テッサリアの女王 1

プロローグ (太陽神の巫女)と(毒蜂の女王)

ムーンライズ


 建国より女王制を摂っているテッサリア王国は、初代女王の血をひく貴族の娘の中か
ら最も美しく聡明な者を女王として選出し、王国を繁栄させてきた。その栄華は数百年
にも及び、人々は歴代の女王の加護により、王国の平和は永遠に続くものと信じていた。
 だが、どんなに繁栄を極めた国でも、落日の日が訪れるものである。それは、テッサ
リア王国も例外ではなかった・・
 29代女王の死により、第30代の女王を決定する会議が、元老院議会において行わ
れた。その結果、ライバのレイディア、カリテスのアルタイア、タイナロンのメネリス
、エルクスのリネアの4人が若き女王候補として選出されたのである。
 4人はいずれ劣らぬ美しい容姿の持ち主だったが、その中でもエルクス総督の娘であ
るリネアは、 (太陽神の巫女)と賞されるほどの美しく聡明な美少女であり、17歳の若
さで女王候補になりえた才女でもあった。
  容姿だけでなく、太陽神の巫女と呼ばれるにふさわしい穢れ無き心の持ち主でもあっ
たが、世間知らずのお嬢様として育てられてきたリネアにとって、女王選出の裏に潜む
黒い策略と、これより後に彼女に襲いかかる悪夢を知る術は無かった。
 公平と厳選を旨としてきた元老院議会だったが、その裏では多額の賄賂によって多く
の元老院議員が買収されていた。そして、その黒幕こそ女王候補の1人、ライバのレイ
ディアであった。
 レイディアは、女王候補の一人としての容姿と才覚を持ち合わせてはいたが、清廉な
リネアとは対照的に、裏の世界では(毒蜂の女王)とあだ名される狡猾な毒婦でもあった。
その噂は、まことしやかに表の世界でささやかれる程度で、レイディアの真の姿を知る
者は殆どいなかった。一介の豪富の娘であった彼女が、今の地位を手にしたのは、全て
彼女の才覚のなせる技であると周囲のものは信じて疑わなかったが、実際にはそうでは
なかった。
 レイディアは、彼女の家に代々伝わる秘薬と膨大な資産を使って、数多くの競争相手
を蹴落とし、女王候補者としての地位を築き上げてきていたのだ。
 レイディアが元老院議員を買収した事により、彼女が女王に選出されるのが揺るぎ無
いものとなっていたが、それだけでは安心できず、カリテスのアルタイア、タイナロン
のメネリスの2人を罠にはめ失脚させた。それも、自分自身が行った買収疑惑の濡れ衣
を2人にかけてである。
 そして・・レイディアの毒牙は、穢れを知らぬリネアにも向けられたのである。


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