鞭と髑髏
Peitsche und Totenkopf /隷姫姦禁指令

Female Trouble

2・瀕死の白鳥 Der Sterbende Schwan
「は、放して、放しなさいっ」

 か弱いながらも澄んだ鈴のように響く声が、暗がりに反響した。
 
 白と青の漆喰が美しい童話のような城は、厚化粧の下に苛烈な正体を隠している。中世
以来の権謀術数の渦中、この城の地下深くもおぞましい歴史の暗部が隠されていた。政敵
を拉致監禁し、闇から闇に葬る陰謀とともに、邪悪な欲望もまた同時にこの闇の中で熟成
されていったのだろう。

「…ずいぶんと威勢のいいことね」

 闇の中に溶け込んでいたヘルルーガ・イルムガルト・デア・フォーゲルヴェヒター少佐
の姿が、その手にしたランプの灯りに揺れた。帝国親衛隊の黒い制服の中から、胸の勲章、
バックル、そして軍帽の鷲と髑髏の徽章だけがわずかな光に反射してきらめき、そしてそ
のぬけるような白い肌の頬がぼんやりと浮かび上がる。だが、その目は眼鏡に隠れたまま
で、能面のような無表情ばかりが顔に貼り付いている。

 ランプをテーブルに置いたヘルガの目の前の石壁には、一人の少女が立っていた。いや、
正しくは強制的に立たされていた。両手首に鉄枷を嵌められ、その枷から伸びる鉄鎖が
石壁の上部に繋がれていたために、少女は両腕を吊られ、磔刑のキリストのように十字に
縛められているのだ。

 その少女こそが、この城の主である大公夫妻の一人娘、…すなわち、大公女クラリス姫
であった。

 肩口で切りそろえた栗毛の髪は、わずかな灯りにも艶めいて光りながら柔らかに巻き、
スカイブルーの透明な瞳に前髪が影を落としていた。
 身に着けている衣服は、先日まで修道院で難を避けていたせいもあってか、華美ではな
いものの、それでも明らかに高級な絹で織られた純白のブラウスは、質素でありつつもか
つ高貴さを醸し出しているBそのブラウスから透けて見える華奢な身体は、まだ16歳の
青い果実だった。
 膝下までの丈のスカートは、瞳の色よりも濃い青に染まり、やはりほっそりとした両脚
を巻いている。白いソックスに茶の革靴は、公女の趣味の良さを窺える品の良さだった。
だがその両の足は微かにかかとが浮いていた。無理に鎖で吊られたせいで、両脚の筋肉は
すでに突っ張ってしまい、そして両手首にも体重がかかって食い込んだ枷に擦れて、ブラ
ウスの脹らんだ袖口にうっすらと赤いものがにじんでしまっていた。

「この小国が歴史の変遷の荒波を生き残ってきた、その秘密こそが総統のお望み」
 ヘルガ少佐が、石畳にカツカツとブーツのヒールを鳴らし、公女に近づいてきた。眼鏡
の奥から垣間見えた瞳は、まるで少女の全身を値踏みする奴隷商人のように、鋭い。

「秘密なんて、そんなものは…」

「お黙りなさいっ」
 クラリス姫の言葉を、親衛隊少佐は毅然として遮った。
「貴女の両親である大公夫妻が、帝都に禁足されているのも、今と同じ返事をして総統の
お怒りに触れたためなのよ」

「お父様やお母様に何を…っ!?」
 顔が引きつったクラリス姫に、ヘルガ少佐は曖昧な笑みを浮かべた。

「何も。ただ、総統府に足止めされているだけ。でも、それがいつまで続くかは総統のお
気持ち次第だけど」

「やめてっ!お父様にもお母様にも手を出さないでっ!」
 公女は慎みも忘れて思わず叫んでいた。帝国総統のエキセントリックぶりは大っぴらに
は言えないものの、各国にはすでに公然の秘密である。あの逆鱗に触れれば、たとえ一国
の元首であると言っても、何をされるかわかったものではない。

「…それは、貴女の心がけ次第ね、クラリス姫」
 右手に持った乗馬鞭の柄を、ヘルガは公女の鼻先に突きつけた。
「この国を占領し、貴女を捕らえたのは、当然、大公夫妻に対する人質。それと同時に、
大公夫妻も貴女に対する人質。クラリス姫、貴女が私に向かって逆らえば、それは総統、
ひいては帝国全体に対する反抗になるわ。態度いかんでは大公夫妻にも影響が出ることで
しょうね」

 白い顔をさらに青ざめさせ、唇をふるわせる大公女クラリス。
「…何が望みなの?」

「言ったでしょう。この国の『秘密』」
 再びそう言って、美貌の少佐は鞭の柄を、今度は公女の顎下に当てて、顔を上に挙げさ
せた。
「軍事力も経済力も、何の国勢も無いこの国を長年存続させてきた原動力に、総統はたい
へん関心をお持ちなの。それがわかれば、未来に帝国がミレニアムを迎えることも可能で
しょうからね」

「私はそんな秘密は…」

「だから互いに人質になってもらったのよ。大公が秘密を総統に言えば良し、貴女が知っ
ていればそれも良し」
 ヘルガは鞭を持ったままの右手の指先で、クラリス姫の頬をなぞっていく。その薬指に
はまった銀の指輪に刻された髑髏(トーテンコプフ)の小さな眼窩が、まるで無限の暗黒
のように少女には思われた。

「…ゆえに」
 ヘルガの声に凄まじいほどの冷たさが宿った。
「私の言動は全て総統のもの。…お前は、私に従わなければならないのよ」

 高貴の姫を初めて「お前」呼ばわりした女軍人の言葉に、公女は心底からの恐怖に身を
震わせた。しかし次の刹那、ヘルガ少佐の顔がぐっと近づいたと思ったとたんに、その真
っ赤な唇がクラリス姫の桜色の唇に押しつけられた。
 予想もつかないいきなりの口づけに、そしてその唇のあまりの冷たさに、公女は思わず
ゾッとした。そして慌ててかむりを振り、ヘルガの接吻から逃れようとした。

「拒んだわね」
 ぽつりと少佐が呟いた。
「私のキスを拒んだわね」

 その声が帯びていたのは、我が意に背いた虜囚への憤り、ではなかった。むしろそこに
は、喜悦の響きがあった。高山にこれから挑むアルペニストのような、征服欲に満ちてい
た。

 その瞬間、大公女クラリス姫には何が起こったのか咄嗟には理解できなかった。空気を
裂くような甲高い音が聞こえ、何かが自分の胴体に触れた。そう感じた公女の目に、毛羽
だった白いものが舞い飛ぶのが映った。白鳩がどこからか紛れ込んで来たのかと錯覚した
クラリス姫が視線を下げた先に、舞い飛んだその白いものの正体があった。
 それは、自分が身に着けていた純白の絹のブラウスが裂けて千切れた端切れだった。左
胸から斜めに裂け目がジグザグに口を開け、その下から同じく真っ白い下着が覗いている。
 その光景の意味を理解するよりも先に、公女の身体にジンワリと熱いものが走った。ブ
ラウスの裂け目に沿って伝わったものがさらに熱くなって痛みに変わった瞬間、その痛み
が脳天にまで突き刺さった。

「…きゃあああああっっ!!!」

 自分に対してこの女将校が非情な打撃を加えてきたのだ、ということを悟ると同時に、
鞭を右に振り下ろしていたヘルガの姿が目に入った。
 無言のまま公女を見据えた親衛隊美女は、間髪入れずに振り下ろした乗馬鞭を逆手に振
り上げ、今度は公女の右肩から、今の打撃と交叉するように第二撃を打ち下ろした。再び
空気を切る乾いた音とともに、ブラウスが×字に裂けたと同時に今度はクラリス姫の悲鳴
が響く。

 大公国のプリンセスとして掌中の玉の如くに育てられ、生まれてから一度も他人から手
を挙げられたことすらなかった深窓の姫君にとって、殴打される苦痛などは全く縁もない、
初めての体験だった。想像もしたこともない痛みは、クラリスを混乱と悲痛の渦に巻き込
み、パニックに陥らせるのに十分な衝撃だった。

「いやあっ、やめて、やめてえっっ!っきゃあああっっ!!」
 懇願に近い公女の悲鳴を無視して、いや、その声にむしろ駆り立てられるかのように、
ヘルガ少佐は乗馬鞭を縦横無尽に振り下ろし続けた。その表情は全く変わることがない。
 わずか三撃で、純白のブラウスの前面はほぼ形無くズタズタになった。五撃目には、シ
ュミーズの右の肩紐が切れ、ついにその右の乳房が露わになってぷるんと揺れた。

「あら、意外と大きいのね、胸」
 ヘルガが少し驚いたように言った。確かにまだ16歳のわりに、公女の胸はふくよかで、
吊されるようにされて全身が伸びているにもかかわらず、豊かなふくらみは身体の動き
に合わせて柔らかく揺れる。白く滑らかな肌の乳房の先の、まだ蕾のようなコーラルピン
クの乳首が外気に触れた。

 だが、クラリスは羞恥を気にかける余裕も無くなりつつあった。生まれて初めて味わわ
された鞭打たれる苦痛に耐え難く、大公の娘は呼吸を荒くしてぐったりしていた。
 しかし、公女は知らなかった。鞭の真の痛みは、実はこんなものではないということを。

 ヘルガは絶妙な鞭捌きで、鞭が肌を痛めつけすぎないように紙一重の加減で、公女の服
だけをきれいに剥ぎ取ろうとしていたのだ。それが、この親衛隊少佐の得意技だったので
ある。
 とはいえ、いかに巧妙とはいえ、乗馬鞭で身体を打っておいて、衣服だけを切り裂き、
下の肌に一切のダメージを加えずにいられるはずがない。まして、その衣服そのものが剥
がれてわずかとはいえ保っていた防御能力の厚みを刻々と失っていくにつれ、鞭の先端は
容赦なく可憐な姫君の柔肌にじかにその打撃を加え始めていた。

「…バシッ!…バシッ!…バシッィィ!」

 あたかも時計のように正確な律動と共に、クラリス姫の上半身のすみずみにまで鞭が振
り下ろされ、その音はますます大きく、破裂音に近くなっていった。
 すでに少女のブラウスは両袖だけ残して完全に千切れ落ち、清楚なレースが美しかった
シュミーズもひとたまりもなく、高貴な姫君は上半身をほぼ完全に剥かれていた。そして
その豊かな胸といわずほっそりした胴体といわず、すでに赤く腫れた白い肌にさらに加え
られた鞭が、朱色のミミズ腫れを上書きしていた。

「…はうっ…!…くうっ!……っ!」
 いきなりの暴行に最初は思わず悲鳴をあげ続けていたクラリスだったが、この頃には歯
を食いしばって悲鳴を呑み込んでいた。高貴な公女としての自制心が、あられもない声で
叫ぶことをおし止めようとしたのだろう。
 だが、それはこの冷酷非情な帝国親衛隊少佐の嗜虐心をかき立てるばかりだった。

「…ふふ、さすがに一国の君主の血を引く者、と言ったところかしら。その気位の高さ、
見上げたものね」
 ヘルガはいったん手を止め、公女の顎を無遠慮に掴み、顔を持ち上げた。その瞳は眦を
決し、眉を寄せ、そしてキッと結んだ口元が、幼いながらも自らの尊厳を冒した者への敵
意を表している。
 それが高貴な血筋の産むものなのだろうか、少佐は一瞬、心の奥底で何かたじろぐもの
を感じていた。だが、それをおくびにすら出しはしない。

「…フン」
 鼻で笑い、ヘルガは今度は腰に提げていた短剣を抜いた。ランプの灯りに鈍く光る刀身
を親衛隊美女は掲げ、その切っ先を公女の顎先に突きつけた。
「In herzlicher Kameradschaft(心からの同志)」と金の象嵌で刻まれた銘が、奇妙な
ほどにクラリス姫の目に焼き付いた。それは、直接的な死の恐怖から反射的に逃れようと
する精神の防御本能だった。
 ヘルガはその刃先を、少女の震える顎下からそのまま滑らせるように首筋に沿って滑ら
れていった。皮が切れないギリギリの力加減でゆっくりと進んでいく凶刃の動きに、クラ
リスは息もできないほどに身をすくませざるを得ない。その怯える顔を舐めるように見つ
めながら、ヘルガは短剣を肩胛骨からさらに、鞭で赤く腫れた両の乳房の間の谷間をなぞ
らせた。
 恐怖に激しく鼓動する心臓の真上に剣先が達した瞬間、公女は心の中で神に祈っていた。
 刃先はさらに下に移動し、みぞおちから脇腹にまで達した。密着しそうなほどに近づい
てクラリス姫を見つめていたヘルガ少佐の眼鏡の奥の目がすっと細くなった瞬間、その手
の短剣が公女の青いスカートに引っかかり、勢いよく刃を立てた。
 その刃先の動きに、腰留めのボタンが弾け飛んだと見るや、公女の清楚なスカートは腰
から緩んで、千切れ残っていたシュミーズの下半分と一緒に足元に落ちた。そして羚羊の
ように華奢な少女の両脚と、その秘密の花園を覆い隠す純白のレースのパンティが露わに
なった。

 短剣を持ったままの右手で、剥き出しになった太股を撫で回してその感触を確かめる親
衛隊少佐に、クラリスはぞっとした。その右手で再び短剣を持ち直すと、ヘルガは刃先を
少女のパンティの上から中に滑り込ませた。

「!」

 刀身の鋼の冷たさを直接感じてビクッと身を震わせた公女に、ニヤリと笑いかけたヘル
ガが、一気にパンティを切り裂いた。左腰の布が両断され、パラリと剥がれた白い布を、
ヘルガ少佐はそのまま刃先で引っぱるようにして下に剥がすように落としてしまった。

 千切れ残っていた両の二の腕から手首までのブラウスの袖と、足元のソックスと革靴の
みを残して、ほぼ全裸に剥かれてしまったことに、さらに身を固くしたクラリスだったが、
かかとの浮いた状態ではせいぜい両脚をピタリと合わせて構えるのが関の山だった。

 身に残っていた両袖をおもむろに短剣で切り裂いて取り払ってから、一歩引いた親衛隊
美女は、あたかも自分が買い取って梱包から解いたばかりの彫刻に見惚れているかのよう
に、大公の娘の裸身を頭の先から一寸刻みで見下ろしていった。
 その舐めるような視線に、耐えきれないほどの屈辱と羞恥に身を灼いてギュッと目をつ
むったクラリス姫の、その右脚がいきなり上に持ち上げられた。
 はっと目を開くと、少女の右脚の膝裏を持ち上げたヘルガ少佐が、穿いていた茶色の靴
を外して放り投げ、さらにソックスを脱がしているのだった。
 脚を持ち上げられて股間が広げられ外気に秘所が晒される冷たさに、公女は無意識に足
を引いて閉じようと力を入れた。だが、その細腕からは想像できない腕力でがっしりと掴
みあげられた右膝は、動かすこともできなかった。
 何の雑作もなく、今度は反対の左脚を持ち上げて同じように靴とソックスを脱がし、ク
ラリスを文字通りに一糸まとわぬ丸裸にしてしまうや、ヘルガは脚を持ち上げていた左手
をそのままスライドさせて、公女の秘所に触れてきた。

「…っひ!」
 誰も触れたことのない禁断の秘所に、黒革の手袋をはめたままの美女の左手が無遠慮に
押しつけられ、高貴な姫君はひきつけるように息を詰まらせた。
 まだ16歳の少女の秘所は栗色の産毛のような薄いヘアがほんのりと繁るのみだった。
ほぼ何の障害も無いも同然の花園を蹂躙するごつい革手袋のゴワゴワする感触は、クラリ
スに痛みしかもたらさない。

「クラリス姫」
 冷たい声で親衛隊少佐が宣告した。
「総統の意を容れなかった罪滅ぼしに、お前の純潔を帝国に捧げなさいっ」

 その断罪の言葉が終わらないうちに、ヘルガは右手に持っていた乗馬鞭を逆に持ち替え
ると、その鞭の柄尻で公女の秘所をこじ開けるようにしてグリグリと押し込んできた。

「…いやっ、いやいやああっ!!」
 いくら箱入りの姫君とはいえ、その意味がわからないほどの子供ではない。太さ3セン
チ弱の鞭の柄が幼い陰唇を荒々しくかき分け、そして秘壺の中にと強引に押し込まれてい
く異物感に、クラリスは自分が文字通りに「侵略」されていることを実感して、涙を流し
た。

 ヘルガは鞭の柄をさらに押し込んで、処女膜を突き破る感触が伝わってくるのを感じつ
つ、さらに奥底までも侵入させた。
 苦痛に涙を滲ませたクラリス姫は、しかしもう叫び声をあげず、歯を食いしばって耐え
ていた。
 その悲痛な少女の表情に、ヘルガ少佐は嗜虐と憐憫、侮蔑と愛惜の入り混じった奇妙な
ものがこみ上げるのを自覚した、と同時に、自分の蜜壺がきゅんと絞られるような感覚と
共に、軽くエクスタシーに達して背筋がぶるっと震わせてしまっていた。

 しかし、淫液がにじむ股間を悟らせるようなこともなく、親衛隊美女はクラリスの秘所
から鞭を一気に引き抜いた。凶暴な侵略者でしかない鞭の柄には、破瓜の鮮血以外に潤滑
液になるものなど無い。
 処女の血を吸った愛用の乗馬鞭を、ヘルガ少佐はうっとりと掲げ、柄からゆっくりと零
れた鮮血の滴を口で受け取った。口の中にぱあっと広がる乙女の味に、鉄血の親衛隊美女
は最高の至福に浸っていた。そして美女は、たった今その手で処女を散らせた高貴の姫に
顔を寄せ、喘ぎ続ける唇を再び強引に奪った。
 クラリスの口中に傍若無人に入りこんで隅々までまさぐってくる美女の舌の味と、そし
て自らの血の味とが入り混じって広がるにつれ、公女はこみあげる吐き気をこらえた。

 激しいディープキスからようやく唇を解放されて、荒い息を吐きながら、想像すらしな
かった最悪の処女喪失を経験させられてしまった高貴の公女は、流れる涙の熱さと比例す
るほどに激しい絶望の中に溺れていた。
 そんな哀れな全裸の姫を、ヘルガはぞっとするような笑みを浮かべながら一瞥するや背
を向け、テーブルの上のランプを手にすると、鈍く輝く流麗な金髪を翻し、そのまま部屋
を出て行ってしまった。

 壮麗な白亜の城の地下深く、かつて大公国に仇なす者を数知れず破滅させてきたであろ
う、光も射さぬこの地下牢に、その当の公国の血を引く少女が監禁され、そして背徳の欲
望の標的になるとは、あまりにも皮肉なことであった。

 灯りを失い、真の闇になった地下牢にただ一人取り残され、凍てつく地底の冷気に身を
苛まれ、冷酷な鉄鎖に縛められた全裸の乙女は、それよりもなお深い悲嘆の水底に沈んで
いった。
 闇の中にやがて、抑えようとも抑えきれなくなったクラリス姫の嗚咽が、ゆっくりと響
き始めていた。



次ページへ 前のページへ MENUへ