黄金の日輪*白銀の月
第8話/帰還、そして…Female Trouble
あれからいったい、どれだけの快楽を分かちあったことだろう。姉の愛に満たされて 眠りの中を漂っていたクレアは、急にその姉の声に呼び起こされた。 「クレア…、起きて、クレア、…クレア!」 ぼんやりと顔を上げた聖王女は、はっとした。滲みるように冷たい石畳の感触ではな い、ふんわりと暖かな羽毛の布団の中。 そこはあの、忌まわしい地下牢の中ではなかった。元のままの、王城の寝室の、ベッ ドの中。幔幕が閉じた寝所のわきに立つ燈台のランプは、まだ油がたっぷり残ったまま 煌々と光を放っていた。 「そんな…、あれは、まさか、夢だったの?」 だが、隣にはアンヌがいる。二人とも全裸で、互いの身体には愛し合った証である汗 と愛液がまだ残り、少女の性の香りが混じり合って姉妹を包んでいた。 「お姉さま…これは…」 「クレア…」 いぶかしげな二人の前に、いきなり幔幕をからげてシーマが入り込んできた。その姿 に、思わず姉妹は身を寄せ合って身体を固くし、怯えたように凝視した。 だがシーマは、ほっとため息をついて苦笑した。 「やんなっちゃうなあ。仕返しに二人をちょっといじめてお灸を据えてやろうと思って いたのに、あべこべに二人の望みをかなえて喜ばせちゃうはめになるなんて。これじゃ あ、ちっとも罰にならないじゃない」 「え…?」 「ま、ずいぶん酷い目にあわせたけど、結果として想いがかなって二人はラブラブだも の。勘弁してよ。恋の仲立ちをしちゃったなんて、このシーマともあろうものが、ちょ っと癪ではあるけどさ」 「じゃあ、私たちを…」 「かわいいペットだから、捨てるのは惜しいけどね。じゃ、二人ともお幸せにね」 そう言って笑いながら、シーマは杖を構えて飛び立とうとした。 「待って、シーマ!」 「?」 いぶかしげに振り向いたシーマに、クレアが呼びかけた。 「あの…」 「なあに、王女さま」 少し躊躇していたクレアは、意を決して言った。 「飼っていたペットを捨てるのは、飼い主として許されませんよ」 アンヌもそれに付け加える。 「ペットは責任を持って飼わないとね」 目を丸くして二人の言葉を聞いたシーマは、やがて口元に笑みを漏らした。 「そうね…、その通りよね。じゃあ、どうしたらいいかな」 「そこで、提案があるのですけど…」 「聞くわ」 *** 翌日、いつもと変わらぬ様子で家臣たちが参集し、朝廷が開かれた。 姉の姫将軍アンヌを、近衛隊長に兼任させることを承認させた後、聖王女クレアはい きなり、家臣団にシーマを紹介した。 魔力広大にして深遠な知謀を秘めた大魔導師であり、彼女を客卿として礼を尽くして 迎え、国防と治世の一角を委任したい旨を、王女は家臣団に諮った。 王女からのあまりに唐突な諮問に、そして何よりもその幼い外見に対して、家臣団は 一人残らずあからさまな不審を見せた。だが、シーマが無造作に唱えた呪文と杖の動き が、王城の四方の門上に、全長十数メートルにも達する大魔神の形をとった四大精霊の 化身を召喚すると、その疑念は消し飛んだ。 異形の四魔神の出現に、最初は恐慌をきたした市民たちも、それらがこのアーヴェン デールの新たな守護神の降臨と知るや、一斉に歓呼の声をあげた。 アーヴェンデールの守りは鉄壁となった。侵略の魔手は何度も伸びてきたが、その度 に、神聖なる王女の元に一丸となった兵士と、それを率いる「ドラゴンスレイヤー」た る姫将軍の武勇と、神秘の大魔導師が放つ無敵の魔法が、敵を完膚無きまでに打ち破っ た。 やがて、アーヴェンデールを狙う愚か者はいなくなり、戦乱に無縁な町は多くの人々 が集まり、いやが上にも栄えた。だがそれはもっと後の話である。 *** 深夜、閉ざされた王女の寝所がいつももぬけの空であるのを、誰一人知らない。 あの、シーマの住処、迷宮の最下層の地下牢で、聖王女と姫将軍は夜な夜な甘いひと ときを過ごした。 今夜もいつもと同じように、姉妹は全ての衣服を脱ぎ捨て、あの首輪をつけ、一枚の 皿のミルクを仲良く分けあった後、冷たい石畳の上で激しく愛し合っていた。 片隅に持ち込まれた籐椅子に腰掛けたシーマが、大切なペットが睦み合う様子を満足 げに眺めながらも、あきれたように呼びかける。 「なにもこんなところですることないのに。お城のふかふかベッドでいいじゃない。あ たしが結界を張ってあげるから、誰にも気づかれたりしないよ」 「でも、ここが私たちの想い出の場所ですもの。お姉さまと結ばれた、大切な場所、そ うよね、お姉さま!」 「そうね、わたしたちにはここがこの世で一番、すてきな場所よね」 そう言うと、二人は再び唇を重ねて手足を絡ませた。 「やれやれ、血統書つきのペットは、好みがうるさくて困るなあ」 そう愚痴るシーマだったが、まんざら迷惑でもない顔だった。 「考えてみたら、飼い主こそペットに奉仕しなきゃならないのよね」 優しい飼い主の声を聞いているのかどうか、クレアとアンヌは夢中になって、互いを 求めあい、むさぼりあい続けた。
完(00・2・13脱稿)