魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀16
恐怖の魔人量産計画
ムーンライズ
ボビーの協力でエリーゼが監獄からの脱出を図ってから1時間後、バーゼクス城内は慌
しい活気に満ち始めていた。
バーゼクスの暗部では今日行なうイベントの準備が進められていた。
そのイベントとは・・・デスガッドがバーゼクスの兵士に対して催す肉体強化改造の公
開イベントであった。
バーゼクスの兵士を魔人に改造する恐るべき計画・・・魔人量産計画を目論むデスガッ
ドが、自らイベントに出演して兵士達に肉体改造をうながす事となっている。
「ドクター、城内の準備が整いました。」
慌しく駆けて来る弟子に頷くデスガッド。
「うむ、後は兵士どもを中庭に集合させる手筈を整えるだけだな。それはゲルグ司令に
任せているが、どんな様子だ?」
「はい、ゲルグ司令の号令で多数の兵士達が集まっています。でも、改造を施せる兵士
の数は100人ですから・・・集まった数百人以上の兵士を1度に改造するのは無理なの
では・・・」
懸念する弟子だったが、デスガッドは余裕の笑いを浮べている。
「残りの兵士は後で改造を受けさせればいい。この計画は慎重を期すのだ、急いては事
を仕損じる。そのかわり手抜かり無くするのだぞ。」
「ははっ、わかりました。」
デスガッドの指示を受けた弟子は、踵を返して持ち場に帰って行く。
「では私も行こうか。」
呟いたデスガッドは、中庭の方向に歩き出した。
その頃、中庭では大勢の兵士達がゲルグの召集を受けて集合していた。
急の召集を受けた兵士達は、何が行なわれるのかとざわめいている。
「こんな朝から何をするんだ?」
「なんでも、ドクター・デスガッドが俺達に見せたい事があるんだってよ。」
イベントの内容を知らされていない兵士達が話し合っていると、彼等の前に硬質のムチ
を手にしたゲルグが現れる。
「総員整列せよっ!!」
甲高い声が響くと、兵士達は緊張した面持ちで一斉に整列した。直立不動の姿勢で立つ
兵士達を見回したゲルグが、硬質のムチを城のテラスに向ける。
「一同テラスに刮目っ!!これよりドクター・デスガッドが貴様等に告知をされる、心
して聞けっ!!」
鋭い声を受け、兵士達はテラスに目を向ける。
テラスからマントを翻して現れたデスガッドが、片手を振りながら兵士達を見渡した。
「おはよう諸君。今日ここに集まってもらったのは君達に是非とも見てもらいたい事が
あってだ。緒君らも知っての通り、私は長年の研究で魔術の真髄を極めている。その成果
を駆使して作り上げた最強の戦士をお見せしよう。」
デスガッドの声に答えて現れた男は、古代英雄ヘラクレスの如き見事な筋肉美を誇るマ
ッチョマンであった。
驚く兵士達に、自慢の弟子を紹介するデスガッド。
「私が施した肉体改造によって、彼は見事な筋肉を誇る戦士に生まれ変わった。パワー、
瞬発力、持久力。どれをとっても常人とは比べ物にならん。」
デスガッドから鉄の棒を受け取ったマッチョマンは、隆々たる豪腕で鉄の棒をいとも簡
単に捻じ曲げ、兵士達の目の前に投げてよこした。
捻じ曲げられた鉄の棒を見る兵士達が、驚嘆の声を上げた。
「おお・・・すごいっ。」
ガッツポーズを決めるマッチョマンに熱い視線を向ける兵士達。彼等はいずれも厳しい
訓練によって肉体を鍛えているが、筋肉モリモリのマッチョマンには到底及ばない。
素晴らしい肉体を羨ましそうに見ている兵士達に、デスガッドは肉体改造の更なる成果
を説明する。
「彼を強化したのは筋肉だけではない、これを見たまえ。」
デスガッドの言葉を受け、テラスの奥から1人の美女が姿を見せた。
ビキニスタイルの豊満な美女は、マッチョマンに寄り添って彼の服を脱がせる。素っ裸
になったマッチョマンの下半身には、長さ30cmはあろう屈強なイチモツが反り立ってい
た。
「ああン・・・すごいわ・・・」
色っぽい声でマッチョマンの身体に抱きつく美女は、ブラジャーとパンティーを脱ぎ捨
ててイチモツに跨り、至高の声で喘ぎ始めた。
「ああ〜っ、最高よ〜っ。」
反り立ったイチモツの筋力だけで美女を支えるマッチョマンが、キラリと光る白い歯を
見せてワハハと笑う。
その逞しい姿を、おお〜っと声を上げて見ている兵士達に、デスガッドは甘言を込めて
語りかける。
「どーかね?君達は彼女に貧弱な身体だとか、包茎の租チンなどとバカにされた経験は
ないかね?だが心配は無用だ。私の肉体改造を受ければ、誰もが羨む神の如き肉体を手に
入れる事ができる。さあ、神の肉体を手に入れたいと思う者は、今すぐ我が元に来れ。先
着順で100名の者に肉体改造を施して進ぜようぞ。」
デスガッドの誘いに、兵士達は色めきだった。
「神の肉体か・・・いいじゃねーかっ。」
「お、俺が一番だっ!!」
「いや、俺だ〜っ。」
憧れの肉体を手に入れんがため先を争う兵士達を、ゲルグが声を荒げて制する。
「慌てるな貴様等っ!!まずはファーストチームの者から順に並べっ。」
精鋭のファーストチームを先に並ばせ、城内に引き入れるゲルグ。
ゾロゾロと城内に入って行くファーストチームを恨めしげに見ている挌下のセカンドチ
ーム達。その中には、ボビーの同僚達もいる。
「ちぇっ、ファーストの連中だけ良い思いしやがって・・・」
愚痴をこぼすセカンドチーム達だったが、その中にはボビーの姿はない。朝の警備から
戻らないボビーを案じている同僚達が、ヒソヒソと囁きあった。
「ボビーの奴はまだ戻らないのか?あのバカ・・・また司令にドヤされるぞ。」
「連帯責任だから俺達も司令にドヤされるぜ。しかたねえ・・・さっさとあのバカを見
つけに行こーぜ。」
お味噌にされたセカンドチーム達は、ボビーがいなくなった事がバレないよう、そそく
さとその場を去って行った。
中庭は興奮した兵士達の熱気で溢れ返っている。デスガッド一味が恐ろしい事を企んで
いるのにも気付かぬまま、神の肉体を手に入れる興奮に沸いていた。
昨夜の苛烈な拷問から一夜明けた拷問室では、雪男に氷漬けにされたまま動けなくなっ
ているミスティーアがいた。
「う・・・うう・・・あ・・・あああ・・・」
全裸で氷漬けにされているミスティーアは、氷で体温を奪われながらも愛する侍女達の
身を案じている。
「え、える・・・あ、ある・・・どこ・・・いま・・・たすけるから・・・」
そんなミスティーアの耳に、微かにエルとアルの泣き声が聞こえてきた。声は拷問室の
外からしている。
「うう・・・える・・・ある・・・」
朦朧とした目を明けると、ドアからニコニコしたゴリラ面の男が入ってくる。人間の姿
に戻っているが、紛れもなく氷の魔人、雪男だ。
その雪男は、2本のロープを手に持っている。
「ウッホ、ウッホ〜。さー早く入っておいで〜。かわいいネコちゃんにウサギちゃーん。
」
鼻歌交じりでロープを引っ張ると、首輪をはめられたエルとアルが引っ張られてくる。
「あうう・・・私達はペットじゃありませんわ・・・」
「そーですの・・・ネコさんやウサギさんじゃありませんの・・・」
泣いている裸の2人は、頭にネコ耳とウサギの耳をつけられ、お尻に尻尾がつけられて
いる。ロリコンである雪男がコスプレを強要していたのだ。
あの拷問の後、雪男が2人にどんな辱めを遭わせていたか容易に理解できる。
2人の悲しい声を聞いたミスティーアが、声を震わせて雪男を睨んだ。
「こ、このバカゴリラ・・・2人に何をするの・・・2人を開放しなさい・・・」
その声を聞いた雪男は、眉を歪めてミスティーアを睨んだ。
「ウッホッホ〜。まーだそんな元気があンのかよ。魔戦姫ってのは大したモンだよな〜。
」
歩み寄った雪男は、氷漬け状態のミスティーア目掛けて豪腕を振り下ろした。
「ふんが〜っ!!」
唸る豪腕が氷を木っ端微塵に砕き、その衝撃で吹き飛ばされたミスティーアが壁に叩き
つけられた。
「うあっ!!」
床に転がるミスティーアに、悲痛な声で駆け寄るエルとアル。
「ひめさまーっ!!」
慌ててミスティーアを抱き起こすと、氷で冷たくなった身体を抱きしめた。
「ああ・・・お身体がこんなに冷たくなって・・・酷いですわ・・・」
「今すぐ暖めてあげますの。」
冷え切ったミスティーアの肌に、2人の暖かい温もりが伝わってくる。
「あ・・・ありがとう・・・エル・・・アル・・・それより、あなた達は大丈夫なの・・
・?」
「はいっ、私達は大丈夫ですわ。」
「私達より、姫様が心配ですの。」
2人はミスティーアに心配をかけまいと、気丈に振舞っている。でも、拷問や雪男の陵
辱を受けている2人も、ミスティーア同様に疲労が極限に達しているのだ。
反抗する余裕など無い3人を、雪男は嘲り笑った。
「ウッホッホ〜ッ、だいじょうぶだぁ?笑わせんじゃねーのっ。オレにイジメられてヒ
イヒイ泣いてたクセによ〜、ウホホ〜。」
侮辱の言葉を吐く雪男を、エルとアルはキッと睨んだ。
「「うるさいですわっ、のっ!!」」
2人の鋭い声に、思わずたじろぐ雪男。
「ウホッ?」
「よくも姫様をこんな目に遭わせましたわ、ねっ!!」
「おバカゴリラめっ、覚えてらっしゃい、ですのっ!!」
声を上げる2人だったが、自慢の怪力を封じられているため、ミスティーアを守るどこ
ろか、自分自身を守る事すらできない。
「覚えてろだぁ〜?ペットの分際でナメた事言ってんじゃねーどおっ!!」
罵声を上げた雪男が2人を縛っているロープを強引に引っ張った。
「「きゃあっ!?」」
首輪を結ぶロープを引っ張られた2人が床に倒される。
「エルッ、アルッ!!」
1人残されたミスティーアを、陰湿な笑いを浮べる雪男が抱え上げた。
「何するのっ、は、離して・・・」
「ウッホッホ。ドクターがお前等に用があるんだってよ、大人しくするんだな〜。」
「で、デスガッドが?一体なんの・・・」
「兵隊どもを魔人に改造するために、お前等を生贄にするんだとさ、ウホホ〜。」
「なんですって!?」
雪男の言葉に驚愕するミスティーアが、身体を揺すって抵抗する。だが、氷で体力を奪
われているため、微々たる抵抗にもならない。
「離しなさいっ、このバカゴリラッ!!うう・・・」
「ウホッ、オレはバカゴリラじゃねーの、とってもつおーい雪男様なのだ〜。」
足掻くミスティーアを肩に担いだ雪男は、エルとアルを引っ張って拷問室を出て行く。
抵抗できないまま雪男に連行される3人は、城の地下室の真上にあるホールに連れ込ま
れた。
そこは、舞踏会や晩餐会などに使用される広大にして煌びやかなホールで、1度に大多
数の来客を収容できる規模があった。
そのホールの中央に、特別巨大な魔法陣が描かれており、デスガッドの弟子達が周囲で
慌しく走り回っている。
「お〜い。カワイコちゃん達を連れてきたど〜。」
ホールに現れた雪男の声に、数人の弟子達が歩み寄ってくる。
「おう、ご苦労だったなゴリ公、こっちだ。」
雪男に無理やり運ばれるミスティーア達は、魔法陣の中央に投げ出された。
「うあっ!?いたた・・・」
膝小僧を強く打ち付けたミスティーアが、膝を摩りながら足元の魔法陣を見る。
それは、ミスティーア達の魔力を奪った奇怪な文様の魔法陣と同じものであった。
ただ・・・大きさが桁外れに大きい。直径だけで地下室やデスガッドの自室にあったも
のの10倍以上はあるのだ。
「なに・・・これは・・・」
「き、気味が悪いですわ。」
「こ、怖いですのー。」
ミスティーア達が呆然としていると、弟子達に両腕を掴まれた全裸の天鳳姫が魔法陣に
引き摺られて来た。
力を失い、ガックリと頭を下げている天鳳姫を見たミスティーアが悲痛な声を上げた。
「て、天鳳姫さんっ!?」
天鳳姫は気を失っている様だ。呼びかけにも答えられない。
そんな彼女を引き摺って来た弟子達が、ミスティーア達同様、魔法陣に天鳳姫を投げ出
した。
「だ、大丈夫ですかっ!!」
慌てて天鳳姫を抱き起こすと、微かな声を上げて天鳳姫は目覚めた。
「う、ううん・・・その声は・・・ミスティーアさん・・・?」
焦点の合わない眼で辺りを伺う様子に、ミスティーアは驚きと悲しみで声を震わせる。
天鳳姫の視力は毒バチ女の猛毒で完全に失われていた。
「て、天鳳姫さんっ、まさか、目がっ!?」
「う、うう・・・そうアルよ・・・あの・・・毒バチ女に・・・やられたの・・・コト
ね。毒使いが毒でやられたら・・・シャレにならないアルよ・・・」
ミスティーアを気遣う様に、少しだけ笑う天鳳姫だったが、その声には力が無い。全身
の神経まで猛毒に犯されているのだ。
「ひ、ひどい・・・」
「み、ミスティーアさんも・・・随分やられたみたいアルね・・・身体が・・・凄く冷
たいの・・・コト・・・よ・・・」
そう言いながら、冷え切ったミスティーアの身体を抱きしめる天鳳姫に、嗚咽を上げな
がら謝罪するミスティーアだった。
「ごめんなさい天鳳姫さん・・・私はあなたを見捨ててしまいました・・・本当に・・・
ごめんなさい・・・」
「み、ミスティーアさんは悪くないアルよ。逃げる様に言ったのはワタシね・・・ワタ
シがドジだったコトね・・・」
2人は泣きながら、互いの身体を強く抱きしめ合った。
そんな2人を、バカにするような声で笑っている者がいる。天鳳姫を痛めつけた毒バチ
女だった。
「あーら、随分と仲がよろしいこと。そんなにボロボロになっても友情を確かめ合うだ
なんてねー、アッハッハッ。」
毒バチ女の笑い声に、エルとアルは怒りを露にする。
「姫様をバカにしたら承知しませんわっ!!」
「コテンパンにしてやるですのっ!!」
大声を上げる2人だったが、毒バチ女はフンと一笑する。
「コテンパン?バカ言ってんじゃないわよ。あんた達は自分の立場をぜーんぜん判って
ないわねー。コテンパンにされるのはそっちよっ。」
そう言うと、エルとアルを掴んで床に引き倒した。
「い、痛いですわっ。」
「何するですのっ!?」
「決ってるじゃない、コテンパンにしてやるのよっ!!」
倒れている2人に、無情な蹴りをお見舞いする毒バチ女。
「ひいっ!?」
「あうっ!!」
「ホラホラ、どーしたのさっ。悔しかったらかかって来なっ!!」
抵抗することもできず、蹴りの応酬にさらされるエルとアル。
「フン、参ったかしら?カワイイ子ネコにウサギちゃん。」
「「参りませんわっ、のっ!!オバさんっ!!」」
「お・・・オバさ・・・」
2人に(オバさん)呼ばわりされた毒バチ女の頭から、ブチッと切れる音が響く。
「キィ〜ッ!!オバさんじゃなーいっ、あたしゃこれでも27だ〜っ!!」
激怒した毒バチ女がヒステリックに喚くと、それを宥めるように後輩の弟子達が彼女を
制した。
「先輩〜。まあまあ落ちついて・・・」
「チッ。今に泣言も言えなくなるわよっ、覚悟するのね小娘どもっ!!」
吐き捨てる様に言い放つと、踵を返して去って行く毒バチ女。
「「それはこっちのセリフですわ、の。オバさんっ!!」」
揃ってアカンベーをするエルとアルに、ミスティーアと天鳳姫が身体を引き摺りながら
近寄って来た。
「も、もうやめなさい2人とも・・・」
「姫様・・・」
興奮から冷めた2人は、ミスティーア達に寄り添って押し黙った。今の2人に魔人達と
渡り合える術はない。ただ・・・耐えるしかないのだ・・・
2人を宥めているミスティーアを見ていた天鳳姫が、不意に口を開いた。
「み、ミスティーアさん。す、スノウホワイトさんは?」
突然の問いかけに、ミスティ-アもエルとアルも、顔色を変えた。
今この場にスノウホワイトがいない事は、目の見えない天鳳姫でもわかる。
酷く重苦しい空気を察した天鳳姫が、3人に詰め寄った。
「スノウホワイトさんに何があったアルかっ!?今どこにいるねっ!?」
激しく肩を揺さぶられたミスティーアが、悲痛な思いで口を開いた。
「あ、あの・・・スノウホワイトさんは・・・」
スノウホワイトがデスガッドに囚われた事や囮にされた事など、ミスティーア達の知り
うる事を天鳳姫に話した。
「スノウホワイトさんが、ここにいないと言う事は・・・デスガッドに囚われたままア
ルね?」
「ええ・・・多分、ドワーフ君達も一緒に囚われてる筈です。私がもっと早く助けに行
っていたら・・・」
スノウホワイトを助けられなかった事を悔やんでいるミスティーア。
「自分を責めるのは良くないアルよ。あなたは頑張ったのコトね・・・」
そう言うと、天鳳姫は手探りでミスティーアの身体を触った。ナイフで傷つけられた跡
が身体中にあるのを、手の平で知る。
「酷いことされたアルね・・・エルちゃんとアルちゃんも同じのコトか?」
天鳳姫の問いにエルとアルは答えなかった。ただ・・・嗚咽だけが天鳳姫に聞こえるの
みである。
でも、それだけで十分理解できた。2人が何をされたかを・・・
「うっ、うう・・・」
泣いている2人を、天鳳姫は優しく抱きしめた。
「もう泣かないでアルよ・・・あなた達が泣いたらワタシも悲しくなるのコトね・・・」
「「はい・・・ですわ、ですの。」」
慰められる2人に穏やかな笑顔が戻っている。
天鳳姫はリンリンとランランの事は言わなかった。2人が罠に嵌って命を落したなどと
言えば、ミスティーア達はもっと悲しむだろうから・・・
愛する侍女達を失った悲しみに堪え、エルとアルを抱きしめている天鳳姫を見て、ミス
ティーアは無言のうちに天鳳姫の心境と悲しい事実を察した。
「リンリンさんとランランさんも・・・」
ミスティーアが呟いた時である。ホールに、若い娘の悲鳴が上がった。それもかなりの
大勢である。
「ひいっ、許してっ!!」
「いやあっ!!」
悲鳴のする方向に目を向けると、そこには裸の娘達が電撃魔人兄弟に鞭打たれている。
「さあっ、ささと歩けっ!!」
「ケケッ!!止まるんじゃねーぞ、オラーッ!!」
放電するムチを振り回し、電撃魔人兄弟は強制的に魔法陣に娘達を引き立てる。
娘達の数は10数人はいるだろう。
「あの子達は・・・まさか・・・」
娘達を見ているミスティーアの声が震えている。それを聞いた天鳳姫が尋ねた。
「他にも誘拐された女の子がいたアルね?・・・どーしたアルかミスティーアさん?」
驚きで震えているミスティーアから驚愕の言葉が漏れる。
「あの子達は・・・魔族の娘ですわっ!!」
ミスティーアの言う通り、連れてこられた娘達は全員、魔族だったのだ。いずれも純真
な身体の処女ばかりだ。
「本当アルかっ!?どうして・・・」
「わかりません・・・なぜ魔族の娘が・・・」
疑問を解くまもなく、魔族の娘達はミスティーア達の傍らに転がされる。
「大丈夫っ!?しっかりしてっ。」
娘達を助け起こしたミスティーアは、疑問を娘達に問い掛ける。
「どうして魔族のあなた達がここに?」
「うう・・・たすけて・・・お願いです・・・」
酷く怯えている魔族の娘達から疑問を聞きただす事は無理だった。
視線を電撃魔人兄弟に向けたミスティーアが叫ぶ。
「これはどう言うことですっ!?あなた達はどうやって魔界からこの子達をっ!!」
「ケケッ、教えてやろーか?神族で在らせられるドクターの御力をもってすれば、魔界
から娘どもをユーカイするなんざ朝飯前なんだよ。」
「な、なんですってっ!?」
デスガッドが神族だとの言葉に、ミスティーア達は驚きの声を上げた。
デスガッドの秘密を軽率に喋ってしまった弟を窘める電撃魔人の兄。
「おいっ、余計な事を言うなっ。」
「悪ィ悪ィ、つい喋っちまったよ、ケケケ。」
「チッ、仕方ない。早く持ち場に戻ろう。」
デスガッドの秘密を漏らしてしまった事を特に気に咎める様子もなく、2人は持ち場に
戻って行った。
「ドクター・デスガッドは神族・・・」
信じられない事実に、天鳳姫やエルとアルも声を失っている。だが、驚愕の余韻はホー
ルに雪崩れ込んできた男達に掻き消された。
「全員整列っ!!」
男達はファーストチームの兵士で、その先頭にいるゲルグが彼等に指示を下している。
「早く並べっ、列を乱すなっ!!」
ゲルグの指示を受け、兵士達は魔法陣の前に整列した。兵士達が整列したのを見た弟子
達が、魔法陣から離れた。後には、ミスティーア達と魔族の娘達が残される。
「何を始める気なの・・・」
呆然とするミスティーア達の前に、ゲルグが不敵な面構えで歩み寄って来た。
「ほう、こいつ等が白雪姫の仲間の魔戦姫か。」
ゲルグの言葉に、ミスティーアは目を見張って声を上げた。
「白雪姫って・・・スノウホワイトさんの事ですねっ!!彼女は・・・スノウホワイト
さんは何処にいるのっ!?」
ミスティーアの問いに、ゲルグは薄笑いを浮べて答えた。
「白雪姫ならドクター・デスガッドの自室にいるぞ。ドクターは白雪姫に随分と御執心
でな、自室に閉じ込めて直々に可愛がっているのだ。まあ、ドクターが白雪姫に何をして
いるかまでは知らんがな。」
スノウホワイトの危機を知ったミスティーアがゲルグに向かって叫んだ。
「よくもスノウホワイトさんをっ!!許しませんわよっ!!」
鋭いミスティーアの罵声にも、ゲルグは一向に怯まない。
「あ〜ン?許さんだと?無力な小娘となった貴様等に何が出きるのだ。せいぜい喚くが
いい、ワハハッ!!」
「くっ・・・」
嘲笑うゲルグに、ミスティーアは悔しそうに拳を握った。
怒りを露にしているのは天鳳姫も同様だった。
「その声は聞いた事がアルよ・・・お前は確か、ゲルグとか言う冷酷司令官のコトねっ!
?」
その問いに、ゲルグは余裕の口調で答える。
「なんだ、俺の事を知っているのか。そうとも、俺はバーゼクスが誇る最強の軍人、ゲ
ルグ司令官だ。」
硬質のムチを天鳳姫に突きつけるゲルグ。その冷酷な顔を、見えない目で睨みすえる天
鳳姫。
「何が最強の軍人アルか・・・お前は只のクズのコトねっ!!弱い者イジメしかできな
いカス軍人アルよっ!!」
「なんだと・・・ほざくな小娘がーっ!!」
片目を吊り上げたゲルグが、天鳳姫の顔に硬質のムチを叩きつけた。
「あうっ!!」
傷ついた額から鮮血が迸った。床に倒れる天鳳姫を庇うミスティーア達。
「何をするのっ、あなたには血も涙もないのですかっ!?」
「血も涙もない、か・・・フッ、確か白雪姫も同じ事をぬかしてたな。軍人たるものに
情けなど無用。それを貴様等は直に知る事になる、フフフ・・・」
意味ありげな言葉を呟くゲルグに、額の血を拭った天鳳姫が立ち向かう。
「この痛み・・・そして苦しめられたみんなの痛み・・・100万倍にして返してあげ
マスワッ!!」
凄まじい怒りが天鳳姫から湧き上がる。震える拳を振り上げてゲルグに殴りかかった。
だが、視力を奪われている彼女にとっては、余りにも無謀な行為だった。
振り回す拳の全てが安々と交わされる。
「ホラホラ、何処を狙ってるんだ?そんな事では敵は倒せんぞっ、そらっ!!」
足払いで床に転がした天鳳姫を、足で踏み付けるゲルグ。
「うう・・・よくも・・・」
「フン、だからなんだ?目が見えないくせに懲りずに立ち向かってくるか?バカめが。」
天鳳姫に一瞥をくれたゲルグは、整列している兵士達に向かって歩いて行った。
冷酷な司令官を前にして、兵士達は緊張の姿勢をとる。
「よーし、今から貴様等に肉体改造を行なう。まずは、その場で着ているものを全て脱
げ。」
ゲルグに言われるまま、兵士達は服を脱ぎ始める。
その中の1人が、ゲルグに疑問を投げかけた。
「あの〜、服を脱いで何をするのでありますか?」
「貴様はあれが見えんか?」
ゲルグが指差す方向に、全裸の若い娘達が震えている。そして、裸になった自分達は何
をすればいいのか兵士達は考えた。
結論は明白だ、兵士達は悦びで色めきだした。
「ひょっとして、あの娘どもをヤレとおっしゃるので?」
「そうだ。いかに肉体改造を施そうとも、敵に対して情けをかけるような軟弱な精神で
はクソの役にも立たん。敵国の女を犯し、血肉を貪り食らう強欲を持ってこそ軍人の誉れ
であるっ。総員、軍人の心得を述べよっ!!」
ゲルグの声に、気を付けをして答える兵士達。
「軍人たる者の心得っ、1つ、敵であれば如何なる者であろうと容赦するべからずっ。
2つ、目的の為ならば、如何なる手段をもってしても成し遂げるべしっ、3つ、降伏させ
たる敵は完膚無きまでに服従させよっ!!」
兵士達の声がホールに響き渡る。それはゲルグが日頃、兵士達に徹底している心得であ
った。
「よし、肉体改造の手始めに、今から貴様等に心得を実行してもらうぞ。あの小娘ども
は敵国の捕虜であるっ。一切の情けをかけず、徹底的に陵辱せしめるのだっ!!」
ゲルグの檄を受けた兵士達は、おおっと歓声を上げる。
「さあ精鋭達よ、行けいっ!!」
ゲルグがムチを振るうと、欲望を丸出しにした兵士達がミスティーア達に襲いかかった。
「うおーっ!!」
100人近い兵士達に乗り掛かられ、魔族の娘達もミスティーア達も、一切の抵抗もで
きないまま激しく陵辱される。
兵士達に犯されるエルとアルの悲鳴が上がった。
「ひいいっ、やめてですわーっ!!」
「いやーっ、助けてですのーっ!!」
泣き叫ぶ2人に、問答無用で兵士達が襲いかかる。
「ヒャハハーッ!!大人しくしろーっ!!」
無情の心得を実行する兵士達の様子がおかしい。精神が崩壊し、狂気の虜となっている
のだ。
錯乱する兵士達を見たミスティーアが、ゲルグの思惑を察した。
「まさか・・・私達魔族の闇の波動を利用して、兵士達を狂わせるつもりじゃ・・・」
ミスティーアの懸念は的中していた。魔族の肉体から発せられる闇の波動は、人間の精
神を狂わせ闇に堕としめる。
拷問で闇の波動を制御する力を失っているミスティーア達や、波動を制御する能力を持
たない魔族の娘と交わった兵士達は、理性を失い全ての情けを捨て去った。
「ぐハはぁ〜ッ。さいコうだゼ〜っ!!やッテやるっ、テきのオんなをメッチャクチャ
にシテやる〜っ!!」
ミスティーア達を強姦しながら狂乱する兵士達を、満足げに見るゲルグ。
「ククク・・・そうだ、それでいいっ!!犯し、食らい、全てを奪う・・・それでこそ
軍人よっ、俺の目指す究極の兵士なのだっ!!」
ゲルグの思惑通り、兵士達は狂ったケダモノに成り果てていった。
やがて・・・床の魔法陣から発せられる光が、兵士達の肉体を狂暴な野獣に変貌させた。
「グげげ・・・ギギギ・・・」
兵士の肉体がメキメキと隆起する。
ある者はトカゲの様に、またある者は全身から剛毛を生やし、恐怖の魔人に変身したっ!
!
「グヒャハハ〜ッ!!神ノ肉体ダ〜ッ。オレハ神ニナッタノダ〜ッ!!」
狂喜する兵士達・・・それは正に恐怖・・・
魔人に変身しながらも、兵士達は情け容赦無く、欲望の全てをミスティーア達に放出し
た。
「うああ・・・やめて・・・やめ・・・」
いくら足掻いても無駄だった。100人近い兵士達に蹂躙され、ミスティーア達は全て
を汚されていった・・・
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