古城の艶舞1

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ピエール王子は王国の第三王子であった。王子と行っても第三子にもなれば、もう王位継
承権など有りはしない。国内にいて一生平貴族の座に甘んじるか、よい縁でもあれば他国
に婿に入るというのが相場だった。
 ピエールにもこうした縁が結ばれようとしていた。国のはずれ、北の大地の小国に、男
子に恵まれない王家があった。
 冬ともなれば雪に囲まれ、その少ない領地で細々と暮らしている。とても生まれた国の
ような豊かな暮らしは望むべくもない。
 しかし、ピエールは望んでその縁談に乗ることにした。兄たちのように国を律する力も
戦に長けているわけでもない自分には相応の物だと思ったからだ。
 国からその小国ルッカ・アイランドまでは馬で一週間ほどの道のりだ。川沿いに船を使
って三日。それなりに供物と一行を仕立てる為もあってか、ピエールは船の旅を選んだ。
 とはいえそれは体のいいやっかい払いであった。いかに第三子の王子とはいえ、大国の
王子である。婿入りとはいえ、何の迎えもよこさないのは、その証であるかのようだ。
 とうのピエールはそんなことにはお構いなしだった。いかな小国とはいえ一国の主とし
て迎えられるのだ、二人の兄に常に頭を抑えられていたピエールにはこの上もないチャン
スだった。
 付添人と称して、次男のドワーガが随行していることを覗けば・・・であるが。
 ピエールはこの兄が嫌いだった。大柄で、武道に長けてはいるが、がさつで乱暴者だっ
たからだ。

ルッカ・アイランドはまるでおとぎの国にでも出てくるような小さな国だった。まわりを
山に囲まれ、小さいが瀟洒(しょうしゃ)な城が山際に立ち、わずかな平地にいくらかの
田畑が存在するだけの・・・・。
 城に入り、一行は国王との謁見を済ますとピエールと、二人の侍女を残して帰っていっ
た。
「ピエール殿よくまいられた。このようなよい若者が、この国に来てもらえるとは。これ
でわしも肩の荷がおりたようじゃ」
「ほんとうに・・・」
 にこにことピエールを迎える国王と王妃はすでに高齢だった。なかなか子宝に恵まれず
やっと授かった子も姫であったため、二人の心配は世継ぎのことばかりであった。
「恐れ入ります。私など若輩者ですが、誠意をつくしこの国のために働く覚悟でございま
す」
 心優しい二人の心に触れ、ピエールはこの国に来てよかったと思った。道すがら王子を
歓迎する人々の心を感じ、さらに国王達の温かい心を感じることができたのである。
「ところで、姫君は?」
「おお、パトリシアなれば、儀式の準備に大わらわじゃ・・・ささ・・・ぜひ会ってやっ
て下され」
 王妃が侍女を呼ぶと、ピエールを儀式の間へと案内する。
「ピエール様、この国には祝いや節の度に、姫君が舞を舞って神様に捧げる習わしがござ
います。姫様はピエール様とのご婚礼の舞の準備におわれているのでございます」
 奥の広間へと案内しながら、侍女がにこやかにピエールに事情を説明する。
 信心深い国という話は聞いていた。この国に来て、このような自然のまっただ中で暮ら
す人々が、自然の習わしに敬意を払い、神としてまつるのはもっともなことだと感じた。
「こちらでございます」
薄暗い廊下の奥にその広場はあった。ドアを開けると同時に、ぱっと明るい光がピエール
の眼に飛び込んできた。
そして、その中には妖精がいた。
 

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