大和古伝、桜花姫ヨシノの物語 (ヨシノ姫とアマノウズメの外伝♪)後編

ムーンライズ


 (4) 届け姫君の叫び。裸の女神アマノウズメ推参・・・!!

 ヨシノ姫がバケモノナマコに襲われているのと同じ頃、岩場を隔てた隣の村で、美しい女神が1人寂しく床についていた。
 岩場の祭殿で、一糸纏わぬ姿にて眠れぬ夜を過ごしていたのは、裸の舞女神アマノウズメであった。
 「くすん・・・寂しいなあ。ヨシノちゃんがいてくれたらなあ・・・」
 アマノウズメは、寂しい夜を持て余していた。
 独り寝の寂しさは、如何なる者であろうと骨身に凍みる。それは最高の美貌を持つ女神であろうと変わりない。
 両手で自分を抱きしめても虚しいだけ。
 愛する友のヨシノ姫を想いながら、悲しい涙を流していた・・・その時である。
 祭殿の外が、急に明るくなった。
 そして光の中より、聖なる神の御声が響いてきた。
 『・・・ウズメ・・・起きろウズメッ。』
 何事かと思って窓を見上げると、夜空に座する満月より、金色の光が差し込めているのが見えた。
 「これは・・・一体なに?」
 慌てて外に飛び出すと、満月の光が祭殿を集中的に照らしている。その満月より、聖なる声が聞こえて来るのだ。
 厳格で荘厳なる声だが、それには弱者を救う慈悲が籠もっていた。
 『ウズメよ、我が声を確と聞け。お前の友が、邪悪なるバケモノに襲われている。友を救えるのはお前だけだ、急ぐがいい。』
 それを聞いたアマノウズメは、声の主を察して叫んだ。
 「その根暗な声は・・・ツクヨミ様っ!?」
 『・・・ね、根暗は余計だ・・・(-_-;)』
 聖なる声の主が、呆れた口調で突っ込みを入れる。
 その突っ込みを気にせず、切迫した顔で声の主に尋ねるアマノウズメ。
 「友達がバケモノに襲われているって、もしかしてヨシノちゃんの事ですかツクヨミ様っ。」
 『そうだ、お前の友、桜花姫のヨシノだ。休暇で近くの浜に遊びに来ていた所を襲われたのだ。』
 「そんな・・・ヨシノちゃんが近くにいたなんて・・・バケモノに・・・なんて事なのっ。急いで助けに行かなきゃっ。」
 絶句したアマノウズメは、友の危機を救うべく脇目もふらず走り出す。
 すると聖なる声の主は、咎めるようにアマノウズメを制した。
 『待てっ!!ヨシノ姫が何処にいるのかわかっているのか。』
 「あ・・・わかんない・・・」
 『まったく、考えも無しに飛び出す奴がいるか。ヨシノ姫の居場所を示してやる、隣の浜辺だ。』
 その声と共に、月より差し込んでいた光が虹のように湾曲し、その端が隣の浜辺へと移動した。そこがヨシノ姫の居場所なのであった。
 さらに月から別の光が迸り、アマノウズメを強く照らす。その光を浴びたアマノウズメの身体に、聖なる神の力が宿る。
 麗しい裸身が金色に光り輝き、アマノウズメは唖然とした顔で立ち尽くす。
 「こ、これは・・・」
 『お前は踊る事しか能のない奴だ、闇の力を持つバケモノには対向できまい。お前に我が月の力を授けてやる。これでバケモノを叩きのめしてヨシノ姫を助けて来い。』
 声の主の慈悲に、アマノウズメは喜びをもって感謝を示した。
 「ありがとうツクヨミ様っ、恩に着るね。」
 『・・・お、恩に着なくていいから服を着ろ。(*_*;)』
 美しい全裸のアマノウズメに、声の主は少々戸惑っている様子であった。
 アマノウズメは奔走する。愛する友の・・・ヨシノ姫をバケモノから救うために・・・
 
 ヨシノ姫は絶体絶命となっていた。
 バケモノナマコに陵辱し尽くされ、汚されたうえ、凶悪な口で食べられようとしていたのだ!!
 足から飲み込まれ、食べられる恐怖に怯え、泣き叫んでいた。
 「・・・や、やめてえええ・・・わ、わたしをたべないで、おねがい・・・たべないでえええ・・・」
 手足の力は完全に弛緩し、もはや動かす事すらできない。抵抗できぬままズルズルと飲み込まれていく・・・
 そんなヨシノ姫を、美味しく弄ぶバケモノナマコ。
 『ぐへへ〜、おめえはとってもオイシイなあ〜。足を食べちゃうぞ〜、お尻も食べちゃうぞ〜♪』
 ヨシノ姫を陵辱し、勝ち誇った様子で邪笑いを浮かべている。もはや自分を罰するものなどいないと思い込んでいるのだろう。だが、その余裕は脆くも崩れ去る事となる。
 浜辺に、闇を切り裂く怒りの声が轟いた。裸身を金色に輝かせる、美しき女神が現れたのだ!!
 「バケモノめーっ!!ヨシノちゃんを離せーっ!!」
 勢い良く飛び跳ねた女神が、凄まじい蹴りをバケモノナマコに浴びせた。
 『んぎゃ!?』
 強烈な一撃を喰らったバケモノナマコが、目を白黒させて女神を見た。
 『げげっ、お、おめえは・・・スッポンポン女神!?』
 「よくもっ、よくもヨシノちゃんをイジメたわねっ。ヨシノちゃんをイジメた奴は、この私が成敗してあげるからっ!!」
 裸の女神アマノウズメは、凄まじい怒りを沸き上がらせ、極悪非道のバケモノを睨んだ。
 悪鬼ですら怯むであろう眼光で睨まれ、思わずたじろぐバケモノナマコ。
 『う、うにょれ〜。成敗できるもんならしてみろ〜。ちょっとでも近寄ったら、お姫さまは只じゃすまない事になるぞ〜。』
 ヨシノ姫をくわえたまま、虚勢をはってすごむバケモノナマコであったが、怒り心頭のアマノウズメには通じなかった。
 「やれるもんならやってみなさいよ、100万倍にして返してあげるわ。」
 『いや、あにょ・・・だから近寄ったらダメだって・・・(焦)』
 恐れ戦くバケモノナマコに、怒りの女神が歩み寄る。アマノウズメに宿った月の力が、両手に集約され、目も眩む黄金の光が放たれる。
 「はああっ・・・ヨシノちゃん、今助けてあげるわっ・・・でやあああーっ!!」
 そしてバケモノナマコの突き出た腹に、凄まじい鉄拳の連打を喰らわせた!!
 
 ズドドドドッ!!ドガバキボゴバキッ!!
 
 「うりゃりゃ〜っ!!ヨシノちゃんを離せっ、このバケモノめーっ!!」
 『おげげげっ!?うげげぼえええ〜っ!!』
 ありったけの怒りを込め、アマノウズメはバケモノをブチのめす。
 物凄い勢いで吹っ飛ぶバケモノナマコ。 そして口にくわえられていたヨシノ姫が吐き出され、宙に放り出される。それを見事アマノウズメは受け止めた。
 「ヨシノちゃんっ・・・」
 取り返した友達を、裸の女神は強く抱きしめた。
 そして、ブチのめされたバケモノナマコの凶悪な口から、大量の闇の邪気が噴出し、禍々しい巨体が見る見るうちに萎んでいく。
 『ひょええ〜、ち、縮む。縮んじゃうよおお〜。あ、あひあへあへへ〜。』
 マヌケな声を残し、バケモノは元の貧弱なナマコに戻ってしまった。
 「ひえええ・・・おお、おたすけえええ〜。」
 波間を逃げるナマコを、むんずと踏みつけるアマノウズメ。
 「ふぅん、あんた昨日のブサイクナマコじゃないの。闇の力を手に入れて、性懲りもなく仕返しに来たってわけね。でも私に仕返しするならまだしも、ヨシノちゃんに手を出すとは・・・ゆるせないわっ!!」
 「ご、ご、ゴメンなさ〜いっ。お姫さまに手を出すつもりはなかったんですうう。神様の夕ご飯にでもなんでもなりますから〜、ど、どーか許してくださいませ女神さま〜。(涙)」
 さっきまでの勢いはどこへやら、情け無く平謝りするナマコであったが、もはや情状酌量の余地など一切ない。
 「ヨシノちゃんの仇っ!!地獄の果てまで飛んでいけーっ!!」
 どっかーんと強烈な蹴りが炸裂し、空中高く飛ばされたナマコは、夜空にキラリと光るお星さまになった。
 こうして、悪のナマコは成敗されたのであった・・・

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