ネイロスの3戦姫


第9話その.1 ヒムロ寝返る?  

ネイロス軍とデトレイド民兵の連合軍がダルゴネオスの宮殿に向けて進撃する最中、3
姉妹のエリアス、エスメラルダがネルソンの助けを受け、無事再会を果たした。
 そして宮殿に到着した連合軍が、諸悪の元凶ダルゴネオスと黒獣兵団を倒すため、攻撃
を開始した。
 だが、兵力の過半数を失ったとはいえ、黒獣兵団の戦力は衰えず激しい砲撃に連合軍は
苦戦を強いられていた。
 しかも、邪悪な策略を巡らすブルーザーは、人質のルナを利用して連合軍を全滅させよ
うと企んでいる。
 幾多の思惑が交錯する中、激しい戦闘は最終局面に向かって進んで行った。

 「1箇所に固まるな、全軍散開しろっ、砲撃の被害を最小限にするんだっ。」  連合軍に指示をだすネルソン。黒獣兵団の容赦無い砲撃のため、連合軍は一切の攻撃を 封じられてしまっている。  その上、人質のルナを早急に救い出さねばならないという状況が、更に事態を悪化させ ていた。  だが、連合軍の士気は衰えていなかった。  ダルゴネオス打倒、そしてルナ奪回のため、ネイロス、デトレイド両軍とも一兵卒に至 るまで、断固戦いぬく覚悟であった。  そんな中、エリアス、エスメラルダ、ライオネットの3人の眼前に突如、奪われていた エリアスの剣、太陽の牙が出現したのであった。  「どうして太陽の牙がここに?」  エリアスは、疑問を隠せない表情で太陽の牙を手にした。  間違い無い、王家の宝剣である太陽の牙だ。  戸惑うエリアスに、聞き覚えのある声が響いてきた。  (・・・エリアス姫、その剣はお主に返すでござるよ・・・)  その声は、彼女の頭の中へ直に聞こえてきたのであった。  「今の声は・・・ヒムロッ。」  忘れる筈も無いその声は、マグネアの走狗となって3姉妹を境地に落し入れた闇の忍者、 ヒムロであった。  急に立ちあがり、辺りを見るエリアス。だが、肝心のヒムロの姿は無い。  「エリアス姫様にも聞こえましたか?」  エリアスの横では、エスメラルダとライオネットも立ちあがって辺りを見ている。  「どこだヒムロッ、隠れてないで出てこーいっ!!」  叫ぶエスメラルダだったが、その姿を捉えることは出来ない。  (・・・いくら探しても拙者は見つけられぬぞよ。これは忍法空蝉の術・・・遠方より お主等の頭に直接語り掛けているのでござる・・・)  信じられない顔の3人。ヒムロが使っている技は、今風に言えばテレパシーと言った所 であろう。  砲撃は尚続いているため、3人は後方に逃げながら、姿無きヒムロの声を聞いた。  (時間が無いゆえ、手短に話す・・・囚われたルナ姫のいる場所には絶対に近寄らぬ様、 全軍に伝えよ・・・あの別館には・・・爆弾が仕掛けられている・・・奴等は、宮殿に乗 り込んできた連合軍をルナ姫ごと全滅させるつもりでござるぞ・・・)  ヒムロの言葉に、3人とも驚愕する。恐るべきブルーザーの罠が連合軍を待ち構えてい るのだ。  いや、それ以前に今まで敵だったヒムロの言葉を信じていいのか、3人は半信半疑にな っている。  「ふん・・・そんな事言ってまたボク達を騙すつもりだなっ。マグネアに何て言われた んだっ。答えろカラス男っ!!」  ヒムロの言葉を信じていないエスメラルダは、声を上げてヒムロに食って掛かった。  (・・・エスメラルダ姫・・・拙者の術を克服致したのか。さすがでござるな・・・無 間地獄の術を破ったのはお主が始めてでござる・・・)  「お前に言われてもうれしくないね。で、どうなのさ。ボクの質問に答えなよ。」  エスメラルダの言葉に、ヒムロは僅かの沈黙を置いて返答する。  (・・・ブルーザーの手の内を知らせるのは、我が君の御意志でござる・・・おぬし等 を助け、ブルーザーとダルゴネオスを倒せとの、我が君の声無き命にござる・・・)  声無き命・・・意味ありげな言葉が、ヒムロから発せられた。  「マグネアがボク達を助けろだって?ふざけないで・・・お前達がボク達に何をしたか、 忘れたとは言わせないぞっ!!」  今だマグネアに対する怒りの収まらないエスメラルダは、感情を露にした。  (・・・我が君はもはや、おぬし等の知っている我が君ではござらぬ・・・それはいず れ語ろうぞ・・・拙者と我が君を信頼できぬは無理なき事・・・されども今は・・・ルナ 姫と連合軍を破滅させぬため、早急に手を打たれよ・・・)  そしてヒムロの声は途絶えた。  3人とも、声を潜めて互いの顔を見詰め合っていた。  「姫様・・・どう思われますか、あの男の話を。」  ライオネットの言葉に、エリアスは目を伏せて考えた。  「そうね、信じるだけの価値はあると思うわ。今ルナを助けに行けば間違い無くブルー ザーの思う壺よ。」  「私もそう思います。」  エリアスとライオネットは同じ意見であった。だが、ヒムロに直接痛めつけられたエス メラルダは否定的な態度を取った。  「姉様っ、ライオネットッ、あの陰険カラス男の言う事信じるの!?ボクは信じないか らね。みんなが行かないなら、ボク1人でもルナを助けに行くよ!?」  激しく反論するエスメラルダ。エリアスは、そんな妹の肩を掴んで落ち着かせた。  「冷静に考えなさい。私達を始末したいなら、どうしてわざわざ手の内を教える必要が あるの?おかしいじゃない。それに、マグネアの性格からして、手の込んだ事せずに私達 が全滅するのを笑いながら高見で見物しているはずよ。」  「それは・・・そうだけど・・・うん。」  エリアスに言われ、頷くエスメラルダ。いつもは手におえないお転婆娘も、姉の前では 神妙になる。  「マグネアの身に何かあったのよ。ダルゴネオスに裏切られて酷い目にあわされたとか、 ね。」  「酷い目・・・」  エリアスの言っている事を静かに聞くエスメラルダ。  「あの2人を憎むあなたの気持ちはわかるわ。でも今は冷静に判断する事が大切よ、ル ナのためにもね。」  「わかった、ボクは信じる事にするよ。あ、でもヒムロの言ってる事じゃなくて、姉様 の言葉をね。」  姉の顔を見ながら、エスメラルダはそう言った。  「信じてくれてありがとう。」  頷いたエリアスは、何気なく太陽の牙を見た。  「・・・これは?」  さやの隙間に紙が差し込まれているのだ。剣をさやから抜き、挟まっている紙を取り出 して広げた。  「・・・これ、宮殿の見取り図じゃないのっ、しかも爆弾の位置まで書いてるわ。」  「えっ?」  広げた紙を覗くエスメラルダとライオネット。それは、ヒムロが書いた宮殿の見取り図 であった。    「あうう・・・姉様・・・早く逃げて・・・」  屋上に全裸で磔にされているルナは、身動きが取れないまま涙を流している。床で燃え 盛っていた炎の勢いは収まっており、胸のダイナマイトに火がつく恐れは無くなった。  しかし、ブルーザーの仕組んだ卑劣な罠により、ルナの命は風前の灯となっていた。  3姉妹と連合軍が別館に乗り込んでくれば、仕掛けられた爆弾に火が付けられ、助けに 来た者達もろとも、あの世行きになってしまうのだ。  この事を知らせたい・・・でも声が涸れ、屋上に1人残されているルナには何一つ術が 無い。ただ姉達がここに来ない事を祈るしかないのだ。  「神様、どうか・・・姉様達がここへ来ませんように・・・あたしはどうなってもいい の・・・姉様とみんなを助けて・・・ちちうえ・・・」  屋上に、悲しきルナの声が響く。時折聞こえる砲撃の爆音が、ルナの心をなお苦しめた。     ヒムロから情報を伝えられた後、エリアス達はネルソンと、ネイロス軍司令官のカー ネルを呼んで、極秘に話し合っている。  「まさか・・・敵の罠ではないんですか?」  先程の事をエリアスに聞かされたネルソンは、信じられないと言った表情になっている。  魔法まがいの忍術で情報を送ってきた事もさることながら、卑劣な方法で3姉妹を罠に 嵌めたヒムロを信用など出切る筈は無い。  「信じられないかもしれません・・・でも、現にヒムロは私達に攻略の手立てを伝えて くれました。今は、ヒムロが敵だった事は忘れて彼の言葉を信じましょう。」  ヒムロの事に対する信頼は薄いものであるが、ルナを人質に取られている以上、ヒムロ が出してくれた助け舟に一縷の望みをかけるしかなかった。  「でも、ヒムロとか言う男が、なぜ我々に有利な情報をもたらしてくれたんでしょうか? この様な事をするには、何らかの意図があっての事でしょうが。」  ヒムロに対して猜疑心を抱くネルソンは、エリアスに質問した。  「事情はわからないけど、多分・・・ダルゴネオス達との間で何らかの確執があったん でしょうね。手の内を知らせた上に攻略方法まで教えてくれたんですもの。でも私達には 余計な検索をしている暇はありません、至急ルナを助け出す手立てを講じなければ。」  「うむ・・・」  思案しているネルソン。そして無言のまま話しを聞いているカーネル司令に目を向けた。  「カーネル司令。あなたの御意見はどうですか?」  「私は姫様に賛同致します。我等ネイロス軍は姫様方と一蓮托生、ルナ姫様をお助けす るためとあらば、たとえ敵の罠であろうとも迷いは致しません。」  エリアスの言葉を全て受け入れているカーネルの心に疑いは無かった。  「そうですか・・・カーネル司令、あなたがうらやましい。心から信頼できる君主に恵 まれたあなたが・・・」  暴君の下で苦労を強いられていたネルソンに、ダルゴネオスに対する信頼は無かった。 それゆえ、固い絆で結ばれた彼等の存在は眩しく映っている。  「では、ネルソン司令も御賛同いただけますか?」  カーネルの言葉に、仕方なさそうに笑いながらネルソンは頷いた。  「ええ、毒食らわば皿まで・・・こうなったら地獄の果てまでお付き合い致しましょう。 」  ネルソンの返答に、一同から喜びの声が上がる。  「ありがとうネルソン司令・・・」  最も喜んでいるのはエリアスだった。だが、喜んでばかりもいられない、エリアスは皆 の前に先程の見取り図を広げて見せた。  「では、ルナの救出作戦についてですが、これを見てください。」  見取り図を見る一同。それの表には、別館内部の間取りから爆弾のある場所、それに地 下の排水溝まで詳細に書かれている。  そして裏には爆弾の撤去方法が記されていた。  爆弾は時計と連動して作動する時限式であり、別館内に残った兵が時限装置をセット後 に撤退できる仕組みになっている。ブルーザーがこういう時の為に時計職人に強制して作 らせたものだった。   「爆弾の事より、ルナ姫様を先に救出すればそれでいいんでは?」  カーネルは見取り図を見ながらそう言った。だが、見取り図と宮殿の地形を照らし合わ せたライオネットが首を横に振った。  「高層階の別館が崩れてくればこっちに多大な被害が及びます。それを避けるために、 爆弾は確実に撤去しなければなりません。」  ライオネットの言う事は正解であった。別館は高層建築のため、それが崩れ落ちれば連 合軍の進路が塞がれるだけでなく、連合軍に多数の被害者が出る事は確実であった。  すなわち、爆弾を撤去しなければ、連合軍は攻め入る事が出来ないのだ。  しかし、時限装置は複雑な構造になっており、下手にいじろうものなら誘爆する様に設 計されていた。時限装置の解体には手先の器用な者が必要だ。  「あのヒゲゴリラ、手の込んだ事してくれるじゃない。ライオネット・・・君の出番だ よ。」  エスメラルダが後ろにいるライオネットに振り返った。  「えっ?私がですか!?」  驚くライオネットの顔に、一同の視線が集中する。  「そうだわ、爆弾の撤去作業には、あなた以外に適任者はいないわよライオネット。」  エリアスの声に、一同頷いた。そう、手先が器用なライオネットの真価が今こそ問われ る時なのだ。  「私なんかが・・・」  自信なさそうなライオネットの肩を、エリアスが優しく叩く。  「あなたなら出来るわ・・・私達を助けてくれたようにね。」  「そうだよ、君なら出来るよ。」  エスメラルダも笑って頷いている。  「わかりました。ルナ姫様のため、がんばらせていただきますっ!!」  一同は拍手でライオネットを称えた。  「まずは、爆弾の撤去するための少数部隊を編成致しましよう。兵士の中から志願者を 募ってまいります。」  「あ、まって。」  立ち上がるカーネルに、エリアスが声をかけた。  「なんでしょうか?」  「兵士達には、マグネアが私達を裏切った事を言わないで欲しいの。」  エリアスの言葉に、カーネルは仰天する。  「ど、どうしてですかっ!?あの女のせいで我々は・・・」  「わかってるわ・・・でもマグネアはダルゴネオスに利用されてただけなのよ。それに、 形だけとはいえ義母と呼んだ人ですから・・・」  「姫様・・・」  カーネルは辛そうなエリアスの目を見て、心中を察した。  「わかりました、この情報はマグネアが、いや、マグネア様が命がけでブルーザーの元 から入手したのだと兵士達に伝えておきます。」  「ごめんなさいね・・・感謝するわ。」  「いえ、姫様が謝ることではありません、では。」  そう言い残してカーネルはその場を後にした。


次のページへ BACK 前のページへ