ネイロスの3戦姫


第2話その4.ルナの秘密兵器

 「こちらです。」
 兵士達は城内部の中庭にエリアスとエスメラルダを案内した。
 「姉様ーっ。」
 中庭に歩み寄った2人の耳にルナの軽快な声が聞こえてくる。
 「何なのルナ。こんな時に私達を呼び出して。」
 中庭で手を振るルナに、2人は呼び出された事を疑問に思いながら歩み寄った。
 「姉様に見てもらいたい事があるの、いいでしょう。」
 そう言うルナの姿を見て2人は目を丸くした。
 剣術の稽古着を着ているルナが、12体のワラ人形の前で立っていたのだ。その彼女の
腰には、皮製のホルスターに装備された2丁の拳銃があった。
 「ど、どうしたの、その格好・・・」
 「あのね姉様、あたし拳銃を使えるようになったの。是非とも姉様達に見てほしくて。」
 「拳銃?」
 ルナの声に2人は怪訝な顔で妹を見た。ルナは腰から銃身の短いショートバレルの銃を
引き抜き、2人の姉に見せた。
 それは今まで見たことも無い形の銃であった。
 「ねえ、その銃は一体何?ボクはそんな銃を見たこと無いけど。」
 「これは街の銃職人が造った新型の銃よ。」
 エスメラルダの質問に答えるルナが手にしている銃は、円筒形のシリンダーを中央に装
備しており、その中に複数の弾を装てんする仕掛けになっている。
 エリアス達が知っている銃は火縄銃を含めた単発式の銃で、複数の弾を装てん出来る銃
など見たことも無い。
 「おもちゃじゃないの?」
 「そうだよ・・・ルナが銃なんか使えるわけ無いじゃん。」
 2人は互いに顔を見合わせて呟いた。だが、2人の思惑は計らずも外れる事になる。
 「姫様方、今からルナ姫様がワラ人形を使って射撃をなされます。大丈夫とは思います
が・・・安全の為これを。」
 ルナの傍らに控えていた兵士が、鉄兜を2人に手渡した。
 「う、うん、わかった・・・」
 頷きながら2人は鉄兜をかぶる。そしてルナはワラ人形に向けて銃を構えた。
 「じゃあ、いくわよっ。」
 バンッ、バーンッと音を上げて、両手に構えられた2丁の銃から弾が発射された。そし
て真正面のワラ人形の胸部が爆ぜる。
 銃の反動は強く、ルナの細腕が跳ねあがった。しかしそれをものともせず、速やかに銃
を構えなおす。
 「このっ、このっ、このーっ!!」
 大声を上げながら銃の檄鉄を引き銃を連射するルナ。
 「きゃっ!!」
 「わっ!?」
 メチャクチャな銃の乱射に、エリアス達は思わず頭を抱えて地面に伏せた。
 「お、終わったの・・・?」
 銃声が途絶え、2人が恐る恐る顔を上げると、得意げに銃口から立ち上る煙を口で吹き
消すルナの姿と、胸部と頭部、そして股間(!?)を見事に撃ち抜かれた12体のワラ人
形が目に入った。
 なんと、ルナは2丁の銃に装てんされた合計12発の弾を一発余さずワラ人形に命中さ
せていたのであった。
 「エヘへ、どーお?私の腕前、驚いたでしょう。」
 無邪気な笑みを見せるルナ。そして傍らには、尾を振って寄り添うルナの白き愛狼アル
バートの姿があった。
 「ウオン、ウオンッ。」
 ご主人様はカッコイイだろうっ?。そう言いたげなアルバートが、2人に向かって吼え
た。
 ルナの使用した銃は、現代では、ごくありふれたリボルバータイプの回転式拳銃である
が、単発式の銃しかないこの時代において、連発を可能にした6連装の最新型拳銃なので
あった。
 「・・・すっごーい、すごいじゃないのルナっ。いつの間に銃なんか使えるようになっ
たのっ!?」
 見事な銃の腕前に感激したエスメラルダが喜びながらルナに駆け寄った。
 「あのね、銃の扱いはそこの兵士さんに教えてもらったの。あたしは姉様みたいに剣が
使えないでしょう。だから代りに銃を使えるように特訓したんだよ。」
 振りかえるルナは視線を1人の兵士に向けた。
 「いやー、姫様に頼まれたから教えたんですが、撃ち方はともかく、筋のいいこと、い
いこと・・・」
 ルナに拳銃の使い方を教授した兵士が照れた顔でそう言った。
 「やっぱりルナは勇ましい父上の娘だよっ、こんな事ボクや姉様にだって出来ないもん
っ。」
 「エヘへ。」
 銃の扱いなど皆目わからないエスメラルダは、ルナの両手を取って喜んでいる。
 「姉様もそう思うでしょうっ!?・・・姉様?」
 エリアスの方に向き直ったエスメラルダ。だが、エリアスは何故か怪訝な顔をしていた。
 「・・・あまり、感心できる事じゃないわね・・・」
 エリアスの表情はどこか厳しいものになっている。その表情に一同は、息を呑んだ。
 「ルナ、どうして銃の特訓をしている事を私達に黙ってたの?銃は遊びで扱う物じゃな
いわ。銃を使えるようになって自慢したかったのかしら。納得のいく答えが欲しいわね。」
 「あ、姉様、そんな言い方しなくても・・・」
 「どうなの、ルナ。」
 戸惑うエスメラルダを無視してルナを問い詰めるエリアス。
 姉に問い詰められて泣きそうになっているルナは、重い口を開いた。
 「・・・あたし・・・自分の事は自分で守りたかったの・・・」
 悲しげなご主人様の声に、傍らのアルバートは心配をしてクーンと鳴いた。
 「どう言う事、私達が守ってるのでは不満だったの?」
 「不満だったんじゃないけど・・・あたしだって偉大なエドワード王の娘よ。いつもい
つも姉様達に守ってもらってばかりじゃイヤだった・・・自分の事ぐらい自分で守れるよ
うに強くなりたかったの・・・一緒に戦いたかったの・・・」
 ボロボロと涙を流すルナに表情を和らげたエリアスは、目を伏せて軽く溜息をついた。
 「そうだったの・・・私はてっきり自慢したいだけでこんな事してるのかと思ったわ。」
 エリアスの顔に笑みが漏れた。
 「姉様・・・」
 「そうだったわね、私達はいつもあなただけ味噌っ粕にして父上に剣術を教えてもらっ
てたもんね。ルナだって強くなりたかったのね、そうでしょう?」
 「うん・・・」
 ルナは静かに頷いた。
 「その意気や良しっ、やっぱりルナもネイロスが誇る最強の戦姫なのね。」
 ルナの顔がパッと明るくなった。
 「じゃあ、銃の特訓の事、怒ってないのっ?。」
 「当たり前じゃない、すごかったわよあなたの腕前。」
 「ありがとうっ、姉様ー。」
 エリアスの言葉に、エスメラルダと兵士達も喜びの表情を見せた。
 「姫様・・・よかったですねっ。」
 「やったね、ルナっ。」
 「うん・・・よかった・・・」
 頷くルナに、兵士とエスメラルダは歓喜の声を上げる。
 「もうっ、姉様ったら何を言い出すかと思ったよ。」
 「しょうがないじゃない、ルナがこんな事してるとは思わなかったから・・・」
 笑いあっているエリアスとエスメラルダ。
 「でも、なんで男の急所を狙うわけ?こんな所を撃たれたら痛いじゃ済まないよぉ。」
 「あ、それは・・・お腹を狙ったつもりなんだけどー。」
 股間の部分に弾が命中しているワラ人形を見ながら、そう言うエスメラルダに、ルナは
慌てて言い訳をする。
 「うそぉ、本当はねらってたんじゃ・・・えっ、これ・・・なに。」
 何気なく股間の部分から零れ落ちた弾を拾い上げたエスメラルダは驚いた。弾は鉛製で
はなかったのだ。
 「これ、ゴムの弾だよっ!?」
 声を上げるエスメラルダに、兵士が説明をした。
 「実は、ルナ姫様は撃たれた相手が大怪我しないようにって銃職人にゴム製の弾を特注
で造らせてたんスよ。本当に御優しい方で・・・」
 「へえ、ルナらしいわね。」
 敵にすら配慮を考えるルナの優しさに、エリアスは微笑んだ。
 「ゴム弾なら本当に護身用ね。直接の戦闘は私達に任せるのよ。あなたは、あくまで守
りに徹する事。いいわね。」
 「うんっ、そうする。」
 エリアスの言葉に、ルナは大きく頷いた。その時、
 「姫様ーっ。今の銃声はなんでありますかーっ!!こ、黒獣兵団が攻めて来たのですか
ーっ!?」
 中庭へ、ライオネットが声を上げながらドタバタと走ってきた。
 「あ、ライオネットの事忘れてた。」
 置いてきぼりにした事を思い出し、舌を出して笑うエスメラルダ。そしてそこにいた一
同から笑い声が上がった。
 
 それから5日後、城前にはデトレイドとの戦いを控えた数多くの兵士達が集結していた。
 勇猛さで名を馳せるネイロス軍は、その団結力も強く、皆、ネイロスを守る為と言う使
命に燃えている。
 「いよいよだね、姉様。」
 城に集まった兵士達を見ながらエスメラルダが呟いた。
 「ええ、この一戦にネイロスの未来がかかっているわ。」
 「がんばらなきゃねっ。」
 答えるエリアスとルナ。
 「姫様、準備が整いました。」
 ライオネットの声に振りかえる3姉妹は、城のテラスに歩いて行った。
 「おおーっ、姫様っ、我等が戦姫っ!!」
 テラスに姿を見せた3姉妹を見た兵士一同から、一斉に歓声が上がった。
 3人は、同じデザインの鎧に色違いの陣羽織を羽織っている。
 鎧は重厚な男物より軽装で、胸を覆うアーマーと腰と腹部を守る部分に分かれており、
強じんな鉄板を組み合わせて造られた特注品であった。
 腕には肘から先を守るガントレット、足には膝から先を守るレッグガードを装備してい
るが、上腕部と太ももは動きやすいように装備をつけておらず、ハイレグ型の鎧から白い
太ももが露な状態だ。
 それら露な上腕部や太ももは、肩当てと腰に装着した垂(たれ)でガードしている。
 エリアスの手には王家に伝わる伝統の名剣(太陽の牙)が携えられており、エスメラル
ダの背中には刃渡り60cm程の2振りの矛があった。
 そしてルナは、5日前に姉達に披露した拳銃を腰に装備していた。
 3人の着ている陣羽織には、胸と背中に王家の紋章が入っており、色は、エリアスは高
貴な紫、エスメラルダは炎を連想させる赤、ルナはネイロスのアイドル的存在に相応しく、
可愛いフリルが付いた白い陣羽織であった。
 (フリル付きの陣羽織は、町の仕立て屋がデザインした物であるが、等のルナはかなり
気に入っている。)
 テラスに立つ3姉妹の姿は息を呑むほどに美しく、凛々しい。
 「エリアス姫様っ、ネイロスの女神っ!!」
 「エスメラルダ姫様っ、紅き旋風の戦姫っ!!」
 「ルナ姫様っ、我等が天使っ!!」
 3姉妹を称える兵士達の声が大きく響き渡り、それに答えるべく、エリアスは王家の剣
である太陽の牙を抜刀し天高く掲げた。
 「我等がネイロスに勝利あれっ、我等がネイロスに栄光あれっ!!」
 エリアスの声に兵士達は、諸手を掲げ、おおーっと鬨の声を上げた。
 「勝利あれっ、栄光あれっ!!」
 兵士達のシュプレヒコールが城全体を揺るがし、3姉妹の出陣を祝った。
 その頃、城内では3姉妹と歓声を上げる兵士達を見ているマグネアと傍らに黒装束の男
の姿があった。
 「首尾の方は?」
 「全て手筈通りに。」
 「よろしい。せいぜい浮かれているがいいわ、今のうちだけね・・・」
 陰謀に気付かぬまま、ネイロス軍は勇ましく出陣した。
 すでに黒獣兵団は国境付近にまで進軍していた。決戦の時は近付いている。


第3話に続く

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