王女戴姦 第一話・2

隠者


 王の間を辞したデルフィナは、仕度のため自室に戻った。寝室で侍女たちからドレスの着付けを受けていると、既に仕度を終えたリリアが無邪気な笑顔を浮かべながら、デルフィナを訪ねてきた。義理の親子ながら、7、8歳ほどしか年の離れていない2人は本 当の姉妹のように仲が良い。
   「お義母様のお兄様ってどんな方なの?」
  腰近くまで伸びた亜麻色の髪に軽くウェーブをかけ、薄水色のリボンで縛ったリリアは女性のデルフィナがみても充分に可愛らしい。リボンは新調したスカイブルーのドレスと色を合せたようだ。
「そうね…」
普段着のドレスを脱ぎ、官能的な裸体を薄絹だけで包み込むだけの状態になったまま、デルフィナは思案した。リリアや侍女たちが見ても本当に困惑した顔だ。昔を思い出しているのか、デルフィナの瞳は遠くを眺める。だが、次の瞬間、デルフィナはハッと何かを思い出したように首を振り、苦汁の表情を浮かべた。
「どうしたの?」
心配そうにリリアが覗き込む。
「な、なんでもないわ。そ、そうね兄は動物に喩えると…狼…」
「えぇ!?狼!!そんなに恐い方なの?」
デルフィナの顔にじっとりと汗が滲んでいるのをリリアは認めた。兄との再会を喜んでいるようではあるが、どこか脅えているようでもある。人間の心の機微にはまだ稚さいリリアは、デルフィナの心情を完璧に読み解くことは出来ない。だが、何か複雑な思いを抱えていることだけは理解できた。
「恐くはないわ。ただ傭兵生活が長いから…」
何かある─。だがリリアはそれを追求せずに、わざと明るく振る舞い雰囲気を変えようと努める。
「人の心に土足で踏み込むようなことはしない」
リリアはそんな娘だった。
「そうか軍人さんですものね!お父様と同じ。お父様も『アリゾンの鷹』なんて呼ばれて恐がられたけど、今じゃあんなに優しい人だから、大丈夫だよね」
「そうね…」
会話をしながら、燃えるような紅色のドレスを纏ったデルフィナの美しさに、リリアは目眩を起こしそうになった。彫刻のような均整のとれた顔立ちに加え、肩口から露出した透き通るような腕がドレスの赤に映え、デルフィナの優麗さを加速させている。もの憂げな感情を双眉に載せた瞳は少し潤んで、リリアにはない「魅惑の女」を演出していた。豊かに脹らんだ胸やくびれた腰に、肉感的な旋律を宿しながらも、決して野性美というのではない。気品に溢れた美しさであった。
「王妃様、王女様、ルデロ公、御到着です」
侍女の言葉にリリアは我に返り、慌てた様子で「先にいきます」と残して、デルフィナの部屋を後にした。
義母の美しさに動揺している自分を知られたくなかったからだ。心臓がドキドキしている。
同性愛というのではなく、一級の芸術品に触れたような感動的な心の揺れだった─。

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