鞭と髑髏
Peitsche und Totenkopf /隷姫姦禁指令
Female Trouble
第6章・暗黒の隘路(上) Der schmale Weg der Schwaerzung(4)
城の上空に、エンジン音が響いていた。真っ青な静寂の空に爆音を轟かせ、オートジャ
イロが軽やかに飛行している。
「あれが、少佐です」
ラナとクラリスは、秘密の通路を抜けて、中庭近くの物陰に身を隠していた。早朝に地
下牢を抜け出していたが、暗黒の隘路を這いずり回った二人がようやく陽光の下に出られ
た頃には、すでに昼下がりになっていた。城を吹く風は肌に冷たく、全裸のままだった少
女たちは寒さと、そして誰かに見つかるのではないかという心許ない不安に包まれていた。
幸い、兵士たちはオートジャイロの臨時倉庫兼滑走路になった中庭そばの開けた広場に
集結しており、二人の近辺には人の気配は全くなかった。
ラナが視線をオートジャイロに向けてクラリスに言った。
「少佐は一日おきに、昼下がりにあの飛行機に乗るんです。帝国軍の新兵器だって兵隊さ
んが言ってました。テスト飛行なんだそうです」
クラリスも思わず機体を目で追っていた。
ヘルガ少佐が、あの飛行機に…。
「あの飛行機で、ここから逃げます」
ラナが呟いた、その言葉にクラリスは思わず目を皿のように見開いた。
「まさか!?」
「あたしのおじいさんは、東の国で軍隊の乗り物をつくっていたんです。あたしも子供の
ころに自動車に運転させてもらいました。飛行機の座席にも乗せてもらったことがあるん
ですよ。飛ばしたことはないですけど」
そう言ったラナに、クラリスはまた驚かされた。
「ただ、飛行機のエンジンは完全に止まっちゃうと、ひとりじゃ動かせないんです。姫さ
まに手伝わせることはできませんし」
確かにクラリスは飛行機など触ったこともない。
「だから、少佐が飛行機をおりたすぐあと、みんなが目をはなしたすきに、あの飛行機に
乗ろうと思うんです。おりたすぐあともエンジンはまだ完全にはとめないはずですから、
きっとすぐに飛べると思うんです」
思いも寄らなかった大胆な計画に、クラリスは仰天するしかなかった。こんな幼い少女
のどこにこんな度胸があるのか、公女は不思議に思うと同時に圧倒されていた。
「飛行機は飛ばしたことないですけど、操縦桿の動かしかたはおじいさんに教えてもらっ
たことがあります。だいじょうぶです、ほんの少し飛ばして、橋のむこうの町にまでたど
り着けば、きっと何とか身を隠せます。町の人に服をもらって、どこかに身をかくすか、
自動車をつかって町から逃げましょう」
あとから考えれば、大きな穴だらけの計画だった。無謀でもあった。だが、クラリスは
頷いた。この少女の命懸けの献身に、異議を唱えることなど思いも寄らなかった。
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