黄金の日輪*白銀の月2〜陰陽の寵賜〜
 第8話/自殖

Female Trouble


「…ま、奇蹟ってのは決して珍しいことじゃないの。魔法使いが言霊で魔力をコントロー
ルして魔法を完成させるのと基本は変わらないのよ。ただ、魔法の修行をしてなくて、生
まれつきに巨大な魔力を潜在的に秘めている者の場合、そのパワーが理論じゃなく、精神
的なイメージに従って発現するわけ。普通の人間ならそれは『信仰』が大きく左右するっ
てこと。神が実在するがどうかとは別に、その人間自身の『神』イメージに沿った形で魔
力が発動する。それが『奇蹟』の正体よ。敬虔な宗教者の『神聖魔法』と基本は変わらな
いわ。ただ、『奇蹟』は決まった形がないから、見た人に与える衝撃力は大きいし、今日
みたいなのはさすがのあたしも滅多に見たことはないけど。衆人環視の中でエッチさせら
れた異常な状況下での昂揚状態や、あの魔香の麻薬効果のせいもあっただろうけど、やっ
ぱりアンタたち二人が秘めていた力がすごかったってことが一番の要因ね。つまり…」

 昼間の出来事を延々講釈していたシーマが、ちらりと一瞥して口を閉じ、ヤレヤレと首
を振った。

 いつもの、二人にとって世界で一番素直な気持ちになれる迷宮の地下牢で、クレアとア
ンヌは心安らかにペットの立場に戻り、まるで仔猫のように幸せそうに頬を寄せ合ってい
た。
 生まれたままの姿に、唯一身につけた首輪。そして今日からはもう一つ、身につける事
が許された。二人の左手の薬指に、それぞれ金と銀の指輪が光っている。
 二人は互いのその指を、愛おしそうにいっしょに頬ずりしていた。

「でも、どうなの?クレアちゃん、アンヌちゃんも。全国民の注視の中でエッチさせられ
ちゃうだなんて異常体験、死にそうに恥ずかしかったけど実は、すっごく感じちゃったん
じゃないのお?」
 からかうシーマの言葉に、姉妹は真っ赤になってうなだれた。

「さて、今夜は『奇蹟』の仕上げをするからね。二人とも、こっちにいらっしゃい」
 二人の首輪から魔法の鎖が伸びてシーマの手におさまる。

 姉妹は顔を見合わせて訝しがった。
「仕上げって?」

「あのバカどもがヌカしたんだって?女同士で子供ができるのかって?」
 鎖をちゃらっと鳴らして、シーマがニヤリと笑った。
「…結婚したんだもの。ね、赤ちゃん欲しくない?」

「!」
 二人が目を丸くした。

「クレアちゃん、お姉ちゃんの赤ちゃん産みたくない?」
 かがみ込んでクレアの顔を覗き込むシーマ。

「…は…はいっ!」
 まだよくのみ込めていないようなクレアだが、はっきり答えた。

「アンヌちゃん、大好きな妹の赤ちゃん、産みたいでしょ?」
 アンヌに顔を向けて、悪戯っぽくシーマが笑う。

「…はいっ!!」
 まるで軍令を聞いたかのように、顔をこわばらせて答えたアンヌ。

「それじゃ、こっちにおいでっ!」
 身を起こすと、シーマがそっと鎖を引いた。

 それに合わせて、ペットの聖姉妹は犬のように四つんばいで、飼い主の後を進んでいっ
た。寄り添った頬と頬に至上の笑みを湛えながら。

*

 今まで迷宮の中はあの地下牢と、引き回された通路しか知らなかった姉妹にとって、そ
こは初めて見る不思議な場所だった。奇妙なギヤマンの容器や管や、ランプなどが所狭し
と並び、赤や緑に光る液体を詰めた瓶がぎっしりと棚に詰まり、またはあちこちに散乱し
ていた。床に這っているクレアとアンヌは動きがとれなくなり、往生した。

「ほら、ガラスを踏んで怪我なんかしないでよね。こっちよ二人とも」

 雑多な実験室をすり抜けて、シーマとその美しい二匹のペットは、奥の一室に入ってい
った。一転してがらんと広い空間はしんと静まりかえっている。暗闇に慣れている姉妹の
目にも、全く何も見えないほどの漆黒の部屋。

 シーマが指を鳴らすと、壁のあちこちにぼんやりと緑色の灯りがともった。やはり何か
の実験器具のようなものが壁際に並ぶ、その部屋の中央が遅れて光り出した。
 部屋の床には、差し渡しヒト二人分くらいの広さの、円形の凹みが穿たれていた。深さ
は腰ぐらいまであって、ちょうど市中の共同浴場にある浴槽くらいの大きさである。そし
て驚く事に、その凹みにちょうどぴったりギヤマンが継ぎ目もなく張られているのだ。
 シーマが様々なキメラを合成し、魔物を作り出すために使った合成培養用巨大シャーレ
がこれであることを、幸運にも王女姉妹は知らない。
 その底一面に、光る水のようなものが溜まって青白く発光している。

「さて、不純物が混ざるとダメだから首輪は外してあげるね」
 シーマの言葉に、二人の首輪が消えた。

 不思議な事に、この首輪があることがペットの条件として刷り込まれているせいか、ク
レアもアンヌも首輪が無くなってしまうと妙に全裸の自分が心許なく、そわそわしてしま
うのが可笑しかった。

「…指輪はそのままでいいわ。金と銀なら問題ないから」
 シーマの言葉にホッとする二人。

「あの、シーマ、これは何なの?」
 思い切ってアンヌが尋ねる。

「うふふ、ま、だいじょうぶだから。二人とも、この中に入るのよ」

「えっ?」
 正体不明の物体を前に、姉妹がたじろぐ。

「…早くっ!」

「は、…はい…」

 姉妹は一緒に、おそるおそる片足をその中に差し入れた。つま先に液体の表面が触れた。
指先を動かしてみて、液体の感触を確かめてみた。ぬるぬると粘り気がある、ゼリーの
ような生ぬるい肌触り。

「ほーらっ!早くしてっ!」
 シーマがせかす。

 意を決して、アンヌが思い切って先に右脚をグッと底まで入れた。深さは膝の下、脛の
中ほど程度だったので、少し安心して両脚で液体の中に立つ。そして妹の両手をとって、
転ばないように促した。
 クレアも姉の両手を頼りに、ゆっくりと透明ゼリーのプールの中に両脚を入れた。

「さ、あとはいつもと同じ。そのゼリー状培養液には排卵と新陳代謝を促進する成分と、
ついでに媚薬もね、ふふ。クレアちゃん、アンヌちゃん、その液体をお互いの身体にたっ
ぷりと擦り込むのよ。全身にお薬が染みこむように、外からも、内からも、ね」

 その言葉に、不安を消せないまま、姉妹は屈み込んで両手にゼリーをとった。ゾルゲル
状態の半液体は、手に取ると盛り上がるくらいの固形感があった。そして起き直ると、二
人は両手のゼリーをそっと互いの胸元に注ぎかけた。
 半流動体の透明なゼリーが、姉妹の滑らかな素肌にとろりと流れ、豊かな乳房の形に添
って流れ落ちていく。人肌に近い暖かさなのに、肌に馴染みすぎる感触に、一瞬ぞくりと
した二人だった。だがすぐに、姉妹は泥んこ遊びの子供のような気持ちになっていた。
 クレアが指をさし出して、姉の凛々しい頬をなぞるように塗っていく。まるでペインテ
ィングのように頬、鼻筋と塗ったクレアの手がふと止まり、ちょっと背伸びして顔を寄せ、
姉と唇を重ねた。そして、子供のように笑った妹姫は、いきなりアンヌの顔に手に残って
いたゼリーをぱんっとぶつけるように押し当てた。面食らった姉のさまに、クレアが歓声
をあげる。

「やったなあ、クレア、待ちなさいっ!」
 アンヌが逃げようとしたクレアの腰に抱きついて、そのまま背中に自分の胸を密着させ
た。そしてそのまま、妹の乳房を後ろから掴む。くにゃ、とアンヌの指が純白の双球に埋
まり、しなやかに揉みしだくと、クレアはうっとりと身を反らせた。アンヌの手に残って
いた粘液が乳房にまんべんなく塗り込まれて、リンゴのようにつやつや光る。

「ねえクレア、わたしね、あの時…クレアが『こんなところでイキたくない』って言って
泣きながら身悶えした時にね…すごく可愛くって、ジンジン感じちゃってたの、…ごめん
ね」
 アンヌが甘く囁きながら、今度は自分の乳房を使って妹姫の背中にゼリーを塗り込み始
めた。
 愛らしい肩胛骨に乳首がぬるぬる滑りながら当たる感触に、クレアが大きく喘ぐ。

「お姉さまだって、あの時泣きながら腰を振って…おっぱいが揺れて…必死にあそこを押
しつけてきて、とってもいやらしくって、素敵だったくせにぃ…」
 クレアが甘えて言い返しながら、両手を上げて抱えるようにして、姉の顔にキスの雨を
降らせた。

 ゼリーがほぼ全身に塗られたのを見計らって、姉妹は身を離すと、二人顔を見合わせて
無邪気に笑いながら、ゆっくりと腰を下ろした。液体に下半身が浸かりきると、今度は上
半身を屈めて、いっしょにうつぶせになる。
 流動体の浮力で半ば浮かぶようになって、顔を上げながら、今度はくるりと身体を反転
させて仰向けになった。全身でゼリーの感触を味わうように、身を起こしたクレアが自分
の乳房をヌルヌルと両手で捏ねる。
 アンヌはその浮遊感覚が楽しいのか、何度も何度も回転しながら全身をくねらせた。

「いい?一カ所も残しちゃダメよ二人とも」
 のんびり椅子に腰掛けて、最愛のペットの遊戯を見つめるシーマ。

「はい…」
 微かに答えたクレアが、また仰向けになると、その眩い金髪の髪の房を丁寧に粘液の中
に浸し、両手で梳かすようにして濡らしていった。

 その姿に、アンヌは上半身を起こし、ピンと張りつめて上を向いた妹の乳房に手を滑ら
せる。そして、また妹を抱きしめながら、厚い舌を絡めてきた。姉の大きな乳房が上から
押しつけられる感触を堪能しながら、クレアもキスを返した。
 アンヌが、半分濡れた自分の銀髪を使って、刷毛で絵の具を広げるようにしてクレアの
全身に粘液を塗った。そして、再び妹の顔に自分の顔を寄せると、いきなりキスしながら
クレアの顔をぐっと下に押し込んでいった!
 頭を全部ゼリーの中に埋没させられたクレアが、キスを放さないまま押し戻し、水面に
顔を上げて息を吸った。

「ひどいわお姉さまったらあ。仕返しっ」

 そう言ってクレアが今度はアンヌを押し倒し、同じようにキスで姉を沈没させた。慌て
て顔を上げたせいで口の中にゼリーが流れ込んでむせかえるアンヌに、クレアが笑う。

「さあ、もういい感じかな?全身が熱くなって、溶けてしまうような感じでしょ?さあ、
今度は力の続く限り愛しあっていいわよ。自分が何者なのかわからなくくらいにね」

 その言葉も待たず、聖王女姉妹はもう熱く抱きあい、ゼリーでヌルヌルした感触に互い
の肉体の存在を確信しながら激しく愛し合い始めた。

「お姉さま、こんなの初めてぇ…、本当に、私、溶けちゃいそう…」

「いっしょに溶けちゃおうね、きっとわたしたち、一つに混じり合っていくよ…」

 姉妹は全身で互いの肉体を愛撫し、キスし、さらには身体中の穴という穴にも粘液を擦
り込み、ついには口移しでゼリーを飲み合い、秘所にまでも口に含んだ粘液を注ぎ込んだ。
そしてその度に、クレアとアンヌは強烈な一体感を感じながら、時間の感覚も、昼間の恥
辱も奇蹟も全てを忘れ去り、ただ愛する者と数え切れないほどの絶頂を分かち合う事に、
無限の幸福に溺れていったのである。

*

 クレアはふと気づいた。
 自分が不思議な空間に浮かんでいる事を。
 何もない、漆黒の宇宙。

 一瞬不安が心をよぎったが、すぐに自分を抱きしめている体温に気づいた。

「クレア…」

「お姉さま…ここはどこなの?私たち、あのプールの中で愛し合って、そのまま…」

「わからないよ、でもだいじょうぶだよ、ずっと一緒だから…」

 その言葉に安堵して顔を胸に埋めた妹をアンヌが抱きしめた瞬間、目の前に青い光が射
した。

 シーマがそこに立っていた。

『…さあ、いよいよ仕上げよ。サービスに二人にもわかるように具象化した映像で見せて
あげるから』
 そう言ってシーマが、二人に向かって杖を振った。

 クレアとアンヌの指輪が光り、それに応じて全身が熱くなる。固く抱きあう二人の身体
が発光し、そして二人の身体から、一抱えもありそうな光の球が浮かび上がった。

 全身の火照りがおさまり、光の球の美しさにうっとりと目を奪われた姉妹に、シーマが
少し近寄る。

『わかる、二人とも?これはね、貴女たちの『魂』を目で見てわかるようにしたものよ。
…まったく、こんな綺麗な魂の持ち主なんて滅多にいないわよ。さすが、神々の奇蹟を呼
び込むだけあるわね…』

 あきれたように感心するシーマの言葉に、クレアもアンヌも自分自身の『魂』を見つめ
る。
 クレアはその象徴たる黄金の、アンヌは同じく白銀の色。鏡のように輝き、一点の曇り
もない。

 自分たちの愛が決して歪んだものでもよこしまなものでもない事を証明できたような気
がして、姉妹は改めて互いの愛の正しさを確信した。

『さて、と』
 シーマがいきなり、無造作に杖でクレアの魂…金色の球をこつんと叩いた。その瞬間、
球の真ん中にすっと、縦にまっすぐな筋が入った。そして浮かんだままきれいに真っ二つ
になった。

「あ、そんな…!」
 慌てるクレアを、シーマが落ち着かせる。

『大丈夫だって。ま、任せなさいな』
 そう言ってシーマは、同じように銀の球を、アンヌの魂もこつんと叩き、二つに等分す
る。
 何が起こるのか、姉妹は不安げに見つめた。

 シーマが何かの呪文を唱えながら杖を振った。その杖の動きに合わせ、二等分されて四
つになった二人の魂が、ワルツを踊るように円を描いて回り出した。その不思議な光景を、
自分たちの魂が踊る様子を、クレアもアンヌも見守るばかり。

『それっ』
 まるで最高級の指揮者のように、シーマが振った杖に合わせ、金と銀の半球がそれぞれ
一つずつペアになった。そして断面がぴたりと合わさり、また完全な二つの球に戻った。
ただし二つとも、真ん中で綺麗に金銀二色に分かれた二つの球である。

『どう、二人の魂が混じり合って一つになったさまを見てもらったわけだけど』

「はい…これで、私たちどうなってしまうのですか?」

『それはね…こうするのよっ!!!』
 シーマが叫びながら、大きく振りかぶった杖を二人に向かって振った。
 その動きに合わせて、二つの金銀の球が凄まじい勢いでクレアとアンヌにめがけて突進
してきた。

「きゃあああああっ!!!」
 恐怖にかられて叫ぶクレアと、それを固く抱きしめるアンヌ。

 衝突した二つの球に、二人は包み込まれ、目も眩む光の中で溶けていった…。



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