魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫14)


  第64話  魔界最凶の魔道兵器
原作者えのきさん

 侵略と破壊、略奪と凌辱・・・力によって弱者を踏みにじり、全てを奪い尽くしたガル
ダーン帝国。
 その権力者達は、奪った財産で豪遊し、極楽至極の境地で惚けていた。
 だが、弱者の上にあぐらをかき、贅沢三昧に溺れる外道が末路に手にするのは、(地獄
への片道切符)だ。
 外道を誅する正義の使者が、すぐそこに迫っているのをガルダーンの貴族達は気付いて
いない。
 それでも、心優しき正義の使者は猶予を与えていた。己の過ちに気付き、悔い改める猶
予を・・・
 罪を悔い改めるか、改めぬか、それによって彼等の運命は決まる・・・





               
 
 ノクターン王国の敗北で、戦勝ムードに盛り上がるガルダーンの首都。
 だが首都の外は、戦勝ムードなど無縁だった。権力者達に搾取され、虐げられたガルダ
ーンの民達は、虚ろな目で豪華絢爛なる首都の建物を見つめていた。
 ガルダーンの民の貧しさは目に余るものがある。崩れそうな家屋で雨露をしのぎ、明日
の食事すらままならぬ毎日を送っているのだ。貴族と平民・・・その差は残酷なまでに激
しい。
 そんな貧しい民の、極貧に喘ぐ母子が、貧富を分ける城壁の前で僅かな施しを求めて土
下座していた。
 「お、お願いです。どうかパンの一切れでもよいです、お恵みを・・・子供が飢えて困
っているのです、お情けをくださいませっ。」
 そんな切なる声も、肥え太った権力者には届かない。武装した衛兵達が、哀れな母子を
足蹴にしたのだ。
 「やかましい貧乏人めがっ!!てめえらに恵んでやる飯はねえんだよっ、さっさと失せ
ろっ!!」
 非情な仕打ちで蹴り飛ばされた母子。しかし弱者には耐えるしか道はない。それがガル
ダーン帝国の掟であったから・・・
 そんな中、衛兵の罵声を消し飛ばすかのような声を響かせ、馬に乗った兵士が城門に走
り寄ってきた。それはアンジェラに壊滅されたはずのガルダーン軍兵士だった。
 「開門ーっ!!ノクターン攻略完了を報告に来た、開門を願うっ。」
 ノクターン攻略完了との言葉に、衛兵は喜びの顔を浮かべ、城門を開ける。
 その城門に入る時、兵士は横目で泣いている母子を見つめ、ポケットから素早く小さな
袋を取り出して母子へと投げる。
 何事もなく城門は閉ざされ、地面に落ちた袋を拾った子供が驚きの声をあげる。
 「ねえ母ちゃん、袋にお金がいっぱい入ってるよおっ。」
 袋には、母子にとっては多額の金貨が入っており、先程の兵士の心尽くしである事がわ
かる。
 「本当だわ。でも、どうしてガルダーン兵士が?」
 母子は戸惑っていた。最も恐ろしいガルダーン軍の兵士が、決してするはずの無い施し
をしてくれたのだ。
 その兵士の正体が実は、苦しむガルダーンの民を救ってくれる女神の使者であろうとは、
母子は夢にも思っていなかった・・・
 その首都に入った兵士に、衛兵達が質問を浴びせている。
 「おいっ、攻略が終わったンだってな?報告が遅かったじゃねえか。」
 「首尾はどうだ?どれだけ稼いだか教えてくれや。」
 矢継ぎ早に質問して来る衛兵達に、兵士は少し疎ましげに答えた。
 「まあまあ、そないに急かんといてえな。ノクターンの残党が抵抗したんで攻略に時間
がかかったんや。稼ぎは上々やし、慌てんかて、あんたらにも分け前は十分あるで。」
 「おお、そうかっ。楽しみに待ってるぜっ。」
 クセのある訛りで喋る兵士は、喜び浮かれる衛兵達に背を向けて呟いた。
 「・・・潜入は成功やな。せやけど、浮かれとるアホと話ししとる暇はあらへん。ウソ
の状況報告が終わったら、姫様のとこに早よ戻らんと・・・」
 兵士の行く先、首都の至る所で虐げられた者の悲鳴が飛び交っている。
 勝者であるガルダーンの市民達は、敗戦国から囚われてきた奴隷達を凌辱し、悲壮な叫
びを肴に勝利の美酒を煽っているのだ。
 その有り様を目にする兵士は、悲痛な面持ちで進んでいる。
 そしてこの兵士が実は、自分達に審判を下す女神の使者である事に、悪しきガルダーン
の市民達は気付いていないのだった・・・
 
 ノクターンとガルダーンを隔てる無人の草原を、ガルダーンの軍隊が行進していた。
 見た目は戦々恐々たる無頼の也をしているが、彼等の顔には表情と言うものが無い。ゼ
ンマイ仕掛けの人形達が歩いてるかのように、足並み正しく進んでいるのだ。
 そしてガルア、ガラシャ両将軍の率いるガルダーン軍であるはずが、彼等を率いている
のは美しいドレスを身にまとった戦女神アンジェラであった。
 アンジェラが進行方向に目をやると、平原の向こうから馬に乗った兵士が駆けて来るの
が見えた。それを確認したアンジェラが片手を上げると、軍勢はピタッと行進をやめる。
 その軍勢の前に駆けてきた兵士が、アンジェラに声をかけた。
 「姫様、ウソの報告は終わりましたで。あいつら、完全にガルアの軍隊が戻って来るっ
て信じ込んでますわ。」
 クセのある訛りで喋る兵士を見て、アンジェラは溜め息をつく。
 「マリー。もう変装しなくていいでしょう?ガルダーンの者はいないんだから。」
 それを聞いた兵士の顔が、無骨な男から明るい女性の顔へと変化した。
 兵士は、ガルダーンの首都にウソの報告をもたらすために向っていたマリーだったのだ。
 「えへへ、変身解くの忘れてましたわ。それより、姫様の方はどないです?」
 「順調よ。ゴーレム兵は便利ですわ、私の指示通りに動いてくれますもの。」
 アンジェラが率いているのは、土塊より造り出した人造兵士であった。潜入作戦におい
てグリードル達を欺くため、ゴーレムのガルダーン兵士を用意しているのだ。
 魔界の人造人間ゴーレム・・・人の姿なりて人ならざる(物)。ただ命令のままにだけ
動く自動人形・・・
 その無表情で突っ立っているゴーレム兵を、面白そうに見ているマリー。
 「しっかし、良う出来てますね。ほんまの人間と見分けがつきませんわ。」
 顔を突ついたり引っ張ったりしても、ゴーレム兵は文句も言わない。しかもマリーが適
当に命令をすれば、言われたままに動く。
 「右手上げて、左手は腰に。でもって片足で立ってピョンピョンしてみ。あははっ、こ
れ面白いですわ姫様〜♪」
 「こらぁ、ゴーレム兵で遊ばないの。」
 「すんませ〜ん☆」
 ヘラヘラ笑っていたマリーは、ふと、ゴーレム兵が引いている荷車に目を向ける。荷車
には、大量の金銀財宝が積まれており、その中に・・・異様な物体が埋もれていた。
 物体は黒い球形で、直径は1メートルぐらい。材質は鉄でも石でもなく、まるで漆黒の
闇を練り固めたかのような異様な材質でできている。
 フェイクの金塊や宝石に囲まれた物体からは、なにか・・・毒々しくて禍々しい波動が
放出されており、まるで宝石に目が眩んだ者を待ち構えているかの如く、物体は鎮座して
いた。
 異様な物体を目にしたマリーが、恐る恐る物体に近寄る。
 「なんや薄気味悪いですね。一体何ですのん、これ。」
 そのマリーの質問に答えたのはアンジェラではなかった。第三者の声がマリーの背後か
ら発せられる。
 「それは魔道兵器ですよ、触ると危険です。」
 突然の声にビックリ仰天するマリー。
 「きゃあっ!?な、な、なんやあんたはっ!?どっから涌いて出たんですか〜っ。」
 マリーの背後に、不気味な雰囲気を醸しだす男が立っていた。
 スキンヘッドの頭に灰色の肌、そして陰険な目。誰がどうみても怪しいとしか言いよう
のない男は、少々不機嫌そうに口を開いた。
 「ウジムシじゃあるまいし、涌いて出たとは失敬ですね。私はリーリア様の御紹介で参
じた魔導師であります。」
 目付きだけでなく、言葉も陰険な男を見て、マリーは小声でアンジェラに尋ねる。
 「・・・姫様〜、あの陰険ハゲ男は一体何者ですのん?」
 「・・・だから、彼は魔導師だって名乗ってるでしょう。」
 「・・・ま、魔導師ぃ?あいつが?」
 「・・・そうなの、あのハゲ・・・じゃなかった魔導師が、このゴーレム兵と魔道兵器
を手配して下さったんですのよ。」
 ヒソヒソ話し合う2人の声を地獄耳で聞いたか、魔導師は淡々とした口調で語り始めた。
 「この頭は剃ってるンです、ハゲじゃありません。アンジェラ殿の仰る通り、私がゴー
レム兵と魔道兵器を手配いたしました。侍女の方には、魔道兵器について改めて説明を致
しましょう。この丸い物体は、精神的な負のエネルギーを吸収して火力と成し、全てを粉
砕する(魔道爆弾)なのです。早く言えば、悲しみや怒り、憎しみなどの感情を集約し、
巨大なパワーに変換して爆発する兵器と思し召しください。」
 マリーには触ると危険だと言っておきながら、魔導師は球形の物体を自慢げにポンポン
叩いている。
 その危険なる物体、魔道爆弾の表面がユラユラ揺らめき、目と口のような亀裂ができる。
凶悪に吊り上がった目がギラギラと光り、ザックリと裂けた口からケケケ・・・と邪笑い
が発せられた。
 そう、この魔道爆弾は(生きている)のだ。生きているという表現が適切かどうか判断
しかねるが、極めて凶悪な意志を宿す禍々しい存在である事はわかる。
 魔導師の説明を聞いていたマリーは、(負のエネルギーで爆発する兵器)との言葉に、
深い疑問と恐ろしい予感を感じて尋ねた。
 「精神的な負のエネルギーって、人の怒りとか憎しみとかですか?そ、そんなもんが爆
発に繋がるンですか?」
 すると魔導師は、マリーに向き直って答えた。
 「ええ、常識的には考えられないでしょうけどね。でももし、人の強い負の感情を爆薬
に変化させて大爆発させたらどうなるか、想像してください。怒りとか憎しみとか、そい
つに火がついてドカンと大爆発したら・・・ね。」
 手をパッと広げる仕種をする魔導師を見て、マリーは固唾を飲んだ。
 怒り、憎しみ、悲しみなどの人間の負の感情。そのエナジーは凄まじい。その感情が時
には国をも滅ぼすパワーとなりうる。
 それを集約して大爆発させるというのだ。現実では考えられないが、常識を覆す魔界の
力を持ってすれば可能な事だ。
 ましてや、ここは虐げられた者の山積する地。集約された憎悪の破壊力は想像を絶する。
 そして周囲を見回した魔導師は、ニヤリと笑いながら呟いた。
 「生きている者の感情だけではありませんよ、(こいつ)は恨みを残して処刑された者
達の怨念や悪霊も吸収し、巨大な爆発力を生み出します。フフフ・・・それにしても、こ
の地は物凄い怨念が漂っていますね。狂おしいほどの弱者の怨念・・・クックック・・・
恨みを晴らしたいのでしょうね〜。この怨念が爆発する様を早く見てみたいですねえ〜。」
 人の不幸を愉しむような魔導師の笑いに気を悪くしたマリーが、片目を吊り上げてアン
ジェラに囁く。
 「ねえ姫様、あいつのハゲ頭どついてもええですか?めっちゃムカつくんですけど。」
 「まあまあ抑えなさい。グリードル達を壊滅させるには彼の力が必要だし、あれでも腕
のいい魔導師だってリーリア様も仰ってたのよ。」
 「そないに見えんのですけどね〜(汗)」
 アンジェラの言葉は俄に信じ難い事だったが、リーリアの推薦となれば信じて間違いは
ない。
 マリーは渋々ながらも、とりあえずアンジェラに従った。
 これよりアンジェラ達が行おうとしているのは、諸悪の権化の一掃である。悪の根を絶
つため、最(凶)の魔道兵器を伴ってガルダーンの首都へと赴こうとしているのだ。
 欲望に溺れるガルダーン帝国の滅亡まで、あと・・・僅かである・・・



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