黄金の日輪*白銀の月2〜陰陽の寵賜〜
第9話/聖誕Female Trouble
あの結婚式が終わり、二ヶ月がたち、アーヴェンデールはめでたい新年を迎えた。 そして街には、二つの慶事が伝えられた。 ひとつ目は、あの結婚式の時に人々の目の前で起きた「奇蹟」が総本山に報告されて正 式に認定され、それによって法王がクレアとアンヌを生きながらにして「聖女」に列する と決定した事が伝えられたのである。 それに従い、このアーヴェンデール自体も「聖地」として認証されることになった。 後のことだが、それまで商業都市として人々が集っていたこの街は、さらに聖地として 多くの巡礼者を集め、ますます栄えることとなった。とりわけ、戒律によって禁じられる 女性同士の恋愛に苦しむ者たちの心のよりどころとなり、やがてついに、このアーヴェン デールにおいてのみ女性同士の結婚が認められるようになって、アーヴェンデールは文字 通りの「女の都」となるのであるが、それはもっと未来の別の話である。 そして、もう一つの慶事。 王家からの布告。 クレアとアンヌが、同時に懐妊したことのふれだった。 人々は、あの結婚の時に降臨した三美神が、あの聖布を賜っただけでなく、受胎告知に 訪うていたことを悟り、姉妹の懐妊を心から祝福した。 ごくわずか、あの奇蹟を見ていなかった者が不心得にも、王女姉妹が秘かに男を引き入 れたんじゃないのか、と言ったりもしたようだが、そのような呪わしい言葉を聞いた者か ら例外なく袋叩きにあったものだった。 * あの泉に、再びシーマが訪れた。 あの時三美神が裸の王女姉妹に差し掛けた聖なる褥を手にしている。 奇蹟の聖物として法王のいます総本山に送られ、厳重に保管されたはずの聖衣であるが、 それを手にするなどシーマにとっては造作もないことであった。シーマが代わりに置い てきた偽物に気づく者は、おそらく永遠にいないはずである。 シーマはその聖衣を、そっと泉に浮かべた。 王女姉妹への愛情の代償として。 これからもあの二人の飼い主でいられることへの感謝をこめて。 聖衣は、やがて静かに泉の底に沈んでいった。 何も言わず、シーマもその場を立ち去った。 再び、静寂が泉に訪れた。 * アーヴェンデールに、初夏の日射しが降り注ぐある日、再び王家から布告があった。 クレアとアンヌが、同時に出産したとの知らせ。母子共に健やかで、生まれたのは両方 女の子である。 街中が祝福に沸き立ち、半月の間お祝いの祭が繰り広げられた。ただし、産後の母子を 慮り、祭にありがちな喧噪や爆竹の代わりに、大陸中から最高級の音楽家が市民の篤志に よって集られ、優雅で上品な音楽が街中に満ちた。 そしてその祭の最終日。 城のバルコニーに王女姉妹がそれぞれの愛児を胸に抱いて、人々の前に姿を見せた。 その姿に、アーヴェンデールの人々は、確かにあれが奇蹟だったことを確認した。 クレアが胸に抱いていた赤ん坊と、アンヌが胸に抱いていた赤ん坊は、双生児のように うり二つだった。 ただ一点を除いて。 クレアの娘の髪が、右側が金色。そして左側の髪が姉と同じ銀色だったのだ。 そしてアンヌの娘は、右側の髪が銀色、そして左側の髪は妹姫の金色を受け継いでいた。 のちに「運命の双児」と呼ばれることになる娘たちを胸にしたクレアとアンヌが、肩を 寄せ合ってニッコリ微笑んだ。 その姿に、アーヴェンデールじゅうが大歓声に包まれ、市民の祝福がいつまでも続いた。 「運命の双児」たちは、やがて手を取り合って数々の冒険を乗り越え、その旅の中でや がて定めのままに母たち同様に愛し合うようになり、そして母たちからこの国を受け継い で幸福に統治することになるのだが、これもまた別の話である。 * これにて、アーヴェンデールの聖王女クレアと、その姉アンヌの愛の物語は終わる。 ただ一つ、不確かな噂を蛇足に付しておこう。 運命の双児に王位を伝え終えたクレアは、ある日、アンヌとともに姿を消してしまった。 長くこの国の政治を輔弼していた大魔導師シーマもまた、前後して去った。 人々は聖姉妹を捜し求めたが、その行方は杳として知れなかった。 やがて、人々は語り合った。 クレアとアンヌは、あのシーマに導かれ、遙か東の彼方の永遠の島に行ったのだと。 そしてその地で、あの結婚式の時の16と19の若さを取り戻し、永遠の愛を育み続け ているのだと。 そしてもしも、このアーヴェンデールの地から愛が失われるようなことがあったなら、 姉妹は再びここに戻ってくるのだと。 そう、人々は語り伝えている。 完