魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀2
懺悔せし者
ムーンライズ
悪夢に支配されているバーゼクスから、馬車で3日程かかる偏狭の場所に、どの国にも
属さない小さな町があった。
人口数100人の小さなその町は、今日も深い夜の帳に包まれていた。
全ての人々は安眠しており、並み居る家に灯りは一切灯っていない。時折聞こえる犬の
遠吠え以外聞こえてくるものも無い。
真っ暗闇の世界が支配する午前12時、魑魅魍魎が出没するに相応しい時間だ。
だが、そんな不気味な暗闇の中、人目を避ける様に町の外れを歩く男達がいた。
その人数は全部で5人。黒いフードをすっぽりと被り、まるで闇に溶け込むかのような
装束の男達は、1人の中年男性を真ん中に、前に2人、後ろに2人の配置で歩いている。
ランタンの明かりだけを頼りに歩く彼等は、キョロキョロと辺りを伺いながら町外れを
歩いて行く。彼等がキョロキョロしている訳は、恐ろしい魔物が襲ってくるのではという
不安からではなく、自分達の姿を町の者に知られないようにしているからであった。
それは、ランタンの明かりを最小限にしている事からも知る事が出来る。魔物の類を恐
れているならランタンの光を大きくする筈だが、彼等は足元がよく見えないにも関わらず
ランタンの灯を小さくしたまま歩いている。
男達が向かっているのは、町外れの教会であった。
彼等が教会の見える所にまで歩いて来ると、中央にいた小太りの中年男性が他の4人に
向き直った。
「ここからは私1人で行く、お前達は待っていろ。」
中年男性の声に、他の4人は驚いた顔になる。
「お、御館様っ、1人で行かれるのはお止めください、私達もご一緒致しますっ。」
「いや、これは・・・私自身が行かねばならん事だ。何かあれば呼ぶから心配はするな。
」
「はあ、しかし。」
中年男性と他の4人は主従関係の様子だ。男の言葉に戸惑っていた4人だったが、やが
て仕方なさそうな顔で男の言葉に従った。
「・・・何かあれば必ず知らせてください、すぐに駆け付けます。」
「あ、ああ。頼んだぞ。」
踵を返した中年男性は、只1人教会に歩んで行った。
教会の前まで来た男性は、辺りに誰もいないのを確認すると、教会のドアを叩き始めた。
「神父、アーヴァイン神父。」
男性が神父を呼びながらドアを叩くと、教会の中からパタパタと足音が聞こえ、教会の
シスターがドアの小窓を開けた。そして突然の来訪者に声をかける。
「あの・・・ライレル国の御領主様ですね?」
「そうだ、私はライレルのゴードン領主だ。」
男性は自分は一国の領主であると告げた。
なんと一国一城の主たる人物が、こんな夜更けに辺ぴな田舎町の教会に自ら出向いて来
たのであった。
彼の・・・ライレルの領主であるゴードンの目的は何なのか?その真相は全て暗闇が隠
してしまっている。
ゴードン領主は、この教会へ、この時間に訪れる事を事前に知らせていたのであろう。
シスターは突然の訪問を了承してゴードン領主を迎えている。
「アーヴァイン神父はいるのか。」
「は、はい。神父様はおられますっ、今ここを開けますからお待ちを・・・」
ゴードンの言葉にシスターは、あたふたと扉を開けてライレル領主を招き入れた。
「こ、こちらです。どうぞ・・・」
丁重に頭を下げるシスターに導かれて無言のまま教会の中に入ったゴードンは、長椅子
の並ぶ礼拝堂の中央を歩いて行く。
礼拝堂は質素な造りで、古風な風合いからは独特の神秘的な雰囲気を醸し出している。
古風な感じの教会内部を、落ちつき無く見まわしているゴードン領主。彼は教会の造り
に興味を示しているのではなく、教会に自分達以外の者がいないか心配しているからだっ
た。
その礼拝堂の奥に、長い白髪の神父が立っている。
「このような所へ御足労くださいまして、真に恐縮でありますゴードン領主。」
ゴードン領主にそう言う神父は、顔は30代か40代の比較的若い顔付きだが、病的な
ほど白い肌に白髪と言う、何処か神懸り的な感じを漂わせていた。
また彼は黒い丸めがねをかけ、手には白い杖を持っている事から、盲目である事がわか
る。
神父の名はアーヴァインと言い、この町や周辺の人々から人徳ある神父として慕われて
いる人物だ。
そのアーヴァイン神父の前に歩み寄って来たゴードン領主は、被っているフードを外し、
その素顔を見せた。
ゴードンは領主に相応しく品のある顔つきで、風格も領主として申し分ない。だが、そ
の落ちつきの無い態度には、どこか臆病さが滲み出ていた。
「夜分に押しかけて悪いが・・・どうしても神父に聞いて欲しい事があってね・・・」
「手紙には懺悔をなさりたい事があると書かれていましたが、どうしてここを御使命な
されたのでありますか?ここは見ての通りのボロ教会です。もっと権威のある修道院とか
に行かれた方が良いと思うのですが。」
アーヴァイン神父の言葉に、ゴードン領主は憮然とした口調で答えを返した。
「詳しい事は懺悔室で話す、君が懸念する事じゃない。君は私の懺悔を聴いてくれさえ
すれば良いんだ。」
彼は一端の有力者らしく、その口調には横柄さがある。だが、そんな彼にアーヴァイン
神父はニッコリと微笑みながら返答した。
「罪の呵責と言うのは一如何なる時も迷える子羊に苦悩を与えます。それは平民であろ
うと王であろうと同じであります。それを神に告白する時、全ての罪は許されるのですよ。
こちらへどうぞ。」
手招きした神父は、ゴードンを懺悔室へと誘った。神父に誘われるまま懺悔室に入るゴ
ードン。
懺悔室は人1人がやっと入れる程の狭い空間で、その壁には薄い金網を張った小窓があ
る。
その小窓が開くと、そこから神父の声が聞こえてきた。
「さあ、貴方の罪を全て告白してください。」
それに答えるゴードン領主。
「・・・悪しき者、世にはばかりし時・・・」
それは懺悔の言葉ではなかった。それを聞いた神父の手がピクリと動き、そして、一息
いれて答える。
「暗き闇より黒き翼の淑女は現れる。」
「我は闇の淑女に助けを求める者なり・・・」
まるで合言葉の応答の様に声を交わす2人。いや、明らかに合言葉であった。
ゴードン領主は懺悔をしにここへ来たのではなかった。何か極秘の用件を携えて訪れた
のであった。
僅かの沈黙の後、アーヴァイン神父が口を開いた。
「・・・仕事の依頼ですね?」
「ああ、そうだ。闇の淑女に是非とも頼みたい事がある。」
闇の淑女、仕事、依頼・・・
彼等の口から漏れるその言葉は、表沙汰には出来ぬ極秘の会話であった・・・
このアーヴァイン神父という男、表向きは田舎町の人々から人徳ある神父として慕われ
ている好人物であるが、それは人目を忍ぶ仮の姿で、彼の本当の姿は、闇の淑女こと魔戦
姫と表の者との仲介役を担う闇の者である。
闇の者と言っても、彼は魔界の住人ではない。
元は普通の表の人間だったのだが、魔戦姫と悪党との戦いに巻き込まれた事がきっかけ
で、闇の世界に身を投じる事となっていた。
アーヴァイン神父が盲目であり、30代の若さにして老人の如き白髪をしている事から、
彼が暗く凄絶なる過去を持っている事が伺える。
彼と魔戦姫との間で何があったのかは定かではない。
全ては闇のベールで覆われている事であった・・・
アーヴァイン神父とゴードン領主との極秘の会話は尚も続く。
「詳しくお聞かせ願いますか。」
「じつは、私の国が・・・ライレルが一大事なんだ。1ヶ月前にバーゼクスで若い娘が
次々行方不明になった事件をアーヴァイン神父は知ってるだろう?」
「ええ、存じております。数十人近い娘さんが忽然と消えたそうですが。」
神父がそう言うと、ゴードン領主の顔付きが俄かに深刻になり、声を潜めて語り始める。
「ライレルでも若い娘が数人失踪したんだ、10日ほどの間に次々と。まさか誘拐犯が
私の国にまで出没するとは思わなかった・・・国中に厳重な警戒体制を敷いていたが、誘
拐犯どもはそんな事をお構いなしに娘達をさらって行った。あの手口は魔法か何かだ、人
間業じゃないっ。」
力みながらそう言うゴードン領主に、アーヴァイン神父は落ちついた口調で尋ねた。
「魔法とは尋常ではありませんね、犯人が魔法使いとかであると言う確信は御座います
か?それに・・・仕事の依頼とは言っても、犯人が何者か判らなければ手の打ち様があり
ませんが。」
「犯人なら目星がついてる。3ヶ月前の事だ・・・バーゼクス城に魔道博士を名乗る怪
しい輩が現れて、国王のモルレムに奇妙な魔法を見せていたとか言う噂があった。その魔
道博士が怪しいと私は睨んでいるのだ。私は魔法なんか信じていなかったが・・・こんな
不可解な事が出来るのは奴しかいないっ。」
力説するゴードン領主だが、彼の仮説には証拠が全く無い。
単に魔法が使えるらしいとか、怪しい存在だからとかで悪魔と決めつけられ、無実の罪
に問われて処刑された者は過去に幾らでもいる。魔女裁判がそのいい例だ。
アーヴァイン神父はゴードン領主の話を慎重に聞き入れる。
「相手が貴方の手におえないから、闇の淑女に助けを求めたわけですか。」
「そうなんだ。情報屋から聞いたんだが、悪党がはびこる場所に現れると言う闇の淑女・
・・確か、魔戦姫とか言っていたな。そいつ等に頼めばどんな悪党でも倒してくれるって。
そして、君がその仲介役をしてるのも聞いた。私はライレルの領主として国を守りたい。
魔戦姫の力で、魔道博士の化けの皮を剥いでもらいたいんだ。」
ゴードン領主の言葉を聞いた神父は、どこか険しい表情で彼に問いかけた。
「領主として国を守りたいとおっしゃられましたね。それだけでしょうか?私には領主
様が国を守るためだけに私の所に来たとは思えません。何か隠していらっしゃる事は御座
いませんか?」
神父の言葉に、ゴードンはうろたえたような表情になる。
「か、隠してる事?な、なんの話だ?」
「例えば・・・誰か御親族の方が危機に陥っていて、その事が公になると困るからとか。
」
ゴードン領主の顔からサッと血の気が引いた。図星をつかれたのだ。読心術を心得てい
るかのような神父に心情を読み取られ、うろたえている。
沈黙していた領主だったが、やがて観念した様に口を開いた。
「・・・わかった話すよ。この事を言うつもりは無かったが、実は・・・モルレムの后
として輿入れした私の娘、エリーゼと2ヶ月近く音信不通になってるんだ。バーゼクス側
の話では、重い肺病を患ったそうなんだが・・・そんなのは絶対ウソだっ。エリーゼ宛に
手紙を幾ら送っても返事の1つもないんだ。あの几帳面なエリーゼに限ってそんな事は無
い・・・おそらく魔道博士とやらに酷い目に遭わされているに違いない。一国の領主の娘
が何処の馬の骨ともわからん奴に辱められたなんて知れたら、我が一族は物笑いの種だ。
だからこの事は隠していたのだ。」
娘の心配よりも自身の体裁を心配しているゴードンの態度に、神父は呆れた顔で溜息を
ついた。
「ご無礼を申しますが、領主様はエリーゼ姫様の御身の心配をなされていないのですか?
」
アーヴァインの言葉を激しく否定するゴードン領主。
「そ、そんな事はないっ!!世間体よりエリーゼの・・・私の娘の方が大事だっ。確か
に私はエリーゼにとって最低の父親だ。自分の保身の為に娘を利用したんだからな・・・」
ゴードン領主の声のトーンが下がり、申し訳なさそうな口調で弁解をする。
「でも、仕方なかったんだ・・・そうでもしなければ、バーゼクスから要求されてる上
納金の滞納分を工面できなかったから・・・あの子を差し出すのには断腸の思いだった。
それにエリーゼは私にとって大切な娘だ。あの子を助けられるんだったら、領主の地位な
んかどうでもいい。悪魔に魂を売ってもいいんだ、判ってくれアーヴァイン神父。」
泣きながら弁解するゴードンに、アーヴァイン神父はホッとした表情で笑った。
ゴードンの弁解内容を聞く限り、娘のエリーゼ姫を想う気持に偽りが無いのは事実であ
った。
「それを聞いて安心いたしました。御心情をお察し致します、領主としての責務も果た
さなければいけない、エリーゼ姫様も助けなければいけない苦悩は理解できます。」
ゴードン領主の苦悩を察したアーヴァインの言葉に、ゴードンは安堵の溜息をついた。
「判ってくれて何よりだ、じゃあ魔戦姫に誘拐された娘とエリーゼを助けて欲しいと伝
えてくれ。」
「ええ、伝えておきますよ。そのかわり・・・」
哀れむような声で訴えるゴードンに、神父は落ちついた口調で返答する。だが、その言
葉には有無を言わせぬ威圧的な念が込められている。
「魔戦姫の情報を流したのが、どのような方かは知りませんが・・・魔戦姫の名前は2
度と口になさらぬよう願います。彼女等は自身の正体を知られる事を大変嫌っております
故、もし魔戦姫に仕事の依頼をしたのだと喋られたなら・・・情報屋の方はもちろん、御
領主様の命の保証は致しかねます。御了承いただけますか?」
「あ、ああ・・・」
命の保証は致しかねますと言う神父の言葉に、ゴードン領主はゴクリと唾を飲んだ。
もしかして、自分はとんでもない奴等に頼み事をしてしまったのではと言う感情に捕ら
われ、冷汗を流しながら恐怖に慄いた。
魔戦姫の事を(妙な魔法を使う)凄腕の始末屋だと早合点していた彼は、魔戦姫の恐ろ
しさなど知る由も無くアーヴァイン神父に仕事の依頼をしてきたのであった。だが、神父
の話を聞く内にその恐るべき正体を実感していた。
間違い無い・・・魔戦姫の正体は・・・
相手が人外ならざる存在となれば、その見返りも尋常では済まないだろう。下手をすれ
ば魂をよこせとか言ってくるのでは・・・
恐怖に怯え、黙り込んでしまったゴードンに、神父は穏やかな声で語り掛ける。
「御心配には及びません。彼女等の事を語らない限り、彼女等は何も危害は加えてきま
せん。魔戦姫は、罪無き者には寛大です。一切の見返りを求めず、全ての悪から罪無き者
を守ってくれますよ。」
神父の言葉に驚くゴードン領主。
(なんで私の考えていた事が判ったんだ?)
ゴードン領主の心を読み取っている神父もまた、人の知りうる存在ではない事が伺える。
悪魔に魂を売った者である事は間違い無かった。
だが、ゴードン領主はその事を聞く気にはなれなかった。聞くのが余りにも恐ろしかっ
たからだ。
「じゃあ、後の事は頼むよ・・・」
搾り出すようにそう言ったゴードンは、少しよろけながら懺悔室を出た。
礼拝堂には先程のシスターが控えているが、彼女は懺悔室での会話の内容は全く知らな
い。
ヨタヨタ歩くゴードン領主を見たシスターは、慌てて彼の腕を掴んだ。
「あの・・・大丈夫でしょうか?お顔が優れませんよ。」
「う、うん。大丈夫だ・・・心配ない・・・」
冷汗を拭っているゴードン領主の後ろから、白い杖を片手に神父が声をかけて来た。
「神は常に弱き者の味方です、御領主様に神の御加護があらん事を。」
「・・・神の御加護が・・・ね。」
ゴードンは曖昧な返答をして頷くと、ドアを開けて外へと出た。
教会の外には、ゴードン領主の家来達が心配そうな表情で待っていた。
「御館様っ。」
駆け寄って来る家来達に支えられ、ゴードンは一目をはばかる様に夜道を歩いて行った。
無論、ゴードンはアーヴァインの忠告を守り、家来達に懺悔室での仔細を語る事は無か
った。
無言で去って行くゴードン一行を見届けたシスターは、神父に視線を移す。
「ねえ神父様。あの御領主様は、どんな懺悔をおっしゃっていたんですか?」
シスターの安直な質問に、アーヴァインは怪訝な顔をする。
「アンナ、人の内情を詮索するものではありません。不謹慎ですよ、全く。」
神父に窘められたシスターアンナは、エヘへと笑いながら謝った。
「ゴメンナサイ神父様。でも一国の御領主様が懺悔にいらっしゃるなんて、とても光栄
な事ですわ。それだけ神父様が人徳ある方だって事ですよね?」
ゴードンとのやり取りを知らないシスターアンナが、のん気な口調でそう言うとアーヴ
ァインは溜息をついて呟いた。
「まあ、本当の私の素性を知れば人徳がどうのとは言ってられ無くなりますが・・・」
アーヴァインの呟きを耳聡く聞いたシスターアンナが、不思議そうな顔で尋ねた。
「は?それはどう言うことでしょうか。」
「あ、いや。私は威張れるほど人徳は無いって事ですよ。余り深く考えないでください。
」
「はあ、そーですか。」
アーヴァイン神父の正体を知らないシスターアンナは、特に疑問も抱かず、とぼけた顔
で納得した。
「では、私もこれで失礼しますわ、おやすみなさい神父様。」
「遅くまで引きとめて悪かった、おやすみアンナ。」
シスターアンナが一礼して宿坊へと戻って行くと、教会にはアーヴァイン神父だけが残
される。
盲目の彼は、白い杖をつきながら礼拝堂の奥へと進んで行った。奥には大きな木製の十
字架があり、磔られた聖人の像が静かに目を伏せている。
深い静寂の中、物言わぬ聖人像と向かい合うアーヴァイン神父。
と、その時、アーヴァインと聖人像の間に黒い影が出現した。
黒い影は徐々に大きくなり、その中から1人の淑女が、フワリと黒い翼をはためかせて
現れる。
闇の様に黒いドレス、血の様に紅い瞳のその淑女は、魔戦姫の長リーリアだった。
アーヴァイン神父は、リーリアを待っていたかのように膝をつき、恭しく頭を下げた。
「リーリア様、お待ちしておりました。」
一礼するアーヴァインの前に降り立つリーリア。
「アーヴァイン、仕事の依頼ですね?」
「ええ、バーゼクスで何か不穏な動きがあるようです。依頼主のゴードン領主の話しか
らして、どうやら人外の者が関与している節があります。」
アーヴァインの言葉に、リーリアは表情を曇らせた。
「詳しく教えてもらえますか?」
「はい、彼の話では・・・」
アーヴァインはリーリアに、バーゼクス及びライレルでの誘拐事件の全てを説明した。
誘拐事件に警戒したゴードン領主が、国に厳重な警戒体制を敷いたにも関わらず誘拐犯
は娘を拉致した事からして、人知を超えた能力を持つ者の仕業である疑いがあった。
手を顎に当て、考え事をするリーリア。
「犯人が人外の者であるとは限りませんが、かなりの力を持った者の仕業ですね。それ
に・・・連れ去られた娘さん達やエリーゼ姫の安否も気掛かりです、早急に手を打たねば・
・・」
誘拐犯をこのまま放って置けば、被害が更に広がるのは必至だ。リーリアの表情が厳し
くなった。
「すぐに魔戦姫のメンバーに収集をかけて事件の解決に向かわせます。アーヴァイン、
どんな小さな事でもかまいません、何かあればすぐに知らせるのですよ。」
「はっ、心得ました。」
再び頭を下げるアーヴァインに背を向けたリーリアは、先程出てきた影の中へと姿を消
した。
黒い影が消滅し再び静寂が礼拝堂に戻ると、アーヴァインは聖人像の前で手を組み、静
かに祈りを捧げた。
「主の教えに背き、闇の者に荷担せし我が罪を許したまえ・・・そして、罪無き娘達を
悪の手から守り給え・・・」
静かな礼拝堂にアーヴァイン神父の祈りだけが響く。
懺悔する神の僕の声を、物言わぬ聖人像は静かに聞き入れていた。
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