魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀11


   敵に捕まった天鳳姫!!
ムーンライズ

 スノウホワイトがデスガッドの手に落ちたその時、地下室に潜入
していたミスティーアは(何か)嫌な予感と共に、スノウホワイト
の声を聞いたような気がして立ち止まった。
 「?・・・スノウホワイトさん?」
 振り返っているミスティーアを、不思議そうに見ている天鳳姫。
 「どーしたアルか?」
 「その・・・スノウホワイトさんの声が聞こえたような・・・」
 心配げなミスティーアを見た天鳳姫が、コンパクトを取り出して
スノウホワイトを呼び出そうとした。
 しかし、スノウホワイトからの応答は無い。
 「何かあったアルかな・・・呼び出しに出られない筈はないアル
けど・・・」
 「手が離せないとか。」
 「それだったらドワーフ君が出るのコトね。まあ、ドワーフ君も
忙しいのだったら話は別アルけど。」
 一抹の不安を抱きながら、天鳳姫はコンパクトを閉じた。
 表情を曇らせる2人を見たエルとアルが、スノウホワイトの元に
行く事を思い立った。
 「私達もスノウホワイト様が心配ですわ。」
 「姫様、天鳳姫様、私達が見てきますの。」
 2人の言葉に、ミスティーアは仕方なく頷いた。
 「じゃあ、お城の見取り図を渡すわ。デスガッドの居場所は見取
り図に書いておくから、気をつけてね。」
 「わかりましたですわ。」
 「すぐに行ってきますの。」
 2人は素早く身を翻して地下室から出て行く。2人だけなら警備
兵の目を盗んで城の上層部にまで行く事も出切るだろう。
 だが、デスガッドの正体を知らないミスティーアは、余りにも軽
率な事をしてしまった。大切なエルとアルを、邪悪な怪物の潜む場
所に向かわせてしまったのだ・・・
 2人を見送ったミスティーアと天鳳姫の元に、リンリンとランラ
ンが、デスガッドの弟子達が着ているグレーの服を持って現れた。
 「姫様っ、弟子達の服を盗んできましたよ。」
 「手際が良いのコトねー。さすがは元凄腕のドロボウさん、腕は
落ちてないアルね。」
 潜入用に服を調達してきた2人に、誉め言葉をかける天鳳姫。
(おデブのランランが何故、身軽にドロボウなどできるのか?との
疑問はさておき・・・)
 4人は早速グレーの服を着こみ、弟子に成りすまして地下室の最
深部への扉を開いた。
 そこは・・・あまりにも陰湿な場所だった。
 薄暗い地下室は、ミスティーア達が想像したよりも遥かに大規模
で、そして邪悪だった。
 石で出来た無機質な壁には奇怪な道具が並べられている。そのい
ずれも拷問や拘束に使用する物で、この地下室が尋常ならざる場所
である事を示している。
 中央には幾何学的な文様の魔法陣が描かれており、地下室の階段
を降りながら、天鳳姫は怪訝な顔で呟いた。
 「あの魔法陣、魔界の魔法陣とは全然違うアル。イヤな予感がす
るのコトね・・・」
 魔法陣は天鳳姫の言う通り、魔界の魔法陣とは明らかに違ってい
た。
 しかも、その魔法陣には魔族であるミスティーア達の精神を狂わ
せるような・・・何か異様な波動が放たれている。
 地下室の様子を伺っていたランランが、奥を指差して囁いた。
 「姫様・・・あそこを見てズラ・・・」
 指差す方向を見た天鳳姫達は、暗がりにある異様な物体を見て目
を見張った。
 「あれは・・・」
 ガラス製の巨大な筒が並び、その中に何かが蠢いている。
 「近くに行ってみましょう・・・」
 ミスティーアの言葉に、一同は頷いた。
 服のフードを被って顔を隠し、地下室にいる弟子達に怪しまれな
い様、奥へと歩いて行く。
 ガラスの中を覗きこんだミスティーア達の顔が、驚きと恐怖に変
わった。
 「か、怪物よ・・・これが娘さん達の言っていた魔人ね。」
 ガラスの中には人間とも動物ともつかない怪物が封じ込められて
いる。魔界にも異形の者はいるが、これほど奇怪な怪物はいない。
 無言で魔人を見ていたミスティーア達の背後から、デスガッドの
弟子が歩み寄ってくる。
 「おい、お前ら何をしているんだ?」
 声をかけてきた弟子に、慌てて向き直るリンリン。
 「あっ、あの・・・これの様子を見るように言われてる、です。」
 「ドクターに言われたのか?」
 「はい、ドクターに言われたの、です。」
 バレるかも・・・ミスティーア達は固唾を飲んだ。だが、弟子の
返答は意外なものだった。
 「そうか、じゃあしっかり見ておけ。」
 それだけ言うと、足早に去って行った。
 ふう〜っと、安堵の溜息をついたミスティーア達は、ガラスの筒
を見る仕草をしながら、弟子達の視界から逃れる。
 ミスティーア達に声をかけた弟子が、近くの仲間に小声で話し掛
けた。
 「おい・・・あいつ等がドクターの言っておられたスパイか?」
 「ああ、そうらしい。しばらく泳がせてから捕まえろとの事だ。
そのままにしておいて、奴等が動いたら即座に身柄を確保しよう。」
 手短に話し終えた弟子達は、何事も無かった様に持ち場に戻って
行った。
 弟子達の話に気が付かないまま、筒を覗いていたミスティーア達
の耳に、若い娘の金切り声が聞こえた。
 「ヒイーッ!!やめてーっ!!」
 声のする方向に目を向けると、だらしない色白のデブ男が、娘の
髪の毛を掴んで引き摺っているのが見えた。
 「うはは〜っ、さっさと来いってーのっ。お前も魔法陣の餌食だ
〜。」
 パンツ一丁で全裸の娘を引き摺るその男に、弟子達が怪訝な顔で
愚痴を言っている。
 「こんな時に、バカ国王がっ。」
 弟子の声を聞いたミスティーア達は、デブ男の正体がモルレム国
王だと察した。
 「あの男が・・・」
 モルレムは泣き叫ぶ娘を魔法陣の前に引き立てると、弟子に命令
する。
 「おいっ、こいつの生気を魔法陣で吸いとってやれっ。」
 「あの、モルレム陛下。今は生気の採取を行なっておりません。
申し訳ありませんが・・・」
 「ぬぅあに〜っ!?僕のめいれーが聞こえないってか〜っ!?ぼ、
僕は世界の支配者さまだぞっ、この無礼者〜っ。」
 顔を真っ赤にして怒鳴るモルレムは、かなり酒に酔っている様子
だ。呂律の回らない口調で訳のわからない事を口走っている。
 デスガッドとゲルグにそそのかされているモルレムは、世界の支
配者を気取って弟子達に威張り散らす。
 ヤレヤレと溜息をついたデスガッドの弟子は、仕方なく命令に従
った。
 「今日だけですよ陛下、次は勘弁してくださいね。」
 そう言いながら、魔法陣に呪文を唱える弟子。魔法陣から怪しい
光が放たれ、出現した触手に引き込まれた娘は生気を吸い取られな
がら悶える。
 「あひっ、ひいいっ!!いやーっ!!」
 悲鳴を上げる娘を、ゲラゲラ笑いながら眺めているモルレム。
 「ひゃはは〜、僕に逆らうからそうなるんだぜ〜。いいか、お前
ら〜。僕に逆らった奴は、みーんなこーなるんだぜっ!?よーく覚
えときなァ〜。ヒック、ウーイ・・・」
 ワインボトルをラッパ飲みしたモルレムは、酩酊したままその場
に倒れこんでしまった。
 「グ〜、僕は支配者さまだ〜。ムニャムニャ・・・」
 寝言を言いながら爆睡しているモルレムは、文句を言っている弟
子達に担がれて地下室から運ばれて行った。
 その一部始終を呆れた様子で見ていたミスティーア達は、愚公の
モルレムに怒る気力さえ無くしていた。
 「あんなアホが国王だなんて・・・バーゼクスもお終いのコトね。
」
 「ええ、デスガッドに利用される筈ですよ、全く。」
 天鳳姫とミスティーアがそう言っていると、背後の筒に封じられ
ている魔人達がビクビク動き始めた。
 「ヴウウウ・・・」
 魔人の唸り声に驚いたミスティーア達は、魔人が採取された娘の
生気を吸い取って活性化しているのに気がつく。
 「魔人が目を覚まさない内にズラかるズラ。」
 ランランの言葉に、一同は速やかに奥から離れた。途中、擦れ違
った弟子達に会釈しながら、魔法陣に近寄る。
 今だ魔法陣に囚われたままの娘を助けるためだ。
 「弟子達を引付けなければ・・・」
 ミスティーアはそう言うと、道具が積み上げられている場所に視
線を向けた。
 「・・・燃えろっ。」
 ミスティーアの声と共に、道具が紅蓮の炎に包まれた。ファイヤ
ー・スターターで炎を巻き起こしたのだ。
 突然の出火に、弟子達は大騒ぎをした。
 「うわーっ、火事だっ。」
 「早く水を持って来いっ!!」
 その混乱に乗じ、ミスティーア達は魔法陣に駆け寄った。
 「今ですわっ。」
 気絶している娘の前まで来た、その時であるっ。
 ヴウウーンッ・・・
 魔法陣から強力な光が発せられたかと思うと、無数の触手が出現
し、ミスティーア達に襲いかかった。
 「きゃあっ!?」
 「あいやーっ、何アルかっ!?」
 触手に捕まった天鳳姫が悲鳴を上げた。ヌメヌメした触手が、天
鳳姫の身体を締め上げる。
 「姫様っ!!」
 「私に任せてっ。」
 うろたえるリンリンを制し、ミスティーアは炎の剣を取り出して
触手を叩き切った。
 触手から解放された天鳳姫と娘が床に転がる。
 「あいたた・・・」
 「大丈夫ですかっ、天鳳姫さんっ。」
 なんとか2人を助ける事が出来たのも束の間、消火活動していた
弟子達に見つかってしまった。
 「おいっ、あいつら・・・侵入者だっ。」
 駆け寄ってくる弟子達を見て、顔色を変えるミスティーア達。
 「しまった・・・見つかったアルよっ。」
 「逃げましょうっ!!」
 気絶している娘を抱え、一同は脱兎の如く駆け出す。その前に、
先程声をかけてきた弟子と、その仲間が立ち塞がった。
 「どこへ行く気だ、スパイどもっ。」
 弟子の言葉に、一同は息を飲んで立ち止まった。
 「す、スパイですって・・・まさか・・・」
 もしかして・・・悪夢の事実に狼狽するミスティーア達。
 そう、始めから全てバレていたのだったっ!!
 「マヌケなスパイどもがっ。貴様等の行動は全てお見通しだ、観
念しろっ!!」
 万事休すとなったミスティーア達。こうなったら、戦うしかない
っ。炎の剣を構えるミスティーア。
 「そこをお退きなさぁいっ!!」
 ミスティーアは、弟子の1人目掛け炎の剣戟を炸裂させた。
 「ぐああーっ!!」
 右腕を切り落とされた弟子が絶叫を上げる。
 「邪魔アルよっ!!」
 天鳳姫の両腕からニードルランチャーが発射された。
 「うあっ!?」
 猛毒の針を胸に浴びた弟子が床に転がる。
 弟子を倒して逃げようとするミスティーア達の背後から、怒声を
上げて他の弟子達が襲いかかって来た。
 「貴様らーっ!!」
 迫る弟子達を見た天鳳姫が呪文を唱える。
 「暗黒従者招来、来臨急々如律令!!」
 その声が響くと同時に、リンリン、ランランの周囲が暗黒の闇に
閉ざされる。その闇から、古代中国の衣装を纏い青竜刀を掲げたリ
ンリンとランランが飛び出して来た。
 「ハィヤアアアッ!!」
 天地を揺るがす掛け声と共に飛び出した2人は、いつものリンリ
ン、ランランではなかった。全ての獲物を瞬滅する獰猛な獣の形相
だ。
 2人は、バトルキョンシーに変身したのだ。
 「かの敵を倒せっ!!」
 天鳳姫の命を受けた2人は、青竜刀を振りかざして弟子達に突進
した。
 「キィエエーイッ!!」
 「デェヤアアーッ!!」
 リンリンの鋭い剣戟が空を切り裂き、ランランの豪快な一撃が敵
を粉砕する。
 2人の攻撃に、弟子達が次々吹き飛ばされた。
 それを見ながら、天鳳姫は気絶している娘を魔界へ送り、ミステ
ィーアにスノウホワイトの元へ向かうよう促す。
 「さあ、今の内にスノウホワイトさんのトコへ行くアルっ。」
 「わかりましたわっ。」
 頷いて地下室を出ようとするミスティーア。
 だが、そう簡単にはいかなかった。先程倒した弟子達が、呻き声
を上げて起き上がったのだ。
 「待て貴様ら・・・この程度で勝ったと思ってるのかっ!?」
 腕を切り落とされていた弟子が立ちあがり、ニヤリと笑う。そし
て、その身体が見る見る内に人外の者へと変貌した。
 その姿は、ヒトデと人間を組み合わせた容姿で、切り落とされた
腕の代わりに、仕込みナイフのような刃が飛び出てきた。そのナイ
フは、腕の骨が変化したものだ。
 腕に生えたナイフをかざし、ミスティーアに襲いかかるヒトデ魔
人。
 「クタバレ小娘ーっ!!」
 「やあーっ!!」
 ナイフの刃先が振り下ろされるよりも早く、炎の剣がナイフを切
り落とした。
 だが、すぐさま腕から新しいナイフが飛び出してくる。
 「こ、これは・・・」
 「ククク・・・俺様の腕は特別製でね、いくら切り落とされても、
速攻で再生するのさ。」
 ヒトデの驚異的な再生能力を持つこの魔人を倒すには、頭を潰す
しかない様だ。
 無論、ヒトデ魔人もそれを承知しているだろうから、安々と倒さ
せてはくれないだろう。
 「くっ・・・」
 「フフン、どーした?もっと切り付けて来たらどうだ。」
 硬直状態のミスティーアとヒトデ魔人。
 状況は天鳳姫も同様だった。毒針爆射で倒した筈の弟子が、天鳳
姫に立ち塞がっていた。
 「ウフフ・・・中々やるじゃないの・・・でもあたしには毒針な
んて通用しないわよ・・・」
 顔を覆うフードを外したその弟子は女だった。彼女が胸元をはだ
けると、無数の毒針が刺さった巨乳が露になる。
 そして女弟子が乳房を揺らすと、突き刺さっていた毒針がポロポ
ロと床に落ちる。
 無傷の巨乳を見た天鳳姫が、驚きの声を上げた。
 「あいやっ、毒針爆射が効いてないアルかっ!?」
 驚く天鳳姫に、女弟子は不敵な表情で口を開いた。
 「あたしはドクターの改造手術で、毒に耐性をもった身体になっ
てるのさ。アンタは毒針が武器だけど、それはアンタだけのものじ
ゃないわよ・・・」
 そう言う彼女の身体に黄色と黒色の縞模様が浮かび上がり、女弟
子は毒バチの姿を持つ妖女に変貌した。
 毒バチ女に変貌した女弟子は、両腕を天鳳姫に向ける。
 「今度はこっちの番よっ、食らえーっ!!」
 叫んだ毒バチ女の手首から毒針が連射された。天鳳姫の毒針爆射
と全く同じ技だ。
 マシンガンの如き毒針が天鳳姫を襲う!!
 逃げる天鳳姫だったが、彼女の足に交わし切れなかった毒針が刺
さった。
 「く・・・うっ!?あううう・・・」
 足に激痛が走り、天鳳姫の表情が苦悶に歪む。毒バチ女は、天鳳
姫の毒を上回る猛毒を持っていた。
 「ドクターから聞いたけど、アンタは魔族だそうね。あたしの猛
毒は魔族にダメージを与える事ができるのよ。毒バチの猛毒、存分
に味わうが良いわ・・・」
 ニヤニヤ笑いながら毒バチ女が歩み寄る。
 天鳳姫のピンチに、ミスティーアは声を上げた。
 「大丈夫ですかっ!?今助けに・・・」
 視線をヒトデ魔人から逸らした瞬間、ナイフの攻撃がミスティー
アに襲いかかる。
 「オラァッ!!よそ見してンじゃねえーっ!!」
 ナイフを振り回しながら喚くヒトデ魔人に、炎を浴びせるミステ
ィーア。
 「燃えなさいっ!!」
 「のわああっ!?か、顔があああーっ!!」
 顔面を火ダルマにされたヒトデ魔人が、悲鳴を上げて転げまわっ
た。
 「天鳳姫さんっ。」
 ヒトデ魔人から離れたミスティーアが、床に座り込んだ天鳳姫を
庇う様に毒バチ女の前に立った。
 毒バチ女の腕がミスティーアに向けられる。
 「フン、美しき女の友情か、泣かせるわね〜。2人まとめてあの
世に送って上げるわっ!!」
 毒針のマシンガンを撃とうとした毒バチ女に、天鳳姫が再度毒針
爆射をお見舞いした。
 「ぎゃっ!?」
 毒バチ女が怯んだ隙に、ミスティーアを引っ張って地下室の出口
に走る天鳳姫。
 「ここはワタシ達に任せて、あなたは早くスノウホワイトさんの
所へ行くアルッ。」
 「でも、私が行ったらあなたは・・・」
 躊躇するミスティーアに天鳳姫は檄を飛ばす。
 「早く行きナサイッ!!ワタシ達があんな奴に倒されるわけない
デショウッ!?さあ早くっ!!」
 天鳳姫のお姫様然とした声に、ミスティーアは意を決した。ため
らっている場合ではないのだ。
 「・・・わかりましたわ。スノウホワイトさんを助けたら直ぐに
戻りますっ。それまで頑張って・・・」
 後ろ髪を引かれる思いで地下室を飛び出して行くミスティーア。
 それを見届けた天鳳姫は、激痛の走る足を引き摺りながら毒バチ
女に向き直る。
 そこには、刺さった毒針を払い落とした毒バチ女が鋭い視線で天
鳳姫を睨んでいた。
 「1人逃げられたか・・・でもいいわ、あの小娘も直にドクター
の餌食よ。」
 天鳳姫を睨む毒バチ女は全くのノーダメージだが、天鳳姫は足に
ダメージを負っている上、毒針爆射を使い果たしているため攻撃の
術がない。腕に毒針を仕込み直さなければ毒針爆射を放てないのだ。
 それに反して毒バチ女の毒針マシンガンは幾らでも毒針を連射で
きる。
 「ンフフ・・・アンタは終わりよ、観念するのね。」
 にじり寄る毒バチ女に、リンリンとランランが立ち塞がった。
 「姫様ニ近寄ルナ、ハチ女メッ!!」
 「オマエヲ叩キ切ッテヤルズラッ!!」
 狂暴なキョンシーと化している2人が毒バチ女を威嚇する。
 すると、毒バチ女がニヤリと笑いながら後ろに逃げる。
 「待テーッ!!」
 後を追った2人の足元に、突然巨大な落とし穴が出現した。
 「ウアッ!?アアアーッ!!」
 穴に飲みこまれた2人の頭上から大量の土砂が降り注ぎ、あっと
いう間に生き埋めにされた。
 「ああっ!!リンリン、ランランッ!!」
 絶叫する天鳳姫。
 如何に不死身のキョンシーと言えど、大量の土砂に埋められては
一溜まりもない。
 もうもうと立ち込める土煙の先に、余裕の表情の毒バチ女が立っ
ている。
 「残念だこと、たのみの手下もオダブツよ、アーハハッ!!」
 嘲笑う毒バチ女を、凄まじい怒りの表情で睨みすえる天鳳姫。
 「よくも・・・よくもリンリンとランランをーっ!!」
 殴りかかる天鳳姫の頭上から、数人の魔人が飛び掛かってきた。
 「うあっ!?」
 「ウヒヒッ、捕まえたぜ〜。」
 その魔人は、全員カエルかイモリのような姿をしている。両生類
のバケモノに押さえつけられ、身動きができなくなる天鳳姫。
 「離しナサイッ。このっ・・・」
 いくらもがこうとも、魔人達から逃れられなかった。ヌメヌメし
た両生類の手が、彼女の自由を封じているのだ。
 「ウへへッ、でっかいオッパイだぜ〜。」
 「カワイイお尻だな〜。食べてやろうか〜?」
 卑猥な言葉で天鳳姫をいたぶる魔人達。
 「さ、触るなアルッ。このバケモノーッ!!」
 ジタバタもがく天鳳姫に、毒バチ女が歩み寄る。
 「往生際の悪い奴ね、さっさと観念おし。」
 「うるさいっ!!・・・必ずリンリンとランランの仇を討ってあ
げマスワッ!!」
 「なによその目は、ブチ切れモードって奴ゥ?動けないくせに偉
そうな事ほざいてんじゃないわよ。」
 そう言った毒バチ女が、天鳳姫の首筋に毒針を突き刺した。激痛
と共に意識が遠くなる。
 「うああ・・・は、ハチ女め・・・」
 朦朧とした感覚の中、天鳳姫の耳に嘲る声が響いた。
 「アハハッ、悔しかったら手下の仇を討ちなさイよ、ヒャハハッ!
!」
 「よくも・・・覚えて・・・ナサイ・・・必ず仇を・・・」
 毒バチ女を睨んだまま、捕えられた天鳳姫は意識を失った・・・
 「フン、てこずらせたわね。」
 天鳳姫に一瞥をくれた毒バチ女が、顔中ヤケドを負って呻き声を
上げているヒトデ魔人に嫌味な言葉をかけた。
 「あらあら、どーしたのぉ?男前が台無しじゃないの。」
 「や、やかましいっ!!ちょっと油断しただけだ・・・あの小娘
はどこだっ!?」
 ヤケドで爛れた顔を再生しながら、憎悪のこもった目でミスティ
ーアを探すヒトデ魔人。
 「い、いない・・・どこへ行きやがったっ・・・」
 「あの小娘なら、とっくの昔に逃げたわよ。まあ、仲間は捕まえ
たから良しとしなきゃ。」
 クスクス笑う毒バチ女。ヒトデ魔人は悔しそうに床を殴りつけた。
 「くそっ、俺様に恥をかかせやがってっ!!この借りは必ず返し
てやるからなっ、覚えてやがれ小娘っ!!」
 喚くヒトデ魔人に背を向けた毒バチ女は、下っ端の弟子達に指示
を出した。
 「捕まえた娘は牢屋に閉じ込めときなさい。それとドクターにこ
の事を報告するのよ。」
 「はい。」
 下っ端達が慌しく走り去るのを見届けた毒バチ女は、悦びの表情
で笑った。
 「ウフフ・・・魔族をイジメるのは始めてね。楽しみだわ・・・」
 淫靡な呟きが彼女の口から漏れる。その邪悪な瞳は、気絶してい
る天鳳姫を見据えていた。



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