魔戦姫伝説/魔戦姫の休日(後編)6
休日の終わり、そして新たなる日々へ・・・
ムーンライズ
ミスティーア達の鬼宝湖での休暇は、その後、何の問題も無く過ぎた。
魔戦姫達は、存分に身体を休め、十分に気力を養い(アホ鬼2人と楽しみ、乙女の島で
悦びを分かち合った。)、そして・・・傷ついた心を癒した。
湖の村の人々も彼女達を快く歓迎し、楽しい日々を魔戦姫達に提供した。それに感謝し
た魔戦姫達も、今後の湖における警備に協力すると約束した。
そして・・・鬼の一族の若君であるガリュウも、ミスティーア達への協力と歓迎に労を
惜しまなかった。
無論、一族の危機を救ってくれた感謝の意味もあるが・・・それ以上にガリュウには心
動かされる事があった。
それは、何処か淡い恋心ともとれる感情から生じた感情でもあった・・・
鬼宝湖にミスティーア達が来てから早、10日・・・
休暇を終えた魔戦姫達は、ガリュウや湖の村人との別れを惜しんでいた。
村の長老を前にし、感謝の意を述べている魔戦姫達。
「皆様には色々と歓迎をして頂き、真にありがとうございます。ここでの10日間は、
最高に良い想い出になりましたわ。」
「いえいえ、あなた方が鮫人をやっつけてくれたお陰で、この村は救われました。どれ
だけ感謝しても足りませぬ。」
深々と頭を下げる長老の手を取り、魔戦姫達も何度も感謝した。
そして、鮫人撃退に助力してくれたガリュウと鬼武者にも感謝を示す。
「ガリュウさん、鬼武者さん・・・色々とありがとうございます。そして、今後ともよ
ろしく願いますわ。」
その言葉に、ガリュウは笑顔で答える。
「こっちこそよろしく。さっきあんた達のリーダーから連絡があってね、鬼宝湖に鮫人
が侵入してこないように監視の手伝いをしてくれるってさ。」
「まあ、リーリア様が?そうですの・・・」
ここでの経緯を、ガリュウは全てリーリアに話していた。それにより、今まで交流のな
かった魔戦姫と鬼の一族との間に信頼関係が結ばれたのであった。
(無論、ガロンには内緒の事であるが・・・)
村の子供達に囲まれたレシフェと天鳳姫とスノウホワイトが、子供達の頭を撫でていた。
「みんな、また来るからね。」
「元気にしてるアルよ。」
「あなた達と会えるのを楽しみにしていますわ・・・」
「ありがとう、ませんきのおねえちゃん。」
そして、村の人々とも別れを惜しんでいたミスティーアに、ガリュウは声をかけてきた。
「なあ、ミスティーアさん。ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょうか。」
ミスティーアと向かい合うガリュウは、少し照れた顔で頭を掻いている。
「また、休暇の時はここに来てもいいぜ。村の連中も、いつだって歓迎してくれるさ。
それに・・・その、困った時はいつでも声をかけてくれ、何があっても君達の所に駆け付
けるぜ。」
その言葉に、ミスティーアはちょっとだけ間を置いて・・・笑顔で返答した。
「嬉しいですわ、ガリュウさん。仲間の皆も喜びます。」
「喜んでくれて何よりだよ。」
そう言った後、ガリュウは何か小声で呟いた。
「・・・本当は君を助けたいんだけどな・・・」
その言葉はミスティーアには聞こえなかった。
「あの、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ、なんでも・・・」
笑ってごまかしているガリュウだったが、その顔を見たミスティーアは、彼の心境を少
しだけ垣間見たのであった。
「ガリュウさん・・・」
ミスティーアが話し掛けようとした時である。浜辺の向こうから、エルとアルが大急ぎ
で走ってきた。
「姫様ーっ、迎えの馬車が見えましたわ。」
「もうすぐここに来ますのー。」
魔戦姫を迎えに、ペガサスに牽かれた飛行馬車が現れたのである。
そして魔戦姫達は馬車に乗り込む。ガリュウと村人達に手を振りながら、魔界の赤き空
へ飛び立って行った。
「またお会いしましょう皆さーん。」
「待ってるよーっ。」
別れを惜しみ、馬車が見えなくなるまで、一同は手を振り続けた・・・
去って行く魔戦姫達を見つめていたガリュウの肩を、鬼武者は軽く叩く。
「名残惜しいですな。」
「ん、ああ・・・良い姫君達だったよな。あんな良い姫君が戦うだなんてよ・・・彼女
等を苦しめる悪党どもを全員ぶっ飛ばしてやりてえぜ。」
ポツリと呟いたガリュウの言葉に、鬼武者は笑って尋ねる。
「若、どーやら魔戦姫達に惚れた御様子と見ましたぞ。誰にですか?女戦士か中国人の
娘か・・・そうか、あの炎使いですな?そうでしょう。」
鬼武者にからかわれて顔を真っ赤にするガリュウであった。
「ば、バカッ。そんなんじゃねーよっ。お前だって白雪姫に惚れてるんじゃねーのか?
彼女に言い寄られてオロオロしてたのは誰だよ。」
「あ、あはは・・・そんな事もありましたな、いやいや・・・これは一本取られた。」
ガリュウと鬼武者は、魔戦姫達との想い出を胸に過らせながら笑った。
そして、名残惜しそうにしているのはガリュウ達だけではなかった。
目を潤ませて空を見つめている、アホ鬼2人組の姿もあったのだ。
「魔戦姫さま〜、またお会いしたいです〜。」
「うわっ?なんだよお前ら、その目はっ?」
振り返ったガリュウが、赤鬼と青鬼の顔を見て驚嘆の声を上げる。
泣きながら魔戦姫達との別れを惜しんでいるアホ2人の目は、純真なまでにキラキラ輝
いているのだ。
その目を見て、思わず眉をひそめるガリュウと鬼武者であった。
「う〜ん・・・こいつら、魔戦姫に何をされたんだ?」
「まあ・・・大体の察しは付きますが。存分に可愛がってもらったんでしょうな、たぶ
ん。」
納得してウンウンと頷くガリュウ。
そのガリュウに、赤鬼と青鬼が泣きじゃくりながら抱きついてきた。
「「わ〜ん、わかさま〜。寂しいです〜。」」
「ば、バカ野郎っ!!俺は男に抱きつかれる趣味はねえっ。まったく・・・せっかくイ
イ気分に浸ってたのに台無しだぜ。」
文句を言ってはいるが、少なからず、ガリュウの心境も2人と同じであったのは言うま
でもなかった。
「いつまで泣いてンだよ、さっさと帰るぞ。」
「は、は〜い。」
そんな気持ちを紛らわす様に、ガリュウは赤鬼と青鬼を促して湖を去って行った。
魔戦姫達が去って行った後、鬼の一族の本拠地では、総帥であるガロンが苛立った表情
で怒声を上げていた。
「うむむ〜っ、赤鬼と青鬼はまだ戻らんのかっ!!魔戦姫どもの監視に向かってから1
0日も経っているのだぞっ!?」
大声で怒鳴るガロンを見て、手下達はオロオロしながら返答した。
「はあ・・・全く連絡もありませんし・・・あいつ等の事です、道草でも食っているの
では・・・」
「ぶわっかも〜んっ!!それならさっさと見つけ出して連れて来いっ!!職務怠慢など
言語道断であるぞっ!!あのアホどもが〜、戻ってきたら只ではすまさんっ!!」
まさか2人が魔戦姫と遊んでいるなど考えもしないガロンの元に、屋敷の門番が血相を
変えて走って来た。
「お、御館様〜っ、若様が戻りました。赤鬼と青鬼も一緒ですけど・・・」
若様と赤鬼、青鬼・・・その言葉に目を剥いて振り返るガロン。
「なにぃ〜、ガリュウが戻って来ただとっ?」
「は、はい、鬼武者殿も一緒です。門まで来てもらえますか。」
門番の声に、ガロンは門へとバタバタ走って行く。門前には、息子ガリュウと鬼武者が
並んで立っていた。
それを見たガロンが怪訝な顔をする。
「むむっ。お前達、鬼宝湖から戻っていたのかっ?」
ガロンの問いに、ガリュウは悪びれた顔もなく返答する。
「ええ、只今戻りましたよ親父殿。遅くなってすみません、色々と野暮用がありまして
ね。」
平穏だった鬼宝湖に鮫人が出現し、たまたま湖に居合せた魔戦姫達が撃退してくれた事
をガロンに話した。
(無論、村の人々と魔戦姫が交流を結んだ事は喋っていない。)
「うむむ・・・あの鮫人が鬼宝湖にまで現れようとは・・・」
凶悪な襲撃者の出現に驚いていたガロンを見て、ガリュウはさりげなく話題を魔戦姫の
事に移す。
「魔戦姫達は勇敢に戦ってくれました。そのお陰で湖の平和が保たれたのです。どうで
すか、これで彼女達の事を見直して頂けましたか親父殿。」
ガリュウとしては、父親が魔戦姫と和解してくれる事を望んでいた。でも、この偏屈親
父がそう簡単に和解の意を示す筈はないのだった。
「それとこれとは話が別だっ。あいつらは我々の敵だぞっ!?鮫人をやっつけたぐらい
で魔戦姫を見直すなどできるか〜っ!!」
唾を飛ばして怒鳴り散らす父親に、怪訝な顔をするガリュウ。
「汚ったないなあ・・・唾を飛ばさないでくださいよ。魔戦姫を敵だとか思っているの
は親父殿だけでしょーが。それに、魔戦姫達は鮫人どもを撃退してくれた恩人ですよ。一
族の恩人を敵呼ばわりするのは仁義に反する事でしょう、どーなんです親父殿。」
息子に反論されて、二の句が言えなくなったガロンであった。
「うむむ〜っ、鮫人がどーのとか関係あるかっ!!奴等は敵だと言ったら敵だ〜っ!!」
開き直ってギャアギャア喚く父親を呆れた顔で見たガリュウは、もう話す事など無いと
判断してガロンに背を向けた。
「話が終わったのならこれで失礼しますよ、俺も忙しいんでね。行くぞ鬼武者。」
頷いた鬼武者もガリュウに付き従う。
「はい若。それでは御館様、拙者もこれにて・・・」
歩き出すガリュウ達を、ガロンは呼び止めようとする。
「待たんかコラッ!!話はまだ終わって・・・ええいクソッ!!」
地団駄を踏むが、ガリュウ達は無視して去って行った。
「まったく偏屈な奴だ・・・つまらん所だけ俺に似おってっ。」
ブツブツ文句を並べるガロンの前に、涙目の赤鬼と青鬼が迫る。
「御館さま〜っ、どーして魔戦姫さまを悪く言われるのです〜っ。お優しい姫君なのに
〜。」
魔戦姫を(さま)付けで呼ぶ2人を見て、ガロンの怒りのボルテージが急上昇する。
「なぁんだとお〜っ!?あ奴らを(さま)呼ばわりするとは・・・き、貴様等っ、魔戦
姫に寝返りおったか不忠者ーっ!!」
だが、その憤慨すら押し返すアホ鬼達のドアップ。
純真無垢なるキラキラ輝く瞳を潤ませ、ガロンに魔戦姫の愛を訴える赤鬼と青鬼・・・
「御館さま〜っ、俺達は魔戦姫さまに真実の愛を教えて頂いたのでぅす、寝返ったので
はありましぇ〜んっ。」
「御館さまも魔戦姫さまから愛を教えてもらってくださいじゃ〜んっ。」
「ぬおっ!?な、なんだそのキラキラした目はっ!?気持ち悪いっ、あっちに行け〜っ!
!」
屋敷の庭を、アホ鬼2人がガロンを追いかける。さすがの魔界鬼王も、魔戦姫の慈悲深
き愛の前には形無しであった。
そしてガロンは、脳天から湯気を噴出させて吠えた。
「んが〜っ!!覚えておれ魔戦姫ども〜っ!!この借りは必ず返してやる〜っ!!」
「お、御館様〜、お気を確かに〜。」
宥める手下達だった・・・
そして、屋敷を去って行くガリュウと鬼武者は、晴れ渡る魔界の赤い空を見上げた。
「・・・なあ鬼武者、守ってやろうぜ優しい姫君達をさ・・・これからも・・・」
「ええ、守ってやりましょうぞ、姫君達を・・・」
新たなる再会の時を想い、2人は決意を新たにするのであった・・・
休暇を終え、魔戦姫の城に戻って来たミスティーア達は、リーリアの自室に顔を出して
いた。
「リーリア様、只今戻りました。」
部屋に入って来たミスティーア達の顔には活力が戻っている。それを見て、魔戦姫の長
は満足そうに微笑んだ。
「元気になったようですわね、休暇は楽しめましたか?」
「ええ、おかげさまで楽しく過ごせました。怪我もすっかり治りましたし。」
「そう、それはよかったですわ。」
椅子に腰掛けていたリーリアは、ガリュウから告げられたメッセージを思い出した。
鬼宝湖に出現した鮫人を撃退してくれた勇気在る戦いの事、そして・・・長年交流のな
かった鬼の一族との間に、掛替えのない橋渡しをしてくれた頼もしい魔戦姫達の活躍に・・
・
「あなた達のおかげで、鬼の一族の方々と和解できる糸口が開けましたわ。心から感謝
しますわよ。」
「ありがとうございます、リーリア様・・・」
リーリアの心遣いほど、ミスティーア達に嬉しいものはないのであった。
「まさか鮫人と戦う事になるとは思ってませんでしたけど。でも湖の人達、みんな良い
人でしたわ・・・良い想い出も沢山できましたし・・・」
口々に話すミスティーア達を見て、机の上に肘をついて微笑むリーリア。
「こちらも村の方々にお世話になった事ですし、鬼宝湖の警備にも協力させて頂くとし
ましょう。それと・・・あなた達は、湖でサッキュバスの女王と出会ったそうですわね?」
リーリアの質問に、一同は思わず顔を真っ赤にして戸惑った。
そう・・・湖の(乙女の島)での出来事は、余りにも悦びに満ちた事であったから。
「あ、あの〜、それを誰に聞いたのですか・・・」
「ひょっとして、湖の人達が・・・」
うろたえるミスティーア達を見て、リーリアはクスッと笑い、そして感慨深げに目を伏
せる。
「村の人々から聞きましたわ。そう、あの方が・・・もうずっと前に亡くなられたと伺
ってましたけど、そんな所におられたとは・・・」
どうやら、リーリアはサッキュバスの女王を知っているようだ。それを聞く天鳳姫。
「もしかして、リーリア様もサッキュバスの女王と出会った事があるのコトですか?」
「ええ、ずっと昔の事ですけどね。私が魔界に来て間のない頃、傷ついた私の心を癒し
てくださったのが、サッキュバスの女王でしたわ。とても・・・優しいお方でした・・・」
その返答に、一同は顔を見合わせた。リーリアの言葉通りなら、リーリアはサッキュバ
スの女王に・・・
「ひょっとして、リーリア様も・・・ですわ。」
「間違いないアルよ、あんなコトや、こんなコトを〜。」
「私達と同じ事をしてもらったのですわね。」
「・・・まあ、それはそれは・・・」
喜び合う一同であったが、まだ不安の残る事があった。
それは魔戦姫を敵視するガロンが、湖へ無断で足を踏み入れた事に対して因縁をつけて
こないか、との事だった。
不安を隠せない一同が、リーリアに尋ねる。
「あの、リーリア様、ガロン様の事は大丈夫なんでしょうか?いくらガリュウさんでも、
あの偏屈なガロン様を説得できるとは限りませんわ。」
「そーアルですよ。説得できなくてガロン様が魔戦姫の城に乗り込んで来たら・・・」
「・・・ああ、どーしましょう。そんな事になったら・・・」
皆がオロオロしていると、リーリアがニッコリ微笑んで語り掛ける。
「あら、大丈夫ですわよ。もしガロン様が押し掛けて来ても、全て私に任せなさい。あ
なた達は心配せずに放っておけば良いのですわ、偏屈ガロン様なんか。」
頼り甲斐あるリーリアの言葉に、一同は安堵の笑いをあげた。
「あはは・・・そうですわね。あんな偏屈ガロン様なんか放っとけばよろしいのですね、
アハハッ。」
明るく爽やかな笑い声が魔戦姫の城に響いた。
束の間の安息を終えた魔戦姫達は、再び戦いの日々に身を投じる事になる。だが、鬼宝
湖で出会った人々の明るい笑顔が彼女等を守ってくれる・・・
楽しい想い出を胸に、魔戦姫達は新たなる明日に進むのであった・・・
ミスティーア・炎の魔戦姫番外編、魔戦姫の休日
END
次回作に続く・・・
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