魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第44話 
Simon


建物は瞬く間に蠢く黒霧に飲み込まれた
辛うじて外に逃げ出したものの、足が竦んでそれ以上逃げられない――奴の視線
がべったりと体中に絡み付いているのが、肌で感じられるのだ――それはつまり
――

――畜生! 弄ってやがるのか

霧の中からは、身の毛のよだつ断末魔の絶叫と、甲高い狂笑が聞こえてくる

「――ラムズの野郎!――あんな物を連れ込みやがって!」
「くそったれ!――本物のバケモノじゃねぇか!」


その膨れ上がった黒霧が、少しずつ……小さくなって?

「あれ――でも?」
「――なんか、あいつ……さっきより、縮んでねぇか?」

「……弱ってきたんじゃ」

黒霧が縮む――縮んで――小さく…――――――――違…う!

「…あ…あ――あれ!」

――小さく――――――――――濃く―――強く――濃密に――毒――哄笑キャ
ハハハハハハハ!重く――腐れて――あぁ…なんて禍々しいんだ――小さな女の
子――全身を青泥に絡めとられて――汚濁に愛撫されて――悶える――こんな異
常な状況なのに、ペニスが勃起――

「――ゴ…ボッ――ダズゲ…」

――あれは…ラムズだ――手足がグチャグチャに――絡め取られて――――首が
変な方向?――なぜ生きてる――痙攣――違う…?―――――死なせて…もらえ
ない…?――――――――――ゴギッ!!

「――あ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

――キャハハハハハハハハハハハハハハ!!
――――――ゴギュッ!!

「――グルジ…ギィィィィッ!!」

――俺たちも奴らに……――なのになんで起つんだ――

絶望と恐怖が、男たちの正気を蝕んでいく――




――――ユウナをさした――ユウナをえぐった――ユウナをころした――
  ――ササレタ――      ――コロサレタ――
         ――エグラレタ――
                     ――クワレタ――
   ――アハハハ――イヌニサレタ――
  ――ミンナコイツラノセイ――
         ――ミンナコイツラノセイ――
              ――ミンナコイツラノセイ――
――アハハハハハミンナコイツラノセイミンナミンナコイツラノセイ――
――なに…これ――あたしのなかにまじる――きもちわるい――
――いいよ――このてでいいなら――みんなにあげる――
――いたい――くろいのがあたしのうでをとかしながら――はいってくる――
――まじる――とける――いたいいたい――たべられて――まじる…ぅぅぅ――

――ズブ――ズブリ…――モゾ…――

「キャハハハ――アギャ…ハハハハハ――ガハッ!――ガッ――ア…アハハハハ
ハハ!!!」

無数のどす黒い妖蛆が、リンスの右腕に喰らいつき――ズブズブズブ――肩に向
かって、葉脈のように盛り上げながら、皮膚の下を這いずりまわる


   ――アタタカイ――イレテ――モットナカニイレテ――

「――あがっ――ハァハァ――あ!…あぁぁぁっ!!…」

      ――アマイ――モット――オイシイ――オイシイィィィ――

――ズズッ――ズヂュルルルルルル!――

「――う!?…あ…あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リンスは肩を押えて仰け反った
何かが、ものすごい勢いで吸い出されていく

    ――アマイ――キモチイ――モット――モットホシイ!!

「――あ…うっ!」

――――ガクン!

強烈な脱力感に、リンスの膝が崩れ――絡みついた闇に、片腕で吊り下げられた

「――や!――いた――はなしてぇ!」

蜜に誘われるように、男たちを弄っていた闇までもが、リンスにまとわりつき、
その腕に喰らいついていく
肉が融かされる感触――焼かれていく痛み――自分が内側から貪り喰われていく
恐怖

――とけたら……たべられたら――あたしがなくなったら……ユウナにあえなく
なる!?


「――みぎては…あげ…る――でも――――ぜんぶはあげない!」


――ズ…ズズ……ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ!!

肩まで――胸に向かって潜りかけていた妖蛆が、腕に向かって『押し戻され』て
いく


――ドクン――ドクン――ドクンッ!


        ――アハハハハハハハハハハハハハ!!
    ――キャハハハハハハハハハ!!!!
      ――トドク――チカラガヤツラニトドクゥ!!


――ミチミチ…ミチ……ギチギチギギギギギギギギギ!!!


闇腸が――リンスの腕に凝った闇腸が――

「――ゴホッ…ゲ…ゲホ――――な…なんだよ…ありゃぁ…」

闇から投げ出された男たちの目の前で――



今――最凶の『悪夢』が産まれ出でようとしていた


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