魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第26話 
Simon

 

――ズズ……モゾモゾ……


全身を鎖に食い荒らされた、元『少女』が、ゆっくりと死体の上から起き上がろ
うとする

紫色に膨れ上がった左手は、腕を床につくとブヨブヨと揺れた
崩れかけてとっさについた右手から、もとより皮一枚でぶら下がっていた中指が
ちぎれて転がった

うじゃじゃけた傷口から噴出す鮮血――断ち切れた筋肉――垣間見える白い骨

――なぜこれで、生きているんだ


――ズ……ボ……


『そいつ』は漸く、肉片をこびり付かせた頭を、死体の胸の大穴から引き抜いた

立ち上がろうとしたが、右足は膝から下がおかしな方向に捻じ曲がり、その先は
――男の両足を刈り取ったときに――脛から下が……ない

それでも『そいつ』は――足首の外れた左足と、右足の傷口をついて、強引に立
ち上がった


――ヒュウ……ヒュウ……


鎖に右頬から上唇を引き裂かれ、歯の砕けた隙間から空気と血涎が漏れる
その顎がカクカクと震え――


「――リ…ン……ズザマ…ニ……デヲ…ダ…ズ…ナ…」


たっぷり一分以上かけて――失血とショックで震えながら

もう立っていることすら信じられない有様なのに――殺気は更に膨れ上がり
血色の髪の隙間に燃える2つの鬼火が、ラムズを恐怖で締め上げる

縮こまったペニスから小便を垂れ流しながら、『そいつ』が左手を振りかぶるの
を、ただ呆然と――


――でも、切り札はあなたの手に


――――ギシィィィ!!!!!!


爆発的に膨れ上がった凶気に、空間すら悲鳴を上げた!

半ば物理的な気塊を叩きつけられ、気死寸前のラムズ

――その右腕が

――本人の意を離れ



――リンスの首筋に、ナイフを突き付けていた!



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