ネイロスの3戦姫
第1話その2.国王エドワード崩御
「はあ、はあ・・・娘達は・・・まだか・・・」
「陛下、お気を確かにっ、まもなく姫様方がこちらに来られますゆえ、もうしばらくの
ご辛抱を。」
御付の医師に声をかけられながら息も絶え絶えに横たわる国王エドワード。
冒頭でも説明したように、国王エドワードは長年のデトロイド帝国との戦闘で心身とも
に疲れ果て、不治の病に侵されていた。
長いアゴ髭を伸ばした深い堀の顔には、長年の心労を物語る幾筋ものシワが刻まれてい
る。
かつては赤竜王と呼ばれ、ネイロス公国の偉大なる国王として君臨し、ネイロスと敵対
した国から猛将として恐れられたエドワードの肉体は幾多の辛苦によって蝕まれ、老体を
横たえる姿に、かつての威光は見る影も無くなっていた。
「大丈夫ですかっ!?父上っ。」
ノックも無いまま突如開かれた扉の向こうから、エリアスを始めとする3人の娘が飛び
込んできた。
駆け寄る3姉妹だったが、その3人を制する者がいた。
「静かになさい、何ですかその格好は・・・陛下の一大事という時に、また兵士達と遊
んでいたのですね。恥を知りなさいっ。」
鋭い眼光で3姉妹を睨むその人物は、エドワードの若き後妻マグネアであった。
「あ・・・義母上・・・」
マグネアに一喝された3人は、返す言葉も無いまま押し黙った。
「もういい・・・マグネア・・・それより、娘達をこちらへ・・・」
両手をブルブルと振るわせながら3人の娘を呼び寄せるエドワード。
「父上・・・」
「お前達・・・よくぞ来てくれた、私の可愛い娘達・・・もっと顔をみせておくれ・・・
」
途切れそうな声で娘達を呼ぶエドワードは、愛しい娘の顔を1人1人見つめた。
「よく聞くのだ・・・余は、もうだめだ・・・ほどなく、余の命の炎は消える・・・そ
の前に・・・お前達に伝えておきたい事がある。」
父の言葉に、3人の顔から血の気が引いた。
「そんな・・・弱気な事をおっしゃらないでっ。あの強かった父上はどうなされたので
すか・・・」
声を詰まらせ、父の手を握るエリアス。
「いや、私にはわかる・・・運命なのだ。これより、ネイロスの行末はお前達に委ねら
れる事となる・・・もはや泣いている余裕は無いぞ・・・デトレイドが・・・いや、皇帝
ダルゴネオスめは必ずやネイロスを手中に収めんと攻め入ってくるであろう・・・」
悪烈なデトレイドの皇帝ダルゴネオスは、エドワードの宿敵であり、ネイロスの平和を
脅かす最悪の元凶でもあった。
「余がもっとしっかりしておれば・・・お前達に苦労をかける事もなかったろうに・・・
すべては余の至らなさゆえだ・・・許せ・・・」
涙を流しながら娘達に詫びるエドワードに、3人は、ただ涙を流して戸惑うばかりであ
った。
「これよりは3人力を合わせ、ネイロスを守るのだ・・・必ず出きる・・・お前達なら・
・・」
エドワードの声が途切れた。そして勇猛だった赤竜王エドワードは永久の眠りについた。
「父上ーっ!!」
エリアスの絶叫が響き、エスメラルダとルナが父の傍らに駆け寄って、わっと泣き叫ん
だ。
「おお・・・陛下・・・さぞや無念だったでしょう・・・」
エドワード親娘のそばで顔を覆って悲しげに呟くマグネア。
部屋の入り口で全てを見守っていたライオネット男爵が、ドアを開けてヨロヨロと外へ
出た。
「男爵、陛下は!?」
外にいた家臣達に尋ねられたライオネットは、大粒の涙を流して口を開いた。
「陛下が・・・国王陛下が・・・たった今・・・御姿を御隠しになられました・・・」
国王崩御の知らせは速やかにネイロス全土に伝わり、ネイロスの守護神の崩御は全ての
国民に悲痛な衝撃をもたらした。
葬儀には、多くの国民がエドワードを悼んで参列した。
デトレイドとの紛争を控え、葬儀は簡素に済ませられたが、突然の父王の崩御は、残さ
れた3姉妹に拭い切れぬ悲しみと不安を残した。
「えっく・・・えっく・・・ちちうえ・・・」
城の王族専用の浴室から、悲しげなルナの泣き声が響いている。浴室で沐浴しているエ
スメラルダの背中をルナが流しているのである。
「ルナ・・・父上が嘆かれるよ。泣いてる暇はないんだから。」
「だって・・・だって・・・あんなに強くて優しかった父上が・・・」
3姉妹にとって、エドワードは強く厳格な王であると共に、頼もしく優しい父でもあっ
た。
「ボクだって悲しいさ・・・父上にもっと鍛えてもらいたかったよ・・・」
「わかってるけど、でも。」
2人はそう言って押し黙った。
「悲しいのは貴方達だけじゃないのよ。皆悲しんでいるわ。」
不意に浴室のドアが開き、バスタオルを巻いただけの姿のエリアスが入ってきた。
「姉様・・・」
エリアスに向き直る2人。
「でも、今だけは泣いてもいいのよ。まだ時間はあるわ。今のうちに泣けるだけ泣いて
おきましょう。そうでしょう?」
そう言いながら妹達の肩を抱いた。
「ダメだよ、泣いたら父上に叱られる。」
気丈に涙を堪えるエスメラルダ。そんな妹を優しく慰めるエリアス。
「父上は昔から、お転婆だった貴方に、お前が男だったらなあって笑っておっしゃって
たわね。だからでしょう、自分の事をボクなんて言って男の子みたいに振舞って、父上の
どんなに辛い修行にも涙1つ流さず辛抱していた。父上も許してくれるはずよ、よくがん
ばったなエスメラルダって・・・」
「うん・・・」
感極まったエスメラルダの目から、大粒の涙が両目から溢れ出す。気丈で男勝りである
分、人一倍寂しがり屋なのだ。
そしてエリアスは、先程から泣いてばかりいるルナに振りかえった。
「ルナ、これからは私達が父上に代わってあなたを守ってあげる。辛い時、悲しい時、
いつだって私達がいっしょにいてあげる。だから安心しなさい。」
エリアスがそう言うと、泣いていたエスメラルダも同じように笑い、ルナの頭を軽く撫
でた。
「そ、そうだよ。ルナをイジメる奴はボクがブッ飛ばしてやるからね。」
「ありがとう、姉様・・・ああーんっ。」
3人は互いに抱き合って泣いた。
これから起こるデトレイド帝国との戦いは、3人に耐えがたい艱難辛苦をもたらす事に
なろう。その不安を少しでも和らげるかのように、束の間の安らぎに浸っていた。
そのころ、国王の葬儀を終えたエドワードの後妻、マグネアは、悲しそうに片手で顔を
押さえながら、自室に向かって歩いていた。
「・・・もういいわ、1人にして欲しいの。下がってちょうだい。」
控えていた使用人達に寂しげな顔でそう言いながら、自室に入っていくマグネア。
「心中、御察し申し上げます。」
使用人達は深く頭を下げると、そろってその場を後にした。
「ふう・・・」
溜息をつきながら喪服を脱いだマグネアは、下着姿でソファーに腰掛け、手を上にあげ
て軽く伸びをした。
「あーあ、やっと終わったわ。葬式なんて堅苦しいったらありゃしないんだから。」
造形的な美しさのその顔には、先程まで使用人達の前で見せていた悲しげな表情は消え
ていた。それはまるで人を偽る悲しみの仮面を脱ぎ捨てたかのようであった。
マグネアは、数年前にエドワードの後妻として輿入れした女である。表向きはエドワー
ドの良き妻として振舞ってはいたが、美しい顔とは裏腹に、何を考えているのか判らない
一面があり、その得体の知れなさを感じ取っていた3姉妹とはあまり折り合いは良くなか
った。
使用人達が失せた自室でたたずんでいたマグネアは、部屋の外に誰もいないのを確かめ
ると部屋の天井に目を向けた。
「ヒムロ、いるかしら?」
マグネアがそう言うと、天井の一部がスッと開き、そこから黒い人影が音も無く降りて
きた。
「ここに。」
天井から姿を現した男は一言そう言うと、恭しく片膝をつきマグネアに頭を下げた。
全身黒ずくめの装束を纏ったその男は、背中に短い剣を携え頭をすっぽりと覆う黒頭巾
を被っていた。その黒頭巾は眼の部分だけが開いており、そこから不気味な眼光が覗いて
いる。
「デトレイド軍の動きはどうなっているのかしら。」
マグネアの質問に、黒装束の男は軽く頷いた。
「ダルゴネオス皇帝の言伝によりますれば、デトレイド軍は、2週間後この地に向けて
進軍を開始するとの事です。それに際し、こちらの動きを伝えて欲しいとの仰せにござい
ます。」
「2週間?ずいぶんと早いのね。せっかちな皇帝のやりそうな事だわ。じゃあ、こう伝
えてちょうだい。1週間後にこちらの情報を提供するってね。」
「はっ、そのようにお伝え致します。それと・・・3姉妹の身柄はデトレイド軍に引き
渡し願いたいと申しておられました。」
黒装束の男の返答に、マグネアの目がキラリと光った。
「あの3姉妹を始末してくれるのね。フフ・・・いい事だわ。」
そして男は頭を僅かに上げると、口を挟んだ。
「その件についてでありますが、3姉妹の確保は拙者に一任していただき等ございます。
特に長女と次女はネイロス随一の手だれ、身柄の確保には困難を有しまする。拙者にお任
せあれば見事捕らえて見せましょうぞ。」
「お前の腕なら確実ね。3姉妹の泣きっ面が目に浮かぶわ。任せたわよ、ホホホ・・・」
「ははっ、恐悦至極にございます。」
3姉妹の預かり知らぬ所で、恐るべき計画が進行していたのであった。
マグネアは己の保身の為、デトレイド帝国の皇帝と密約を交わしていた。そして、疎ま
しい3姉妹を闇に葬り去ろうと画策していたのである。
満足げに笑うマグネアは、下着を脱ぎ捨て、ベッドに座ると男を手招いた。
「ヒムロ、こちらへ。」
「は、。」
ひざまずく男を前にすると、片足を男の眼前に突き出した。
「いつものようにね、イかせてちょうだい・・・」
「ご無礼仕ります。」
男はマグネアの素足を手に取ると、黒頭巾の隙間から舌を出し舐め始めた。艶かしくう
ごめく舌は、足首から膝、太ももをゆっくりと舐めまわす。
「んふ、いつもながらじょうずね・・・」
足を舐め尽くした男は、内股に手を当て金髪の陰毛を舌でまさぐり、秘部を愛撫した。
「あう、ん・・・あ、そこ・・・ん・・・」
顔を赤くしハアハアと悶えるマグネア。男の手がマグネアの胸に伸びると、固く立って
いる乳首を指の先で転がした。その動きによって性感帯が刺激され、その度にマグネアは
激しく悶えた。
「も、もう、我慢できないわ・・・きてちょうだい・・・」
内股を大きく広げたマグネアは、男のモノを求めた。
「では・・・」
男は素早く股間からイチモツを出すと、マグネアに挿入する。そして巧妙な腰つかいで
秘部をこね回した。
「ああっ、いいわぁ・・・もっとよ・・・もっとついてぇ・・・」
腰が動くたび喘ぎ声を上げ、身体をくねらせる。その目は快楽によって恍惚とした目に
なっていた。
「今度は後ろから・・・ついて・・・は、はげしくね・・・」
ベッドの上でクルリと身体を反転させると尻を突き出し、再び求めた。
「おおっ・・・すごい・・・こ、壊れちゃうわっ。」
ベッドの上で獣のように悶え、快楽に歓喜の声を上げるマグネア。
「あ、おお、お・・・い、いくゥーっ!!」
そして、ひときわ大きな喘ぎ声と共に果てた。
ハアハアと荒い息をつきながら、余韻に浸っていたマグネアは、男の頭に手を当てて軽
くキスをした。
「よかったわ・・・ウフフ・・・いいわねヒムロ、ダルゴネオス皇帝に3姉妹をメチャ
クチャにするように言うのよ。身も心もズタズタにね。」
「承知。」
男は一言そう言うと、消えるかのように姿を消した。
マグネアはそれを見届けると、ふう、と息をつき、目に邪悪な光を宿して薄気味悪く笑
った。
「ククク・・・覚悟なさいエリアス、そしてエスメラルダ、ルナ・・・お前達を地獄に
叩き落してやるわっ。」
マグネアの陰謀に誰も気づかぬまま、静かに時は流れた。
ネイロスとデトレイド、いや、3姉妹と皇帝ダルゴネオスとの戦いが迫っていた。
第二話に続く