オーロラ姫外伝・夢の中へ 1
オーロラ・オランジュは小国オラン公国の年老いた国王と王妃の間の一粒種ということも あり、その愛情を一心に受けてのびのびと育っていった。 そしてオーロラ姫は、夢見がちな少女だった。まわりを多くの侍女達に囲まれ、特に侍 女がしらのマリイはファンタジックな物語をよく読んで聞かせてくれた。その物語りを聞 く度に、オーロラは少女らしい空想に耽るのだった。 やがて、オーロラ姫も成長し初潮を迎え、年頃になってくると。胸も膨らみ、身体も丸 みを帯びてくると、身体の芯から沸き上がってくる変化に戸惑いを持つようになってきた。 とはいえ、近隣国からオーロラの美貌を聞きつけて押し寄せてくる貴族の男たちには、 何の興味も示さなかった。まるで貴婦人の如く化粧を施し、フリルの付いたチュニックに 身をまとい、媚びを売る彼らには、嫌悪感さえ感じていた。 「あんな男たちより、親衛隊のトパーズの方がよほどりりしいわ」 そんな風に嘆きさえしていた。 公国オランジュは、小さいながらも貿易港を持ち、外国からの多くの荷物の中継点とな っていた。 ある日、オーロラ姫は初めて王に連れられて、港の荷役所へと出向いた。年頃になった オーロラに国の有り様を見てもらおうと言うのが王のねらいだったのだ。 滅多に城を出ることのないオーロラ姫にとってそれは刺激に満ちていた。他国から出入り する多くの船。次々と降ろされる荷物の数々。 だがなんと言ってもオーロラ姫の目を驚かせたのは、船乗り達である。 「・・・あんなに真っ黒に日焼けして。それに・・・」 あるものは上半身をはだけさせ、あるものは猿股一丁で船の荷卸をしている。長旅の中 全身を日焼けさせた男たち。彼らは、汗と埃にまみれ、筋肉を隆々とさせ、荒々しいかけ 声をかけ仕事に励んでいた。中には彫り物をしている者さえいる。 「・・・これが同じ男性なの・・・・・」 オーロラ姫が顔を真っ赤に染めうつむいているのに気づいた侍女のマリイは、あわてて 国王に忠言し、荷役所の視察は中止された。 「そうか、それは気づかなかったわい」 国王や、侍女達にとっては日常見慣れた風景である。しかし、はじめて港の生業を見に 来ていたオーロラにとって、かなり刺激的な場面ではあったようだ。 その夜、オーロラ姫はなかなか寝付くことができなかった。 「・・・あれが本当の殿方?いえ彼らは野蛮なだけよ・・・」 いつも着飾った貴族や、制服に身を包んだ兵士しか見ていなかったオーロラ姫である。 初めて見た海の荒くれ者達の姿に、オーロラ姫は恐怖を感じていた。だが一方では、真 っ黒に日焼けした彼らに興味を感じていたのだ。 「・・・ああ、いやだ眠れそうにもないわ・・マリイ・・・マリイ・・・」 オーロラ姫は寝付けずにいる自分を紛らわそうと、最近読み始めた歴史書を読もうと侍 女のマリイを呼んだ。 「・・・そうか、マリイも寝てしまったのね・・・しょうがないわ」 オーロラは一人ろうそくを灯すと、最近はすっかり行きなれた、国王の書斎へと向かっ た。 あたりは、寝静まっており、物音一つしない。見張り番に見つからないようにと足音を 忍ばせて書斎へとやってきた。 「・・・早く見つけてお部屋に戻らないと」 蝋燭を頼りに広い書斎を歩いていると、い つもは鍵のかかった書棚の鍵が開いているのに気づいた。 「あら、ここ・・・どうして鍵が・・・」 元々本好きなオーロラである。全ての本を読みたいと思っていたのだが、この棚だけは いつも鍵がかかっていて、開けることはできなかったのだ。 「どんな本が入っているのかしら・・・」 誰もいないことをいいことに、オーロラは、書棚の本を数册選び、書斎の机に座って開き 始めた。 「きゃっ!」 本を開くやいなや、オーロラは小さな悲鳴を上げてしまった。 それは、当時の艶本であった。いや、というよりは、姫君のおこし入れの時などに寝屋 の手ほどきを描いた本であった。 「いや!汚らわしい・・・」 そう呟きながらも、オーロラはその本から目をそらすことができなかった。 そこには、男女のまぐわいが、あますところなく描かれているのだ。男性はたくましく 筋肉粒々で、その股間からは蛇のようなおぞましい男根が、信じられない大きさでそびえ 立っている。次のページではその蛇のようなものが女性の股間に突き刺さっている。それ が、細かい解説入りで描かれているのだ。 もう一冊の本は更に驚愕すべき物だった。 姫君が荒くれ男たちにさらわれて、犯されている艶本だった。 その荒くれ男たちは、まるで昼間見た男たちのように見える。そして、犯される可憐な 姫君は自分自身・・・。 「いやっ!」 やがて、オーロラは恐怖のあまり本を閉じこっそりと元の位置に戻すと、一目散に書斎 を飛び出して自分の部屋へと帰った。 「・・・・信じられない・・・うそよ・・・」 言葉とは裏腹に、身体の芯からなにかが沸き上がってくるのが感じられた。 オーロラはその夜、まんじりともしないまま朝を迎えた。