魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第34話 
Simon



(……………………………………)

全てが真っ白で、何も見えない――羽虫がうるさくて、何も聞こえない
自分がどんな姿勢をとっているのか、熱いのか寒いのか、それすらも感じられな
い

(…………………………)

――あ、でも――あしが…ある……

白霧の中に、ボウ――と浮かび上がる細い足首

――これだけが、いまのあたし……?

――ニチャ……

(………………………………………………)

白い肌に、どす黒い蛭がへばりつく

――いやっ!

跳ね飛ばそうとして――脚はどこ? 払いのけるための手は?

――ズル…ル…

蛭が増えた――這いずりながら、五匹になって――擦り付けられた汚液が、皮膚
を通してじわじわと染みこんでくる
痛いとも熱いとも付かない異様な感触――細胞の一つ一つが汚されていく

――ビチャ…

新たに現れた蛭――右の二の腕が生まれた――ピクリとも動けないのに、感覚だ
けは張り詰めて、蛭の動きをリンスに細大漏らさず伝えてくる
目を背けようにも――目がどこにあるのか――自分が目を開いているのかも分か
らない
揉み解すように蠢く蛭から染みこんでくる――穢れ

――ズズ…ズ…

――こ、こんどは――わきばら……ひぅっ!

擦り付けられる――ズリズリと這っていく

(………………!……)

――ベ…チョ…

――!――せな…か

増え続ける蛭――汚されるたびに現れる、バラバラの人形

――おしり――ズル…ル――あしの…ドロ…うら…ビチャ――かた――ふとも…
も…

(…!………………………!)

手も足もあるのに――みんなバラバラのまま
動かせない――払いのけることも、逃げ出すこともできない

(……………………!)

羽虫がうるさくて、意識が散らされて――

――ズズ……ギュ…ギュ!…

――!!

胸を鷲掴みにされた!――握りつぶされた――喰いこむ――

心臓が生まれた――握られた――ドクドクドク!――熱いのが体中に広がってい
く――

――汚れたのが――熱いのが――ドクドク――広がる――ドクドクドク――身体
中――

(…………………ァ………!…………!!)

――うるさい――だまって!――

内側と――外側から――ドクドクドク――塗り替えられる――やだ――

(……――…!………!――………!!ァァ…)




「――おらよ!」

――ヌチャァァァ!

――――――――!!!!

「――アアアアァァァァァァァ!!!!」

リンスの顔に、血まみれの手が擦り付けられ、全ての霧が一瞬で吹き払われた

全身を這い回る蛭は、血塗れの男たちの手になった
虫の羽音は、少女自身の上げ続ける悲鳴と化した

――ニヂュ――ジュル…ル――ヌラァ――ヌチョッ――

壊れた人形――限界まで酷使され、指一本動すことのできない身体
それなのに神経は未だに張り詰められたまま――男たちの指が齎す汚濁の全てが、
毒刃となってリンスの心に突き刺さる

「――ァァァ――アアアッ……アアァァァ!――」

見開かれた瞳から溢れる涙――血を吐くような鋭い悲鳴

ココロが闇に抉られる――手が――足が――指が――胸が――腰が――バラバラ
に引っ張られる――いいように曲げられる――人形――壊れたニンギョウ――

――あたしが――リンスじゃなくなる…………!!!!――そんなの――

「――っ! いやああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


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