アルセイク神伝


第6話(最終話)エピローグ 永久の平和

 希望を取り戻したアルセイクの、そして周辺諸国およびフィル王国の復興はめざましか った。  魔族達に破壊された全ての街は元の様に甦り、そして人々は活気溢れる生活に戻った。  カルロスはアルセイクや周辺諸国の人々から、全ての国を統一する王になってほしいと 強く懇願されたが、その申し出を丁重に断り、フィルの一国王として過ごす事を選んだ。  カルロスが世界の王になる必要がなかったのだ。全ての国に喜びと平和が満ち溢れてい たから、そして、それを脅かす存在は何一つなかったからだ。  そして時は流れ、アルセイク復活の時から10年が過ぎた。  アルセイクのルクレティアが住んでいた宮殿の跡地に、ルクレティアと神王を称える神 殿が建設され、多くの人々が訪れていた。  「早くこいよ、マリア。おいてくぞー。」  「あーん、まってよー、あにうえー。」  神殿の広場を駈けていく2人の兄妹。その顔は、幼き頃のカルロスとフィオーネにそっ くりであった。  「ああ、お待ち下さい王子様、姫様。そんなに走ったら危のうございます。」  子供達の後をバタバタと追いかけて行く年老いた御目付け役。その様子を笑いながら見 ている夫婦がいた。  「ははは、ロベルト、危ないのはお前だろう。もう歳なんだから。」  「はあ、面目次第もございません陛下。若い頃なら足には自慢があったのですが。」  頭を掻いて笑う御目付け役の前には、2人の兄妹の両親である、カルロスとフィオーネ がいた。  「ふふ、あの子達ったら、昔の私達そのままね。」  「まったくな、ケビンのやんちゃな所は私そっくりだし、マリアの泣き虫は君そっくり だ。」  「あら、私はそんなに泣き虫じゃありませんでしたよ。もっとも、一番私を泣かせてた のは陛下でしたけど。」  「そう言えばそうだったな。」  仲睦まじく広場を歩いていく2人は、神殿の前で待っていた神官達の出迎えを受けた。  「始めましてカルロス陛下、フィオーネ妃殿下。私は司祭のセネカと申します。本日は 遠路はるばる、ようこそお越し下さいました。ささ、どうぞこちらへ。」  司祭のセネカに促され、神殿に入っていくカルロス達。  アルセイク復興から10周年の記念行事が執り行われる事となり、その来賓として、カ ルロスとその家族も招待されていたのだ。  カルロスとフィオーネがアルセイクを訪れるのは10年ぶりであった。  何本もの大理石の柱で支えられた白亜の神殿の奥へと進む2人。やがて、2人を巨大な 神王の像が迎えた。  神王の像に歓喜の声を上げるケビンとマリア。  「わあー、神王さまって、おおきいね。でもなんで右手を奥にむけてるのかなー。ロベ ルト知ってる?」  神王の右手は何故か神殿の奥に向けられている。疑問を抱いた2人は御目付け役のロベ ルトに尋ねた。  「さあ・・・何故かは私にはわかりかねます。陛下ならご存知では。」  「ねー、ちちうえー、どーいう事なの?」  「それは・・・」  子供達にねだられたカルロスは、何か言おうとしてやめた。  神王の像がカルロスに語り掛けてきたような気がしたからだ。  (よく来てくれた。2人とも、お前達が来るのを楽しみにしていたぞ。)  微笑みながらそう言っている気がしたカルロスは、皆を伴って神王の指し示す方に歩い て行った。  そこには、優しい微笑を浮かべた白く美しいルクレティアの像があり、その傍らには傅 く姿のボーエンの像があった。  「きれいな人ー、この人達だあれ?」  マリアに尋ねられたカルロスは、2人は世界を救った英雄だと簡単に説明した。ただし、 その中でカルロス自身の事はあまり触れなかった。  ボーエンが魔王ラスを倒した勇者であり、自分はその友達だと言った。  「へえー、じゃあ、ちちうえは勇者さまとお友達だったんだ。」  「ああ、そうだよ。最高の友達だった・・・」  感慨深げにボーエンの像を見つめるカルロス。フィオーネも同じように2人の像を見つ めていた。  「私は・・・あの時の事は覚えていません。でも、この2人が私達を救ってくれたとい う事実を実感する事は出来ます。」  「そうだな。」  フィオーネの言葉に静かに頷くカルロス。  「あの、お寛ぎの所、申し訳ないのですが、まもなく諸国の閣僚方との会見の時間にな ります。」  「ふう、忙しいのも考え物だな、もう少し感傷に浸っていたかったんだが。」  ロベルトの声に、カルロスは笑いながらその場を後にした。  「・・・ルクレティア殿、ボーエン。また来るよ。」  振りかえるカルロスに、ルクレティアとボーエンの像が優しく微笑んだ。    その後、アルセイクやフィルを含む諸国には、いつまでも変わらぬ平和が続いた。  アルセイクを救った英雄の物語は、アルセイク神伝として、人々の間に永久に語り継が れて行った。              アルセイク神伝 END

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