魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第43話 
Simon


――レナンドの花街の一角――裏宿として知られる店が、一夜にして崩壊した

分厚い壁も鉄板を仕込んだ扉も、単純で圧倒的な力の前に一瞬で瓦礫と化し――
店の者も原型を留めぬほどに『爆砕』され、人数と同じ数の巨大な肉華に成り果
てたという

その店は、昨夜多数の死傷者を出したことで、監視対象とされることが決定した
矢先のことであり――明らかに人とは隔絶した『意志』と『暴力』の元に行われ
た惨劇――その一連の出来事の全ての記憶は、『忌禍事』として闇に葬られるこ
とになった――






――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
!!!

人間の喉から出るとは思えない凄まじい哄笑が、空気をビリビリと震わせる
聞いているだけで、内臓から脳味噌まで針金でグチャグチャに掻き回されるよう
な――耳を塞いでも、何の気休めにもならない

全身が禍音に締め付けられ、胃の腑の底から酸が込み上げてくる
骨が、肉が軋んでいく――思考がズダズダに引き裂かれ、全身から体液を吹き出
しながら悶絶する

「…………!…………!!」
「………………!!」

本能の侭に絶叫をあげるが、すべて狂笑に飲み込まれてしまう
耳に押し当てた手――食い込む爪から鮮血が滴る

「――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
!!」

      ――キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

   ――アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

壁が――天井が――ビリビリと反響し、凄まじい音の波が、四方から男たちを打
ちのめす

――ああ!……あ……やめ…て……くれ!

何かが、ココに集まってきている――ワラいながら――膨れ上がる瘴気――コワ
レた巫女を依代に――

――ぐ…るじい……

捻じ曲げられ――絞られ――ゆがめられた視界に、闇が凝る

    ――アハハハ!!!アンタラガアタシヲ!!!
       ――アタシヲムスメヲオカシタコロシタ!!!!
   ――イヌニクワレタ!!!メニイレラレタ!!

――も…やめてくれぇぇ!

         ――テモアシモトラレタ――
    ――ハガヌカレタメガエグラ――
        ――コワサレタシキュウヲタベラレタ――
  ――ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!
「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!
!!」

どす黒い瘴気が、リンスの周りで渦を巻く
今にも悪夢に飲み込まれんとする少女――だが、支配しているのは彼女だ
リンスの哄笑を浴びながら、半ば以上物質化を果たした瘴気が、ラムズたちを絡
めとる

「――う…ごっ!――ぐぅ…ぎゃぁぁぁ!!」

叩きつけられる、圧倒的な悪意と歓喜
ギリギリと締め上げられ、手足が――腰が――首が、あり得ない方に曲がってい
く

――ミチ……ミチミ…チ…

「――……!…お…ぉぉぉ!…」

    ――イタイ?――ネェ、クルシイ?
       ――モットモット――キャハハハハハハハハハハ!!!!



『――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
!!!!!!』

「――な、なんだぁ!?」

――ベギ…ベギ――――バギバギバギィ!!!

「――どうした! 何の騒ぎ――――っ!?」
「離せ!――何だよこりゃ――グハァァッ!?」

   ――キャハハハハアンタモアンタモアンタモアンタモハハハハハハハハハ!
!!!

「に、逃げろ! 化け物だぁぁ!!!」

壁を床を突き破り、瘴気が建物の中に溢れだす
更に壁や床板に残る無数の染み――血と淫水の痕から、新たな闇が妖蟲の如く湧
き上がり、男たちに群がっていく

「――オブッ!?…ァズゲデェ!…」
「――あ…あぁっ――ガボォッ!――オガァァァ!!!」

      ――ニクイニクククククイイイイィィ!!!

――ミチッ――ボリッ――ゴキッ!

「――ギョォォォォ!!!」

訳の分からぬまま絡めとられ、手足や顎の骨を砕かれ悶絶する男たち
それでも数十人が外に逃げ出せたのは、瘴気の広がる速度が遅かったから――捕
らえた男たちを弄る方を、優先していたからか


――グルジ…――バケモ…ノ

瘴気に飲み込まれ、全身を砕かれ――脳を――目を――腸をグチャグチャと掻き
回されながら――誰一人として死ぬことを許されない

その蠢く瘴気の中心――闇の中で、コワレたように哂い続ける――少女


――アレが――バケモノの正体!



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