魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫3)


  第3話 戦闘開始!!そして・・・裏切り・・・
原作者えのきさん

 
 同じ頃、ノクターンの首都フォルテにバーンハルド国王リスカーが入城していた。
 真面目で誠実を絵に書いたようなリスカー国王と、心優しきアルタクス国王・・・
 2人は若き日からの盟友であった。
 今日ここに、助けを求めて現れた盟友を、アルタクスは迎え入れた。
 「リスカー。よく来てくれたな、色々と大変だったろう。」
 「ありがとうアルタクス。君の救いに感謝するよ。」
 互いの友情を確かめ合い、肩を抱き合う2人の国王。
 共に両国の礎を支えあって来た2人は、気心の知れた仲であり、そして良きライバ
ルであった。
 2人の力でガルダーンの侵略を止めた事もある。2人が力を合わせれば、最高の力
となってガルダーンに・・・悪のグリードル帝に立ち向かえるだろう。
 アルタクスはリスカーにアリエルの出陣の事を話す。
 「昨日アリエルがバーンハルドに向ったが、行き違いになってしまったようだな。
多くの軍勢を引き連れてる娘と出会わなかったのかい?」
 「ガルダーンの刺客に狙われる恐れがあったからな。裏ルートでここまで来たんだ。
」
 ガルダーンに狙われる苦労を語るリスカーに、アルタクスは同情を寄せる。
 「そうか・・・でも君が直々にここまでくるとは、よほど事態が切迫してると見え
る。早い目に言ってくれれば、娘と一緒にバーンハルドに出向いたものを・・・」
 「水臭いとは言わないでくれ、もし君をガルダーンとの戦闘に撒き込んだりしたら
申し訳が立たん。」
 「ははは・・・相変わらずだな。」
 変わらない友の気遣いとアルタクスは想った。そして、留守にしているバーンハル
ドの事を聞く。
 「国王が不在では心配だろう、それに、ローネット姫を残して大丈夫なのか?」
 アルタクスがリスカーの愛娘、ローネット姫の名を口にした途端、リスカーの顔色
がサッと変わった。
 「う・・・ろ、ローネット・・・あ、ああ・・・大丈夫さ、最高に腕利きの衛兵に
守らせてるからな・・・それに、ローネットは后が死んでから、ずっとがんばってく
れてる。私よりしっかりしてるから、王位を譲ってやろうかと思ってるぐらいさ。」
 軽く冗談を言いながら、動揺をごまかしているリスカー。アルタクスは戸惑いなが
らも友を励ます。
 「それなら安心だな、それにアリエルがバーンハルドにガルダーンどもを1歩も入
れはしないさ、大丈夫だ。」
 友の言葉に頷くリスカーだった。
 「ありがとう・・・アルタクス・・・」
 しかし、どこかその声に喜びがない。心配の元が別の所にあるかのようだ・・・
 
 アリエルがバーンハルドの将軍や指揮官達を疑わねばならなかったように、アルタ
クス王は、友を疑うべきであった・・・
 不覚としか言いようがない。同盟国だから、友だから・・・そんな心の隙に、グリ
ードルは付け入っていた。
 リスカーの愛娘、ローネット姫はグリードルの手に落ちていたのだ。
 卑怯にもローネット姫を人質にとったグリードル帝は、リスカー国王にノクターン
を裏切るよう命令した。
 それだけではない、商業国バーンハルドに関する全ての交易路を遮断し、バーンハ
ルドを陸の孤島にしてしまったのだ。
 姫君1人のみならず、国のライフラインまで押さえられてしまったバーンハルド王
国・・・
 この時点で、バーンハルドは陥落していた。
 だが、巧妙な策略を練ったグリードル帝は、リスカー国王を脅し、バーンハルド王
国そのものを、ノクターン壊滅の道具に仕立て上げ、軍隊も全て手中に収めた。
 ノクターン壊滅・・・そう、悪しき暴君は、ノクターン王国を属国にしたいのでは
なく、完膚なきまでに叩き潰したかったのだ・・・
 民を残らず虐殺し、全てを奪い尽くし、草木の一本、虫の1匹に至るまで、完全に
根絶やしにするつもりだ。
 ここまで手の込んだ事をする暴君の思惑には、恐ろしいまでのノクターンに対する
憎悪があった。
 ノクターンの・・・いや、アルタクス国王に対すると言った方がよかったか?
 答えは単純だった。我物にしようとしたノクターンの女戦士マリシアが、自分を無
視してアルタクスの愛に応えた。
 たったそれだけの理由であった・・・
 彼の凶悪な精神から発する、凄まじい嫉妬の炎が、ノクターン壊滅を目論ませた。
 強欲な精神で、皇族の最下位から成り上がり、前皇帝までをも蹴落としたグリード
ル。彼は自分の手で奪えないモノなどないと信じていた。
 だが、彼の人生でたった1つ、奪えなかったモノ・・・それはマリシアだった・・・
 だからこそ、彼は歪んだ執念でマリシアを狙った。マリシアの愛を手に入れたアル
タクスを、そしてマリシアが愛したノクターン王国を地獄に叩き落す事に執念を燃や
したのだ・・・
 
 グリードル帝に愛娘を人質にされたリスカー国王は、裏切りの目的で、ここノクタ
ーンに訪れていた。
 苦渋の決断だった・・・いかに娘のため、果ては国のためとは言え、盟友を裏切ら
ねばならないこの苦しみは筆舌にし難き事。
 その苦しみを押し込め、リスカーは友の後ろを歩く。
 友の友情を疑わぬアルタクスは、ガルダーン軍攻略の策について考えている。
 「まず、我が軍とバーンハルド軍が敵軍の第一陣を退けたら、隊を2つにしてガル
ダーン軍の補給路を断つ。兵糧責めなら両軍に負傷者も出難いだろう。その上で・・・
」
 持久戦を想定するアルタクスだったが、それを聞いていたリスカーは無意識に呟い
た。
 「・・・持久戦なんてやっていられるか・・・時間がないんだ・・・ローネットが・
・・」
 「何か言ったかリスカー?」
 「あ、ああ。なんでもない。」
 曖昧な返答をしたリスカーは、懐に手を入れてアルタクスの背中を見つめた。
 「ローネット・・・必ずお前を助けてみせる・・・友を裏切ってでも・・・」
 懐には、小型の拳銃が収められていた。無論、護身用などではない。その銃口を、
友に向けるためにもっているのだ。
 リスカーに一刻の猶予もなかった。愛娘ローネットを人質にしているのは、凶悪な
暴君だ。猛獣に囚われるほうが遥かにマシだ。
 ――早く・・・早く助けねば・・・
 切迫した焦りが、激しくリスカーを苦しめていた・・・
 
 場面はバーンハルド王国に戻る。
 バーンハルド軍が事前に知らせてくれた情報では、南の国境に全ガルダーン軍が集
結しているとのことだった。
 フォルテで入念に練られた作戦通り、アリエルは軍を率いて南の国境へと向う。
 途中、鬱蒼とした森の中を抜けねばならず、今回の戦いで準備した装備では進軍は
困難になっていた。
 大軍勢との戦いを想定し、武装強化していたのが災いしている。
 まるで・・・ガルダーン軍がノクターン軍の装備を予測していたかのような展開に、
アリエルは不信な気持ちを募らせた。
 「ガルダーン軍に、こっちの動きが筒抜けみたいな気がしますわ・・・まさか・・・
」
 
 ――作戦が敵のスパイに傍受されたの?
 
 「まさかね・・・警戒厳重な作戦会議だったのよ、スパイに聞かれてたなんて事は
絶対に・・・」
 それでも疑心は晴れない。
 
 ――もしかして、内通者が・・・
 
 最悪のシチュエーションが頭を過る。
 そんな事は絶対無い!!そう心で叫び、首を横に振るアリエル。
 ノクターンの皆は誠実で裏切りなど決してありえない・・・(はず)
 夢中で進んでいたアリエルだったが、急に馬が嘶いて立ち止まった。
 足がドロに埋まって動けないのだ。森の道が酷くぬかるんでいる、これでは前に進
めない。
 すぐさま馬から降りたアリエルは、馬をドロから出させようと懸命になる。
 「どうどう・・・いい子だから落ちつきなさい・・・そう、ゆっくり足を出して。」
 ようやく馬をドロから抜け出させたアリエルは、自軍の兵士達がドロと格闘してい
る様を見て愕然とした。
 重い鎧が邪魔になり、泥道を進めないでいるのだ。重装備が、更に悪循環をもたら
している。
 とにかく、一旦進軍を停止し、ドロのない場所まで移動せねばならない。
 その時、傍らにいた将兵がアリエルに声をかけた。
 「姫様、何か油の匂いがしませんか?」
 言われて辺りの匂いを嗅ぐと、なるほど、うっすら油の匂いが漂ってくる。
 「確かに匂いますわね、こんな森で油の匂い?」
 そして、アリエルの第六感が警鐘を鳴らした。
 
 ――ここは危ない・・・すぐに退却しないと・・・
 
 そして、隊の先を行くバーンハルド軍へ指示を出した。
 「この森は危険ですわっ!!すぐに退却の準備をっ!!」
 だが・・・どうしたことか、バーンハルド軍はアリエルの声を無視して森を突き進
む。
 それどころか、持っていた装備を捨てて遁走を始めたではないかっ。
 「待ちなさいっ、聞こえないのっ!?」
 いくら呼んでも無駄であった。そのまま、バーンハルド軍は森の彼方に逃げ去って
いった・・・
 「な、なんてこと・・・」
 唖然とするアリエルの前に、バーンハルド軍の将軍が姿をあらわした。
 「呼んでも無駄ですよアリエル姫、この森に入ったらすぐさま逃げるよう命令を出
してますからね。」
 突然の将軍の言葉に、アリエルは声を荒げた。
 「どう言うことですのっ?そんなの作戦にありませんわ・・・」
 それを平然と聞く将軍。
 「まだお判りになりませんか?あなた達ノクターン軍は、罠に嵌ったのですよ、バ
ーンハルド軍とガルダーン軍のね。」
 衝撃の言葉・・・!!
 アリエルとノクターン全兵士が、雷に打たれたように動かなくなった。
 「ま、まさか・・・そんな・・・ウソだろう?」
 「将軍・・・あんた裏切ったなっ!?」
 ノクターン軍兵士達から、次々罵声が飛ぶ。
 その最中にあって、アリエルは冷静を保って将軍に問うた。
 「部下を逃がしたうえで、将軍であるあなたが残っていると言う事は、あなたは生
きて帰るつもりはないのですね?」
 「察しがよろしいですなアリエル姫。そう、私は裏切りの責任をとってここに残っ
たのですよ。バーンハルド軍を怨まないでもらいたい、止むに止まれぬ事情がありま
した故・・・怨むなら、ノクターンの内通者を怨んでください。内通者は、喜んでガ
ルダーンに軍の情報を教えていたのですから・・・」
 やはり内通者が・・・アリエルは再度将軍を問い詰める。
 「内通者とは誰ですのっ!?バーンハルド軍の止まれぬ理由とは一体なんですのっ!
?答えなさい将軍っ!!」
 すると、将軍はコメカミに拳銃の銃口を当てて答えた。
 「内通者は誰だか知りませんが、あなたを疎ましく思ってる奴らしいですよ。我々
の止まれぬ理由は・・・我等の姫様が暴君に囚われている事です。私が言えることは
ここまで、ではアリエル姫とノクターン軍の諸君・・・地獄で合いましょう。」
 銃口が火を吹き、将軍はその場に倒れ伏した。
 呆然と立ち尽くすアリエルとノクターン兵士達・・・
 だが、彼等に戸惑う暇はなかったっ。
 
 ――ドオオオーンンンッ!!!
 
 凄まじい轟音と共に、周囲の木々が炎に包まれた。森に爆薬が仕掛けられていたの
だ。
 森に撒かれた揮発性の強い油に引火し、アリエル達はたちまち炎の中に取り残され
る。
 逃げ場は1つ。先程歩いて来た道だけ炎に包まれていない。
 兵士達は一斉に元来た道を走る。が、アリエルが急に叫んだ。
 「まって!!そっちは危ないですわっ!!」
 しかし遅かった・・・兵士達が逃げたその場所に、砲弾と弾丸が降り注いできたの
だ。
 次々起こる爆音。そして悲鳴を上げて吹き飛ばされる兵士達・・・これはもう戦い
などではなかった。一方的な虐殺だった。
 森の外から攻撃するガルダーン軍は、兎狩りのように、森かノクターン兵を燻りだ
し、そして狙撃する。
 まるで、狩りを楽しむように・・・
 そして、ガルダーン軍の真の獲物は、ノクターン軍の大将アリエル姫だっ。
 森に防火服を着て潜んでいたガルダーン兵達が、ボウガンでアリエルを追い立てる。
 「へっへっへ〜。オラオラさっさと逃げねーと、可愛いケツを突き射してやンぜ〜
っ!!」
 下卑た声で喚きたてるガルダーン兵。
 周囲は火、後ろからはボウガンの雨。アリエルは剣を振り翳し、ボウガンを跳ね落
とす。
 「たあああーっ!!」
 薄暗い森に、アリエルの剣戟が走り、次々兵士が倒された。
 だが、ぬかるんだこの場所では、いかに戦女神と言えど不利であり過ぎた。
 ついに、森の外れにまで追い詰められた。
 「大人しくしな〜、アリエルちゃ〜ん。」
 ゾロゾロと兵が集まってくる。しかし、ここで諦めるアリエルではなかった。
 「地獄に行きなさいっ、卑怯者めーっ!!」
 突進するアリエル・・・だがっ。
 
 ――バシャーンッ!!!
 
 アリエルの周囲に網が出現したかと思うと、そのままアリエルを包んで宙に浮いた。
 アリエルは、ガルダーン兵の仕掛けた罠にかかってしまったのだ。
 「きゃあああっ!?あう・・・こ、こんな・・・ああ・・・」
 頑丈な網が、アリエルをギリギリ締め上げる。
 宙吊りで身動きの取れないアリエルに、ガルダーン軍の大将らしき男が歩み寄る。
 長い槍をアリエルに突き付け、ハイエナのような面構えの大将は邪笑いを浮べる。
 「よ〜う、戦女神のアリエルちゃん。俺の名前は猛槍超撃大将軍ゲバルドだ、ヨロ
シクな。ぎゃはは〜っ!!」
 下品な声をあげ、ゲバルドはアリエルを槍で突付いた。
 身を捩るアリエルは、なんとかこの辱めから逃れようとするが、網は更にアリエル
の自由を束縛するのみ。
 「くううっ、この・・・やめなさいっ、ハイエナ男めっ!!」
 「へっ、その恰好で何ができるんだよ〜。ホーレホレ。」
 「こ、こんな・・・あうう・・・」
 陰湿な責めに翻弄されるアリエル・・・
 昨日からの悪い予感は的中していた。
 しかし・・・本当の悪夢は・・・これからであった・・・



 To・Be・Continued・・・


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