ、不思議な鏡ですわね」
 何とも子供っぽい行動であるが、旧世界にはカメラなどないから無理もない。

 一方、その頃、リシャールは姫君をエスコートするため隣室の次室で待機していた。プレイベントとはいえプレッシャーと緊張を隠せないでいる。
「果たして、姫様方はどんな御衣裳で登場するのだろう」
 内心そんなことばかり考えている。或いはそう考えることで無意識にこの緊張を和らげようとしていたのかもしれない。
 と、不意に扉が開く。
「お待たせしましたわ」
 長女の愛璃姫の雅で澄んだ声とともに現れた4人の姫君の姿に、リシャールは絶句した。
「こ、これは……」

 皇国の姫君の準備が整ったその頃、会場は徐々に来賓で埋まっていき、賑やかさを増す。とりどりの料理に舌鼓を打つ者、会話を楽しむ者、一体誰と踊ろうかと品定めをしている者……やがて、話題の中心は徐々に新世界から来た姫君たちへと移っていった。姫君たちの姿を目撃した者も少なからずおり、一番話題となったのはやはり服装の違いであろうか。どちらかというと重厚な印象を受ける旧世界の服装とは対照的に、それと比較して軽快な印象を受ける新世界の服装。中には飛鳥姫のミニスカ姿を目撃した者もおり、旧世界の価値観からすれば脚丸出しで殆ど裸に近い服装にけしからんといった保守的な層からの声も。
 他には馬車ではなく自動車なのも当然話題になる。そりゃそうだ。旧世界にそんなものあるわけないし。あまりの騒音に耳を塞いだ記憶のある者も少なくなかった。新世界の文明は、必ずしも歓迎されてるとは限らないようである。
「早く皇国のお姫様、現れないかなあ。私もどんな人たちなのか一目見てみたいわ」
 ロゼッタ姫も新世界の姫君に興味津々のようである。
「姫様、噂ではかなりの美人揃いだとか」
 アンリエッタも気になって仕方がないらしい。と、扉の付近でどよめきが。その話題の姫君が姿を現したらしい。そして、その姿に誰もが息を呑んだ。

 4人の姫君は、それぞれ愛璃姫と飛鳥姫が和装、綾奈姫と有璃紗姫が洋装に身を包んでいた。
 
 愛璃姫は普段着として用いることの多いつぼ装束。時代から名称をとって別名平安衣装などとも呼ばれる。実際のつぼ装束は一種の旅装束で、これに市女笠と呼ばれる編笠を被り、虫よけの虫垂れ衣と呼ばれる蚊帳のような透けた布を付けるのが正式なつぼ装束なのだが、愛璃姫の場合はこれらを省略して小袖の上から袿(うちき)に袖を通し普段着として用いていた。通常の平安装束に比べ動きやすいからという。紫の袿には閑令徳院宮家の紋章である十八文菊を囲むライラックがあしらわれている。ライラックは北海道を代表する花で、閑令徳院宮家の実家が北海道にあることに由来している。最近は皇国でも和装が主流ながらも庶民層にも洋装の導入が進みつつある中、さすがにこのような雅な装束は見かけなくなりつつあった。敢えて言うなら時折イベントやお祭りの類で見かける程度である。このため普段着とはいえ希少性を考えるとポイントは高いだろう。

 飛鳥姫は現在の日本で主流の和装とも言える着物、正式名称振袖を披露。普段自然に下ろしている髪は振袖に合わせて結い上げている。桜色をベースに鶴と菊が描かれそれ自体が一種の芸術作品のように見える。巻かれている金色の緞子織の帯には紋様化した雲が描かれている。鶴と雲は共に日本では縁起物の象徴であり、その二つが組み合わされているのだからお目出度いことこの上ない。
 愛璃姫、飛鳥姫、ともに生地は最上級の西陣織であり、当然一級の職人による仕立てなので捨値で見積もっても1000万円は下らないと推測される。
 結い上げた飛鳥姫の項に、普段の可愛らしい飛鳥姫とは違う大人の女を感じるのはどうやら日本人だけではないようで、来場者の男たちの中には項を見て明らかに上気している者も。

 綾奈姫は新世界では比較的オーソドックスなタイプのドレス。身体の線を強調し、目にも鮮やかなオレンジが人々の目を惹かずにはいられない。普段シニヨンを結っているところ、飛鳥姫と対照的に珍しく髪を下ろしており、腰に届くあたりまであった。シニヨン効果でショートカットに見える綾奈姫の意外な一面と言ったら言い過ぎだろうか。しかし、その黒髪は青光りしておりやはり美しい。後ろを見ると背中が大きく開かれており、白くきめ細かな背中に普段はボーイッシュな印象を与える綾奈姫もやはりお姫様だということを再認識させられる。

 有璃紗姫は緑をベースにしたドレスで清楚な印象を与えるが、肩だしに右側には大胆なスリット、お腹周りの金糸で刺繍されたアールデコ調の紋様には切り抜きが入っているなどさり気なく露出度の高いドレス。それでも気品を感じるのが有璃紗姫ならでは。スリットから覗く長い御美脚が大人な彼女を演出しており、目のやり場に困りつつもつい見てしまう男ども多数。有璃紗姫は恥ずかしがるどころかそんな様子を楽しんでいるフシすら窺える。
 胸元と下腹部には泪滴型に、且つ多面体加工されたペリドットが翼を模した純金の台座に嵌め込まれ、ダイヤモンドに囲まれて飾られている。ペリドットは8月生まれの有璃紗姫の誕生石であり、大きさは50カラットあった。ペリドット自体はダイヤモンドやサファイア、ルビーなどと比べると比較的安価な宝石であるが、さすがにこれほどの大きさのものとなると稀なため当然高価であった。
 洋装の二人はコルセットをしている気配はなく、あくまで自然なラインを活かしたスタイルであることが一目瞭然であった。

 4人を一言で言うなら、愛璃姫、飛鳥姫は雅、綾奈姫、有璃紗姫は妖艶といったところであろうか。

 そんな4人をエスコートするリシャールも目のやり場に困りつつも何とか耐える。しかし、ここまで色っぽい姫君を4人もエスコートせねばならないというのもある意味気の毒といえば気の毒かもしれない。

 高貴すぎるオーラのせいか、それともこの世界には違和感ありすぎの和装のせいだろうか、会場をしばしの静寂が包み込む。そして、誰かが発した呟きが静寂を破った。
「お、お美しい……」
 やがて、堰を切ったかのように賞賛の声。一部にけしからんという保守的な者からの声もあったが、新世界から来た4人の姫君は、概ね好評を以て受け容れられたようである。その様子を見てホッとするリシャール。
(もしも非難の嵐だったらどうしようかと思った)
 リシャールにとり第一関門は無事クリアといったところか。もしも受け容れられなかったら、その時はリシャールにも咎が及んだわけで最悪の場合一族の名誉は地に墜ちることになるのだ。それだけは何とか避けられたようだ。

 役者が揃ったところで本格的に始まる晩餐会。食事とアルコールを楽しみつつ、男たちは一緒にペアになる女性の算段をしている。案の定というか、新世界の姫君にも興味津々の男たちも少なくなかった。和装がよほど珍しいのか、愛璃姫と飛鳥姫には特に多くの人だかりができていた。一緒に踊りたいというよりも和服の物珍しさが気になっただけかもしれないが。どちらにせよ異国情緒溢れる二人は目立ちまくっていた。

 一方、綾奈姫と有璃紗姫の二人は並べられた豪華な料理の中で、あるものを見て驚きと喜びを隠せなかった。
「まあ、これは、サーモン料理の数々……」
「まさか、ミッドランドに来てサーモン料理にありつけるとは思わなかったわね。これはサプライズだわ」
 そう、北海道に実家のある閑令徳院宮家の姫君にとって、サーモンほど重要な食材はない。因みに、サーモンを食用としている国は世界全体で見ても意外にも少数派で、日本の他にはアメリカ、ロシア、カナダ、イギリス、北欧、バルト諸国など北方でも限られた国のみであり、ヨーロッパ全体ではドッグフィッシュなどと呼ばれ蔑まれることもある。
 
「このお酒、おいしい……」
 ほんの少しだけお酒を口にした有璃紗姫。露出した白い肌が薄らと赤く透ける。その艶めかしさときたら……リシャールでもドキリとしてしまう。有璃紗姫が口にしているのは今回のために用意された50年モノの赤ワイン。無論フルア家から提供されている逸品だ。しかし、本来有璃紗姫はまだ未成年のはずなのだが、パーティー特有の解放感からつい調子に乗ってしまったのだろう。
「そうですわね、これだけ皆さんお酒を楽しんでいるのに、お酒に手をつけないだなんて主催者に失礼ですわ」
 などと、有璃紗姫の侍女である若菜も以前のオカタイ発言もかくやと言わんばかりにお酒を楽しんでいる。
「この芳しい香りがまたたまりませんわ」
 綾奈姫もブランデーの芳香を楽しむ。こういう場で飲むお酒の味はまた格別といったところか。今回提供されるお酒は全てフルア家からのものなのでリシャールも少しばかり鼻が高かったり。
「お喜びいただけて私も光栄ですよ」
 そう、お酒というのはしばしば人を緊張から解放する。昔から交渉の場にお酒は欠かせないが所以であり、誰もが腹を割って話せる環境作りにお酒は多大な貢献をしてきたことも事実だ。一体、どれだけのお酒が歴史的に重要な場面を見つめてきたことだろう。リシャールも酔いが回る分だけ緊張から解放される気分だった。

 晩餐会も半ば、誰もが酔いが回ってきたせいか、中にはちょっとしたダンスを披露する者も。楽隊の演奏もそれに合わせて少し激しいものに変わる。顔合わせを目的とした舞踏会のプレイベントは、いつの間にか小舞踏会に早変わりしていた。ダンスの名手の中にはこれでもかと自らの技量を披露してアピールする者も少なくない。

 愛璃姫や飛鳥姫のみならず、綾奈姫や有璃紗姫と一曲リクエストする者も。飛鳥姫は振袖にも関わらず器用に踊る。それも男にリードしてもらっているかのように。実は……4人ともダンスの名手でもあり、踊り手の男を巧妙にリードする術も心得ている。ピンと背筋の伸びた所作は見ているだけでも清々しさと美しさを覚えるが、これは幼少期からの日舞の鍛錬の賜物だ。
「それじゃあ、酔い醒ましに少し踊ってきましょうか……」  
 と、リシャールを誘う有璃紗姫。一方のリシャールは少し苦手そうだ。と、そんなリシャールを察したのか、有璃紗姫がそっと耳打ちする。有璃紗姫は上の姉二人と違い武道やスポーツの類は苦手であったが、ダンスは得意であった。
「大丈夫ですわ。私がリードして差し上げましょう」
 
 と、会場の少し空いたスペースに出てきた二人。激しいリズムとともに踊る。有璃紗姫の長身と、その長身を活かすべくデザインされたドレスの効果も相俟って、激しくも優雅さを感じさせる。ピンと伸びた背筋、日本舞踊からアレンジした舞を踊っているかのような優雅な踊りに誰もが魅了される。その視線は自然と有璃紗姫に集まり、リシャールには殆ど向けられない。そう、敢えて自分へ注目が集まるようにしてリシャールのほうへ視線がいかないようにしているのだ。何という心遣いであろう。
 有璃紗姫は空軍パイロットとして飛行機を操る身のせいか、見方によってはアクロバット飛行や空中戦を連想する者もいるかもしれない。
 有璃紗姫の表情は何処か恍惚としていて、まるで楽しんでいるかのようで気負いがない。その様子にリシャールも自然と笑みがこぼれ、夢中になる。そこには二人だけの世界があるかのように。流れる汗も心地好い。

 そして……ダンスも終曲に向かい、徐々にペースを落とし踊りも激しいリズムからゆっくりと優雅なリズムへ移る。

 曲が終わったと同時にダンスもピタリと止まり、その瞬間に会場から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
(よかった……晩餐会は大成功だ)
 リシャールが内心ホッとしたのもつかの間、と、そのとき……

「あれ?この糸なんだろう」
 ロゼッタ姫が偶然舞う糸を掴み、引っ張った。会場に、プチン、プチンというイヤな音が響く。と、次の瞬間だった。

 ブチイイイ……ハラリ……

「あっ……」

 何と、有璃紗姫のドレスが空中分解してドレスに合わせた緑のブラジャーとパンティーだけのあられもない姿に。しかも薄手のドレスに合わせて下着の線が目立たぬようレース編みの上、下は何とTバックであった。そして、あのペリドットは実は下着の一部であることも判明した。つまり、ドレスから下着の一部を露出させていたということである。何気に大胆な有璃紗姫。
 旧世界と違い、機動力を優先して最小限の面積しか覆わない新世界の下着事情が暴露された瞬間だった。先程の激しいリズムでドレスが解れてしまったのだ。シュミーズとドロワーズの組み合わせですら刺激的な旧世界の男たちにとり、刺激的すぎる姿に違いない。あまつさえ姫君の下着姿である。

 一体何が起こったというのか、会場はしばし凍りつく。やがて、事の重大さに気付いた有璃紗姫が叫ぶ。

「きゃあ〜、いや〜ん、な、な、何でこうなるのおお〜!?」
 更に、男どもは見たこともない下着に、それも姫君の下着姿に鼻血大噴射。それを目前に見ていたリシャールも鼻血大噴出でぶっ倒れる。女性たちはあまりにも露出度の高い下着姿に我が事のように恥ずかしさのあまり目を覆う。更に当事者のロゼッタ姫も糸を持ったまま凍りつく。
「ねえ、私、何かしちゃったの!?」
 事の重大さを察したアンリエッタは顔面蒼白で怯えている。そう、これは間違いなく外交問題なのである。
「こ、こ、これは……もしも日本皇国の軍隊が攻めてきたら、パンパリアなど一日でこの世から滅亡しますわ……」
 アンリエッタの脳裏には、パンパリアへと侵攻する日本皇国軍の光景が浮かんでいた。
「あわわわわ。ど、どうしましょう。有璃紗姫さまのとんでもないシーンが映ってしまいましたわ」
 普段はのほほんとしている花代も大慌て。

 
 この事件でリシャールが責任を問われることはなかった……(リシャールに責任などあるはずもない)。しかし、醜態を曝してしまったことに変わりはない。事件そのものはギネビア姫によって揉み消され、なかったことにされたが、後味の悪さが残ったことは確かだった。
 パンパリアにも別段お咎めはなかったが、その後ロゼッタ姫に相応のお仕置きがあったかどうかは読者の想像に任せよう。

 有璃紗姫も別に怒っている様子はなく、それどころか後で倒れたリシャールへお見舞いに来ている。また、この事件は当然編集でカットされ、映画でもこのシーンは映ってはいない。

 こうして、いよいよメインイベントである舞踏会を明後日に控えることになるのだが、リシャールは大丈夫だろうか……

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