・恥辱の犠牲・

―と。
(・・・・!!)
メルバがビクンと緊張する。ヒタヒタと自分のいる牢へ歩み寄る者の気配を感じたのだ。格子越しに通路の奥を見るとカンテラの明かりが二つ、近づいてくる。外の様子はよく分からないが、今はもう真夜中のはずだ。ここに入れられたのが夕方で、その後一度だけ見回りが来たが、その後ずっと人は来なかったのに、今ごろ何をしに…?メルバの不安と緊張が高まった。
『よぉ、まだオヤスミになってなかったのかい?姫様』
やってきたのは夕方にも見廻りに来た二人組みの見張り番の兵士だった。二人ともにでっぷりと太った体つきをしている。その体格とエラの張った顔立ちの為にいささか老けて見るが、まだ三十前の若さだろう。ひときわ太った大柄な男はスキンヘッドにいかにも手入れの悪い髭づら。もう一人のほうは眉を剃り落とした上にモヒカン頭という野卑な風貌で、どうみても貴族出の騎士が中心のスードリィ王国軍の正規兵ではない。やはり、ごろつきの寄せ集めの傭兵部隊なのだろう。
『いけねぇなぁ、何たってお姫様だからよぅ、贅沢にも個室を与えてやってるってーのによ。お付きの侍女どもに笑われるぜぇ。なんたってやつらは俺らの仲間と同室だからなぁ、ヘッヘヘ』
スキンヘッドに続いてモヒカンがニタニタといやらしい笑いを浮かべながら話し掛けてきた。
『リーナとシェリーはどうしているのですっ。私を今すぐ、ここから出して彼女達の元へ案内しなさい!』
普段は誰にでも優しく大人しい印象のメルバだが、意志は強く、気節に優れた王女だった。下賎な男達の視線に肌を晒す屈辱に堪えながらも、あくまで気丈な構えで言い放つメルバだったが、二人は顔を見合わせると、顔をより一層下品に緩ませるだけだった。
『心配すんねぇ。あの二人は寂しくねぇようによう、夕方からついさっきまでずっと、俺らが歓迎パーティで可愛がってやったからよ。ヒーヒー泣き喚く位喜んでいたぜ。疲れちまって今はもうぐっすり寝てるがよ』
『そうそう、この辺も夜は結構冷えるからな。風邪なんかひかないように仲間が裸で添い寝してやってらぁ。男の優しさが身に染み入っているだろうぜ、キヒヒ…』
最初、二人の男の言葉の意味が理解できなかったメルバだが、モヒカンが股間を自分に突き出すようにブンブンと前後に振りながら話すのを見て、「ある事」に思い至り、一気に血の気が引く思いを味わった。
『…あ、あなたたちは、何てことを・・・!』
ヒューッと、スキンヘッドが無遠慮に口笛を吹いた。
『へぇ〜、やっぱりお姫様でもオ○ンコの事はご存知らしいな。どこの国でも王宮は結構乱れているっていうからな。お高いフリして、もう男のチ×チンを突っ込まれてんのか?』
メルバにとってみたら心臓を素手で掴み取られるような、強迫的なまでの言葉の辱めが浴びせられる。羞恥と憎しみが同時に湧き上がり、メルバの意識を混乱させた。
『そのくらいのお勉強はしてるんだろ…。噂じゃ国内の諸侯の誰ぞと縁談が持ち上がっているっていうしな』
モヒカンがしたり顔で言った。メルバの父母…メロゥド王国の国王夫妻には男子が無い。子はメルバ王女ただ一人である。その為、近縁の諸侯から婿養子を迎えて、ゆくゆくはメルバに王位を譲ろうというのが国王の考えだった。その噂の相手―ラファエル候はメルバの幼馴染みであり、実際、王の思略に関わらず密かに将来を誓い合った恋仲であったが、スードリィの侵略軍の迎撃に自ら部隊を率いて出て、行方不明になっている。
『ヘッ、王女様のロマンスかい…。それはどうでもいいけどよ、こりゃ俺達にとっては大事な事だぜ。あんた、処女か?どうなんだよ?』
『何を言うのですか、そんないやらしい事を!答える必要などありませんっ』
顔を真っ赤にして抗弁するメルバだが、二人の男は鉄格子の扉の鍵を開けて牢の中に入ってきた。再び、メルバの顔が青ざめる。 モヒカンが座り込んだままのメルバにヌゥッ、と顔を近づけてきた。酒の匂いはさっきからだが、この口臭はどうだろう。数日分の食べカスが腐敗したようなすさまじい悪臭を放つ息をうっかり喉の奥に吸い込んでしまったメルバは、それだけで吐き気に襲われてむせ込んだ。意に介さず、モヒカンが言う。
『実は俺達二人はよ、パーティにあぶれちまったんだよ。あんたの侍女らは寝ちまったっていうより、他の連中の歓迎が過ぎて気絶しちまったんだな』
スキンヘッドが言葉を継いだ。
『俺らは歩哨に立っていたんだが、仲間と交代してもらう前にオネンネされちゃってな…。そうでなきゃ、俺達で夜通し可愛がってやっているところだ』
一つ二つ年下の…友人でもある二人の侍女がさっきまで受けていたという仕打ちを考えるとメルバの胸は張り裂けんばかりに痛んだ。そして勘のいいメルバは、今その危機が自分にも襲い掛かろうとしている事を感じ取っていた。この下卑た男達は、リーナとシェリーの代わりに自分を牡の欲望で蹂躪しようとしているのだ。彼女自身、男と女の「その行為」についての知識はごく乏しい物でしかなかったが、それが絶望的な悲劇であろうという事は本能的な恐怖として感じられる。メルバはますます身を固くしていった。

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