魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀18
魔人の巣窟と闇に堕ちたボビー
ムーンライズ
魔人量産計画が進行している時、エリーゼ姫を伴ったボビーは、城の地下道を進んでい
た。
地下道から城内に入るための道先案内をするボビー。
「お后様、こちらです。」
「ええ、わかりましたわ。」
ボビーは前に、敵が地下道に潜入してきた事を想定した訓練を受けているので、地下道
の詳細を知っているのだ。
後ろには嫌そうな顔の看守が続いている。
「なんでわざわざ城になんか・・・もうやだよ俺、早く帰りてぇよ〜。」
「文句言うなっ!!それ以上ボヤいたらブッ飛ばすからなっ!!」
「ひーん。」
ボビーに怒鳴られ、泣きながら付いて行く看守。
警戒厳重な城からの脱出に際し、国王モルレムを人質にする事を思い立ったエリーゼは、
召使いの振りをしてモルレムの寝室に向かう事をボビーに話した。
「もうすぐお昼です。モルレムはいつも昼前まで寝てますから、寝ぼけている所を捕ら
えましょう。」
「はい、でも・・・警備の者をどうやってごまかしたらいいのでありますか?」
「その辺は大丈夫ですわ、警備兵はアホ国王のモルレムを命がけで守るなどとはしてい
ません。いつも警備が甘いのですよ、ここは私の指示に従ってください。」
「はあ・・・わかりました。」
心配するボビー。いくら脱出とはいえ、まさか国王を人質にするなどとは考えもしなか
ったからだ。だが、単に脱出しただけでは直にゲルグの追っ手が迫る事になる。
それでも、モルレムを盾にしてゲルグやデスガッドの正体と陰謀を国民に知らせれば、
善意在る国民が決起して自分達を支持してくれるであろう。
成功する確率は極めて低い。でもやるしかない・・・正に命がけの決死行となるのだ。
「城の厨房に出ます。」
地下道から縦に伸びる坑道を登った一行は、人気の無い事を確認して厨房に出た。
「誰もいないな・・・」
昼前ともなれば昼食の準備をする召使い達で騒がしくなる筈だが、その気配がまるでな
い。
実際には魔人量産計画の為に、城内の召使い達を全員締め出しているのだ。無論、その
事をエリーゼ達は知らない。
「国王陛下に昼食を持って行く計画が無駄になりそうですね、夜まで待ちますか?」
「いえ・・・私が逃げた事がバレる前にモルレムを人質にしなければいけません。とに
かくここを出ましょう。」
エリーゼの言葉に、厨房から出て行くボビーと看守。
静まり返っている城内を歩いていた3人の耳に、微かながら女の悲鳴が聞こえてきた。
「あれは・・・まさかっ!!」
その悲鳴がお姫様歌劇団のものではないかと思ったボビーが顔色を変えた。
悲鳴のする方向に向かおうとしたボビーを制するエリーゼ。
「待ちなさいっ、今行けばあなたも捕まりますよっ。」
「でも・・・」
「ミィさんを案じるあなたの気持ちはわかります。でも今は堪えてください。」
「わ、わかりました・・・」
エリーゼの懸命な説得に渋々応じるボビー。
先ほどの悲鳴はホールからであると推測できる。ミィさんはそこに囚われている筈だ、
できれば今すぐ助けに行きたい。
でも安易に救出に向かえば弟子達に捕まるのがオチだ。
「くっ・・・ミィさん・・・必ず君を助けに行く・・・待っててくれ・・・」
ミィさんを助けに行けない悔しい気持ちを押さえたボビーは、エリーゼの後についてモ
ルレムの寝室に向かって歩き出した。
そのころモルレムは、寝室のベッドの上で大きないびきをかいて眠っていた。
「ぐ〜、ご〜。ムニャムニャ・・・う〜ん・・・ウニャッ!?」
寝返りをうった勢いでベッドから転げ落ちたモルレムは、頭をボリボリ掻きながら目を
覚ました。
「あたた・・・昨日は飲みすぎたな・・・」
昨夜泥酔していたモルレムは、二日酔いに悩まされながら起きあがる。
パンツ1枚というだらしない格好で部屋のドアを開けると、いつもの警備兵ではなく、
デスガッドの弟子達が寝室の警備をしているのが見えた。
「ん〜?なんだお前らは?警備兵はどーした。」
ドアの両脇に立つ弟子達がモルレムに向き直る。
「おはようございます陛下。今日は警備兵を引き払っておりますので、代わりに私達が
警備をしております。」
「あン?なんで警備兵を引き払ってるんだ?」
モルレムの質問に適当な説明をする弟子。
「ドクターが兵士達に戦術の講義をなされているのです。警備兵も衛兵も全てドクター
の講義を聞きに行ってますから、今は誰もいませんよ。この事は昨日陛下に申し上げた筈
ですが・・・覚えておられませんか?」
「うんにゃ、覚えてない・・・」
ズキズキ疼く頭を抱えているモルレムは、特に疑問を抱く事無く弟子の言葉を鵜呑みし
た。
実際には、モルレムに何の説明もなされてはいない。彼は詳細を告げられる事無く、適
当にあしらわれているのだ。
「そーか、ドクターは兵士に講義をしてくれてるのか・・・僕の兵隊達を強くしてくれ
てるンだな。うんうん、それはいーことだ。」
アホ扱いされている事など露知らず、裸足でペタペタと廊下fを歩いて行くモルレム。
「陛下、どちらへ?」
「トイレだよ、お前等もくるか。」
「いえ、遠慮しておきます。」
「フン、頭痛の薬と食事を用意しとけ、ハラ減った。」
肥え太った体を揺らして歩くモルレムの後姿を、軽蔑の目で見ている弟子達。
「・・・騙しやすい奴だぜ、まったく。」
「・・・ああ、ドクターも良いカモを見つけられたものだ。」
弟子達の声に気がつかぬまま1人トイレに向かう。
しばらくして、廊下の離れにあるトイレで用をたしたモルレムが、洗った手をパンツで
拭きながら出てきた。
「あー、スッキリした。」
寝室に戻ろうとしたモルレムの後ろから、1人のメイドが声をかけてきた。
「あのー、陛下・・・」
妙にモジモジしているメイドは、恥かしそうにモルレムを手招きしている。
「陛下にお願いしたい事がありまして・・・その・・・こちらにきてもらえますか。」
「お願い?へへ・・・何のお願いかな〜。」
鼻の下を伸ばしたモルレムは、誘われるままメイドの後をついて行く。
メイドがモルレムを誘い込んだのは、人気の無い部屋だった。
「ふーん・・・こんな所でお願いってのは何かなー?ひょっとして、僕に遊んで欲しい
のかぁ?」
後ろを向いているメイドに、イヤラシイ目で迫るモルレム。
すると、先ほどまでしおらしかったメイドが不意に態度を変えて口を開いた。
「モルレム・・・あなたは自分の后の声も忘れたのですか。」
「へっ?」
驚くモルレムに、メイドは顔の化粧を拭って振り返った。メイドの正体は・・・モルレ
ムの后だった。
「げっ!!お前はエリーゼッ!?」
絶句するモルレムの背後から、ボビーと看守が飛び掛かる。
「のわっ!?」
「逃げないでください陛下っ。」
ジタバタ暴れるモルレムを羽交い締めにするボビー。
「な、何をするンだ無礼者〜っ、離せーっ!!」
「スミマセン陛下〜、私は脅されてるンです〜。」
看守は懸命に弁解しながら足を押さえる。
2人に取り押さえられたモルレムの前に、鋭い視線を向けるエリーゼが仁王立ちした。
「相変わらずですわね。先ほどの調子でメイドと遊び呆けてたのですか、まったく・・・
」
后に詰め寄られ、目を白黒させてうろたえる。
「いや、あの・・・エリーゼこそ肺病はどーしたんだ?元気そうじゃないか・・・良か
った良かったナハハ・・・」
「良かったじゃありませんわっ!!あなたが遊んでいる間に私がどれだけ酷い目にあっ
たか・・・土下座しても許しませんからねっ!!」
「ひえーっ、お前を放ったらかしにしたのは謝るよ〜、許してーっ。」
鋭い叱責にすっかり縮みあがるモルレムは、今にも泣きそうである。
「まあいいですわ・・・今はあなたを責めている暇はありません。あなたもデスガッド
の悪事を知っているのでしょう?知らないとは言わせませんよ。」
「へ?何の事だ?」
「私はデスガッドの悪事を知ったため、肺病を患っていると偽られて牢獄に幽閉されて
いました。そして・・・バケモノになったゲルグに毎晩辱めをうけていたんですっ。」
声を荒げて全ての経過を話すエリーゼに、モルレムは唖然とする。
「ゲルグがお前を辱めたって・・・あンの野郎〜、よくも僕の后をおっ、あだだっ!?」
エリーゼに耳を引っ張られたモルレムが悲鳴を上げる。
「あなたにそんな事を言う資格はありませんわよっ、ゲルグやデスガッドの正体を知っ
ていたんでしょう?答えなさいっ!!」
「い、いうよ〜。言うから離して、イタタ・・・」
観念したモルレムは、エリーゼ達に全てを話した。
デスガッドの魔人製造に荷担した事、魔人の力で世界征服を成しえた暁には、自分を世
界の王にしてもらえると言われていた事も話した。
それを怪訝な顔で聞いているエリーゼ達。
「呆れましたわね・・・そんな甘言に惑わされて悪事に荷担していたのですかっ。考え
ても見なさい、あのデスガッドや冷酷なゲルグがあなたを世界の王になどするわけがあり
ませんっ。利用されていたのに気がつかなかったンですかこのバカ国王っ!!」
「あうう〜、揺らさないで頭がイターイ。」
エリーゼに肩を激しく揺すられ、二日酔いの頭に頭痛がガンガン響く。
モルレムを怒鳴るエリーゼを見ながら、ボビーは声を潜めて口を開いた。
「お后様、声が大きいです。弟子達に知られたらマズイですよ。」
「あ、そうでしたわ・・・私とした事が・・・」
慌てて口に手を当てると、部屋の外を伺った。部屋の外には誰もいない、部屋を出るの
は今だ。
「さあ、早くっ。」
エリーゼに促され、ボビーと衛兵はモルレムの腕を掴んで引き起こした。
「陛下には我々の人質になって頂きます。ご容赦の程を。」
「どーかお許しください陛下。」
「わ、わかったよ〜。」
両腕を掴まれたモルレムは、仕方なくエリーゼの後をついていった。
「地下道まで行けば脱出できます、みなさん気を引き締めてくださいね。」
「はい。」
モルレムを含めた4人は、弟子達に見つからぬ様、忍び足で廊下を歩いて行く。
その背後から、寝室の警備をしていた弟子達の声が聞こえてきた。
「おい、陛下はまだ戻らないのか?トイレにしては長すぎるぞ。」
「早く探そうぜ、あのバカ国王がホールに向かったらマズイ。」
その声に慌てて走り出すエリーゼ達。
「誰がバカ国王だっ、この無礼も・・・んぐぐ。」
「静かにしなさいっ。」
エリーゼはジタバタもがくモルレムの口を押さえ地下道へと急いだ。
人払いされている事が幸いし、4人は城の1階まで下りてくる事ができた。後少しだ・・
・
だが、その4人の前にダンベルを持った筋肉モリモリのマッチョマンが現れた。
「う・・・み、見つかった。」
うろたえるエリーゼ達を見るマッチョマンは、眉をひそめて後ろのモルレムに視線を移
した。
「おお、これは国王陛下。何処へ行かれるのでありますか?フンフン・・・」
相変わらずダンベルを振るマッチョマンを見たモルレムが、慌てて助けを求めようとす
る。
「たすけて、こいつらは僕を、んぎっ!?」
「じ、実はそのー、へ、陛下が城の外を散歩されたいそうですの。オホホ・・・」
モルレムの足を踵で踏み付けるエリーゼが、愛想笑いをしながらマッチョマンにそう言
った。
「フーン、散歩でありますか。」
「えへへ、そーなんだよ。体が鈍ってるから運動でもしようかと・・・ナハハ。」
「体が鈍ってる・・・それはいけませんぞっ。散歩などよりもワタシと筋力トレーニン
グをいたしませんか?存分に体を鍛える事ができますよ〜、フンフンッ。」
爽やかな汗を流すマッチョマンに、ヘラヘラ笑いながら返答するモルレム。
「あはは、え、遠慮しとくよ。」
「それでは失礼をば・・・」
エリーゼ達が、モルレムを引っ張ってマッチョマンの横を通り過ぎようとした、その時
である。
「ちょっと待ちなさい。」
不意に、マッチョマンがダンベルを振る手を止めてエリーゼ達を睨む。
「フーン・・・城内は人払いしてる筈ですよ?なのに、ワタシ達弟子以外の者がいるの
はおかしいですねぇ〜。」
その言葉にギクッとするエリーゼ達。
「いやあの・・・私達は・・・」
「フフーン。キミ達は国王陛下を連れ出そうとする不貞の輩ですね〜っ?成敗してあげ
ましょうっ!!」
そう言うや否や、エリーゼ達目掛けてダンベルを投げつけて来たっ。
「きゃあっ!!」
「うわっ!?」
飛んで来たダンベルが、モルレムの頭上を掠めて壁に直撃する。壁に開いた大きな穴を
見て悲鳴を上げるモルレム。
「ひええ〜っ、どこ投げてるンだっ!!僕に当てる気かーっ!?」
喚くモルレムだったが、等のマッチョマンは気にも止めない。
「ワタシのダンベルを交わすと中々ですね〜。ではもう一丁っ!!」
残ったダンベルも投げつけるが、それは窓に直撃して風穴を開ける。
割れた窓を見たエリーゼは、ボビーと衛兵に向かって叫んだ。
「窓から逃げるのですっ、早くっ!!」
「は、はいっ!!」
モルレムを掴んだボビー達は、わき目も振らずに外へと飛び出して行った。
「ふンむ〜っ、待ちなさいキミ達〜っ!!」
その後を追うマッチョマンだったが、エリーゼ達は脱兎のような勢いで逃亡してしまう。
「むむっ。なんとゆー不覚っ、不貞の輩を取り逃がすとはっ。こーしてはいられないっ、
ドクターに御報告せねばっ!!」
悔しがるマッチョマンは、踵を返してデスガッドの元へと急いだ。
マッチョマンから逃げ延びたエリーゼ達だったが、鈍足のモルレムと、貧弱な看守を連
れての逃亡は困難を極めている。
荒い息を吐きながら看守が文句を言っている。
「ゼェゼェ・・・なんだよまったく、成り行き任せだな〜。」
「捕まりたくなきゃ黙って走れっ!!」
看守を急かしながら、ボビーは城を振り返った。
「ミィさん・・・」
今は逃げの一手しかない。後ろ髪を引かれながら中庭を走って行く。
そのボビー達の前に、十数人の人影が現れる。
「!!・・・あいつ等はっ。」
人影を見たボビーは思わず立ち止まった。見知った者だったからだ。
「ボビー、お前かっ!?」
その者達はボビーの仲間であるセカンドチームのメンバーだった。エリーゼ達は、行方
不明となったボビーを探していたセカンドチームと鉢合わせたのである。
「何処へ行ってたんだボビーッ、探したんだぞっ。」
「スマン、ちょっと訳ありなんだ。」
「訳ってなんだよ、ええっ!?」
声を荒げる仲間達に問い詰められているボビーを押しのけ、エリーゼがセカンドチーム
の前に立った。
「セカンドチームの皆さんですね?私は王妃エリーゼです。あなた達に助けを求めます。
」
突然現れたメイド姿の王妃に、セカンドチームは戸惑った。
「お、王妃様っ!?肺病を患われているはずのあなたがなぜ。」
「私達は・・・バーゼクスを支配している恐ろしい魔物から逃れてきました。詳しい事
は後で話します。国王を連れて城外に脱出したいので協力してもらえませんか?」
エリーゼの言葉に唖然とするセカンドチーム達。エリーゼの後ろには、目を回しながら
ハアハア言っているモルレムがいる。
「国王陛下まで・・・どー言う事だ?」
だが、彼等に戸惑っている暇は無かった。
「おいっ、デスガッドの弟子達がくるぞっ!?」
仲間の1人が叫ぶ。彼の視線の向こうから弟子達が大挙して押しかけてくるのだ。
「!!・・・早く逃げましょうっ。」
「わかりました・・・」
何がなんだかわからないセカンドチームは、エリーゼに言われるまま中庭を走り始める。
逃亡者となった彼等の前に、弟子達とは別の人影が立ちはだかった。
「あ、あれはファーストチームだっ。くそっ!!」
突如として現れたファーストチーム達に行く手を塞がれ、エリ−ゼ達は進路変更を余儀
なくされる。だが、その行く手にもファーストチームが・・・
「か、囲まれたっ。」
後ろを弟子達に、そして前と横をファーストチームに塞がれたエリーゼ一行は、逃げ場
が無くなった。
「ひいっ、もうダメだ〜っ。」
情け無い声で泣き喚く看守。だがエリーゼは諦めなかった。
ファーストチームに歩み寄り声を上げる。
「私は王妃エリーゼですっ!!即刻武装を解き、私達に道を開けなさいっ!!」
凛としたその声は中庭に響き渡った。だが、ファーストチームは一向に怯まない。
ゆっくりと歩み寄る彼等の目がおかしい・・・
無機質な、それでいて凶悪な光がファーストチーム全員の目から放たれているのだ。
「ま、まさか・・・彼等は・・・」
エリーゼの背中に冷たい冷水を浴びせられたような悪寒が走った。
デスガッドは魔人製造を企んでいる。もしかしたら・・・
その悪い予感は的中する。ニヤリと笑ったファーストチームメンバーが恐るべき怪物に
変貌したっ。
「グげげっ、ぎィイイイーッ!!」
残虐な雄叫びを上げ、おぞましい魔人となったファーストチーム達・・・しかも後方の
弟子達も魔人に変身しているのだった。
「あ、あああ・・・」
「うわあーっ!!ば、バケモノだーっ!!」
絶叫するセカンドチームメンバー。その時彼等は理解した。バーゼクスが恐ろしいバケ
モノに支配されている事実を・・・
徐々に包囲網を狭める魔人達。
エリーゼ達に助かる道は無くなった。もはや万事休す・・・
「ひえ〜いいいっ、ぼ、ぼぼぼ僕は国王だぞおおお。ち、ちちち近寄るな無礼者〜。」
「コワイよ〜、陛下たすけて〜。」
小便を漏らしているモルレムと看守は、抱き合ってガタガタと震えている。
エリ−ゼを守る様に集まっているセカンドチームは、魔人達を睨んでいるボビーに声を
かけた。
「おい、ボビーッ、こりゃどー言う事だよっ。」
「ファーストの連中は魔人に改造されたんだ・・・デスガッドの野郎は俺達を魔人にす
るつもりだったんだぜっ!!」
「そんな・・・くそっ!!」
狂気の事実を目の前にして、只立ち竦むセカンドチーム達。
魔人達は雄叫びを上げ、エリーゼ達に襲いかかったっ。
「キィーイイイッ!!」
「うわああーっ!!」
「きゃあああーっ!!」
雄叫びと絶叫が中庭に響く。そして、エリーゼ達とセカンドチーム全員は魔人によって
捕らわれてしまったのだ・・・
エリーゼ達とセカンドチーム捕縛の報は、速やかにデスガッドに伝えられた。
「ドクター、奴等全員の身柄を確保致しました。」
「うむ、ご苦労だった。では奴等を早急に連れて来い。」
「わかりました。」
デスガッドの指示を受け、弟子達はエリーゼとセカンドチームをホールへと連行してく
る。
ホールでは、魔人になった兵士達に強姦されていたミスティーア達が囚われの身となっ
ている。
魔法陣の上で寝かされていたミスティーアは、後ろ手に縛られた状態で連行されてきた
メイドを見て驚く。
「あ、あの人は・・・」
その姿を一目見たミスティーアは、彼女がエリーゼ姫である事を即座に察した。それは
同じ姫君と言う立場がもたらす独自の直感であった。
そして・・・ミスティーアはもっと驚く事になった。
「さっさと歩けっ!!」
弟子達に連行されてきたセカンドチームメンバー。その中に見知った顔を見たのだ。
「ぼ、ボビーさんっ!?」
間違いはなかった。お姫様歌劇団を城に引き入れ、自分達の歌と踊りに感動してバラの
花束をくれた兵士・・・
その彼が反逆者として連れてこられたのだ。
「触るんじゃねえっ、バケモノッ!!」
縄で縛られているボビーは、大声を上げて弟子達を睨んでいる。
「ボビーさん、ボビーさんっ!!」
名前を呼ばれたボビーが振り返る。そこには・・・
「み、ミィさんっ!?」
彼の目に、全裸状態で魔法陣に囚われているミィさんの姿が映った。
「ミィさんっ、今助けるよっ!!」
弟子を跳ね飛ばしたボビーは、懸命になってミスティーアに駆け寄って来た。そして、
もう少しで辿り着くというその時。
ドカッ!!
ボビーの眼前に立ち塞がった男が、ボビーを殴り飛ばしたのだ。
「ぐあああ・・・お、おまえは・・・ゲルグ・・・」
呻き声を上げて転がるボビー。彼を殴ったのは冷酷司令官のゲルグだった。
「フッ、また貴様か・・・それにしてもミィさんとはな。貴様といい、ペドロのアホと
いい、魔戦姫に惚れた奴はとことんバカになるようだな。」
ゲルグの言葉に驚愕するボビー。
「ま、魔戦姫っ!?どー言う事だっ。ミィさんは一体・・・」
「教えて欲しいか?奴の正体はな・・・」
ボビーの髪の毛を掴んだゲルグが陰湿に笑う。それを見たミスティーアが絶叫した。
「やめてーっ!!ボビーさんに言わないでーっ!!」
叫ぶミスティーアだったが、歩み寄って来た弟子達に袋叩きにされてしまう。
「ミィさんをイジメるなーっ!!ミィさんを殴るなら俺を殴りやがれーっ!!」
泣き叫ぶボビー。だが縛られたままの彼にミィさんこと、ミスティーアを助けに行く事
はできなかった。
「ぐっ、ううう・・・ミィさん・・・」
ボビーを押さえ付けているゲルグが再び口を開く。
「フフン、では話しの続きと行こうか。お姫様歌劇団どもの正体は人間じゃない、悪魔
さ・・・闇に潜む魔族、それがミィさんとやらの正体だっ!!」
「そんな・・・ミィさんが悪魔だって?魔族だって?」
衝撃の事実を聞かされたボビーの顔から見る見る血の気が引いて行く。
「でたらめ言うなっ、悪魔はお前だ冷血野郎っ!!」
「信じられんか?では直接知るがいい。」
そう言うや、ゲルグはボビーを引き摺ってミスティーアの前に連れて来た。
弟子達に殴られたミスティーアは、天鳳姫に抱き抱えられてうずくまっている。
「うう・・・ぼ、ボビーさん。ダメ・・・来ちゃダメ・・・」
闇の波動を放っている今の彼女に近寄った者は、全て精神が闇に堕ちる。無論ボビーも
例外ではない。
ゲルグはそれを知った上で、ボビーをミスティーアに近付けるつもりだ。
「惚れた女を抱きたいだろーが、遠慮なく抱くがいいっ!!」
ゲルグに蹴り飛ばされたボビーが、闇の波動が溢れる魔法陣に転がった。
「うう・・・ミィさ・・・うあっ!?うああーっ!!」
闇の波動をモロに浴びたボビーが絶叫をあげる。
余りの苦しみ様に、ミスティーアは思わず近寄ろうとした。
「ああっ、ボビーさんっ!!」
「だ、ダメアルよっ!!ボビーさんから離れるねっ。」
慌ててミスティーアを引き戻す天鳳姫だったが・・・すでに遅かった。ボビーの精神は
闇に堕ちてしまった。
「うア・・・みィさン・・・おれ・・・マモる・・・キミのコトまもル・・・ううう・・
・」
体を震わせるボビーの口から、なおもミィさんを助けようとする言葉が漏れる。
精神が闇に堕ちようとも、ミィさんへの想いだけは消えなかったのだ。
「ぼ、ボビーさん・・・そんなに私の事を・・・」
彼の熱い想いに、胸が締め付けられる。必死で自分を守ろうとしているその姿に、兄ア
ドニスの面影を垣間見たミスティーアだった。
「・・・ミィさん・・・ミィさん・・・」
うわ言の様に呟くボビー。手遅れ状態の彼の手を、ミスティーアは握り締めた。
「ごめんなさい・・・」
泣きじゃくるミスティーアに、ゲルグは侮蔑の目で一瞥をくれた。
「フン、それが俺に逆らった奴の末路だ。そのアホは貴様にくれてやる、せいぜい大事
にするがいい。」
背を向けるゲルグに、怒りをぶつけるミスティーア。
「あなたは絶対に許しませんわっ!!必ず・・・地獄に送ってあげますわっ!!」
怒りの声は、只空しくホールに響き渡った。
そして、冷酷司令官を憎々しげに見ているのはミスティーアだけではなかった。
再び捕えられたエリーゼ姫と、仲間を苦しめられたセカンドチームのメンバーも一緒だ
った。
「あなたは最低よゲルグ・・・」
「よくもボビーをっ!!あんたの命令に従ってた俺達がバカだった!!」
だが、エリ−ゼ達の怒りもゲルグにとっては微々たる事であった。
「フフ、喚くがいいさエリーゼ。お前は何処へも逃げられん、一生俺の慰み者として生
きるしかないのさ。ワハハッ!!」
高笑いを残して去って行くゲルグ。
そしてホールの隅では、床に転がされた看守が情け無い声で泣いている。
「ひーん、もうダメだ〜。こんな事ならさっさと逃げればよかった〜。」
その看守の横で縛られているモルレムは、もはや用無しとして見捨てられる運命にある
事を理解せず、足をバタバタさせて喚き散らしていた。
「こら〜っ、この縄を解け〜っ!!ぼ、僕は国王だぞ無礼者〜っ!!」
そんなモルレムを嘲笑しているデスガッドの弟子達。
「うるさいんだよバカ国王、あんたは初めから利用されてたのがわかんねーのか?」
「へっ?じ、じゃあ・・・僕を世界の支配者にしてくれるってのは・・・」
「決ってるじゃねーか。騙されてたんだよ、ドクターとゲルグ司令にね、ヒャハハッ!!
」
「う、うそだ〜、そんなのってないよお、わーん。」
看守同様、情け無い声で泣き喚くモルレム。
泣き声がホールに響く中、ミスティーアはボビーの頭をそっと撫でている。
彼を元に戻す手立ては無い・・・自責の念すら尽き果てた彼女には、ボビーに優しく接
するぐらいしかできる事は無かった。
「ボビーさん・・・」
呟くミスティーアだったが、彼女は気がついていなかった。
以前、闇の魔王から賜った指輪から、黒い光が放たれている事に・・・
その黒い光は、ボビーの精神を優しく癒しているのだ。まるで、ボビーを気遣うミステ
ィーアの心が、黒い光となって彼を守っているかのようであった・・・
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