魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀30
全ての悪しき者達の末路
ムーンライズ
ついに賢者の石は破壊された。そして残る敵はゲルグのみ・・・
ゲルグを倒すべく上階に出たミスティーア達、魔戦姫は、ゲルグの居場所を探して回っ
た。だが、城の中に狂狼の姿は無い。
先ほどの遠吠えは確かにゲルグのものだった。しかし奴の姿は何処にも無い。あるのは
肉塊と化した魔人のみ。
累々と転がる魔人を見ていたミスティーアが、魔人の遺体がおかしいのに気がついた。
「ねえみんな、これを見て。」
彼女が指差す方向に転がっている魔人達は、まるで巨大な獣によって食い散らかされた
ような有様になっている。
明らかに、先ほど魔戦姫達と戦った時のダメージとは異なっていた。
魔人を摘み上げたジャガー神がクンクンと臭いを嗅ぐ。
「これは・・・さっきのワン公の臭いだニャッ!!」
その言葉に驚く一同。そしてミスティーアがジャガー神に声をかける。
「ジャガー君、この魔人達はゲルグにやられたって言うの?」
頷くジャガー神。
「そうニャ。こいつら、あのワン公に食われたんだニャ。他の奴もそうみたいだニャ。」
そして他の魔人を見ると、同じ様な感じではらわたを引き摺り出され、見るも無残に食
われてしまっている。
魔戦姫達の背筋に戦慄が走った。普段恐怖に臆する事の無い彼女達ですら、戦慄を感じ
たのだ。
仲間を食らった狂狼はどこへ・・・
それはすぐに判明する。
何気なく窓の外を見るミスティーア。時刻は既に夕刻となっており、夜空には満月が昇
っていた。
その満月の光に照らされるバーゼクス城。その屋根の上に、何者かが立っている。
ワオオーン・・・ワオッ、ワオオオーンッ!!
夜空を切り裂く遠吠えを発し、満月に吠えるその者は・・・
「げ。ゲルグですわっ!!」
ミスティーアの絶叫に、他の者も集まる。
「あんなトコにいたアルか・・・」
「あ・・・あれを見てっ!!」
レシフェの声に、一同はゲルグの姿を再度見る。ゲルグは足元に転がっている魔人を掴
むなり、胴体や手足を引き千切ってムシャムシャと食らい始めたのだっ。
そして魔人を貪り食ったゲルグの身体がさらに隆起し、巨大化していく。そして再度満
月に向かって吠えるのであった。
「あのバケモノ・・・魔人を食べてパワーアップしてるんだわっ!!」
レシフェが真っ青になって叫び、他の者達も声を失っている。
ゲルグの雄叫びは全てものを震えあがらせ、恐怖のドン底に引き摺りこむ。
その狂狼が狙っている獲物は・・・まさしく魔戦姫達であった。
無敵のリーリアですら苦戦した怪物が、さらにパワーアップしているのだ。このままで
は苦戦どころではなくなる。
うろたえる一同だったが、レシフェの携帯端末から発せられる着信音が一同を驚かせた。
慌てて携帯端末を取り出すレシフェ。
「え、なに?携帯端末が使えるようになったわっ。」
先ほどまで賢者の石の影響で使えなかった携帯端末が、使用できるようになっているの
だ。
「はい・・・あっ、リーリア様っ!!」
携帯端末のディスプレイに、リーリアの顔が映し出される。そして地下での状況を説明
した。
(・・・デスガッドを倒し、賢者の石も破壊しましたわ。そちらの状況は?)
リリーアの質問に、深刻な表情で答えるレシフェ。
「それが・・・ゲルグは恐るべき変貌を遂げています。我々の手に負えるかどうか・・・
」
いつに無く深刻な口調のレシフェに、リーリアも声を曇らせる。
(判りましたわ、すぐにそっちに向かいます。それと・・・賢者の石を破壊した事によ
り、間もなくバーゼクス城が崩壊するわ。ゲルグを倒す事より、ここからの脱出を優先な
さい、いいですね?)
「わかりましたわ、それでは。」
手短に応答を交わし、レシフェは携帯端末をドレスに収める。
そのレシフェに天鳳姫が声をかけてきた。
「リーリア様は賢者の石を壊せたアルか?」
「ええ、ハルメイル様も皆、無事だそうよ。とにかく、今は城に残っているスノウホワ
イトとアルカ、そしてセカンドチーム達を城から脱出させるのが最優先よ。」
「了解アルよ。」
「判りましたわ。」
頷きあった一同は、ゲルグとの戦いを後にして、仲間とセカンドチーム達の救出に向か
った。
だが、彼女達は深刻な事に気がついていなかった。
ゲルグがいる建物の近くで、スノウホワイトやセカンドチーム達が隠れているのだった・
・・
早急なる行動が有される事態に、魔戦姫達は焦りを堪えながら先を急いだ。
現時点でバーゼクス城の詳細を最もわかるのはミスティーアだ。スノウホワイトから渡
された見取り図を見ながら先を進む。
「レシフェさん、バーゼクス城が崩壊するのは後どれぐらいってリーリア様は言ってま
したの?」
「詳しくはわからないらしいけど・・・後2、30分ぐらいと仰ってたわ。それまでに
皆をここから脱出させないと・・・」
「じゃあゲルグと戦っている暇はありませんわね。携帯端末が使えるようになったって
事は・・・魔界ゲートも使えるって事ですわね?」
ミスティーアの質問に頷くレシフェ。
「多分ね、そうだとしたら少し楽だわ。みんなを見つけ次第、魔界ゲートで魔界に送れ
ば良いから。」
そう話し合っていた2人に、後から走ってくるリンリンとランランが声をかける。
「でしたら、ゲルグを時間一杯まで引き付けてから逃げればいいんじゃないですか?」
「アタイも、そう思いますズラ、いくら相手がバケモノでも、城が吹っ飛ぶのに巻きこ
まれたら一巻の終わりズラ。」
ゲルグと直接対峙していない2人は、簡単にそう思っていた。だが、狂狼の恐ろしさを
熟知しているミスティーア達は、深刻な顔で口を開いた。
「そう簡単に行けば良いのですけど・・・ゲルグを甘く見たら大変ですわよ。」
ミスティーアの言葉に、息を飲むリンリンとランラン。
とにかく油断はできない。自然に彼女達の足は早まったのである。
そしてここはスノウホワイト達が隠れている部屋。王族しか知らない秘密の部屋だ。
本来はどんなに外敵が攻めて来ても安全な様になっているのだが、外から聞こえてくる
狂狼の雄叫びが、その安全すら揺るがしていた。
しかも、状況を知る術の無いスノウホワイトとアルカは、ただ部屋の中でジッとしてい
るしかなかった。
熱も収まり、落ちついた様子のスノウホワイトに寄りそうアルカ。
「スノウホワイト様、大丈夫ですか?」
「え、ええ・・・なんとか。それより、ハルメイル様はまだ、ですか・・・」
「はい、どうなされているのかも判りません。それに、さっきから聞こえてくる遠吠え
が気になりますわ。すぐ近くにゲルグがいるのは確かです、ここから早く逃げた方が賢明
かと・・・」
「イヤですわっ!!私は待ちます、ハルメイル様は必ず帰ってこられる・・・信じてま
すから・・・」
「スノウホワイト様・・・」
アルカはスノウホワイトの安全を優先的に考えているが、等のスノウホワイトは、ハル
メイルが帰って来るまでここで待つのだと言っている。
ハルメイルの事が心配であるが故、強情をはってアルカを困らせるスノウホワイトであ
った。
「・・・ごめんなさいアルカさん・・・でも私は1人でも待ちたいんです。もし、危険
が迫ったらアルカさん、あなた1人でも逃げて・・・」
無理を言った事を謝罪するスノウホワイトだったが、アルカには目を閉じて首を横に振
った。
「いいえ、私こそスノウホワイト様の御気持ちを考えず、でしゃばった事を言いました
わ。こうなったら、最後まであなたをお守り致します。」
「アルカさん・・・ありがとう・・・」
潤んだ眼でアルカの手を握るスノウホワイト。
そんな2人に、部屋の扉から外を伺っていたエリーゼ姫が声をかけてきた。
「さっきから聞こえていた戦闘の音が止んでますわ。どうやら、戦闘が終わった様です
ね。」
彼女の言う通り、魔人達は殆ど八部衆や魔戦姫によって倒されているので、戦闘は完全
に終息している。
しかし、危険は収まっていない。いや、今まで以上に深刻であるかもしれないのだ。
そう、狂狼ゲルグの危機が・・・
扉から離れようとしたエリーゼは、不意に扉をドンドンと叩く音に驚いて振り返った。
「だ、だれっ!?」
扉の向こうから、苦悶の声が響いてくる。
「た、助けて・・・は、早くここに隠れさせて・・・」
「まって、今助けますわ。」
悲痛な声に、エリーゼは思わず扉のカギを開ける。しかし、扉の向こうにいたのは・・・
「ひっ!?ま、魔人っ!!」
なんと、全身血塗れになった魔人だったのだ。
「ううう・・・たすけて・・・たすけ、てえげっ!?」
部屋に入ろうとした魔人の頭を、巨大な毛むくじゃらの手が掴む。そして狂暴な手は魔
人の頭部をメキメキと握り潰していくっ!!
「ひいっ、や、やめて・・・あがあっ!!」
悲鳴を上げた魔人の頭部が、スイカの様に粉砕される。
突然現れた恐怖。そして、魔人を潰した者の正体を知って、エリーゼは恐怖の絶頂に追
い込まれる。
「あ、ああ・・・げ、ゲルグッ!!」
腰を抜かして座り込む彼女の前に、巨大な、そして狂暴な(恐怖)をまとった怪物が出
現する。
魔人を貪り食ったゲルグは、魔人の肉体と能力をその身に宿し、身長3m近くまで巨大
化していた。
「クックック・・・エリィ〜ゼェ〜ッ。こぉんな所に隠れてやがったかぁ〜っ。」
隻眼を光らせ、ゲルグは唸り声を上げてエリーゼを見据えた。血塗れの手がエリーゼを
掴んで持ち上げる。
「ひっ!?ひいいっ!!やめて、離してぇっ!!」
悲鳴を上げるエリーゼを持ち上げ、連れ去ろうとするゲルグ。それをアルカとスノウホ
ワイトが阻止しようとした。
「やめなさいゲルグッ!!エリーゼ姫を・・・きゃああっ!!」
しかしあっけなくゲルグに跳ね飛ばされる。
「貴様らに用はないぃ、失せろぉおお〜っ。」
床に倒れているアルカ達に背を向け、ゲルグはエリーゼを連れ去っていった。
そして、ゲルグによってエリーゼを連れ去られた事を知らない魔戦姫達は、先に最上階
へと逃げていたセカンドチームと合流していた。
ゲルグに一糸報いたいとするセカンドチーム達を強制的に魔界へと非難させ、魔族の娘
達も同様に送った。
これで城から脱出させねばならないのは、スノウホワイト、アルカ、エリーゼ姫だけだ。
バーゼクス城が崩壊するまで、あと15分ほど・・・
スノウホワイト達を助けるまで、なんとかゲルグと出会わねばいいが・・・そう思いな
がら走る一同。
しかし、ゲルグとの交戦は避けられなかった・・・
ようやくスノウホワイト達のいる場所まで辿り着いたミスティーア達。だが、壊された
部屋の扉を見て、一同は絶句した。
「ま、まさか・・・ゲルグが・・・」
「アルカッ、スノウホワイトッ!!」
血相を変えたレシフェが部屋に飛び込む。そこには、気絶しているアルカとスノウホワ
イトが横たわっていた。
「2人ともしっかりっ!!」
「う、うう・・・姫様・・・ゲルグが・・・ううっ・・・」
どうにか起きあがるアルカ。幸いにも怪我は軽傷で、スノウホワイトもダメージはなか
った。
「エリーゼ姫は連れ去られたのね。で、ゲルグはどっちに?」
「はい・・・ゲルグは何処へ行ったのか判りません。エリーゼ姫の事が心配ですわ・・・
彼女を守れなかった。」
泣きそうになるアルカに抱きつくレシフェ。
「ううん、あなたが無事でよかった。アルカがいてくれないと私はダメだから・・・」
妹が姉を愛しむ様に、レシフェはアルカに頬を寄せる。
そんな2人の耳に、狂暴な声が聞えてきた。
「ウオオーンッ!!出て来い魔戦姫ども〜っ!!俺と戦え〜っ!!」
その声は城の屋根から聞こえてくる。慌てて部屋から飛び出ると、廊下の窓ではミステ
ィーアが声を詰まらせて外の様子を見ていた。
「レシフェさん、あれをっ。」
ミスティーアの指差す方向には、屋根の上で仁王立ちし、魔戦姫を待ち構えるゲルグの
姿があった。
しかも、ゲルグの後ろには避雷針に縛り付けられたエリーゼ姫の姿が・・・
「あの狼男・・・どこまでも卑怯な奴っ!!」
悔しそうに呟くレシフェ。エリーゼを人質に取られた以上、もはやバーゼクス城から逃
げる手立ては無くなった。
戦わねばならないのだ、狂狼と・・・
振り帰ったレシフェは、戦う事のできないスノウホワイトに歩み寄る。
「スノウホワイト、あなたはここで待ってて頂戴。すぐにリーリア様やハルメイル様が
来てくれるわ。」
「ええ・・・でもゲルグは強いですわ・・・気をつけて・・・」
「わかったわ。」
スノウホワイトの言葉に頷くレシフェ。
「ドワーフ達、スノウホワイトを見ててね。」
「リョウカイ、ヒメサマ、マモル。」
そしてレシフェはドワーフ達の頭を撫でて立ち上がった。
「行きましょう・・・奴を倒すために・・・」
「ええ。」
一同は歩み出そうとした。と、その時である。
『・・・まて、今のお前達が奴と戦っても勝ち目は無い・・・もう一度、余の魔力をお
前達に授けようぞ・・・』
闇の底から響く魔王の声と共に、魔戦姫と侍女達は黒い光に包まれたのであった・・・
屋根の上で魔戦姫を待ち構えるゲルグ。彼は最強の敵と戦う悦びに燃えていた。
もはや今の彼には、戦う事しか眼中に無かった。
「うおお〜ん・・・魔戦姫ぃぃ〜、今度こそケリをつけてやるぅぅ〜。」
そう呟いたゲルグは、避雷針に縛り付けているエリーゼに近寄る。
歩み寄る怪物を前にして、声も出ないほどに怯えているエリーゼ姫。
「あ、ああ・・・こ、こないで・・・いや・・・」
ガタガタと震えるエリーゼの顔を掴んだゲルグは、鋭い牙の並ぶ口を開き、生臭い息を
吐き出す。
「ぬふふ、エリーゼェ〜。お前は俺の女だあ〜、死ぬまで俺が可愛がってやるぅ・・・
タップリとなあ〜っ。」
そう言いながらエリーゼの顔を舐めるゲルグ。
「あひっ、いや・・・もうやめて・・・ひいい・・・」
泣き叫ぶエリーゼを見ながら、ゲラゲラと笑う。
「グハハッ、泣け、叫べっ!!魔戦姫どもを倒した後でお前を犯してやるからなあ〜、
そこで待っていろおお〜っ。」
立ちあがるゲルグ。その狂狼の五感が敵の迫っている事を感じ取った。
やがて、彼の頭上に黒い光が出現する。そして広がる闇から魔戦姫達が現れたっ。
「ゲルグッ!!私達は逃げも隠れもしなくってよっ。正々堂々勝負をしましょうっ!!」
現れたる3人の魔戦姫。そして彼女等の侍女達、及び召還獣。
一同からは強力な魔力が漲っていた。闇の魔王から授かった魔力を身に宿し、ゲルグと
対峙する。
「フフフ、笑わせるなあ〜。雑魚が何人集まろうと俺の敵ではないっ。さっきの黒服女
はどーした?さては怖気づいたか〜?」
そんなゲルグを、魔戦姫達は鋭い視線で睨む。
「お前のような奴はリーリア様の御手を煩わせるまでもありませんわっ。闇の魔王様か
ら頂いた魔力、そして我等の真なる力を見るがいいっ!!」
叫ぶ魔戦姫達。そして彼女等の侍女と召還獣が戦闘モードへと入った。
アルカとジャガー神の身体がレシフェのナイフに吸収され、リンリン、ランランの2人
が巨大な2本の青竜刀に変身し、イヤリングに変身したエルとアルがミスティーアの耳に
装着される。
そして、魔戦姫達の身体に侍女、召還獣の能力が宿った。パワー、スピード、戦術的能
力・・・全てが一体となった魔戦姫達。
魔力を極限まで向上させ、侍女達と精神を完全一致させた時のみできる能力である。そ
の戦闘能力は通常の何倍にも増加する。
これこそ、魔戦姫の最強バージョンと言えるのだ。最強者対、最強者の戦いが再び始ま
るっ。
最初に仕掛けたのは天鳳姫であった。青竜刀をかざし、突進する。
「せぇやああーっ!!」
リンリンのスピードとランランのパワーが一体化した豪快な剣戟がゲルグに迫る。それ
を受けとめようとした瞬間、もう片方の青竜刀が下段から繰り出され、ゲルグの胸板を切
りつける。
「うおっ!?」
叫ぶ間もなく、今度は真横から顔面目掛け、レシフェの蹴りが炸裂した。
「ぐおおおっ!!」
強烈な衝撃を浴びて、ゲルグの巨体が屋根に叩きつけられる。ジャガー神のパワーを宿
した豪快なる蹴りは、通常の数倍の破壊力を持つのだ。
そしてスリットの入った草色のスカートが舞い、フワリと身を翻してレシフェは屋根に
降り立つ。
「どう、ジャガー神のパワーが宿った蹴りの威力は?」
転げるゲルグを見て、ニヤリと笑うレシフェ。
そしてレシフェと天鳳姫は素早く飛び退いた。
「ミスティーアッ、さあ決めてっ!!」
「はいっ。」
レシフェの声を受け、ミスティーアは身構える。
((姫様っ、いきますわ、のっ!!))
イヤリングに変身しているエルとアルから、黄色い光が飛んだ。彼女達の着ている黄色
のドレスだ。それがミスティーアの手の中で武器に変化した。
「戦闘ドレス、超合体っ!!」
2人のドレスが一体化し、雪男を撃破した戦槌(ウォーハンマー)が出現する。
巨大な鋼鉄のハンマーを、エルとアルの能力である怪力を腕に宿して振り回す。
「やああーっ!!」
炎を巻上げながら大回転するウォーハンマーが、よろけるゲルグ目掛けて叩きつけられ
た。
ドガアッ!!
その一撃はゲルグの肩に直撃する。肩から腹にかけてハンマーがめり込み、そしてゲル
グは倒れた。
「うお、おおお・・・」
昏倒するゲルグを見て、歓喜の声を上げるミスティーア。
「・・・やりましたわっ!!」
素早くハンマーを引き抜き、後ろに下がる。しかし・・・
「ヴ、ヴウウウ・・・」
倒れたゲルグが、呻き声と共に起きあがり始めたのだ。しかも引き裂かれた体が見る見
る内にくっつき、再生を始めたではないかっ。
「さ、再生能力!?」
驚愕するミスティーア達。ゲルグは魔人を食らうことにより、その魔人の能力を身につ
けていたのだ。ヒトデ魔人よりも優れた再生能力は、あっという間にゲルグのダメージを
回復させていた。
「グフフ・・・俺は不死身だと言ったろうが〜。俺が持つ能力はこれだけではない、食
らえっ!!」
叫んだゲルグの全身の毛が逆立ち、鋭い毒針となって発射された。それをバリアーで防
御する魔戦姫達。
「これは毒バチ女のっ!?」
ゲルグは地下室にいた毒バチ女をも食らい、その能力を身につけていたのだ。
「形勢逆転だなっ、ウオオーンッ!!」
怯んだ魔戦姫達に、ゲルグ自身の能力、超音波砲撃が放たれる。
「逃げてっ。」
とっさに身を交わす3人。屋根が吹っ飛び、瓦礫が宙に舞う。
「フハハッ!!逃げ場はないぞおっ、ウオオーンッ!!」
超音波砲撃の連打が、そして毒針の嵐が容赦無く3人に襲いかかった。
その猛攻を交わしながら、レシフェはアルカの持つ透視能力でゲルグの弱点を探る。
「奴の動きを封じるには、神経を切断すればいいのね?」
(はいっ・・・神経を切断されれば、再生までの間、動きが止まります・・・その隙に
ダメージを与えるのですっ。)
「承知っ!!」
アルカと会話を交わし、果敢にもゲルグに立ち向かう。
真正面から飛びかかって来るレシフェを向かえうつゲルグ。
「捻り潰してくれるぞ〜っ!!」
豪腕で捕まえようとする。しかし眼にも止まらぬ早業でそれを交わし、レシフェはバッ
クに回った。
「たああーっ!!」
ジャンプしたレシフェは、ナイフでゲルグの延髄を切り裂いた。神経の中枢、延髄を切
り裂かれたゲルグの動きが止まった。
「うあ・・・うごけんん・・・」
一時的に全身不随状態に陥ったゲルグに、レシフェが飛びかかる。
「さあっ、2度と吠えれないようにしてあげますわ狼男めっ!!」
渾身の力を込め、喉にナイフを突き立てる。しかし、脅威的な再生能力によって再度復
活するゲルグ。
「ぬうっ、舐めやがってーっ!!ヴオオッ・・・オオッ!?」
超音波砲撃を放とうとしたが、砲撃が出ない。レシフェの攻撃が確実に効いているのだ。
「やったわっ、奴の武器を封じたっ。今よ天鳳姫っ!!」
「了解アルねっ。」
超音波砲撃が使えなくなった今、攻撃のチャンスだ。
そして今度は、天鳳姫がゲルグに戦いを挑んだ。
「すぐに再生するんだったら・・・再生能力を封じれば良いのコトね。リンリン、ラン
ランッ。ワタシの血を吸収するアルよっ!!」
そう言うや否や、リンリンとランランの変身した青竜刀で腕を刺す天鳳姫。猛毒の鮮血
が青竜刀に注がれる。
((毒血注入完了です、ズラッ!!))
青竜刀から声が発せられ、戦闘準備は完了した。
「行くアルよ〜っ、はいやああ〜っ!!」
猛毒を宿した青竜刀を両サイドから切りつける。
「来やがれっ!!」
天鳳姫の2段攻撃を予測して、両腕で2本の青竜刀を押さえようとした。しかしその攻
撃はフェイントだった。
素早く後方に身を交わす天鳳姫。
「アホ狼っ、単純すぎるアルねっ!!」
青竜刀を振りかぶり、ゲルグ目掛けて投げ付けた。一直線に飛んだ青竜刀がゲルグの胸
板を貫いた。
「ぐわあっ!?げぼっ・・・うぐぐ・・・」
苦悶の声を上げながら刀を抜こうとする。しかし、青竜刀は胸板に刺さったままビクと
もしない。
「ぬううっ、こんなバカな・・・ぬ、抜けんっ!?」
そしてリンリン、ランランの声が響いた。
(これであんたもお終いよっ!!)
(猛毒をお見舞いしてやるズラッ!!)
青竜刀に仕込まれた猛毒がゲルグの心臓に注入される。細胞をバラバラにする破壊毒が
全身に行き渡った。
「ぐおおおーっ!!」
ゲルグの全身から凄まじい鮮血が吹き出る。毛細血管が破壊され、血が噴出しているの
だ。
無限の再生能力も、天鳳姫の猛毒で完全に失われた。
ゲルグの胸板から青竜刀が抜け、天鳳姫の元へと帰って行く。よろけるゲルグへ、トド
メとばかりにミスティーアが炎を繰り出した。
「燃え尽きなさいっ、ファイヤーウォールッ!!」
ミスティーアの声と共に、ゲルグの全身を紅蓮の炎が包んだ。悶え苦しみながら、炎と
格闘するゲルグ。
「うがああ〜っ!!お、俺は負けんんん〜っ!!お、俺は最強者なのだああっ、わおお
お〜んっ!!」
炎で焼かれながら、狂気の雄叫びを上げて3人に突っ込んでくる。
それを迎え討つ魔戦姫達。
「さあ、みんなっ。魔力を最大にしてっ!!」
レシフェの声と共に、全魔力を集約する。
レシフェのドレスがフォレスト・グリーンに輝き、天鳳姫の羽衣が白銀の光を放つ。そ
して・・・ミスティーアの赤紫のドレスが、炎をまとった真紅のドレスになった。
「これで最後ですわっ、お前の負けよゲルグッ!!」
三位一体、いや、九身一体となり、ゲルグ目掛けて真正面から特攻する。
レシフェの蹴り、天鳳姫の剣戟、炎をまとったミスティーアのウォーハンマー。全ての
力が集約された。
「魔戦姫合体技っ!!バーニング・アタックッ!!」
全てを破壊する、凄まじい攻撃がゲルグに炸裂した。
「ぐわあああーっ!!」
断末魔の叫びをあげ、空中高く弾き飛ばされるゲルグ。
彼の隻眼に、余りにも美しい姫君の姿が焼き付けられた。そして、それがこの世で見た
最後の光景となった。
「うおおお〜んんん〜っ。」
城の最上階から地上へと真っ逆さまに転落し、そして轟音と共に大爆発した。
世界を修羅地獄にしようと企んだ、最強者の壮絶な最後であった。
燃え尽きるゲルグを無言で見届ける魔戦姫達・・・
しかし彼女達には、まだやらねばならない事があった。
ドドドッ・・・
城の下から轟音が鳴り響き、城全体が揺れ始めた。賢者の石の崩壊によって、城が崩れ
始めたのだ。
速やかに避雷針に縛り付けられているエリーゼ姫を助け出す。そして携帯端末でリーリ
アに連絡をとるミスティーア。
「リーリア様っ、ゲルグを倒してエリーゼ姫を助けましたわっ!!」
その応答に、なぜかハルメイルが出てきた。
(ミーちゃん、オイラだよっ。今スノウホワイトの所にいるんだっ。リリちゃんもジッ
ちゃんも伯爵も一緒だよっ。)
「は、ハルメイル様?」
どーやら、リーリアの携帯端末を横取りして話しかけているようだ。
ミスティーア達は、スノウホワイトがいる場所へ目を向ける。そこには・・・スノウホ
ワイトを抱き抱えたハルメイルが手を振っているのが見える。リーリアや八部衆の3人も
一緒だ。
「よかった・・・みんな一緒ですわ。」
安堵の溜息をつく魔戦姫達。
ミスティーア達もリーリア達も、崩れ行くバーゼクスを後にした。そして、安全なる場
所へと移動したのであった。
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