魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫5)
第10話 敗北・・・そして凌辱と悪夢の序曲・・・!!
原作者えのきさん
ノクターン軍の敗北により、囚われの身となった将のアリエルは、戦装束のまま後ろ手
に縛られ、虜囚の屈辱に晒されていた。
かつてガルアとガラシャがアリエルに敗北した時、敗者への侮蔑の視線がガルア達に向
けられていた。しかし今度は・・・アリエルが敗者の辱めを受ける番になっていた・・・
彼女が連れてこられた場所は、ガルダーンの城の中庭だった。悪趣味なほどの豪華さで
飾られた城は、数多くの民や弱者の血と涙で築かれたものである事がわかる。
その中庭に、敗軍の戦女神を見ようと多くの貴族達が詰めかけており、口々に好色な囁
きを口にしていた。
贅沢な食事で肥え太った大臣が大きな腹を揺すって笑い、ブランド物で着飾った貴族が
目を細めてアリエルを眺める。
「おお〜、なんと美しいのだ。ドレスで着飾った姿はさぞ高貴でしょうなあ、中々に萌
えさせてくれる姫君だ。」
「あなたもそう思いますかドリアル卿。戦装束などまったくもって無粋極まりない、私
のドレスコレクションを着させ、好みの姫君に仕上げてみたいものです。のっほっほ。」
そして、やたらと派手なドレスに身を包む貴婦人や令嬢達が、嫉妬と蔑みの目でアリエ
ルを見ていた。
「あんな小娘が戦女神ですって?若くて美しいからと図に乗ってますのね、女神を名乗
るだなんて思い上がりもいい所ですわ。」
「あーらお母様、あんな品性のかけらもない地味な小娘に妬いていらっしゃるの?ゴー
ジャスさならお母様の方が上ですわよ。美しさなら、私の方がアリエルより上ですけどね。
」
「剣を振り回して戦などしている姫君ですもの、どーせロクな教養も受けていないでし
ょうね。ノクターンの品はあの程度ですわ。」
口元に扇子をあて、ヒソヒソと囁きあう貴婦人達。
どの貴族達も令嬢もアリエルを見下す材料にしており、富と権力を固辞する浅ましさが
滲み出ている。
その貴族達の真っ只中、縄で縛られたアリエルは微かに肩を震わせながら貴族達を見据
えていた。
貴族達に侮られぬよう、威厳ある姿勢で立ってはいるが・・・しかし、いくら戦女神と
言えど、たった一人で敵陣の中に晒されるとなれば不安も極まるであろう。彼女の心は激
しい焦りと不安に苛まれていた。今にも倒れてしまいそうなくらいに・・・
だが、彼女は退かない。今にも泣きそうな自分を押し殺し、どのような状況にも決して
屈しない覚悟で立っている。
その決意を知ってか知らずしてか、貴族達は相変わらず陰湿な視線でアリエルを見てい
る。
その時、アリエルの後方から十数人の兵士が追い立てられながら中庭に転がり込んでき
た。それはアリエルと共に戦ってきたノクターン軍兵士の生き残りだったのだ。
悲壮な姫君の姿を見た兵士達が、慌てて駆け寄ってくる。
「姫さまっ!!大丈夫でありますかっ!?」
部下の声に振り返るアリエル。
「あなたたち・・・無事だったのですねっ。よかった・・・」
駆け寄った兵士達は、アリエルを縛っている縄を解き、貴族達の好奇の目から守る様に
周りを囲む。
「ご安心ください姫様、我等が一命に変えても姫様をお守り致します。」
「ええ、ありがとう。でも命を粗末にする様な真似はしないで・・・」
アリエルは命を粗末にするなと兵士達に言うが、それが聞き入れられる事はないであろ
う。なにしろ、ここは敵の真っ只中。多勢に無勢どころではない。
襲いくるガルダーンの攻撃からアリエルを守るため、何の躊躇いもなく命を賭して戦い
果てるであろう・・・
そしてそれが、早々に現実となるのであった。
不意に貴族達がざわめき始め、やがて恐怖感と緊張が城の庭を支配した。
恐るべき恐怖の権化が現れんとしているのだ。
その出現を告げる朗々とした声が響きわたる。
「グリードル帝様の御成りであるっ、一同静粛にっ。」
貴族達のざわめきが一瞬にして収まり、恐怖の支配者が城から現れた。
「フハハッ、ついに我等の手におちたなアリエル姫。貴様の命運もここまでだ。」
嘲笑う声と邪悪な眼光がアリエルに迫る。
その毒気に怯むことなく、アリエルは暴君を指差して叫んだ。
「グリードル帝っ、私を捕らえたくらいで勝ったつもりですかっ!?たとえ我が身が滅
びようとも、ノクターンはあなたなどに屈しませんわっ!!我等に正義ある限り、暴君の
悪行を必ずや止めてみせますッ!!」
声を響かせてグリードルを睨むアリエルであったが、それはあまりにも無力・・・全て
は暴君の意のままであった・・・
「ほほう、小娘のクセに威勢だけはいいな。よかろう、これを見ても強気でいられるか?
」
グリードルが指を鳴らすと、屈強な召使達が虜囚を連行してきた。
その虜囚の姿に、アリエルとノクターン兵は驚愕する。
それは・・・アリエルの父アルタクス王だったのだ!!
囚われた父を見て、アリエルは絶叫した。
「ち、父上っ、ちちうえ―っ!!」
舌を噛まぬ様に猿轡を噛まされ、荒縄で拘束されたアルタクスは、奴隷以下の扱いを受
けていた。ボロボロ状態の上に足に銃弾の傷はロクな治療すらされていない。
それを見るアリエルは感情が暴走しかけており、父親を助けようと焦っていた。
「ぐ、グリードル・・・よくも・・・父上を解放なさいっ、今すぐにっ!!」
「おお、いいとも。解放してやるさ。衛兵下がれ。」
アリエルの絶叫を聞いたグリードルは薄笑い、何を企むのか自分とアリエル達の間で警
備する兵士達を下がらせた。アリエル達とグリードルの間には遮る者はいなくなり、アリ
エル達はアルタクス王を救出できる絶好のチャンスを得た。
しかし・・・わざとチャンスを与えたグリードルの邪笑いが企みを思わせる。
「フッフッフ。お前達がここまでこられれば、アルタクスは助けてやろう。俺は丸腰だ、
それに武器もくれてやるぞ。」
人数分の剣や槍がアリエル達の前に投げ出される。
その武器を前にしたアリエル達は、ワナである事も承知で突進した。
そして総員一斉にグリードルに飛びかかろうとしたその時である。
――ドガガガッ!!
凄まじい爆音が響き、ノクターン兵士の数人が血を吹いて倒れた。
慌てて飛び退いたアリエル達が目にしたのは・・・大型の連射銃を構えた隻腕の大男だ
った。
アリエルは大男の顔に見覚えがある・・・ガルダ-ン最強の狂戦士ガルアだ!!
「グワッハハーッ!!久しぶりだなアリエル〜ッ、てめえに会えるのを楽しみにしてい
たぜ〜っ!!」
豪快に笑うガルアが連射銃をアリエルに突きつけ、兵士達がアリエルを庇う。
「ガルア・・・生きていたのですねっ。飛び道具とは卑怯ですわっ!!」
「ハッ、言ってくれるじゃねーか。お望み通り飛び道具なしで相手してやるぜっ、かか
って来やがれっ!!」
連射銃を投げ捨てたガルアは、義手を外して鉄の爪を装着する。そして豪腕を振り回し、
兵士達を鋭い爪で殴りつけた。
懸命に戦う兵士達は、なんとかアリエルを救おうと盾になった。
「姫さまっ、ここは我等にお任せをっ。早く国王さまをーっ!!」
「み、みんな・・・わかりましたわっ。」
次々餌食になる兵士達に断腸の思いで背を向けたアリエルは、単身グリードルに戦いを
挑んだ。
「グリードルッ、覚悟―っ!!」
煌く剣の切っ先がグリードルに迫るが、暴君は身じろぎすらしない。そしてグリードル
の脇から凶悪なムチが飛び出してきた。
――バシィィィッ!!
ムチの強烈な一撃をモロに浴びてしまったアリエルは、短い悲鳴を上げて地面に叩きつ
けられる。
「あうっ!?うっ・・・あなたは・・・ガラシャ!?」
ムチを繰り出してきた者は女戦士ガラシャだった。相棒のガルアと共にアリエル達を待
ち構えていたのだった。
「あら、私を覚えてくれてたの。光栄ねっ!!」
返答も終わらぬ内に、凄まじいムチの連打をお見舞いするガラシャ。
我を忘れ、冷静さを失っていたアリエルは、完全にガラシャの餌食にされる。
「うあっ、はうっ!?あうあっ!!」
無情のムチを浴びせられ、悲鳴を上げる愛娘の姿に、囚われのアルタクスは身を捩って
足掻いた。
「あ、アリエ・・・むぐぐっ。」
しかし拘束されている彼に術はなく、猿轡で喋れないままもがくしかなかった。
無論、悲痛なのはアリエルも同様だ。あと僅かで父を救い、宿敵グリードルを倒せると
いうのに・・・これほどまでに無力さを感じた事はなかった・・・
そして狂戦士ガルアの餌食にされる部下が、1人、また1人と命を落としていく・・・
これほどまでに絶望的な事はなかった・・・
ノクターン兵士を皆殺しにしたガルアが、意気揚揚とアリエルの前に立った。
それに反してアリエルは、ガラシャに一方的な攻撃を受けていたため、足元もおぼつか
ない状態だ。先の戦闘で疲労困憊していたこともあって、そのダメージは計り知れない。
「フッフッフ・・・これで残ったのはてめえ1人だ、観念しな。」
「誰が観念するものですかっ、もう片腕も切り落としてあげますわっ!!」
「面白れえ、切り落としてもらおうじゃねえか。」
「てぇやあああーっ!!」
ガルアの腕目掛け、アリエルは剣を叩きつけた。しかし、パキーンという音と共に剣が真
っ二つに折れた。
ガルアの腕に、鉄の板が仕込まれていたのだった。
「2度も同じ手を食らうかよっ、おらあっ!!」
アリエルの腹にガルアの蹴りが炸裂し、アリエルは数mほども吹っ飛ばされた。
「ぐはあっ!!あぐあ・・・がああ・・・」
強烈な苦痛に苛まれ地面を転がるアリエルを、ガルアは掴んで抱え上げた。
「グフフ、これからてめえを嬲ってやるぜ。貴族どもやアルタクス王の見ている前でよお
〜。」
その驚愕の言葉・・・アリエルは真っ青になった。
――ま、まさか・・・やめてっ!!
捕まった時から、いや・・・敗戦の気配が漂っていた時から、心の奥底で渦巻いていた
不安・・・
――姫君である自分が捕まれば・・・ナニヲサレルノカ・・・
それだけは、それだけはされたくない・・・
わかっていたが、心のどこかでそれを否定していた。
戦女神であろうとも、やはり若い娘。若い女が受けるであろう惨い仕打ちを受けるのは
恐ろしい。
しかしそれが、現実となって襲いかかろうとしている。しかも・・・愛する父の前でだ・・
・
「い、いや・・・やめてーっ!!」
悲しき絶叫が、ガルダーンの城に響き渡った・・・
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