魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第29話 
Simon


「――いやああぁぁぁぁぁぁ!!!」

――めのまえで おとこのひとが まっかになった
――びくびくふるえて あかがふきだして

――たすけてユウナ! もう…たえられないよ

ヴィンの喉から溢れた血が、じわじわと広がっていく

「やぁ! おねがい、はなしてぇ」

必死になって後退ろうとするリンスだが、両腕を後ろから押さえられているため、
逃げようがない
震える小さな爪先に、赤黒い血が生き物のように迫り、嗜虐に酔った男たちの目
が吸い寄せられる

「やだ…や――――っ!!」

「!?――くっ…くははははははっ!」
「ギャハハハハー! 見ろよアレ!」

小さな体をさらに小さく縮めて、男たちの手にぶら下がるようにして両足を竦め
るリンス
ガタガタと小動物のように震える姿がつぼにはまったのか、男たちが爆笑する

「ほ〜ら、リンスちゃん 血が付いちゃうよ〜」
「やぁっ! だめぇ!」

ぶらぶらと揺らしながら、リンスの体を赤い水溜りに近づける

「だめなの……ユウナが、みせたらだめって」
「いいからいいから――ほ〜れ!」

――――ぴしゃっ

「――あ…あぁぁぁ――だめぇぇぇぇぇぇ!」

――――ポウッ!

爪先がヴィンの血に触れた瞬間、リンスの体を淡い燐光が取り巻いた

「な、何だ!」

キラキラと――薄い膜が光の粒になって零れていく

「…あ…だめ――ひかりが…とけちゃう」


               ――化けの皮が剥がれたわね


「ラ…ラムズさん こいつ――まさか!」

足を血で汚した、一人の少女
震えるその身体も、涙を一杯に湛えた菫色の瞳も
外見は特に変わっていない――ただ一箇所を除いて

『――御伽草子に謡われし、遥かかなたの古の聖地――』

「ば…かな 俺は信じねぇぞ!」

サラサラのプラチナブロンドから、しなやかに伸びる2本の――

『――その耳で神の声を聞き、善き人々を楽園へと導く――そは伝説の月の巫女』

凍りついた時間の中で、誰かの喉が大きく鳴った



――――半神――――月兎族


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