魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫)
第3話 勝利と敗北の明暗
原作者えのきさん
その日の夕刻、ノクターン王国の首都フォルテにある城に、ガルダーン軍を退けたノク
ターン軍が凱旋してきた。
一同は首都の国民による熱烈な出迎えを受ける。その中で、一際賛美のエールを浴びる
将のアリエル。
紙吹雪が舞の街道の両脇に並んだ国民が、諸手をあげてアリエルを褒め称えた。
「アリエル姫様ーっ、我等が勝利の女神様ーっ!!」
「姫様のある限り、ノクターンは永遠に平和でありますーっ!!」
にこやかに笑う姫君は、手を振ってそれに応える。
「今度の勝利は皆様のご声援あっての事ですわ。本当にありがとうーっ。」
美しき戦女神の言葉に群集から、おおーっと歓声があがった。
多くの群集に送られ、ノクターン軍は国王の居城、フォルテ城に入った。
庭に集まっていた使用人達が、拍手をしながら道を開ける。その輝かしき花道を、アリ
エルは威風堂々たる姿で歩んだ。彼女の視線の先には・・・最愛の人々の姿があった。
知性と慈悲ある顔立ちのアルタクス・ノクターン国王と、アリエルと同じ顔立ちをした
マリシア王后。そう、アリエルの両親だ。
文化や芸術を重んじるノクターン国にあって、国を統べる王もまた、教養と英知に秀で
た物静かな人物である。
王妃は、その端麗なる面持ちに似合わず、優れた戦士の腕前を持つ女性であった。
かつて、ノクターン王国で最強の女戦士と呼ばれていたマリシア王妃。
父の英知と母の強さと美しさ。その素晴らしい血統をアリエルは色濃く継いでいた。
「アリエル、良くぞノクターンの平和を守ってくれた。素晴らしいぞ。」
「見事ですわよアリエル。それでこそノクターンの姫君です。」
最高の賛美をもって向かえる国王夫妻。馬から降りたアリエルは、最高の微笑を浮べて
父と母のもとに駆け寄る。
「父上、母上っ。」
「おお、無事で何よりだ。アリエル・・・私達の可愛い娘・・・」
暖かい両親の胸に抱かれ、アリエルは至福に包まれる。
「ああ、嬉しいですわ・・・父上と母上に誉めていただいて・・・」
常にガルダーン帝国の脅威に晒されているノクターン王国。それゆえ、アリエルは姫君
でありながら王国の平和を守る使命を担っている。
日々厳しい鍛錬を積み重ね、ノクターンの平和を守り続けている彼女にとって、両親の
笑顔以上にうれしい事はないのだ。
そしてもう1人、アリエルを喜びで向かえる者がいた。
「姉上、あねうえーっ。」
アルタクス国王に似た、利発そうな少年がアリエルの胸に飛び込んでくる。アリエルの
弟、マリエル・ノクターン王子だ。
「まあ、マリエル。来てくれたのね。」
可愛い弟を抱きしめ、頬に何度もキスをする。
自分より年が10歳離れた弟を、アリエルは溺愛していた。そしてマリエル王子は、強
く美しい姉アリエルを心から慕い、愛している。
マリエルのキラキラ光る瞳に、輝く姉の勇姿が映る。
「姉上、ガルダーンをやっつけたんだね、すごいやーっ。ボクにもお話を聞かせてよー。
」
「はいはい、後でゆっくりお話してあげますわよ。」
おねだりする弟の頭を撫で、優しく微笑むアリエル。
そして、再度アリエルに賛美の歓声があがった。
「輝けるアリエル姫様に栄光在れっ!!我等がノクターン王国に永久の平和よ在れっ!!
」
映えある賛美の歓声は、夜遅くまで城に、そしてノクターン王国に響き渡った・・・
ノクターン王国が勝利と栄光に包まれているその頃、ガルダーン帝国に敗軍の将、ガル
アとガラシャが命からがら逃げ帰っていた。その姿はアリエルとは余りにも対照的である。
腕を切り落とされたガルアと、アバラを折られたガラシャが、憔悴しきった顔で帝都に
戻る。そこで2人を待っていたのは、冷たい侮蔑の視線であった。
ガルダーン帝国は戦争で栄えた典型的な侵略国家であり、強さこそが全てであった。そ
れゆえ、無様な敗者に対する扱いは無情極まりない。
名立たる軍人や、繁栄を後ろ盾に威張っている貴族達の罵声と嘲笑が、ガルアとガラシ
ャに容赦なく浴びせられる。
「小娘相手に敗北するとは・・・ガルダーンの面汚しめっ。」
「フッ、大きな口を叩いてた割には情けないじゃないか。所詮はその程度だったんだよ。
」
「あらあら、美貌のムチ使いともあろうガラシャ将軍が無様ですわねぇ。ドロのお化粧
がお似合いだこと。」
負傷の痛みも掻き消すほどの侮蔑の苦痛。それから逃れる術すらない2人は、ただ耐え
るしかなかった。
「くそっ、腕さえ失ってなかったら・・・モヤシどもの口を捻り潰してやるのに・・・」
「ええ、口惜しいわねガルア・・・」
激しい屈辱に塗れながら城の中に入る2人。そのガルア達に更なる苦渋が待っていた。
建物の門が開き、衛兵に守られた悪の権化が姿を見せた。
帝国の支配者、グリードル・ガルダーン帝である。
無明の地獄から這い出してきた魔物の如き形相、執念深いトカゲのような目。強さのみ
が重視されるこの国で、グリードルは修羅の如く君臨していた。全ての敵と獲物を貪り食
らう恐るべき帝として・・・
無慈悲な帝を前にして、ガルアとガラシャの顔に緊張が走った。頭を下げ、敗北の罪を
懺悔する。
「み、帝様・・・この度の戦いでは不覚をとりました・・・帝様の御威光を汚した罪、
平に謝罪致します・・・」
ガルダーン帝国において、敗北は最大の罪だ。そして、弱肉強食の頂点に立つ帝は、罪
深き敗者を許さない。
「貴様等・・・アリエルに負けた上にノコノコ帰ってくるとは・・・よくも俺様の顔に
ドロをぬってくれたなっ。この落とし前はどう取るつもりだっ!!」
雷鳴の如きグリードル帝の罵声に、2人は更に頭を下げた。
「も、申し訳ありませんっ。かくなる上は再度ノクターンに攻め入り、必ずや勝利して
みせますっ!!どうか、今一度チャンスをっ。」
必死で懇願するガルアであったが、その願いを非情なグリードル帝が聞き入れる筈は無
かった。
「やかましいっ!!なにがチャンスだっ。小娘1人倒せん奴に2度目などあるかーっ!!
」
衛兵の持つ警棒をもぎ取り、帝は情け容赦なく2人を打ち据えた。
「お前等は死刑だっ!!この場で引導を渡してやる、この恥さらしめがーっ!!」
「ぐああっ、お、お許しを・・・」
ボロクズのように殴られる2人だったが、1人の側近が帝を制した。
「お待ち下さい帝様。両将軍は今まで数多くの敵を倒して参りました。その活躍があっ
てこそガルダーンの支配はあるのです。どうか御容赦を・・・」
側近の声に、グリードルは手を止める。
歩み寄って来た側近は、陰険な顔をした初老の男だった。
この側近の名はズィルク。グリードル帝の参謀を務める者なのだ。
杖を片手に歩み寄る猫背の側近に、グリードルは怪訝な顔をする。
「ふん、こんな奴等に情けをかけるのか、ズィルク。」
「いえ、そのようなつもりはありませんが、有能な人材を失うのは惜しい事ゆえにござ
います。」
そう言うズィルクの言葉を、グリードルはどうにか受け入れた。
「チッ、お前がそう言うなら仕方ない。奴等の死罪は免除する。ただし、ガルアとガラ
シャの両名は拷問係に降格だっ。文句はあるまいなっ?」
帝の決定に、ズィルクは頷く。
「ははっ、帝様の仰せのままに・・・」
そう言うと、ボロボロ状態のガルアとガラシャに視線を移した。
「お主達はもういい、早く下がれ。」
「す、すまねえズィルクさん、助かったぜ。」
ズィルクの機転で救われた2人は、ヨロヨロと立ち上がってその場を去っていった。
だが、グリードル帝は今だ不満な面持ちだ。彼の欲求不満を満たすには、何らかの手を
打たねばならない。
ズィルクは、すでに次の用意をしていた。薄気味悪い笑いを浮べ、グリードルに耳打ち
する。
「帝様、今日は格別な女を2名用意してございます。ご心中はお察し致しますが、どう
かそれでご気分を治されては如何でしょう。」
「女だと?良い女だろうな、気に入らなければ只では済まさんぞ。」
ジロリと睨むグリードルだったが、ズィルクは余裕の表情だ。
「それは見てのお楽しみであります。ささ、こちらへどうぞ。」
ズィルクに促され、城へと戻るグリードル。城の奥まった場所の一室まで来たズィルク
は、部屋の前で待っていた小太りの男に声をかける。
「おいブレイズ、女の準備はできておるか?」
ブレイズと呼ばれた男は、揉み手をしながら返答する。
「へへへ、それはもう手抜かりなく〜。」
ヘラヘラ笑いながらドアを開ける。部屋の中には、2人の女が手錠をはめられて震えて
いた。
そして、その2人を見たグリードルの表情が悦びに変わる。
「おおっ、これは・・・」
悦ぶ帝が見ている女達は、どうやら親子らしい。しかも・・・ノクターン王国の王妃と
姫君、マリシアとアリエルによく似た美貌の母娘であった。
「どうです帝様、そっくりでしょう。見つけるのに苦労しましたよ。」
美貌の母娘を見て、歓喜の声を上げるグリードル帝。そして欲望も露に歩み寄る。
「でかしたっ、よくぞ見つけてくれたっ!!ふはは、これほど似ている奴がいるとはな。
今夜は楽しめそうだ・・・ご苦労だったズィルク、もう下がって良いぞ。」
「はい、それでは存分にお楽しみくださいませ。」
部屋の外の衛兵達と共に、ズィルクは一礼して下がる。後に残った小太りの男、ブレイ
ズがスケッチブックを手にしてグリードルに頭を下げた。
ブレイズは専属の絵師であり彫刻家であった。それも春画などの如何わしい絵や彫像ば
かり作っている専門家なのだ。
部屋の中には、彼が製作した作品の数々が展示されている。それも・・・ノクターン王
家の子女、特にマリシアやアリエルが陵辱されている絵画や彫刻ばかりだ。
その作品の中には、犬やブタなどに獣姦される極めて陰湿なものも存在する。
グリードル帝は、ノクターン王家の権威を失落させる事に異常な執念を燃やしており、
ブレイズに命令してこのような作品を多数作らせているのである。
美貌の母娘を前にして、ブレイズは邪な製作意欲をたぎらせた。
「うひひ、帝様。これほどの上玉なら最高傑作ができそうですぜ〜。」
「それは良い、マリシアとアリエルを徹底的に陵辱せしめる作品を作るのだ。いいな。」
「はぁい、それはもう〜。」
囚われの母娘は、自分達が何をされるのかを知り、そして怯えた。
「ど、どうかお許し下さい・・・せめて娘だけは・・・」
涙を流し、許しを請う母親を見てグリードルはニヤリと笑った。
「ほう・・・無敵の女戦士ともあろう者が命乞いか、マリシアよ・・・」
理解できぬグリードルの言葉に、母親は戸惑った。
「あ、あの。私は女戦士ではありませんが・・・それにマリシアという名前では・・・」
「口答えする気かーっ!!お前はマリシアだといったらマリシアだあーっ!!」
絶叫したグリードルが母親を殴りすえた。母親を庇う娘にも、容赦ない暴行が浴びせら
れる。
「ひいっ、・・・いやあっ、きゃあっ!!」
「や、やめて、娘を殴らないでぇっ。」
その叫び声は、歪んだ帝の心を更に狂気へと駆り立てた。意味不明の言葉を喚きながら
母娘に暴力を振るう。
「よくも俺様をコケにしやがったなマリシア〜ッ!!お前は俺様の女になる筈だったん
だあ〜っ!!それを・・・それを、それをっ、アルタクスの貧弱野郎になびきやがってえ
っ!!オラオラ〜ッ、これでも食らえーっ!!」
母親を王妃マリシアに見たてているグリードル。彼が恐ろしいまでの欲望と執念をマリ
シアに抱いている事は、あまりにも明白であった。
幾多もの国を征服し、暴虐を繰り返してきたグリードル・ガルダーン・・・
狂気の欲求は、幾ら貪り食らっても尽きる事はなかった。その欲求の果てには、ノクタ
ーン王家に嫁いだマリシア王妃の存在があった。
成り上がりで帝の地位を得た彼は、権力で得られないものなどないと信じていた。
若き日のグリードルは、ノクターン王国の美しき女戦士だったマリシアを見初め、我が
物にしようと図ったが・・・誠実なマリシアは暴虐なグリードルの要求を跳ね除け、アル
タクス・ノクターンの愛に応えた。
拒絶された暴君の逆恨みは無限の憎悪へと変わり・・・それ以来、グリードルは凄まじ
い執念をノクターンに向けるようになったのだ。
そして今は、囚われの哀れな母娘に欲望の矛先が向けられている。
ズボンと下着を脱いだグリードルは、凶悪なイチモツをかざして母娘に迫る。
「クックック・・・さあ、こいつをしゃぶってもらおうか。イヤとは言わせねーぜ、逆
らったら娘の命はないと思え。」
そう言いながらブレイズに目配せをする。暗黙の命令に従ったブレイズは、娘を捕まえ
て母親から引き離す。
「おらっ、小娘はこっちにくるんだよ!!抵抗したら目ン玉抉ってやるぜ〜。」
「いやっ、離してーっ!!」
か弱い娘は叫ぶが、細腕で逆らえる筈などない。母親と引き離され、人質にされてしま
う。
ブレイズは娘の目に指を当てて母親を威嚇している。逆らえば目を潰すぞとの脅迫だ。
「あ、ああ・・・言うことを聞きますから・・・娘には、娘には・・・」
「わかったらいいんだよ、さっさと帝様に御奉仕しな。」
「は、はい・・・」
そして仕方なく、母親はグリードルの前にひざまずいた。そして・・・薄汚れたイチモ
ツに唇を近付ける。
ブレイズに囚われている娘は、凶悪な指で目を見開かされているため、母親の惨めな姿
を直視するしかない状態だ。
「い、いや・・・やめて・・・お母さんをイジメないで・・・」
泣きながら懇願するが、興奮したブレイズは娘にサディスティックな命令をした。
「うへへっ、お前のお袋も親父にあーゆーことをしてたんだぜ〜。こいつは性教育さ、
じっくり見るんだ(アリエル)ちゃんよ〜。」
娘までアリエルに見たてて非情な命令を下す。それは余りに惨酷なる事だ・・・逆らえ
ない母親は、泣きながら暴君のイチモツを舐めた。
「う、うう・・・」
その悲痛な姿に、娘は涙する。目を背ける事すら出来ない・・・
だが、そんな娘にまでグリードルは邪悪な欲望の牙を剥き出しにする。
「おいブレイズ、(アリエル)を辱めるンだ。ガルアとガラシャの敵討ちと洒落込もう、
好きに嬲っていいぞ。」
「おお〜、よ、よろしいのですかあ〜っ。では御言葉に甘えてっ!!」
暴君の命を受け、欲獣と化したブレイズが娘に襲いかかったっ!!
「きゃああーっ、やめてーっ!!」
「イーッヒヒヒッ、大人しくしやがれ〜っ。」
娘に馬乗りになったブレイズは、情け容赦なく服を引き裂き狂ったように責めたてる。
まさにケダモノだ。
娘の悲鳴に、母親は血相を変えて叫び声を上げる。
「ああっ、なにをするのっ!?やめて、やめてえええーっ!!」
我を忘れて娘に駆け寄ろうとする。だが、それは邪悪な暴君によって阻止された。
「おおっと、逃げるんじゃねえっ!!お前の相手は俺だあ!!」
そして母親もグリードルによって丸裸にされてしまった。
「ひいっ、おやめください・・・いやあああーっ!!」
「ひゃはは〜っ!!泣け、叫べーっ!!メチャクチャにしてやるぜマリシアーっ!!」
部屋に轟く暴君と欲獣の雄叫び。そして悲鳴、絶叫・・・
それは部屋の外まで、廊下を歩くズィルクと衛兵の耳にも聞こえた。
「・・・酷い声だ。また女が帝様の餌食になったのか・・・」
同情ともとれる衛兵の言葉だったが、ズィルクは平然としている。
「ふん、いつもの事だ。お前もすぐに慣れる。」
「は、はあ・・・そうですか。」
どうやら衛兵は新参者らしい。帝の卑劣な行為に慣れていない様子だ。
衛兵は話題を変えるべく、ノクターン攻略の事をズィルクに尋ねる。
「ズィルク参謀、今後のノクターン攻略はどうなるのでしょう?ガルア将軍とガラシャ
将軍が倒されたとあっては、我が軍の戦力に著しい損失があると思われます。」
その言葉に、ズィルクは薄笑いを浮べる。
「心配はいらん。戦力に至っては、いささかの揺るぎはない。」
「はあ?でも、ガルア将軍率いる軍勢以上の戦力があるのでしょうか?」
「フフフ・・・あるんだよ、すでにバーンハルド王国に派兵を命じている。じつはな、
王国の姫君を人質として捕らえておるのだ。バーンハルドはノクターン王国と親密だが、
娘を人質にされては国王も我らに従うしかあるまい。」
邪悪な笑いを浮べ、衛兵を見るズィルク。そして衛兵もニヤリと笑った。
「では・・・ガルア将軍に勝った事で浮かれているノクターンにバーンハルドの軍勢を
差し向けるとの作戦でありますか?」
「その通り。まさか、同盟国の襲撃を受けるとは夢にも思っておるまい・・・すでに作
戦は進行しておる、ノクターンもこれで終わりだ・・・」
ガルアとガラシャの攻撃も、実はノクターン王国を油断させるための演出に過ぎなかっ
た。
邪悪な陰謀は暗闇の中で進んでいる・・・
ズィルクと衛兵は無言で廊下を歩いて行った。ノクターンの滅亡を脳裏に浮べながら・・
・
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