魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜
白い少女 第41話
Simon
「――ぐはぁ!!――――――ううっ――うっ…うぅ…」
突然、リンスがぽろぽろと泣きだした
胸と股間と――体中至る所を赤く腫れ上がらせたまま
暴れることもなく、ただただ泣き続けるリンスに、男たちもさすがに戸惑いの色を隠せない
「おいおい――一体どうしたんだよ?」
「――壊れたんじゃ」
「いきなり、こんな壊れ方するかよ」
「――ううっ――うぅあぁぁ――うぅあぁぁぁ!」
今まで何人も壊してきたが、こんな――言ってみれば、静かな壊れ方をする女は一人もいなかった
「何だよ――何でそんな風に」
――寂しい――寂しくてたまらない
子供にいきなりそんな泣き方をされては、男たちの調子だって狂う
「ああ、くそっ――しょうがねぇ、一旦中止だ!」
「あああ、泣くなよ――今、解いてやっから――」
ばたばたと――リンスの縄を解き、濡らした手ぬぐいで身体を拭いてやる
「――ちょっと下向いてろよ」
汗を吸って堅くなったベルトをどうにか解いて、マスクを外してやる
まだ痺れているのだろう――泣きながら顎をあうあうと動かしている
「――ううな――ゥウナはぁ?」
「――なに? ゆ?」
「ゆ…ユウナ…は…どこぉ?」
しゃくりあげながら、やっとそれだけを口にする
だが男たちには、それが何なのか分からなかった
「やっぱ、おかしいんじゃないスか?」
「ゆなぁ? なんだそりゃ?」
「ユウナ――いつもいてくれるのに――ゆうなぁ、どこ?」
――分かりたく、なかったから
「――あの――バケモノか!」
「げぇ! あれがユウナですか!?」
ザザッ――と、男たちが一斉に引いた
「ユウナはいつも、いっしょなの だから――」
「いねぇよ!」
「いるもん!」
「いねぇったら、いねえ!――いいか! あのバケモノは死んだんだ!」
――キシッ
「――し…ん――え?」
リンスから一瞬、すべての表情が消えた
呆けた様に――人形のゼンマイが、全部一度に弾けてしまったように
このまま、カタカタと崩れてしまいそうなニンギョウの目
「ああ、そうだよ! 俺が腹ぁ抉ってやったんだ!」
「――お…俺だって!」
「――うそ――だって…ユウナはつよいのに――」
――迷子――戸惑ったような、奇妙な顔で――何なんだコイツは!
「体中、メッタ刺しにしてやったからなぁ! 強いもクソもねぇ!」
「だって、つよいのよ?――おじさんたちより、ずっと」
――心底不思議そうな――悪かったなぁ!――何だよ! 壊れたんじゃないのかよ!
「ユウナがしん――え?…どうして?…」
「確かにバケモノみてぇな強さだったさ!――でもなぁ、お前人質にしたら、あっさり死んじまったぜ!」
「――――あたしの……せい?」
「そうだよ!――へへっ、ひでぇご主人様だよなぁ あんなに一生懸命立ち向かったのに、肝心のご主人様のせいでくたばっちまったんだからな!」
「――あ――あ…あ――あたし…の?――」
ガタガタと、異常なほどに震えだすリンス
文字通り『壊れる』寸前の――
――死んだなんて嘘嘘にきまままって――
「ちがうちがうチガウ――ああああたしのセイジャな――」
「ちがわねぇ!!――いいか、よく聞けよ!!」
――いやややだ聞きたくないいいいい
「俺らがこんな目にあったのも、ユウナってのが死んだのも――みんなテメェのせいなんだよ!!」
――――――あ…はは…
「――あ……あはは――――あはははははははははははははははははははは」
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