ネイロスの3戦姫


第8話その.5 ルナ絶体絶命!!突撃せよ連合軍  

「うおおーっ!!」
 宮殿の入り口から、凄まじい勢いで連合軍が雪崩れ込んでくる。そして石つぶての攻撃
を受けた兵達を蹴散らし、宮殿目掛けて進んでいった。
 「みんな・・・来てくれたのね!?」
 歓喜の声を上げるエリアス。その姿を見つけたネイロス軍の一団が、進行方向を変えて
エリアス達に走り寄ってきた。
 「姫様ーっ、ご無事でありましたかーっ!!」
 集合したネイロス軍の兵士達は、エリアスとエスメラルダの前に跪き、頭を下げた。
 「お許しを姫様っ・・・多大なる辛苦に見舞われておられる姫様方をお救いできずに遅
参いたしたる咎、我等一同は一命を持って償う覚悟でございますっ。」
 深く平伏し、エリアスとエスメラルダに謝罪する兵士達。
 「何を言うのです、私達こそ、至らなさ故にあなた達を窮地に追い込んでしまった事を
あやまらねばなりません。みんな・・・頭をお上げなさい。」
 「はっ、はい・・・」
 一同は頭を上げ、エリアスを見た。
 「すでに済んでしまった事は忘れるのです。過去を悔やんでも何も解決はしません。そ
れに・・・一命を持って償うなどと思わないでっ、命を粗末にする事はこの私が許しませ
んよっ!!」
 エリアスの凛とした声が響く。
 「ははっ・・・姫様の深きご配慮に感謝致します・・・」
 兵士達はエリアスの言葉を噛み締め、涙を拭った。
 「今は泣いている暇はありません。ルナが・・・ダルゴネオスに囚われたままなのです。
私とエスメラルダは、これよりルナ救出に向かいます。ついて来てくれますね?」
 「はいっ、喜んでっ!!」
 総員立ち上がり、エリアスに従った。
 「私達も急ごうか。」
 「はい。」
 先に進軍している民兵軍の後を追うべく、ネルソン達も宮殿に目を向けた。
 「!!・・・危ないっ!!」
 宮殿に視線を移したネルソンが急に声を上げた。宮殿内に撤退した黒獣兵団が、大砲で
反撃してきたのだ。
 弧を描きながら砲弾が飛んでくる。そして血気盛んに進む民兵軍の先頭に着弾した。
 「うわあっ。」
 虚をつかれた民兵軍の隊列が乱れた。
 「それ以上進むんじゃない、今すぐに後退しろっ。」
 ネルソンが声を上げる。
 だが、砲撃の手は緩む事が無く、勢いに乗っていた連合軍は、黒獣兵団の攻撃に足止め
される形となり、ダルゴネオスのいる本館まで後1歩の所で停滞した。
 「ネルソン将軍、ここは持久戦に持ちこむしかありませんな。」
 「ええ、奴等を甘く見ていました。」
 ネイロス軍司令官の進言に、ネルソンは静かに頷いた。
 「ルナ・・・」
 宮殿を見ながらエリアスは悔しそうに呟く。緊張感を伴ったまま、両者は睨み合いを続
ける。
 そして、もうもうと立ち込める煙が晴れて行き、不意に宮殿の端にある別館の屋上が松
明の光で赤々と照らし出された。
 「どういう事だ一体・・・」
 宮殿を前にした連合軍全員が、何事かと別館の屋上に視線を移す。昼間の様に明るくな
った屋上にX型の黒い物体が映し出された。
 それは以前、黒獣兵団の兵達の前でブルーザーとセルドックがエリアスとエスメラルダ
を陵辱するのに使用していた丸太製の拘束具であった。
 「なんであんな物が?」
 不信に思いながら屋上を見るエリアスとエスメラルダ。だが、X型の拘束具に人影があ
るのに気が付いたエリアスが悲痛な叫びを上げた。
 「あ、ああっ・・・あれは・・・ルナッ!!」
 エリアスの声を聞いた一同が一斉に目を凝らした。そこには・・・天使の羽を背中につ
けただけの全裸のルナが、X型の拘束具に磔にされていたのであった。そして彼女の胸に
は、数本の束ねられたダイナマイトが括り付けられていた。
 「ひ、ひどいっ・・・ルナッ、ルナーッ!!」
 エリアスの絶叫が辺りを揺るがす。それに呼応するかのように、屋上に松明を手に持っ
たブルーザーが姿を見せた。
 「ワハハーッ、どうだクソどもっ。ネイロスの天使様は我々の手の内にあるっ。助けた
ければここまで来るんだなあっ、グハハーッ!!」
 高笑いを上げるブルーザーが松明を振りかざし、傍らにあった油を入れた壷を蹴飛ばし
た。
 油が屋上の床に撒き散らされ、振りかざした松明の炎によって火が付く。凄まじい炎が
ルナに襲いかかった。
 「いやあーっ!!た、たすけてーっ!!」
 炎はルナの胸に縛り付けられたダイナマイトに迫る。その度にルナは絹を引き裂くよう
な悲鳴を上げた。
 「あのヒゲゴリラめっ、よくもルナをっ。」
 怒り心頭のエスメラルダが、単身宮殿に向かって走り出した。そんなエスメラルダ目掛
け、砲弾が飛んで来た。
 「あぶないっ、姫様ーっ!!」
 叫ぶライオネット。間一髪でエスメラルダは砲弾の直撃を免れる。
 「バカめっ、お前達はそこでルナが黒焦げになって吹っ飛ぶのを手を拱いて見ているし
かないのだあっ。俺達をコケにした落とし前、存分に味わえーっ!!」
 喚くブルーザーの声と共に、黒獣兵団の砲撃が一斉に始まった。次々と火を吹く大砲が、
砲弾の雨を連合軍に浴びせた。
 「わあっ。」
 多数の連合軍の兵士が、砲撃の餌食にされて吹き飛ぶ。
 「あ、ああ・・・みんな・・・」
 炎に晒されているルナの目に、無情に攻撃される連合軍の兵士達の姿が映った。
 自分が人質にされているために・・・だが、今のルナには何もできる術が無い。
 「ガハハーッ!!やれやれ、もっとやれっ。1人も生きて返すなっ。」
 狂った様に笑うブルーザーを、ルナはキッと睨んだ。
 「この卑怯者っ。さっさとあたしを始末しなさいよっ!?あんたはクズよ、人質を取ら
なければ何も出来ない腰抜けよっ。」
 叫ぶルナを、ブルーザーの狂気の目が捉えた。
 「腰抜けだぁ?言ってくれるじゃねーか小娘がよォ・・・」
 ルナの元に歩み寄ったブルーザーは、全裸にされ、磔にされているルナの綺麗な乳房を
掴んだ。
 「あ、や・・・やめて・・・」
 「んん〜、可愛い声で泣きやがるぜ・・・そうだ、冥土の土産にいい事を教えてやろう。
この別館の各所には爆薬を仕掛けてあるんだ。今の状態から砲撃を緩めれば、単純な奴等
は直にお前を助けようとここに来る。特にお前の姉達はイの一番に駆け付けて来るだろう
よ。そう・・・爆薬が仕掛けられてるとも知らずにな・・・」
 ブル−ザーの口から、狂気の計画が語られる。ブルーザーは、ルナもろとも連合軍を崩
れる別館の下敷きにしようと考えていたのだ。
 「そ、そんな・・・狂ってる・・・」
 「グフフ、この別館が奴等とお前の墓標になるのさ、ワハハ・・・グワハハーッ!!」
 ブルーザーは笑った。その目はもはや人間の目ではなかった。狂乱の魔獣であった。
 「あねさまーっ!!みんなーっ!!あたしに構わず早くにげてーっ!!これはワナよー
っ!!」
 声の限りに叫ぶルナ。だが彼女の声も、連続して繰り出される砲撃の爆音によって全て
かき消されてしまった・・・
 
 「全軍退避ーっ!!救護班急げっ、負傷者を救出しろっ。」
 砲撃をかわしながらネルソンは、救護班に指示して負傷者を後方に避難させる。
 「姫様、ここは危険です。早く逃げましょうっ。」
 血相を変えているライオネットが、エリアス達を逃がそうと懸命になっている。
 「逃げるなんて出来ないわよっ、ルナーッ!!」
 叫ぶエリアスの元にも、砲弾の攻撃が容赦無く繰り出された。
 「姉様っ。」
 エスメラルダが身を呈して姉を助ける。
 「ううっ、う?」
 地面に転がりながら目を開けたエリアスは、目の前に一振りの剣が転がっている事に気
が付いた。
 「あれは・・・太陽の牙っ。」
 慌ててそれを拾うエリアス。それは王家の宝刀、太陽の牙であった。
 「大丈夫ですか姫様?あっ。」
 ライオネットとエスメラルダも、それに気が付き駆け寄ってきた。
 「どうして太陽の牙がここに?」
 エスメラルダは首をかしげた。確か、太陽の牙はヒムロに奪われていた筈だったが、ど
ういう訳か姉の手に戻ってきたのだ。
 キツネにバカされたような顔をした3人に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 (・・・エリアス姫、その剣はお主に返すでござるよ・・・)
 その声は、3人の頭の中へ直に聞こえてきたのであった。

第9話に続く

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