魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀15
ボビーの悪夢とエリーゼ姫のメッセージ
ムーンライズ
ミスティーア達がデスガッドに捕らえられてから数時間後、東の空が白々と明るくなり、
朝を告げる一番鳥の声が響く。
バーゼクス軍の宿舎では、大勢の兵士達が眠っており、セカンドチームの面々も狭い部
屋の中で押し合って寝転んでいた。
「う、ううん・・・うう・・・」
その狭い部屋の片隅で、1人の兵士が苦しそうに悪夢にうなされていた。
彼は昨日、訓練をサボってお姫様歌劇団の歌を聞いていたために、司令官のゲルグに懲
罰を受けていたボビーだった。
「うう・・・ミィさん・・・ミィさん・・・」
彼の口からミィさんこと、ミスティーアの名が漏れている・・・
夢の中で、ボビーに助けを求めてくる若い娘。それは紛れも無くお姫様歌劇団のミィさ
ん(ミスティーア)であった。
(・・・たすけて・・・たすけて・・・ぼびーさぁんん・・・)
ドレスをズタズタに引き裂かれ、泣きながら駆け寄ってくるミィさん。その後ろから・・
・異形の怪物達が狂喜の雄叫びを上げながらミィさんを追っているのだ。
(み、ミィさんっ!?)
慌てて助けようとするボビーだったが、ミィさんは寸前で怪物達に捕らえられ、強姦さ
れる。
(や、やめろーっ!!ミィさんから離れろぉーっ!!)
叫ぶボビーだったが、何故か彼の足は凍りついた様に動かない。
(いやあーっ、たぁすけぇてえええ・・・)
強姦されるミィさんの後ろでは、歌劇団の仲間が同様に強姦され、双子の男の子と用心
棒が血祭りに上げられている。
(あああ・・・ミィさん・・・)
余りにも凄惨な状況を前にして、ただ立ち竦むしかないボビー。
そして、上空から巨大な手が出現したかと思うと、ミィさんを鷲掴みにして持ち上げる。
(ワハハハ・・・ワーハッハッハ!!)
高笑いが響き、巨大な手の主が明らかになる。それは・・・片目を残忍に光らせるゲル
グであった。
(この俺に逆らった者は全てこうなるのだぁ〜っ。貴様も思い知るがいい〜っ!!)
巨大な手で握り締められたミィさんが悲鳴を上げた。
(や、やめてくれーっ、ミィさんに何をするんだっ!!ミィさんを返せーっ!!)
だが、ボビーの叫びも空しく、助けを求めるミィさんは、嘲笑うゲルグに連れ去られて
いった・・・
(ぼびーさぁーん・・・たすけてーっ・・・)
(み、ミィさぁーんっ・・・!!)
「みっ、ミィさぁんっ!!うわあああーっ!!」
大声を上げて飛び起きるボビー。
「はあはあ・・・ゆ、夢か・・・」
汗だらけになって溜息をついたボビーは、ただの悪い夢だった事を知って安堵した。
ボビーの大声に目を覚ました他の兵士達が、怪訝な顔で目を擦っている。
「う〜ん、何だよボビー。朝っぱらから何騒いでんだよっ。」
「あ、ああ、すまん。変な夢を見てたんだ。」
「女にフラレる夢か?」
「ん・・・まあ、そんなとこだ。」
曖昧に答えるボビーに、軍服を投げる仲間の兵士。
「今朝はお前の当番だろ、さっさと支度しろよ。」
「うん・・・わかった。」
ボンヤリした顔で軍服に着替えると、城の警備に向かった。
城の警備は主に、挌下のセカンドチームに命じられている。今朝はボビーの当番であり、
彼は城の巡回警備のため、中庭を歩いていた。
「ふう・・・」
おぼつかない足取りで歩くボビーは、先程の悪夢を思い出した。悪夢は余りにもリアル
で、まるで現実だったかのような感覚が残っている。
「全く酷い夢だよ・・・ミィさんがバケモノに襲われる夢だなんて・・・」
溜息をつくボビーだったが、あれは正夢ではないかと不安を抱いて立ち止まった。
「まさか・・・ミィさんの身に何かあったんじゃ・・・」
ボビーは不意にメイドの宿坊に目を向けた。ミィさん達、お姫様歌劇団一行はメイドの
宿坊に泊まっているはずだ。
ミィさんの安否を案じたボビーは、警備の順路を外れて宿坊に走って行った。
宿坊の前にある井戸端には、顔を洗っているメイドがいる。
井戸端に走り寄ったボビーがメイドに声をかけた。
「おおい、ちょっと聞きたい事があるんだ、いいか?」
ボビーに向き直ったメイドは、気だるそうに眠気まなこを擦っている。
「ふああ・・・あ、なに?」
「宿坊にお姫様歌劇団が泊まってたよな?彼女等は寝てるのか。」
「ううん、彼女等ならもういないわよ。早くに出て行ったみたい。」
メイドの返答を聞いて呆気にとられるボビー。
「出て行った?こんなに早くにか?」
「うん、今朝見たら誰もいなかったの。男の子や用心棒さんもいなかったし、歌劇団の
馬車も無かったから多分、夜のうちに出て行ったと思うわ、ふああ〜あ・・・」
あくびをしながらボビーに答えを返すメイド。
「そうか・・・出て行ったのならいいんだ、ありがとう。」
メイドの返答を受け入れ、そそくさと宿坊から離れるボビー。
「・・・俺の思い過ごしだったか・・・」
そう呟いた。が、不安は消えない。何か・・・おかしい。
いくら急いでいるとはいえ、メイド達に声もかけず、夜も空けないうちから早々に立ち
去るだろうか?余りにも不自然だ。
考えすぎと言えばそうだが、何か・・・胸に引っ掛かるものがある。
「メイド達に遠慮して出て行ったか?いや・・・違う・・・」
頭を振って思案するボビー。不安は更に増幅される。
「う〜ん・・・」
考え事をしていたボビーは、中庭をキョロキョロとしながら歩いている不審者を見つけ
た。不審者は、城の牢獄を見張っている看守だった。
「おい、何してるンだ?」
声をかけられた看守が、酷く驚いた顔でボビーを見た。
「うひっ!?あ?ああ・・・なんだ・・・見回り兵かよ・・・」
しどろもどろにしている看守は、囚人に使う食事用の皿を持っている。
「何処へ行くんだ、こんな朝から。」
「ああ、ええっと・・・その・・・朝飯を取りに行くんだけどさ・・・厨房はどっちだ
ったけ・・・?」
トボけた顔で妙な事を尋ねる看守。食事を作る厨房はすぐ目の前だ。
「厨房かよ、それならすぐそこだぜ。」
「お〜、そうだった・・・スマン、スマン・・・」
愛想笑いしながら立ち去る看守の襟首に、白い布がぶら下がっている。本人はそれに気
がついていない様子で、バタバタと走るうち、布は外れて落ちた。
「おおい、落し物・・・」
ボビーがそう言いながら布を拾い上げる。が、布を見た彼の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
「おいっ・・・これはっ!?」
慌てて看守に声をかけるが、等の看守は厨房から食事を持ち出すなり、ボビーを無視し
て城の監獄へと走り去った。
その様子は余りにも怪し過ぎる。
「あいつ・・・」
怪訝な顔で呟いたボビーは、再度布に目を向ける。その布には、赤い字でメッセージが
書かれていた。
(我は王妃エリーゼ。今私は、悪しき漢奸によって監獄に囚われています。このメッセ
ージを見つけた者に、早急の救済を求めます。なお、城にお姫様歌劇団を名乗る者が囚わ
れているもよう。その者達の救出も願う。)
布に書かれた文章を読むボビーの手が、ワナワナと震えている。
「お、お后様が!?それにミィさん・・・お姫様歌劇団が・・・」
その内容は、ボビーの悪夢が正夢である事を裏付ける、エリーゼ姫のメッセージであっ
た。
時間は、ボビーが悪夢にうなされていた時より1時間ほど遡る。
ゲルグによって監獄に囚われているエリーゼ姫は、淡い朝日の光を手掛かりに、何かゴ
ソゴソと勤しんでいた。
シーツを引き裂いた布に、自分の血を使って文章を書いているのだ。
「・・・私は・・・それと歌劇団の方達の事も書かねば・・・」
ゲルグや看守の話を盗み聞いているエリーゼ姫は、歌劇団の事も同時に記した。
衣服を奪われ、全裸状態のエリーゼ姫は、外の者にコンタクトを取る術も奪われていた。
色々と思案した挙句、シーツの切れ端にメッセージを添えて助けを求める事を思いついた
彼女は、どうやって布を外に持ち出すか悩んでいた。
「窓から放り出す事はできないし・・・何か良い方法は・・・」
扉の外には居眠をしている看守がいる。看守を利用すれば良いが、どうやれば・・・・
「・・・しかたないですわ・・・この手で行くしか・・・」
看守を監獄に引き込むにはこれしかない・・・何か悲痛な表情で呟くと、意を決した様
に看守に声をかけた。
「ねえ・・・お願いがありますの・・・」
何度か呼びかけると、居眠から覚めた看守が空ろな目で監獄を覗いた。
「どーした・・・あ?」
看守が驚きと戸惑いの声を上げる。ベッドに座っているエリーゼ姫が、ハアハアと怪し
げな声で喘いでいるのだ。
「ねえ・・・お願い・・・私を慰めて・・・」
流し目で看守を手招きすると、看守はゴクリと固唾を飲んだ。
「な、慰めてって、その、どー言う事だぁ?」
「決っていますわよぉ・・・ここを・・・あなたに慰めて欲しいの・・・」
そう言いながら、股間を広げて看守に見せつける。
「おほっ!!ま、待ってろ・・・今すぐ慰めにいくぞっ。」
欲情を露にした看守が、カギをあけて監獄に飛び込んで行く。
「へへへ、今すぐ慰めて、あっ。」
エリーゼに手を出すなよ・・・看守はゲルグの命令を思い出した。もし命令を破ったら、
ゲルグに何をされるかは明白だ。
「あぁ、だ、ダメだ〜っ。この事が司令にバレたら・・・」
引き返そうとする看守に、泣き声で懇願するエリーゼ姫。
「おねがぁい・・・ゲルグにイジメられてから、ここが・・・すごく疼くのよぉ・・・
もう夜まで待てなぁい・・・」
エリーゼ姫の誘惑を跳ね除けようとする看守だったが、思いとは反対に、体はエリーゼ
姫に歩んで行く。
「だ、だからダメだって・・・その・・・」
「うふふ・・・身体は正直ですわ。」
近寄る看守の股間を手で弄ると、看守は歓喜の声を上げる。
だが、今だゲルグへの恐怖が強い看守は、首を振って拒否する。
「勘弁してくれよ〜、司令には逆らえねえ・・・って、おいっ!?」
看守が驚きの声を上げる。エリーゼ姫が看守のズボンを引き下ろし始めたのだ。
「おい・・・まって・・・」
「いいじゃありませんか・・・ちょっとぐらい。」
魅惑の目で看守を見つめるエリーゼ姫は、たじろぐ看守のズボンを下ろし、小汚いイチ
モツをペロペロと舐め、口に咥えて愛撫をする。
チュパチュパと卑猥な音をたてながら、エリーゼは看守のイチモツをしゃぶった。
「にょおおお〜っ?き、気持ちいい〜っ。」
可憐なエリーゼ姫にフェラチオをされて悦ぶ看守。
「ンク・・・どうですか、私を慰めていただけます?ンン・・・」
「おおお〜っ、な、慰めますう〜っ、慰めさせて頂きますう〜っ。ゲルグ司令のめいれ
ーなんか、もー知らねーっ!!」
欲情した看守は、エリーゼを押し倒して怒張したイチモツを下半身に擦りつけてくる。
「ああ〜んっ、乱暴にしないでぇ〜。」
「にょほほ〜っ。もう止まらねーっ!!」
前戯も無いまま看守に責められるエリーゼ姫は、顔を歪めながらメッセージを書いた布
キレを、密かに看守の襟に結びつけた。
「こ、これでいいわ・・・」
小声で呟く彼女の目は真剣そのものだ。
無論、彼女に快楽の欲望など無く、メッセージを外に持ち出す目的で、こんな芝居をう
ったのだ。
今までも同じ手を考えてはいたが、姫君と言うプライドが躊躇させていた。だが、絶体
絶命の彼女は、恥を捨て女の武器を利用して窮地からの脱出に挑んだのだ。
恥辱に耐えるエリーゼ姫の心境など全く知らず、陵辱に励む看守。
「えへへ〜、し、司令は毎晩こんな事してたのかよぉ・・・うおお〜、い、イクう〜っ。
」
激しく悶えてエリーゼの中に射精する看守。
「うっ、うう・・・」
おぞましい精液を放たれたエリーゼ姫の顔が苦悶に歪む。でも、ゲルグの怪物に責めら
れるよりもマシだった。
果てた看守は、最高の快楽の余韻に浸っている。
「えへへ〜、気持ち良かった〜。」
「そう・・・気持ち良かったの・・・そう・・・」
作り笑いを浮べるエリーゼは、看守に甘えるような口調で声をかける。
「ねえ・・・悪いんだけど・・・朝ご飯持ってきてもらえるかしら?毎日残飯ばかりで、
もううんざり・・・厨房からご飯を持ってきてくれたら、もっとサービスしてあ・げ・る。
」
エリーゼにキスをされた看守は、目をハートにして皿を手にした。
「も、もってくるよ〜っ。今すぐに〜っ。」
走り去る看守を見ていたエリーゼ姫は、激しい飢えと乾きに苦しみ始める。
「あうう・・・喉が乾く・・・お腹が焼ける・・・」
彼女の首に巻かれている餓鬼の首輪が、凄まじい空腹を促しているのだ。
空腹に耐えながら、エリーゼ姫は神に祈った。
「神様・・・お願いです・・・メッセージがゲルグやデスガッドの手に渡りません様に・
・・」
メッセージを書いた布は簡単に外れる様にしている。だが、メッセージがゲルグやデス
ガッドの手の者に渡れば、エリーゼは今以上に酷い目に遭わされるだろう。でも、僅かな
希望に彼女はかけた。
神は正しい者の味方だ・・・
その思いだけが彼女の支えであった。
エリーゼ姫にメッセージを託されているなど知らない看守は、挙動不審な足取りで厨房
に向かった。
そして、天はエリーゼ姫に味方した。メッセージは誠実なボビーの手に渡ったのだ。
厨房から食事を取ってきた看守が監獄に向かうのを、後から追っているボビー。
「あの野郎が何か知っているに違いない・・・捕まえて吐かせてやるっ。」
エリーゼ姫とミィさんの危機を知ったボビーは、警備の任務を放り出して監獄に向かっ
ている。
等の看守は、他の者に見つからないかとキョロキョロしながら監獄のある建物に歩み寄
った。
「見つかってねーな・・・」
呟いた看守が建物の扉に進もうとした、その時である。
「待ちやがれっ!!」
日に焼けた褐色の腕が、看守の頭を捕らえる。
「んぐぐ・・・て、てめーは・・・さっきの・・・」
「さあ、こっちにこいっ。」
足掻く看守を捕まえたボビーは、人気の無い場所に看守を連れて行った。
軟弱な看守は、屈強なボビーに捕らわれたまま呻き声を上げた。
「な、なにしやがる・・・離せこの・・・」
「貴様に聞きたい事がある。正直に答えねえと軟弱な頭をブッ潰すぜっ。」
「き、聞きたい事?」
「ああ、そうだ。ここにエリーゼ姫が、お后様が囚われているだろう?貴様は知ってる
なっ、全部吐けっ!!」
ボビーに問い詰められ、顔色を失う看守。
「し、知らねえ・・・誰が言うもんかっ、んぎぎっ。」
しらばっくれる看守の首を、褐色の豪腕が捻じあげた。
「とぼけるなっ!!さっさと吐くんだよっ!!」
「ま、まいった・・・離して・・・しゃ、喋るから・・・」
地面に投げ出された看守は、咳をしながらエリーゼ姫が囚われている事をボビーに喋っ
た。
「ゲホゲホ・・・て、てめーの言う通りだよ・・・エリーゼ姫はここに囚われている・・
・ゲルグ司令の命令でエリーゼ姫を監視してたんだ・・・彼女が肺病を患ってるのはウソ
だ・・・実は・・・」
観念した小心の看守は、事の全てをボビーに洗いざらい話した。ゲルグやデスガッドの
悪事を知ったボビーは、声を震わせて看守を睨む。
「そんな事があったのか・・・で、お前はお后様の食事を調達するために厨房に行って
た訳だな。」
「そうだよ・・・でも、食事はエリーゼ姫に言われて取りに行ったんだぜ。マシな食事
を持ってきたらイイ事してやるって言ったから・・・あっ。」
余計な事を喋った看守に詰め寄るボビー。
「なんだってっ!?イイ事って、どー言う意味だコラッ!!」
「あひいっ!!あ、あれだよ・・・エリーゼ姫が俺に御奉仕してくれて、その・・・誘
ってきたのはエリーゼ姫の方だから、その・・・」
うろたえる看守の言葉に、全てを察したボビーが声を荒げた。
「それでお前はエリーゼ姫を辱めたのかっ!?なんて奴だ・・・てめえみたいなクズは
叩きのめしてやるっ!!」
「ひえ〜っ、許してーっ!!俺は悪くねーよぉ〜っ。」
泣き喚く看守に、呆れた顔で溜息をつくボビーだった。
「あの誠実なお后様が、安易に看守を誘惑する筈が無い・・・メッセージを送るために
恥を忍んでされたのだろう・・・ご心中を察します、お后様・・・」
エリーゼの気持ちを理解したボビーは、彼女の労苦に報いる事を決意した。
「よし、こうなったら今からお后様を助けに行く。お前にも付き合ってもらうぞ、いい
なっ!?」
ボビーに言われて仰天する看守。エリーゼ姫の救出に手を貸すと言う事は・・・恐ろし
いゲルグに逆らう事だったからだ。
「そ、そそそ、それは勘弁してくれっ!!エリーゼ姫を監獄から出したのがバレたら・・
・俺は司令に始末されちまうよお〜。」
ガタガタ震えている看守に、ボビーは問答無用で詰め寄った。
「ほう、じゃあ後でゲルグに始末されるのがいいか、今ここで俺に始末されるのがいい
か、どっちか選びな。」
ボキボキ指を鳴らすボビーに睨まれ、気の小さい看守は半泣きになった。
「わ、わかったよぉ〜っ、言う事を聞くから助けて〜。」
「よーし。じゃあ、お后様の所へ案内してもらおうか?」
「します、します。」
ボビーの問いにコクコクと首を縦に振って応答する看守。
看守を無理やり立たせたボビーは、先程のメッセージを思い出した。
(お姫様歌劇団が囚われているもよう。)
エリーゼ姫は知っている。ミィさんの事を・・・
彼女を助ける事も大事であるが、それと同様にミィさん達歌劇団の安否も心配なボビー
は、一大決心した。
ゲルグを、いや・・・バーゼクスの全てを敵に回す覚悟を決めたのだ。もちろん、不安
や後悔が無い訳ではない。でもミィさんを助けたい気持ちのほうが上回っているのだ。
嫌がる看守を引き立てたボビーは、エリーゼ姫の囚われている牢獄に進んで来た。
「おらっ、さっさと案内しろっ!!」
「そう急かすなよ〜、こっちだ。」
渋々ボビーを案内した看守が、エリーゼの囚われている場所に立った。
「おーい、エリーゼちゃん。朝メシ持って来たぞ。」
看守が牢獄の扉を開けると、そこには餓鬼の首輪によって苦痛に苛まれているエリーゼ
がいた。
「あううっ、は、早く食べ物を頂戴っ!!」
目を見開きながら皿を奪い取ったエリーゼは、恥も階分も無く食事を貪り食った。
「はぐっ、はぐっ・・・むぐぐ・・・」
「無理して食うからだよ、ほら水。」
喉を詰まらせたエリーゼ姫が、看守から水筒を受け取ってゴクゴク飲み干す姿を、ボビ
ーは悲痛な目で見ている。
「お后様・・・」
その声を聞いたエリーゼは、声の方向に向き直った。そこには、色黒の誠実な顔をした
兵士が立っている。
「あ、あなたは・・・?」
「自分はセカンドチームのボビーと言う者であります。お后様のメッセージを受け取り、
あなたを助けに参りました。」
現れたボビーの手を取って歓喜の声を上げるエリーゼ姫。
「ああっ・・・助けにきてくれたのですねっ!?よかった・・・神は私を見捨ててはい
なかった・・・」
「でも、これは一体どーしたのですか、こんな惨い姿に・・・」
品のあったエリーゼ姫の浅ましい姿を見て尋ねるボビーに、声を詰まらせて返答するエ
リーゼ。
「ううう・・・これです・・・この餓鬼の首輪で私は苦しめられているんです・・・ゲ
ルグは私が逆らえない様に、魔法のかかった首輪をつけたのですよ・・・お願い・・・こ
れを外して・・・」
悲痛な声を聞いたボビーは、慌てて首輪に手をかけた。
「この首輪で飢えに苦しむ様にされていたのでありますかっ?今外します。ご辛抱を・・
・」
首輪を強引に外そうとするボビー。ボビーの強力によって、餓鬼の首輪はミリミリと引
き裂かれていった。
「ううーんっ、もう少し・・・うりゃっ!!」
ブチッという音と共に、首輪はエリーゼの首から外れた。
「はうっ・・・ハアハア・・・はあ〜、たすかった・・・」
飢えから解放されたエリーゼ姫が安堵の溜息をつく。全裸の彼女にシーツをかけたボビ
ーが、なだめるような口調で尋ねた。
「この様な時に大変申し訳ありませんが・・・お后様をこんな目に遭わせたゲルグは一
体何を企んでいるのでしょうか?看守に聞いた話では、ゲルグとデスガッドが悪事を働い
ているとの事でしたが。」
ボビーに聞かれたエリーゼは、気を取り直して返答する。
「ええ、詳しい事を話しますわ・・・ゲルグは・・・」
悲痛な声で話すその内容は、ボビーにとって余りにも恐ろしい事であった。ゲルグの陰
謀、そしてデスガッドによって伏魔殿と化したバーゼクス・・・全てが彼の心を驚愕させ
た。
「そんな・・・バーゼクスは悪魔の城になっているのですかっ。ゲルグめ・・・軍人の
心得がどうのとか言いながら、バーゼクスを売りやがったなっ!!」
激しい怒りを露にして叫ぶボビーを、エリーゼは制した。
「まって、気を鎮めなさい。怒鳴っても仕方がありませんわ。」
「あ、はいっ・・・スミマセン。」
興奮するボビーを落ちつかせたエリーゼは、監獄からの脱出を検討した。
「とりあえず、ここから逃げ出したいのです。そして、事の次第をバーゼクスの皆に知
らせねばなりません。手を貸してもらえますか?」
「もちろんですともっ!!ゲルグとデスガッドの企みをブッ潰して・・・あれ?あいつ
は・・・」
力強く答えたボビーは、ふと看守の姿が見えないのに気がついた。
慌てて監獄から飛び出したボビーは、コソコソ逃げようとしている看守を見つけて取り
押さえた。
「てめえ何処へ行く気だっ!?」
「あ、あの〜、ちょっとトイレに・・・」
「トイレだぁ?ウソつけっ。どーせゲルグにチクる気だったんだろーがっ。逃げような
んて思うなよっ!!」
「ひえ〜い、許してよ〜。」
ボビーに怒鳴られる看守も、もはや引き返す事はできなくなっていた。
ボビーを監獄に入らせてしまった事が冷酷なゲルグにバレたら、彼の命も無い。
「あ〜あ、これで俺も反逆者かあ・・・とほほ・・・」
泣きながらボビーに従う看守だった。
看守の襟首を掴んで牢獄に戻って来たボビーは、脱出の案を考えているエリーゼと話し
合った。
「監獄から逃げた事がバレないようにしなければいけませんね。」
「ええ、それについてですが、メイドに成りすまして逃げようと思っています。服と化
粧品と、それにハサミも持って来てもらえますか?」
「ハサミ・・・ですか?わかりました。」
疑問を抱きながら、看守を引っ張って外に出て行ったボビーは、メイドの服と化粧品と
ハサミを盗んで戻って来た。
「これでいいですか?」
「いいですわよ、すぐに支度しますわ。」
そう言うや否や、エリーゼ姫は自慢のロングヘアーをハサミでバッサリと切り落とした。
「お后様っ!?何を・・・」
「落ちついて、切った髪は他の看守の目をごまかすのに使います。」
そう言ったエリーゼはメイドの服に着替えた後、切った髪をまとめてベッドに置き、シ
ーツを被せた。一見すればエリーゼがシーツに包まった状態で寝ている様に見える。
髪を短く切り、受け取った化粧品で顔を浅黒く塗っているエリーゼは、ちょっと見たぐ
らいではエリーゼ姫本人と判断する事は難しい。
脱出の手筈を整えたエリーゼが看守に向き直る。
「これで完了ですわ。後は、あなたが交代の看守をごまかせばいいのです。わかりまし
たね?」
有無を言わさぬ口調で尋ねられた看守は、先程エリーゼを辱めた勢いも萎え果て、文句
も言えない有様となっている。
「わかったよ〜、ごまかせばいいんだろ?ごまかせば・・・」
渋々呟いた看守が、他の看守に交代を告げに向かった。
それを見届けたボビーは、最も案じている事をエリーゼに尋ねた。
「お后様・・・メッセージにはお姫様歌劇団が囚われていると書かれていましたが、そ
れは本当でありますか?」
その問いに、少し顔を曇らせるエリーゼ。
「え、ええ・・・ゲルグが手下と話しているのを聞いたのですが、昨日城に来た彼女等
は、スパイの容疑をかけられて囚われたようです。無論・・・濡れ衣でしょうけど・・・」
エリーゼの口から直接聞くまでは半信半疑だったが、悪夢が本当だった事を辛烈な思い
で受け入れるボビーだった。
「やはり・・・ミィさんは・・・」
「ミィさん?」
ボビーの独り言を聞いたエリーゼが疑問を投げかける。
「あ、ミィさんと言うのは・・・歌劇団のメンバーですが、その・・・」
口篭もっているボビーを見たエリーゼは、ボビーが(ミィさん)を個人的に案じている
心情を直感した。
「あなたはミィさんの事を、とても心配してるのですね?ひょっとして・・・ミィさん
に恋してるとか。」
図星を突かれたボビーは、顔を真っ赤にして否定した。
「い、いや・・・その・・・恋してるとかそんなんじゃなくて・・・」
「隠さなくてもいいですよ、顔に書いてますわ。ミィさんが心配だって。でも、その気
持ちが大切なんですわよ。大切な人を守りたいと思うその気持ちが。」
「は、はあ・・・でも・・・」
曖昧に答えるボビーの心には、拭い切れない恐怖があるのもエリーゼは察した。
ボビーは恐れているのだ、冷酷なゲルグに逆らう事を・・・
そんな彼を叱咤するエリーゼ姫。
「しっかりなさいっ、ミィさんが好きなんでしょう?助けたいのでしょう?ゲルグを恐
れていては何もできませんわ。このまま尻込みして一生後悔する気ですかっ!?」
「お后様・・・」
厳しいエリーゼの言葉に、ボビーは呆気に取られている。
そんな彼をエリーゼは、穏やかな口調で励ました。
「大丈夫、あなたならミィさんを助ける事ができます。勇気を持つのですよ、私も協力
しますわ。」
「勇気を・・・そうだっ、ミィさんをゲルグの手から助け出すんだっ・・・ありがとう
ございます、お后様っ。」
ゲルグへの恐怖を振り払ったボビーに安堵したエリーゼは、優しい顔で微笑んだ。
ボビー自身、ミィさんに対する感情を深く意識していなかったが、エリーゼに言われて
はっきりと実感していた。
俺はミィさんが好きなんだ・・・
ミィさんを助けるためなら何も怖くない。彼の心に、ミィさんへの(愛)が芽生えてい
たのである。
しばらくして、仲間に報告を終えた看守が戻って来た。
「おーい、報告は終わったぞ。夜にゲルグ司令が戻ってくるまでは大丈夫だ。」
バタバタと駆け寄ってくる看守を見ながら、エリーゼとボビーは脱出の手筈を整えた。
「では、行きましょう。ミィさんを助けに・・・そして、悪漢どもからバーゼクスを守
るために。」
「わかりました。」
看守を含めた3人は、悪夢の牢獄を抜け出した。
エリーゼにとって、2ヶ月ぶりの自由だった。
脱出したとはいえ、困難が終わった訳ではない。今以上の困難がエリーゼ達を待ってい
るのであった。
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