鞭と髑髏
Peitsche und Totenkopf /隷姫姦禁指令

Female Trouble

3・稚なき奴婢 Die Kindliche Sklavin
 今がいったい何時なのか、昼か夜かも判別はつかない。 城の地下深く、一筋の陽も射
さない暗黒の牢獄の中、この城の主の血を引く美少女は、今や身に何一つまとうことも許
されず、世にも哀れな虜囚となりはてていた。何も見えず、聴覚だけがやけに冴えて、自
分の息づかい、呼吸、そして心音が耳障りに響いていた。
 すでに四肢には力を入れることもできず、骨が外れそうなほどに痛んでいた。鉄枷に吊
されたままの両腕はとっくに血の気を失い、感覚を無くしてしまっていた。床から踵が浮
く両脚は、何度も筋が痙ってしまった。
 裸身に容赦なく染み込むような地底の冷気に凍えるのと同時に、鞭打たれた上半身はま
だ赤く腫れあがったままジンジンと鈍い痛みとともに火照り、湯気すら立ちのぼりそうな
ほどに熱を発していた。

『…どうして…、…どうして、私、こんなことに…』

 クラリス姫の脳裏には、この問いかけだけが何度も繰り返して響くばかりだった。
 屈辱と苦痛に混濁しかけた意識の底、クラリスは自分の存在自体が「罪」だったと思い
始めていた。そして、神がこの劫罰が下されているのだと…。

 でも、私が何の罪を犯したの?

 いくら考えても、無垢な公女にはわからなかった。ただ、この不条理な虐待は現実のも
のとして今この少女を容赦なく苛んでいるのは確かだった。そして、これを神の与えたも
うた試練であると考えるには、クラリスはあまりに可憐すぎた。

 耐え難い運命を甘受しなければならないこの現状から、無意識に目を背けようとする少
女の魂を、非難できる者はいないだろう。

 きっと、これはみんな夢なんだわ…。目覚めたら、また美しい朝が来て、お父さまもお
母さまも微笑んでいらっしゃって…。

 クラリスが己の意識を闇の中に沈めてしまおうとした、その刹那。

 囚われの少女の感覚に、空気が揺れたのが察知された。
 暗闇の中で視覚を奪われ、さらに全裸で放置されたために、クラリスの感覚は異常に冴
えてしまっていた。この地下牢に通じる通路の、遥か遠くに蠢く…いや、近づいてくる
「何か」の存在が伝わってきたのである。

 反射的に、クラリスはゾッとする悪寒を背筋に走らせ、全身を硬直させていた。身をす
くませた拍子に両手首に食い込む鉄枷の鎖がチャリ…ンと闇に鳴った。
 またあの残忍な女将校が、先ほどの非道に飽きたらず、再び自分を責め苛みに戻ってき
たのか、と考えると、哀れな少女の裸身を再び絶望が支配し、力が抜けてしまうのを感じ
ずにはいられなかった。

 だが、その気配はやがて明らかに別の者であることを示し始めていた。ヘルガ少佐の漆
黒の制服、あの軍靴のヒールが石畳に響かせる甲高い音が、全く聞こえない。ひた、ひた、
ひた…と静かに何かが擦れる音が、微かに公女の耳朶に届いた。

 未知の存在の接近を証明するかのように、真の闇だった視界に弱々しい灯りがよぎった。
ランプか蝋燭か、やって来る者が手にしているのだろう、この地下牢を閉ざす扉の向こ
うから、わずかな光が隙間から漏れて、牢内に溢れ入ってきたのだ。
 微弱な光ではあったが、ずっと闇の中に幽閉されていたクラリスには、突き刺さるかと
思われるほどひどく眩しかったが、果たしてそれが何者なのかはわからないままだった。

 ちらちらと揺らめく灯りがさらに近づき、地下牢の扉を四角く白く縁取った。そして、
鍵がガチャッと開く音が響き渡った。
 突然の来訪者に、クラリス姫は息を詰めた。

 来訪者が持っていたのは、ランプだった。だがそのランプの位置は、床から1メートル
足らずの高さのところにあった。
 そのランプを手にして入ってきた者の姿に、クラリスはあっけにとられるしかなかった。

「…し、失礼します……」

 そう言って中に入ってきたのは、まだ幼さの残る小さな、それも全裸の少女だった。

 手にしたランプに照らされた東欧風の少女は、闇に溶け込むような肩までの黒髪を、赤
い帯で二本のおさげにしていた。その髪と同じ色の黒い瞳は、しかし落ち着きもなくおど
おどしていた。
 背の高さや、そしてその裸身から窺える成長具合からして、12歳を上回ることはない
だろう。胸のふくらみもまだほとんど目立っておらず、身体のラインも腰のくびれも未発
達で、少年のように未熟で生硬なその身体は、性の分化も未だに感じられない「子供」だ
った。
 裸の天使やクピドの絵が、そのまま実体をもって現れたのか、と囚われの公女は一瞬錯
覚してしまった。

 我が目を信じられずに茫然と見つめるままのクラリス姫の前で、裸の少女は視線を上げ
られず頷くように会釈すると、ランプをテーブルに置き、そのまま冷たい石畳の床に膝を
ついた。
 ランプを持った手の、その反対の左手にはバスケットを提げていた。その中から幼女は
小さな琺瑯の水桶と水差しを取り出した。

「…あ、あなたは?」
 少女の仕草に現実感を取り戻したクラリスは、硬直した唇を動かし、やっと掠れた声を
かけた。

「あ、あの…、あたし、ラナと言います。先日、侍女の見習いとしてお城に入ったばかり
で、まだお目通りもかなわなかったんですけど…」
 口ごもりながら少女はそう答え、震える手で桶に水を注いだ。

 クラリスの記憶がわずかに呼び覚まされた。修道院に身を隠すために城を離れる際、居
並ぶ侍女たちの背後に、まだメイド服をまとっていない地味な姿の少女が佇んでいるのが
なぜか目についたのを、公女は憶えていた。

「…あたし、その、姫さまのお世話をするように言われて、あたしなんかが、でも、そう
言われて…」
 どう言ったらいいかわからず、混乱した言葉を紡いで説明する少女ラナの手がお留守に
なっていた。

「で、でもどうして…」
 この少女がなぜ全裸でいるのか訊こうとしたその時、クラリスはハッと気がついて言葉
を詰まらせた。
 それまでランプの灯りのコントラストで影になっていた少女の首に、幅3センチほども
ある革製の犬用の首輪が締められていることに、ようやく気がついたのだった。

「…あたし、ジプシーの家の子で…。それで、帝国の軍人さんたちが、ジプシーは人間じ
ゃなくてケモノと同じだから、服なんか着るなって、そう言われて…」
 淡々と、訥々と口にする少女の声が、かえってこの少女がいかに残酷な扱いをされたの
かを伺わせるものだった。
 一瞬我が身の境遇を忘れて、このラナという名前のいたいけな少女に深く同情を寄せた
のは、優しいクラリス姫の悲しい美徳だった。

 半分ほど水を溜めた桶に小さなタオルを浸し、かわいい紅葉のような両手でぎゅっと絞
ると、ラナは立ち上がって壁に繋がれた公女に近づいた。

「ご無礼を…」
 こんな状況の下でも身分差にとらわれて、高貴な姫に対する畏れ多い気持ちを抱えたま
まのラナの声が震えていた。

 ラナは手をいっぱいに伸ばして、タオルをおずおずとクラリスの芙蓉の容に当てると、
涙の跡が夥しく残っていた頬をそっと拭き始めた。上等のタオルではなかったにもかかわ
らず、そして濡らしたのもただの冷水だったにもかかわらず、哀れな今のクラリスにとっ
て、それは聖母の洗礼のようにも感じられた。
 顔を拭き終えた侍女の少女は、その手の濡れタオルをクラリスの首筋から胸に移すと、
今度は上から優しくあてがうようにして浄めた。鞭打たれて腫れあがった上半身の過敏に
なった肌をこれ以上痛めないようにするための心遣いだった。
 時おり冷水がミミズ腫れの傷に滲みることもあったが、慈悲深い公女は心優しい侍女の
気遣いを損なわないように、眉一つ顰めはしなかった。

 張りのあるふくよかな乳房の感触が、タオル越しにラナの手に伝わってくる。その柔ら
かさに、少女は思わずぎゅっと握りしめたくなる激情に駆られてしまったが、どうにかそ
れを押さえ込んだ。

 ラナの濡れタオルが公女の華奢な肩や脇腹を拭い終え、やがて下半身に手を移す頃合い
になった。少女は躊躇いつつも、ぎこちなく膝をつき、タオルを濯ぎ直してから再び顔を
向けた。
 ラナの視線がちょうど秘所とほぼ同じ高さになってしまうせいで、クラリスは今さらな
がらもやはり羞恥に赤面してしまった。

「あ、あの…」
 思わず哀願するような声になってしまった公女。
「…お願い、あまり見つめないで…」

 その言葉に、ラナは自分がクラリス姫の繊細な栗毛のヘアを食い入るように見つめてい
たことにハッと気づかされてしまった。
「あっ!も、申し訳、あ、ありません…っ!」

 どぎまぎして目を伏せ、ラナは絞り直したタオルを公女の太股にあてがい、汚れを拭い
始めた。だが、少女はすぐに薄目を開けて憧れの姫の下半身を見つめてしまう誘惑に勝て
なかった。雪花石膏の彫刻のように白く滑らかな肌が目に眩しかった。
 だがそのところどころに、痛ましい破瓜の血の跡が黒ずんで残っていた。
 ラナは心を込めて、発掘されたばかりの美神の彫刻のごとく美しい玉肌を清めようと、
こびりついた血を解き剥がすようにして拭き取りはじめた。

 拘束された状態で身を隠すこともできず、幼い侍女のなすがままに全身を拭かれ、あま
つさえ肉親にも見せたことがない秘所を他人の手で拭われている。誇り高く気品に溢れた
公女として、この自分の姿はあまりに情けなく、身を灼くほどに惨めだった。
 この幼い少女もまた非道な仕打ちを受けてはいるが、その少女の情けにすがらなくては
ならない自分のより深い惨めさが、今こうして濡れタオルで身体を拭かれている現実と共
に、クラリスの心を苛み始めた。
 再び、クラリス姫の目に涙がにじみ出した。死にそうなほどに情けなくて、悲しかった。
心は今にも挫けそうだった。生まれもった美徳の数々と共に身に備えた神への敬虔さが
無ければ、恐らくは舌を噛み切って命を絶っていたかもしれない。

 ラナの頬に、熱いものが滴り落ちた。振り仰いだ少女の目に、豊かな乳房の双丘と、そ
の向こうに目を閉じたまま涙を流す哀しみの公女の顔が見えた。

「姫さま…」
 憧れのプリンセスの切なげな泣き顔に、ラナは思わず息を呑んだ。心臓がが高鳴った。
 その悲哀に満ちた美しさに、少女は愛おしさに胸が押し潰されそうだった。

 流れる涙をどうしようもなく沈鬱に浸っていたクラリスが、ふと気がついた。
 …下半身に伝わってくる体温の気配が、急に温もりを増したことに。

 訝しく思ったのと同時に、今度は少女の熱い肌が両脚に密着してきたのを公女は感じた。
ハッと目を開いて見下ろすと、そこには、自分の下半身に両手を回して抱きつき、頬を
寄せているラナの姿があった。
 すがるような小さなラナは、しかしむしろ悲惨な運命にもがき苦しむ年上の少女を、必
死で繋ぎ止めようとしているかにも思えた。

「…ラナちゃん…」
 幼い少女の素肌の温もりに、クラリスは口に出せない心地よさを覚えてしまっていた。
 だが、ラナの行動はそれだけではなかった。

「…は…あ……、はあ…、はあっ……」
 幼い少女の息づかいがつと大きくなって、クラリス姫の肌をくすぐった。
 その息の激しさに公女がふと違和感を感じたその時…。

「…っ!」

 クラリスは息を呑んだ。熱く濡れた何かが、自分の秘所に触れてくるのを感じたのだ。
 そしてその触れてきたものの正体に、公女は我が目を疑った。

 ラナが小さな口を開け、桜色の舌を突き出し、クラリス姫の秘所を舐めあげていたのだ。

「あ、あなた、何を…っ!」
 驚愕して声を震わる公女に、幼い侍女は呟くように答えた。

「…おなぐさめを……」

 絞り出すような声でそう言うと、ラナは再び舌を伸ばし、公女のスリットに沿って猫の
ように舐めしゃぶりだした。そして下腹部に両手を這わせ、栗毛のヘアをかき分け、親指
を使って陰唇を左右に広げると、舌をその奥に差し込み、あまつさえその貝殻のような唇
を密着させてきた。

「ああっ!!…はあんっ、うっ、うはあんっ」
 生まれて初めて他人の口で秘所を愛撫される感触に、深窓の公女は身をよじって逃れよ
うとした。
 こんなことが許されるはずはない、と潔癖な姫君は思わずにいられなかった。排泄にも
関わる性器に直接口をつけることを思うと、生理的な嫌悪感が背筋を震えになって駆け上
がった。

「や、やめてラナっ、やめなさいっ!!…そ、そんなの汚いわ、やめて!」
 腰をひねり、脚をくねらせ、何とか侍女の過剰すぎる奉仕を拒もうとしたクラリスだが、
ラナはどうあっても離れようとせず、必死になって顔を押しつけたので、かえって少女
は口を大きく開け、舌を公女の秘奥に入り込ませてしまった。

 12歳のラナのまだ小さな舌では、いくらいっぱいに伸ばしたところで、年上の少女の
蜜壺の奥までは届くはずもなく、ほんの隘路の入り口に潜り込んでいるに過ぎない。だが、
心の底からの敬愛がこもった奉仕の舌先の動きは繊細で、高貴な柔肉の襞一枚一枚を丁寧
にめくるように舐められていく。
 つい数時間前に暴虐な帝国の女将校の手で、鞭の柄を使って処女を散らされてしまった
クラリスの傷を癒そうと、侍女が懸命に舌を滑らせていくうちに、クラリスの花芯からは
いつしか甘い蜜が滴りだしていた。その蜜に群がる蝶のように、ラナは憧れの公女の愛液
を啜った。

「いやっ、いやああ…、やめてえ…っ……」
 幼女の口唇愛撫に感じてきてしまっていた自分を認めたくなくて、クラリスはついに涙
声で哀願した。

「…姫さま、とっても甘いです。もっと、もっと気持ちよくなってください。せめて、せ
めて今だけは、あたしが、姫さまのお苦しみを忘れさせてさしあげたいんです…っ」

 一生懸命に奉仕を続けるラナの言葉は、切ないほどに真摯だった。
 その声の響きに、クラリスは悟った。

 最底辺にいるのは、自分であることを。
 かつては侍女であった、そして今もそう思っている少女から、施しを受けている真の下
僕は自分であることを。

 クラリスは目を閉じた。むず痒いような快感が下腹部にもたらされるのを感じつつ、公
女は今、自分が世界という祭壇に捧げられた生贄であることを実感していた。
 それはこの上もなく悲しいことだったが、誰を恨むことも、何を恨むこともできなかっ
た。
 諦観だけが、この哀れな少女を支配していた。

「…いいわ、何をしてもかまわない。全て受け入れます。」
 クラリスはそう呟き、幼い侍女を見つめた。

 その声に顔を上げたラナは、そこに女神の慈悲の瞳を見た。
 神託にも等しい公女の言葉に、幼い侍女はさらに心を込めて口唇愛撫を続けた。その舌
が山百合のように朱く清楚なクラリスの淫肉を隅々まで浄め終えると、その上ですでに過
敏に腫れた紅玉を包み込むように転がし、舐めていく。

「ああっ、あ、ああーーーーーっっ」

 全身を駆けめぐる快感に、クラリスはあられもなく悦びの声をあげた。

 溺れてしまえば、楽になれる…。

 気力の薄れた脳裏で、公女はそう思った。今は、この少女の慈悲にすがり、愛欲で苦痛
を忘れた方がいい…。

 だが、絶頂を迎えそうになったその時、クラリス姫の脳裏にはなぜか、憎んでも飽き足
らないほどのあの女将校…ヘルガ少佐の横顔が浮かんでいた。

 仮面のように表情のないその顔…。だがその眼鏡の奥が見えない…。まるであの髑髏の
紋章のように空虚な眼窩…。

 その、瞳を、見せてほしい…。

 理由もわからないままそう思ったクラリスの全身を、やがて経験したこともない震えと
快感を伴って、絶頂の波が洗い流していった。あの鞭の柄の初体験では一滴も零れなかっ
た歓喜の香蜜が、今は泉のように溢れる。その湧液をひたすらに飲み干そうとする12歳
の少女が喉を鳴らす音が、ランプがあってもなお闇が支配する地下牢を満たしていた。

 だが、ラナにはわかろうはずもなかった。
 絶頂に達した瞬間にクラリスが感じていた快感が、あの鞭の一撃の痛みと重なっていた
ことには。 


 


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