テッサリアの女王 6
エピローグ テッサリア王国の落日
ムーンライズ
民達のリネアに対する罵声を聞いていたレイディアは、テラスの奥に視線を動かした 。そこには、レジウス卿を殺害した黒いローブを纏った手下が控えている。手下は、レ イディアにレジウス卿の始末をつけたことを、目配せで継げた。レイディアが無言でう なずくと、手下は、軽く敬礼してその場を去った。 リネアを陥れる片棒を担いでいたレジウス卿が死んだ今、全ての真相を証言できる者 はいなくなった。それは、全てが闇に葬られた事を意味した。 (これで、私の存在を脅かす者はいなくなった。) 満身の笑みを称え、テラスに立つレイディア。 「さあ、皆の者、今日は私の女王即位記念の宴を用意した。心ゆくまで呑み、歌い、 楽しむが良いっ」 レイディアの声に、民達は一斉にワアァと喚声を上げた。 「レイディア新女王陛下、万歳!!」 「テッサリアに、レイディア女王陛下に栄光あれ!!」 民達の歓喜の声が、宮殿を揺るがす。それを満足げに見つめるレイディア。 「れいでぃあさまぁ?・・だれ、そのひと・・てっさりあぁ?・・なに、それ・・」 民達の津波のような喚声を、リネアは放心状態で聞いていた。 「れいでぃあさま、ばんざぁい・・じょうおうぅ、へいかぁ・・ばぁんざぁいぃ・・」 呂律の回らぬ呟きが口から漏れる。でもその声は、歓喜の声にかき消され、誰の耳に も入らなかった。 全裸のまま磔にされていたリネアは、その日の夜遅くまで高台に掲げられ、宴に酔い しれる民達の前で晒し者にされた。人々は口々にリネアを非難し、レイディアを称えた 。真相を知らないまま・・ その後、テッサリアにレイディアが暴君として君臨したのは言うまでも無かった。 凶悪な本性を露にしたレイディアは、民達から絞れるだけの税を取り、贅の極みを尽 くした。逆らう者を容赦なく処分し、強力な軍隊と警備隊を組織して、民衆を支配して いた。やがて、民衆は、レイディアが前女王暗殺の張本人である事を意識し始めたが、 その時すでに遅く、誰一人として、レイディアに立ち向かう事は出来なくなっていた。 狂った支配者の前に民衆の心に希望や優しさが芽生えていくはずも無く、治安は乱れ 、テッサリア王国全土に動乱と破壊の嵐が吹き荒れた。 レイディアによる悪政は、即位から25年後に彼女自身の破滅によってテッサリアが 崩壊するまで続いた。 一方、リネアは表向きには、前女王暗殺の罪状によって処刑された事になっていたが 、実際には、レイディアの慰み者として宮殿内に幽閉されていた。 毎夜繰り広げられたレイディアのおぞましい饗宴の餌食にされていたリネアだったが 、リネアに心を惹かれた召使いによって、宮殿から連れ出され、テッサリアの首都を離 れた山奥で召使いと共に暮らすようになった。 正気を失っていたリネアは、召使いの献身的な看護により、純真で優しい人格だけが 取り戻され、人並みではないにせよ、国の動乱に巻き込まれる事も無く、召使いに守ら れて幸せに過ごした。
(テッサリアの女王) おわり
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