魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫4)


  第4話 首都フォルテ陥落
原作者えのきさん

 アリエル率いるノクターン軍が、バーンハルド軍の裏切りによって壊滅した。
 しかし、その事は今だノクターンの首都フォルテには伝えられていない・・・
 ノクターン軍の不在である今、まさにフォルテは裸同然であった。ノクターン王国滅亡
の足音は、すぐそこまで迫っていた・・・
 
 リスカー国王と共に入城していた兵士が、リスカー国王のいつも連れている護衛の兵士
ではない事に誰も気がつかなかった。
 その正体は、ガルダーンから命を受けた特殊部隊である。彼等は作戦を実行すべく速や
かに動いた。
 城の衛兵の隙を突き、首都の街道へ出た兵士達の向う先は・・・首都の西の砦であった。
ここは今現代の状況でもっとも警備の薄い個所だ。
 彼等が何故、この場所の警備が薄い事を知っていたのか?それはガルダーン軍にフォル
テの詳しい状況を知らせた(密告者)の通告によるものだった。
 ガルダーンの特殊部隊は、精鋭で構成された兵士であり、その戦闘能力は高い。
 同盟国の兵士と思っていた城の警備兵は、突然の事に成す術なく蹴散らされた。
 緊急事態発生に、ノクターン軍の兵士達が殺到するも、それを振り切った特殊部隊は西
の砦付近を占拠し、街に火を放つ。
 そして、大混乱に陥った西の砦の外に・・・悪魔の軍団が迫ろうとしていた・・・
 
 反乱の一報は、すぐさまアルタクス王との元にも届けられた。血相を変えた兵士が、宮
殿に飛び込んで来る。
 「へ、陛下っ。一大事でありますっ!!西の砦が内部より襲撃され、街に火の手が上が
っておりますっ!!」
 まさかの事態に、アルタクス王は驚愕する。
 「内部からだとっ?バカを言うな、ガルダーン軍が潜入していたとでも言うのかっ!?」
 その問いに、兵士は恐る恐るリスカー国王に視線を移す。
 「そ、それが・・・襲撃したのは・・・バーンハルドの衛兵達です・・・彼等が反旗を
翻したのですっ。」
 驚くべき言葉に、アルタクスは傍らのリスカーを見る。だが、信ずるべき盟友は顔色1
つ変えていない。
 「リスカー・・・これは一体どう言う事だ・・・君はまさか・・・」
 そしてアルタクスに、裏切りの銃口が向けられた。
 「そのまさかだ。バーンハルドと愛娘のため、死んでくれアルタクスッ!!」
 銃声と共に、弾丸がアルタクスの腹部を貫いた・・・
 
 突如、西の砦から煙の上がるのを城の窓から見たマリシア王妃は、最悪の事態を察して
顔色を変える。
 「こ、これはもしかして・・・ガルダーン軍の襲撃!?」
 そして、宮殿からの銃声を耳にするマリシア。
 「あの方向は・・・陛下とリスカー国王がいる場所っ、まさか、まさかっ!!」
 夫とリスカー国王の間に何かあったのではと思い、マリシアは我を忘れて走り出した。
 マリシアと共にいたマリエルは、只ならぬ母の行動に戸惑い追い駆ける。
 「ははうえっ、どうしたのっ?今のてっぽうの音はなに?」
 「来てはなりませんマリエルッ。」
 危機的状況を前に、立ち止まったマリシアは追い縋る我が子を抱きしめた。
 「いい子だから大人しく待っててちょうだい。母上はすぐに戻りますから・・・」
 そんな母子の元に、ノクターンの軍部高官であるへインズ提督が駆け寄って来た。
 「王妃様っ、バーンハルドの兵達が西の砦を襲撃し、外からはガルダーン軍が迫ってき
ております。王子様と一緒に御避難をっ!!」
 その言葉に、最悪のシナリオを察するマリシア王妃。
 「そうですか・・・先程、陛下とリスカー国王のいる場所から銃声が聞こえました、恐
らくはリスカー国王が裏切ったものと推測されますわ。」
 それをへインズ提督は驚きの顔で聞く。
 「で、では・・・西の砦の襲撃もリスカー国王の指示で・・・それに銃声とは只ならぬ
事ですぞっ。陛下の御身に危険が・・・私が今すぐ陛下の元に赴きますっ。」
 だが、そんなへインズ提督を制するマリシア。
 「なりませんっ、陛下を御守りするのは私の使命。あなたはマリエルを安全な場所まで
避難させなさい。そして、私達に万一の事があれば、マリエルを連れて脱出なさい、良い
ですね?」
 余りの言葉に、へインズ提督は愕然とする。最悪の時は主君を捨てて逃げろとの指示だ
ったからだ。
 へインズ提督は代々ノクターンに仕える古株の軍高官で、誠実で堅実な人柄は兵士達に
も高い評価がある。
 そんな彼が、逃げの支持など聞けるはずもない。
 「な、何を申されますっ。私に陛下や王妃様を見捨てろと仰るのですかっ!?ノクター
ンの一軍人としてそのようなことは・・・」
 「私の命令が聞けないのですかっ!?今はマリエルを守る事が最優先ですわ、この子は
ノクターンの希望なのですから・・・」
 へインズ提督を一喝したマリシアは、もう一度可愛い我が子を抱きしめ、その顔を見つ
める。
 悲しい予感がマリシアの心を覆っていた。
 (・・・もう2度とマリエルに会えないのかもしれない・・・)
 「マリエル・・・私の可愛いマリエル・・・愛してるわ・・・」
 そう呟き、戸惑う我が子にキスをするマリシア。
 優しい母の抱擁に、悲しい運命を悟るマリエル。
 「ははうえ・・・いやだ・・・行かないで母上・・・」
 泣きじゃくるマリエルをへインズ提督に預けたマリシアは、踵を返して夫の元に走り出
す。
 その背に、我が子の泣き叫ぶ声を受けながら・・・
 「行っちゃダメェーッ!!ぼくを1人にしないでーっ!!」
 マリシアの目に涙が光っていた。
 「ごめんなさい・・・マリエル・・・」
 国の要である夫を守る事、そして後継者である我が子を危機から遠ざける事。それが彼
女の使命、民を国を統べる者の使命なのだ。
 卑劣な暴君の野望が、マリシアとマリエル母子に容赦なく襲いかかってくる。
 だが、これはまだほんの序章に過ぎなかった・・・

 フォルテの西側では、多くの人々が逃げ惑い、特殊部隊とノクターン軍との交戦が激し
く行われている。
 最初、ノクターン軍は特殊部隊を追い詰めた事で事態の集結を見ていた。
 しかし、それは間違いだった。特殊部隊によって砦が破壊され、外から多くのガルダー
ン軍が雪崩れ込んで来たのだ。
 難攻不落を誇ったフォルテも、中と外からの攻撃には耐えられなかった。
 中の特殊部隊も、外の軍勢も、(内通者)の密告を元に作戦を推し進めている。
 外の軍勢を率いているのは、ガルダーンの将軍であるレッカードであった。
 護衛に守られたレッカード将軍は、軍勢の最後尾から命令を矢継ぎ早に出している。
 「モタモタするなっ、西側を占拠したらフォルテの城を目指すんだっ。ノクターン軍の
殆どはバーンハルドで足止めを食らってる、中の兵士どもに構わず城を落とせーっ!!」
 フォルテを攻略したら元帥の地位を授けてもらえると信じるレッカードは、権力に眼を
眩ませ、容赦ない攻撃を加えている。
 レッカードのライバルであるゲバルド将軍は、アリエル姫率いるノクターン軍と交戦中
であり、どちらが早く作戦を終了してガルダーンに凱旋するかの勝負を競わされていた。
 だからこそ、レッカードは躍起になっている。
 「ゲバルドのゲスに元帥の椅子を取られてなるものかっ。やれっ、フォルテを叩き潰せ
〜っ!!」
 采配を振り回し、大声で喚き散らすレッカード将軍。
 ライバルのゲバルド将軍も、勝利を目前にして高笑っているであろう。
 いがみ合わせて競わせ、戦意を高める事がガルダーンの暴君グリードルの常套手段であ
った。
 レッカードもゲバルドも、人の上に立つ存在にはほど遠い。しかし、グリードルはあえ
て2人を指揮官に任命していた。
 全ての指揮権はグリードルが掌握しており、2人はただの手駒にすぎない。能力は元よ
り、自分に絶対逆らわぬ、小心で忠実な下僕がグリードルの求める部下なのだ。
 捨て駒にされているなど心にも思わず、暴君の差し出す餌を得ようとする将軍達。
 その権力欲が、凄まじい嵐となって罪なき民達を餌食にしているのであった・・・
 
 荒れ狂う破壊の嵐の中、マリエル王子を連れたヘインズ提督は、城の地下道を目指して
進んでいた。
 マリエルは泣きじゃくり、父や母の名を呼んでいる。
 「ちちうえ・・・ははうえ・・・」
 その声がヘインズの心に痛みをもたらす。王を守るべき軍人が、王を見捨てて逃げてい
るのだ。これほどの苦悩はない。
 「陛下、王妃様・・・必ずや王子様を守ってみせます・・・この命に代えてもっ。」
 呟くヘインズの後ろから、何者かが声をかけてきた。
 「・・・提督?ヘインズ提督やありませんか!?」
 その独特の訛りは聞き覚えがある。アリエルの専属の侍女マリーだ。
 振り返ったヘインズは、マリエルを抱えたままマリーに歩み寄った。
 「おお、マリーか。丁度よかった、これから王子様を連れてフォルテを脱出する、お前
もついてこい。」
 ヘインズの言葉にマリーは仰天した。今だアルタクス王も妃のマリシアも城に残ってい
るはず、それを承知でヘインズは逃亡を図ろうとしているのだ。
 声を震わせ、マリーはヘインズに詰め寄った。
 「ま、まさか・・・国王様やお妃様を見捨てて逃げるおつもりですか?ヘインズ提督は
偉い人やと思うてましたけど・・・見損ないましたわっ!!」
 そんな叱咤を振り払い、ヘインズは地下道へ進もうとする。
 「見損なってもらって結構だ。私は・・・王妃様のご命令に従って、王子様を安全な場
所へお連れする。」
 「そやかて、いくらご命令でも国王様を見捨てるやなんて・・・」
 「うるさいっ!!お前に私の気持ちがわかってたまるかっ!!」
 大声で怒鳴るヘインズの目には、悔し涙が光っていた。その断腸の思いを知ったマリー
は、ヘインズに従う事を決める。
 「わ、わかりました・・・ほな、私もついていきます・・・」
 マリーの言葉を聞き、ヘインズは黙って地下道に進んだ。ここからフォルテの郊外まで
抜けており、ガルダーン軍兵士に見つかる心配もない。
 ヘインズは地下道の入り口を封鎖し、ガルダーン軍の進入を防ぐ。
 「これで兵共も追ってはこれまい・・・さあ、行くぞ。」
 マリーは黙って頷いた。そして彼女の心に、新たな不安がよぎった。
 ――姫様は大丈夫やろうか・・・
 親愛なるアリエル姫の安否を気遣うマリー。
 姫様は大丈夫、きっと無事に帰ってくる・・・そう自分に言い聞かせてはいたが、どう
しても・・・不安を取り除く事ができなかった・・・



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