『騎士で武士な僕と皇女様002』(4)

小さい人間


     
「あっあっ……ううう……」

月光の射すカーン城の一室から淫靡な音に合わせるかのように、その声は聞こえた。
 アングリア皇国、皇女クリステーナ=アングリアは何時ものようにお気に入りの騎士と夜伽をしていた。
 最初は完全にクリスが黒髪の騎士をリードしていたのだが……毎日当たり前のように体を重ねてきた成果だろうか……。
 今では騎士が皇女様をリードしていた。

 皇女様の中は熱く僕のモノを締め付け……そして緩める……。 僕の分身を包みこみ、腰をくねらせ自らの体温とその液をすりつける。
 僕もより深い快楽を求め、皇女様の神聖な御腰に熱くなった陰核を深く、激しく付き続けた。
 
 日が昇っているときはけして見せない皇女様のお顔からは、年頃の少女らしさや、一国を担うという重圧からか……どこかさびしさが見られた。
 ようやく、夜の御顔も……明るくなってきたのに……。
 その日の夜伽は何時もより激しかった。
 今でこそ見慣れた、このきめ細かく、ミルクのように白く艶やかな柔肌を、未練を残すかのよう何度も舌を這わす。
 皇女様もそれに合わせるかのように体をくねらせつつ、僕の欲望の分身を激しく包みこみ、その快楽に身を任せる……。
 もう既に何度も何度も行ってきた行為……しかし……。
 
 僕は明日、出陣だ……。
 
 外交努力は実らず、敵に戦力集中の時間をいたずらに与えるわけにはいかないアングリア皇は常備軍の優位性を生かし、先手を打つことにしたのだ。
 これを最初に公の場で具申したのは僕だった。 勿論、実際の戦場も知らない軟な若造の意見など最初はだれも聞こうとしなかった。 しかし、経済で実績を上げた真の人物が誰であるか……これは動かぬ事実となって僕にも具申の機会が与えられたのだ。
 この世界では皇女様の次にお世話になっている、将軍ロビン伯爵がこの意見を支持し、皇女様が僕を作戦参謀長に任命した。
 ロビン伯爵と進めた軍制改革で、鍛え上げた軍隊と、平和な日本でひたすら兵法書を読み続けた僕の無駄知識がどれだけ通用するか……。
 正直……不安はある。
 歴戦の猛将とまで言われたロビン伯爵のお墨付きがあるとはいえ。 僕は……人殺しが出来るのか?
 でも……
  
やらなければ……やられる……。
 
そうなれば、今体を重ね合っているこの僕の君主はどうなる?
 祖父はよく言っていた、「ハガクレブシ……という本にな、『武士道とは死ぬこと』とある。 これはな、命をかけても守りたいもの、やらなければならないことをその生命をかけて全力で行う……武士として生きるということを表しているのじゃ」
 
 僕の守りたいもの、やるべきこと……それははっきりしていた。
 
 何度も何度も体を重ね……疲れたのだろう。
 天使でさえ敵わないであろう寝顔が僕のすぐ横にあった。
 何時もなら、皇女様が睡眠された段階で部屋から出ていく……。 今日だけは特別に側に居るよう仰せつかっていた。
 皇女様の手は、僕のモノを片手で大事そうに握ったままだった。 何でも、触っていた方が落ち着くらしい。
 皇女様を……彼女を守るためならば、僕は地獄の鬼に喰われてもいいだろう。
 心の底からそう思った。
 
 コチコチと、時計の音が静寂に響く……。
 皇女様の寝息が肩にかかりちょっとくすぐったい。
 僕はこれら戦うであろう相手を、情報を基に想像し幾通りの模擬選を頭の中で行う。
 
二〜三度大きく息を吸う。
 新鮮な空気を頭に送り込むためだ。
 思考が活発になる。
 
 敵国のマーシアは正直、敵じゃない。問題はその背後に控える大国ヨークだ!
 マーシア軍は地元傭兵を中心にした一万からの軍だが。職業軍人ではなく、数や将の質で劣る彼らは短時間で御せる。
 だが、ヨークはその間に三万からのベテラン用兵で体制を整えるだろう。マーシア軍に時間を稼がせ、後ろから挟撃されるのが一番嫌なパターンだった。
 
 待てよ……、ヨーク軍を率いるのは確か、第一王女カトリーヌだったな……。

  要はヨーク軍の到着を出来るだけ遅らせれば、あとは各個撃破すればいいのだ。
 現在ヨーク王室には二人の姫君がいたはずだ……。

 僕は今自分が考えていることに、一度苦悶した。 とてもじゃないが武士のすることではない。 勝つためにそんなことをして……いや、違う。
 これは……戦争だ……。
 
 僕は隣で気持ちよさそうに寝息を立てる僕の皇女様を見た。
 僕がそれをやらねば、皇女様がやられるのだ。
 
 僕はその瞬間、修羅の道を行くことを心に誓った。

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