お姫様舞踏会2
 〜新世界から来た東洋の姫君〜(番外編2 )
作:kinsisyou
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 お姫様舞踏会2 番外編2



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 駐日ミッドランド大使に赴任して早1年。新世界での生活にも漸く慣れてきたリシャールは、自分を推挙してくださったギネビア姫の御恩に応えるため、そして双方の懸け橋となるべく今日も多忙な日々を送っていた。

 写真なるものを添えてこちらの現状を伝えるため定期的に報告書を送っていたのだが、ミッドランドの方々は信じてくれるのかと不安になることも少なくない。何しろ新世界は映画で見た以上に摩訶不思議なことで一杯であった。

 ふと、書斎で僅かな休み時間に物思いに耽るリシャール。因みに大使館として充てられたのは旧迎賓館なので内部の素晴らしさは申し分なく、旧い建物とはいえ旧世界屈指の大国であるミッドランド大使館の建物に相応しかったと言える。

「そういえばこの一年、色々なことがあったなあ」

 脳裏にこの一年の出来事が走馬灯の如く甦る。



 大使館開館式は旧世界の主だった人に加え新世界の各国大使も出席なされて盛大に行われ、更にまさかのギネビア様の登場にはびびった。初めての新世界には、さすがのギネビア様も驚きの連続だったようで、新旧世界の玄関口の一つである博多はミッドランドをも上回る繁栄ぶりでありながら日本の一地方都市に過ぎず、京都まで旧世界の感覚なら二週間は見なければならない所、新幹線で僅か2時間半に過ぎず、まるで瞬間移動だったと言っていたのを思い出す。そして、皇都京都では御所で皇国の陛下にも謁見なされたそうだが、御所は超大国の宮殿であるにも関わらず意外な程質素な外観に驚きを隠せなかったという。

 確かに、リシャールもその感想は同様で、寧ろ現在大使館に充てられている旧迎賓館と比べるとその簡素な佇まいには驚かされるばかりだった。しかし、さすがに皇帝の宮殿だけあり旧世界の宮殿でも感じられない程の緊張感に満ちた空気が漂い、非常に威厳があったことも確かである。

 更に迎賓館で行われた晩餐会では日本最高レベルの料理人が派遣され、洗練された料理の数々に目を瞠ると共に御所の質素な外見とは対照的な迎賓館の旧世界と変わらぬ煌びやかさに戸惑い、日本は必要とあらばこんな建物も作ってしまうことに驚くと同時に理解を超えていると感じたようで。

 因みにその時供された料理はフランス料理と言い、それが長い歳月で日本料理のエッセンスも加えて独自に洗練進化したものが現在の日本の晩餐会に於ける公式料理となっているという。

 あれには自分もだが、ギネビア様も目を丸くしている様子が今も忘れられない。まあ、新幹線と言い、あのフランス料理と言い、いずれも旧世界にはないので無理もなかったが、普段滅多に動じることのないギネビア様の驚きを見る方がリシャールにとっては驚きであったと言える。

「あの時のギネビア様。あのように驚かれる様子は貴重だったなあ。その上、あの時の料理のレシピをミッドランドに持ち帰りたいと言ってたし」

 余程気に入られたのか、一週間後、そのノウハウを吸収すべくミッドランドから宮廷料理人を留学に送り込み、更に日本からもノウハウを伝えるべく最高レベルの料理人がグランドパレスに招聘された。




 大使として忙しく過ごす間、暇を見つけては日本の色々な場所も見て回ったが、京都は皇国の首都だけありやはり大都会で、旧世界の宮殿も斯くやという高層建築があちこちで見られたし、その中にはデパートと言って市場が丸ごと建物になったような巨大店もあったし、衣服一つとっても王族や貴族が着るような上質な仕立てにも関わらずそんなに高い物ではなく、庶民層にとってはごくありふれた物だと聞いた時には衝撃以外の何物でもなかった。庶民層でさえあんな上質な仕立ての衣服が着られるなんてどんな国なんだよ。

 同時に庶民層は所謂和服も多く見られたけど、簡素な質感ながらやはり仕立てはかなり上質だったのを思い出す。

「とか思いつつ、私も新世界の衣服に袖を通しているんだよなあ。この姿で帰郷したら新世界カブれとか言われそうだ」

 そう、今リシャールが着ているのは新世界での貴族風衣装である背広姿だ。とても着心地が良いしシンプルなデザインは機能的で軽く動きやすい。旧世界の衣装より優れていることは認めざるをえない。同時に家族に新世界の衣服を贈ったことを思い出す。そして肖像画が大使館に贈られてきた。

「父上と兄上の背広姿の肖像画は違和感無さすぎて笑ったなあ」

 他にも印象的だったのは、庶民層の表情が活き活きしていて子供は特に可愛がられており、恐らくは世界で最も子供を可愛がる国だろう。リシャールはそう思わずにはいられない。にも関わらず躾けの厳しさも世界有数らしい。

「でなければ庶民層でもあんなに礼儀正しくはなれないかもな」

 また、皆さんとても親切で、不安で一杯の日本での生活も言葉が通じなくとも意外と不自由はなかった。それは都会も田舎も同じだったことにも驚かされた。

 それに、公共交通機関が非常に発達していて大抵の場所には行けることも衝撃的で、尚且つ田舎道でも山賊に出くわしたことがなく、あの時新幹線に乗っていて山間部に入った時、つい山賊が出没するのではと思ったが、案内役の言葉に嘘はなかった。

 そして、食べ物も美味い。庶民的な料理でさえそうだった。少し変わった味だったけど、あっさりしており受け容れられる味だったし。日本では自国の料理だけでなく外国由来の所謂洋食もあり、まるで世界中の文化がここに集っているような錯覚さえ覚え、何なんだこの国はと思いたくなる。

 因みにリシャールはカレーが大いに気に入っていた。庶民層の間でも手軽に作れるようカレー粉なるものが店に売られてるし、本格的な専門店も多く、大使赴任から一年で既に数軒程贔屓にする店もできた。

 同時にこうも思ったものだ。

「新世界と旧世界では交通手段は大きく異なるとはいえ、公共交通機関についてはもっと拡充できないものだろうか。そうすれば物流もより活発化して我がミッドランドは更なる経済力を手に入れられるのに」

 旧世界に自動車はないけど、その代わり馬が余る程いるので乗合馬車をタクシーやバスの代わりに定期的に走らせれば十分応用できるし、やはりそのためには山賊退治は必須だなと思わずにはいられない。

「それにしても、新世界で生きていくのは楽じゃないな」

 リシャールが最も思ったのはそこであった。確かに新世界は旧世界と比べ進んでいる面は少なくない。だが、その一方でこの世界はあまりにも忙しすぎると思ってしまう。恐らくはこの社会を支えるために誰もがそうならざるをえないのだろう。

「はああ〜、それにしても一年で色々なことが有り過ぎたな〜。もうこんな時間か。そういや今日は日本政府高官と会合が控えていたし」

 

 気が付けば休み時間も終わり、リシャールは再び新世界ならではの忙しいリズムに身を投じるのであった。リシャールの新世界での奮闘はまだまだ続く……



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