ネイロスの3戦姫


第3話その4.継母の裏切り  

 「う、ううん・・・」
 酷い耳鳴りがする中、エスメラルダは目を覚ました。ヒムロの締め技の影響が残ってい
るのか、体の節々が痛む。
 「ここはどこ?・・・」
 辺りを見回そうとしたエスメラルダは、自分の両腕が動かない事に気が付いた。
 「あっ、なにこれっ!?なんでこんな・・・」
 エスメラルダの両手首が、長さ1m程の棒の両端で縛られており、両腕を広げた状態で
動かせなくなっていたのだ。
 しかも、彼女の両足首には鉄製の枷がはめられており、数10cmの長さの鎖が両方の
枷を繋いでいた。
 「誰だっ、こんな事したの・・・」
 固く縛られた両腕と足にはめられた鉄の枷は、彼女の動きを確実に封じていた。しかも
鎧はそのまま着ているので、それが邪魔になって更に動きにくい状況を作り出していた。
 「エスメラルダ、目が覚めたのね。」
 後ろから聞こえてきた姉の声に、思わず振りかえるエスメラルダ。そこには自分と同じ
ように棒で手を縛られ、足枷をはめられているエリアスの姿があった。
 「あ、姉様っ・・・ここはどこなの?ボク達はいったい・・・」
 「ここはデトレイドの・・・ダルゴネオスの宮殿よ。」
 「デトレイド・・・」
 エスメラルダの脳裏にネイロス軍が黒獣兵団に破れた事、そして、ヒムロとか言う男に
倒された事が蘇った。
 エスメラルダはもう一度辺りを見てみる。彼女等がいる場所は、正面が鉄格子になって
いる牢獄であった。
 「ダルゴネオスの宮殿って言ってたよね?それじゃあ、ダルゴネオスはボク達をどうし
ようって言うの・・・」
 不安に駆られたエスメラルダは体を震わせて姉に尋ねた。
 「そ、それは・・・」
 エリアスが重い口を開こうとした時である。
 「決まってるじゃない。ダルゴネオス皇帝の餌食になるのよ。」
 鉄格子の向こうに何者かが立っている。エリアスとエスメラルダは、声の主に目を向け
た。
 「あ、あなたは・・・義母上っ。どうしてここに・・・」
 2人は驚愕の声を発した。そう、その声の主は2人の継母、マグネアであったのだ。
 「2人ともいい様ね。黒獣兵団に破れた上に囚われの身になるなんて、ウフフ・・・」
 軽蔑の目で2人を見るマグネア。余りの信じられない状況に呆然とする2人だったが、
突然エリアスがハッとした顔でマグネアの顔を見た。
 「あなたがここにいると言う事は・・・ネイロス軍の情報を黒獣兵団に流したのはあな
たですねっ!?」
 エリアスの言葉にマグネアは、悪びれた様子も無くニヤリと笑った。
 「ご名答、そうよ。ネイロス軍の情報を流したのは私よ。」
 マグネアの口から発せられた驚愕の言葉に、2人は愕然とした。
 まさか、継母が自分達を裏切っていたとは・・・
 「そうか判ったっ、あのヒムロとか言う男が言ってた我が君って言うのは、あんたの事
だったんだなマグネアっ!!」
 今度はエスメラルダが声を上げた。
 「あら、ヒムロがそんな事あなた達に言ってたの?意外とお喋りだったのねヒムロった
ら。」
 マグネアはそう言いながら団扇を広げパタパタと扇いだ。
 「なんて事を・・・なぜなんです・・・なぜ私達を、ネイロスを売ったのですかっ。父
上のご寵愛を受けながら裏切るなんて・・・」
 エリアスがそう言うと、マグネアは団扇を扇ぐのを止めて目をキッと見開いた。
 「ご寵愛?笑わせないで、あのインポジジイが私に何をしてくれたって言うの。あの男
は戦で疲れた心を癒す為だけに私を後妻にしたのよっ。あなた達にわかるかしら、只の御
飾りになって過ごさなければならなかった私の気持ちが・・・裏切って当然よ。」
 「それはあなたの思い過ごしですっ、父上を愛していたのではなかったのですかっ。私
達はあなたが父上を愛してると思ったからこそ義母と認めていたのにっ!!」
 鉄格子に駆け寄るエリアス。
 「義母と認めていた、ですって!?」
 マグネアはエリアスの金髪を掴むと強引に引き寄せ、怒りの篭った目でエリアスを見た。
 「いつあなた達が私を認めていたって言うの?上っ面だけで認めていたクセに偉そうな
事言うんじゃないわよっ。」
 「それは・・・うぐ・・・」
 鉄格子に顔を押しつけられたエリアスは呻き声を上げる。
 「それにねぇ、私はあなたが憎かったのよエリアス・・・民達はあなたをネイロスの女
神とか言って褒め称えていた。何処へ行ってもエリアス姫様、エリアス姫様・・・悔しい
ったらなかったわ・・・」
 忌々しげに呟くマグネア。
 「姉様から手を離せマグネアっ!!だいたい、あんたは姉様にヤキモチ焼いてただけじ
ゃないかっ。それを父上のせいにして・・・何がインポジジイだよっ。父上の事悪く言っ
たらボクが許さないっ!!」
 マグネアはエリアスの髪から手を離すと、叫ぶエスメラルダに目を向けた。
 「言ってくれるじゃない。あんたの存在も目障りだったわ、何がボクよ・・・あんたの
その品の無い態度、女のクセに男みたいな喋り方・・・虫唾が走るのよっ。」
 「悪かったね、品の無い態度で・・・」
 睨み合うエスメラルダとマグネア。そのマグネアの横から、1人の男が声をかけてきた。
 「壮絶ですな、女の戦いとは。」
 「あら、これはこれは、ブルーザー団長。お恥ずかしい所をお見せしましたわ。」
 マグネアは現れたブルーザーと、その手下達を前にして、急に愛想の良い顔を見せた。
 「お取り込み中に申し訳ないですがねぇ、これからこいつ等のお披露目を始めるんでさ
あ。」
 「団長・・・この男が黒獣兵団の・・・」
 目の前に現れた巨漢の男、ブルーザーが黒獣兵団を率いる団長である事を知ったエリア
ス達。
 「おい、開けろ。」
 ブルーザーは警備兵に命じて鉄格子を開けさせた。
 「出てこいっ、グズグズするんじゃねえっ。」
 ブルーザーの手下が2人に罵声を浴びせながら牢獄の外へと引っ張り出した。
 「グフフ・・・噂に違わず良い女だ・・・」
 出てきたエリアスの美しい顔を剛毛の生えた手で掴み、ニヤニヤ笑うブルーザー。
 「あなたが黒獣兵団の団長ね。あなた達には随分と酷い目に会わされた・・・この借り
は必ず返すわっ!!」
 「フン、気の強い女だ。でもな、酷い目に会わされた。じゃねえぜ、おめえらはこれか
ら会わされるんだよっ、酷い目になぁ〜!!」
 「くっ・・・」
 陰湿に笑うブルーザーにエリアスは思わず顔をそむけた。その横では、満足げに笑みを
浮かべるマグネアの姿があった。
 「ブルーザー団長、遠慮は要りませんわ、思う存分いたぶってくださいねぇ。」
 「へへ、わかってますぜ。」
 「それでは、私はこれで失礼するわ。それと、エリアス、エスメラルダ。あなた達は妹
のルナに会いたいでしょう?」
 「ど、どう言う意味なの・・・それ。」
 妹の事を言われたエスメラルダは、体を震わせてマグネアを睨んだ。
 「ルナは腰抜け男爵と一緒に山に逃げ込んでるらしいんだけどね、今頃はヒムロが見つ
け出しているわ。そして会わせてあげる、お互いメチャクチャになった姿でね、オーホホ
ホッ。」
 2人に背を向けたマグネアは、高笑いを上げて去っていく。
 「まてっ、マグネアっ!!この卑怯者っ、裏切り者っ!!」
 エスメラルダの絶叫が空しく辺りに響く。
 「ギャアギャア騒ぐなっ。」
 手下達に捕まえられたエリアス達は、引きずられるように外へと連行された。




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