魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫18)
第79話 闇より忍び寄る恐怖の影
原作者えのきさん
バケモノの猛攻によって城まで押し戻されたグリードル。
全身が土と血で塗れた暴君は、荒い息を吐きながら城に戻った。
悪霊宿る大量のバケモノとの戦いは壮絶を極めており、暴君を出迎えた居残りの兵達は、
血走った悪鬼の如きグリードルの形相に驚いた。
「み、帝さま・・・だ、大丈夫ですか?あ、あの・・・おケガは・・・」
恐る恐る尋ねると、グリードルはボロボロの剣を兵に突き付けて睨む。
「おいっ、城に残っている連中は何人だっ!?」
「ひえっ。の、の、残ってるのは30人ほどですはい〜っ。」
その言葉にグリードルは絶句する。周囲は無数のバケモノに囲まれ、突破する事も失敗
した。城に戻っても手勢は僅か30名。生き残っている手下も、泣き喚いて使い物にすら
ならない。
絶体絶命の状況で、暴君を更に驚怖させる事実が発覚する。
城の城壁が強力な炎で焼かれ、城の中にも焼け崩れている場所があった。何者かが・・・
大暴れした証拠だ。
焼け溶けた鉄壁を見たグリードルは、兵士の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「こいつはどーゆー事だっ!?何者だっ、城で暴れやがった奴はっ!!」
「は、はひっ。ど、ドラゴンみたいな奴です〜。火を噴いて暴れまくって・・・大砲も
全部・・・ぶっ壊されました〜。」
「なぁんだと〜っ!?ウソじゃねーだろうなあっ!?」
「あうう〜、本当です〜。」
涙目で怯える兵士を投げ出したグリードルは、炎の怪物がどこへ行ったのかと思った。
それほどド派手に暴れる奴だ、目立ってしょうがないはずなのに・・・気配すらない。
「じゃあよ、そのドラゴン野郎はどこへ行ったんだ?」
尋ねたグリードルは、兵士の返答に・・・凄まじい戦慄を覚える事となる。
兵士は首を横に振って答えた。
「いいえ、ドラゴンはどこにいるのかわかりません。ただ・・・姿をくらます直前に、
ドラゴンが(ははうえ〜)って叫んでるのを聞きましたけど。」
その言葉に・・・グリードルの表情が一変する。
「ははうえだ?おいっ・・・それをどこで聞いたっ!?」
「そ、その・・・帝様の自室の近くです。」
グリードルの顔面が真っ青になる・・・敵の正体が判ったのだ・・・
この城で(ははうえ)と呼ばれるであろう人物は・・・そして、それを(ははうえ)と
呼ぶ者は!!
「そうか・・・やっぱりそうか・・・読めたぜ、こんなふざけた真似しやがった奴が誰
か・・・」
手が震え、顔は怒りと恐怖で引きつる。
そうだ、奴だ・・・凄まじい怨念を背負い、地獄の底から、奴は蘇っていたっ!!
全身を恐怖で震わせたグリードルだったが、彼に逃げの意志はなかった。
倒すしかない・・・いや、倒してやる・・・絶対に!!
グリードルは狂ったように吠えた。
「来るなら来いや・・・返り討ちにしてやるっ!!テメエをもう一度地獄に蹴り堕して
やるぜっ〜!!」
烈火の如く怒り狂うグリードル。
だが敵の正体を知っても、今どこにいるのかわからない。どこから襲ってくるのか・・・
わからない。
グリードルは兵士に招集をかける。
「城中の兵どもを集めろっ、武器をありったけ持ってこいっ!!徹底抗戦だっ、逃げ腰
の奴は俺が始末してやるっ!!」
檄を飛ばされた兵士が、早々に兵員と武器を集める。
だが、兵士は頼りなく、武器も剣と僅かな銃火器のみ。こんな有り様で戦おうなどと言
うのが無茶である。
しかも獄炎のドラゴンを直視した者の中には、完全に戦意を失っている者までいる始末
だ。
それでもドラゴン同様、暴君も怖い兵達は、込み上げる恐怖を堪え集結する。
姿を眩ました敵に、兵達は戦々恐々としている。僅かな気配にも怯え、カタカタ震える
甲冑の下を冷や汗で濡らしていた。
そして、短くも永い沈黙の後、1人の兵士が叫んだ。
「お、おい・・・人数が減ってないかっ?」
慌てて人数を数える。すると・・・確かに30名いた兵士が、28人になっていた。
2人足りない、何度数えても28人。集まってから誰もその場を離れていない。
唖然としている兵士達の、一番後ろにいる奴の背後に黒い影が現れる。そして・・・音
もなく、速やかに闇の中へと引きずり込んだ・・・
そして、人数が更に減った事に気付き、兵達は騒然となった。
「ひ、ひい・・・敵がこの部屋に入り込んでるぞっ!?」
「じ、冗談言うなよ・・・俺達以外、誰もいねえぜ?」
見えないが、敵はすぐ側にいる。形無き殺気で部屋を支配している・・・
迫り来る敵の気配に、グリードルの心臓は早鐘のように鼓動していた。
「くそっ、俺を弄ぶ気か・・・ふざけやがって・・・くそっ、くそっ!!」
ウイスキーのビンを手にすると、一気に飲み干す。そして空のビンを床に叩きつけた。
ビンが砕ける音に驚き、兵達は一斉に腰を抜かしてしまう。
その不甲斐なさに激怒したグリードルは、役立たずの兵達に怒声を浴びせる。
「このクソッタレの臆病者どもがーっ!!出て行けーっ!!テメエらに用はねえーっ!!
」
「ひっ、ひえ〜いっ。」
兵達はアタフタと部屋を逃げ出し、後には憤るグリードルと、泣き怯える手下だけが残
された。
「み、帝さま〜。兵達がいなくなったら、わ、わ、私達はどーすればいいのですか〜っ。
」
泣き言を言う手下に背を向けたグリードルは、部屋の椅子に腰掛け、乱暴に足を机に投
げ出した。
「ケッ、貴様らがどうなろうと知った事か、バケモノのエサにでもなりやが・・・」
再び酒を煽ろうとした、その時。周囲から光が全て消えた。
突然の事に、手下達が悲鳴を上げる。
「ひええ〜っ!?な、なんだあ〜っ!?」
「うわ〜んっ、早く明りをつけて〜っ、くらいよ〜っ、こわいよおお〜っ。」
泣き叫ぶ手下を怒鳴り、懸命に明りを探そうとするグリードル。
「騒ぐンじゃねえっ!!敵の思うつぼだろーがっ!?さっさと明りをつけろっ!!」
その声に驚いたのか?手下達の声が一瞬で収まる。そして明りが灯った。
「だから騒ぐなと・・・うっ!?」
グリードルは全身を硬直させ、手下の沈黙の理由を知る。
明るくなった部屋に・・・血塗れになった手下達が転がっていたのだ。
そして・・・壁一面に冷酷な紅き文字が書かれていた。
---NEXT・YOU---
凄まじい恐怖が、グリードルを虜にする・・・
「ね、ネクスト・ユー・・・次はお前の番だ・・・うあ、うがあああーっ!!」
絶叫したグリードルは、半狂乱になって部屋を飛び出した・・・
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