魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫12)


  第59話 ガルアとガラシャの最後
原作者えのきさん

 ついに姿を見せた戦女神アンジェラ・・・
 燐とした声は兵達を戸惑わせた。だが、相手はか弱き美女が1人・・・対するは腕っぷ
しに自信ある荒くれども。激怒した兵達は、女神の忠告すら無視して突進してきた。
 「うおお〜っ!!なめンじゃねえぞ、腐れマン○がああ〜っっ!!」
 その愚行を、女神は冷やかに笑う。
 「愚かなり・・・」
 すると女神の背後から人影が飛び出し、それが切っ先鋭い剣へと変化する。剣は女神の
手に収まり、そして閃光を放った。
 「受けてみよっ、ミリオン・スラッシュ!!」
 輝く剣を翳す女神の身体が分身した。2、4、8、16、32、64、108・・・増
える、増えるっ、瞬く間に増えるっ!!
 
 --- シャアアアーッ!!
 
 兵の数を遥かに上回る分身が、超高速で平原を駆け抜ける。
 突進していた兵達は、閃いた光の軌道上で動けなくなった。
 「う・・・うが・・・が・・・うぎゃああ〜っっ!!」
 兵達の身体が、血飛沫をあげて木っ端みじんになった!!
 正に一瞬の出来事・・・
 平原を染める血の海。それを背後に、女神は剣の血を薙ぎ払う。
 「己が悪行と共に、奈落へ堕ちなさい。」
 それが女神の手向けの言葉だった。兵達は残らず、地獄に堕とされた・・・
 いや、全員ではなかった。まだ2人・・・残っていた。
 凄まじい殺気を滾らせ、残った者、ガルアは吠える。
 「やりやがったなっ、今度は俺が相手だっ!!」
 義手に愛用の斧を装着し、女神を睨んだ。彼は女神アンジェラの正体を見切っていた。
忘れるはずはない、宿敵のそれを・・・
 「その太刀筋、人相を変えても俺はごまかせねえぞっ。てめえやっぱり、地獄から戻っ
てきやがったかっ。」
 身構えるガルアの傍に、ムチを持ったガラシャも参戦する。
 「今度こそケリつけてあげるわよ、あたしとガルアでねっ。」
 だが、戦いに参じたガラシャを、ガルアは制した。
 「ガラシャ、あれは以前の奴じゃねえ・・・お前だけでも早く逃げろっ!!」
 そう叫んでガラシャを突き飛ばし、ガルアは突進した。
 「うおお〜っ!!くたばれアリエル〜ッ!!」
 凄まじい斧の一撃が女神の頭に迫る!!
 
 --- ドシュ!!
 
 ガルアの背から鋭い剣が飛び出し、血が噴出する。一瞬で勝負は決まった。アンジェラ
は瞬間移動の術を使わず、あくまで正々堂々、剣技のみでガルアを倒したのだった。
 「ぐ・・・ぐはあっ・・・に、にげ、ろ・・・が、ガラシャ・・・」
 吐血し、ガラシャを見ながら倒れるガルア。
 愛する戦友の最後に、ガラシャは絶叫した。
 「う、わああーっ!!が、ガルアーッ!!お、起きてよ・・・目を開けてよガルアアー
ッ!!」
 動かなくなった戦友に縋り、半狂乱になって泣き叫ぶガラシャ・・・
 やがて、烈火の如き復讐の炎を燃やし、ガラシャは立ち上がった。
 「よくも・・・よくもガルアを・・・あたしのガルアを・・・」
 その手には、戦友の斧が握られている。正に愛の復讐であった。
 だが、アンジェラはその時見た。ガラシャの頬を伝う悲しき涙を・・・
 「ガラシャ、あなたは・・・」
 向き合う両者。そして最後の因縁の戦いとなった。
 「はああーっ!!」
 「でやああーっ!!」
 突進し、互いの真正面で交差する剣と斧。
 
 --- シュッ、ドガッ!!
 
 走り抜けた両者が振り向くと・・・アンジェラの胸に、斧が深々と食い込んでいた!!
 そのまま、仰向けに昏倒するアンジェラ。ガラシャは勝鬨をあげる。
 「やった!!勝ったわっ・・・わ・・・がっ。」
 そのガラシャの胸が、クロス状に切り裂かれた。血を飛び散らせながらも、ガラシャは
笑った。
 「は、あ・・・が、ガルア・・・やったよ・・・仇を・・・とったよ・・・」
 満足なる微笑みを浮かべ、ガラシャはガルアと添い寝る。そして唇を重ねて呟いた。
 「ガルア・・・ずっと傍にいてあげる・・・地獄に堕ちても・・・ずっといっしょだよ・
・・」
 先鞭の魔女は戦女神に勝利した。でも・・・それは余りにも悲しき勝利だった。
 やがて、倒れていたアンジェラが起き上がった。彼女は生きていたのだ。
 胸には斧が食い込んだままである。それを見て、アンジェラの剣が声を上げる。
 (姫さまっ、大丈夫ですかっ!?)
 その問いに笑って答えるアンジェラ。
 「私は不死身ですわよマリー。これくらいなんでもありませんわ。」
 斧を胸から抜き取ると、破れたドレスの間から傷ついた乳房が見えている。
 すると剣に変身していたマリーが、少し怒った声で変身を解いた。
 「もうっ、いくら不死身や言うたかて限度がありますやろっ?ほんまに何を考えてはる
んですか姫様は・・・」
 「ごめんなさい、もうしないから怒らないで。」
 マリーに乳房の傷を治療してもらいながら、アンジェラは苦笑いした。涙を流したガラ
シャの心に応じて、わざと斧の一撃を受けたのだった。無論、それはマリーも承知してい
る。
 そして、アンジェラとマリーは、横たわるガルアとガラシャに目を向けた。
 「あの2人、心から愛しあってたんですね。なんや、可哀そうになってきましたわ。」
 「ええ、戦いがなければ、グリードルに支配されていなければ、もっと別の人生を歩め
たでしょうに。」
 笑顔で横たわるガルアとガラシャを見て、2人への憎しみも怒りも全て消えてしまった。
あれほどの陵辱と苦痛で責められ、地獄に蹴り落とされたというのに・・・もう虚しさし
か感じない。
 しばらくすると、血の臭いを嗅ぎつけた餓鬼グールが、闇より大挙して現れ兵士達の肉
を貪り喰い始める。
 その旺盛な食欲を満たすべく、ガルアとガラシャにも群がろうとした。が、それはアン
ジェラによって阻止された。
 「この者達を喰らう事はなりません、下がりなさいっ。」
 一喝されたグール達は、丁重に頭を下げる。
 やがて平原を(清掃)したグール達が地獄へ去った後、アンジェラは静かに呟いた。
 「さらばです、我が宿敵よ。」
 アンジェラは女神の仮面を外し、アリエル姫に戻って宿敵に一礼をした。
 そして・・・真に倒すべき仇敵へと怒りを向ける。
 「・・・悪しき皇帝グリードル。あなたには地獄すら温いですわっ。」
 全ての元凶、そして悪の権化グリードル。
 彼を倒す事への意志を高ぶらせ、アリエルは女神の仮面を被る。アリエルの黒髪が、ア
ンジェラの金髪へと変化する。
 その心に、マリーも同意した。
 「うちも姫様と一緒に戦います・・・変身っ!!」
 再び剣に変身したマリーは、アンジェラが手にした鞘に収まった。
 2人が向かうは、仇敵の住まう伏魔殿。
 今だガルダーンには、ガルア率いる軍勢が全滅したとの報告はなされていない。戦勝ム
ードで油断しているガルダーン帝国に、正義の戦女神は降臨する。悪しき者を誅滅し、善
なる者を救うため、アンジェラとマリーは戦場に向うのである・・・


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