魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫3)


  第1話 進行するグリードル帝の陰謀
原作者えのきさん

 悪の帝に率いられたガルダーン軍は、ノクターン侵略を着々と進めていた。
 (ノクターン王国の完全支配)を目論み、野望を巡らすグリードル帝・・・その本
性を露にした彼は、ついに自ら軍を指揮してノクターン侵略に着手した。
 再三の戦いで退けられてきた事を考慮に入れ、卑劣な手段を用いての作戦を案じる
が・・・その作戦とは・・・


 グリードル帝の指揮の元、進軍の準備は着々と進んでいる。
 軍隊は2手に分かれての攻撃が指示されており、ノクターン軍と直接戦闘をする部
隊、そしてノクターンの首都フォルテ攻略を行なう部隊が結成された。
 先だっての攻撃で大敗したガルア将軍の後任に、レッカード、ゲバルドの両将軍が
抜擢され、ノクターン軍との交戦をレッカード将軍が、そして首都攻略にはゲバルド
将軍が担う事となった。
 攻略作戦の詳細は、グリードル帝が直々に両将軍へ伝える事となり、グリードル帝
の自室では極秘の会合が行われている。
 
 玉座に座るグリードル帝の前には、レッカード、ゲバルド両将軍が神妙な面持ちで
傅いていた。
 レッカードは、ガルアの格下に甘んじていた存在で、小心な印象を漂わせる俗物で
あった。ガルアの失脚によって運良く将軍となったが、その小心ゆえ、ガルアの覇気
には程遠く、今だ部下の信頼を得ていない。
 対するゲバルド将軍は、飢えたハイエナを思わせる濁り腐った目の男だった。腐肉
を貪り食う、卑しく愚劣な獣。ゲバルドは正にハイエナの化身と言えた。彼の餌食に
なった弱者は数知れず。その弱者の躯を踏み台にして、ゲバルドは将軍の地位を手に
入れている。
 最初にレッカード将軍が、恐る恐るグリードル帝に尋ねる。
 「み、帝様・・・今回の作戦は帝様が御直々に下されるとの事ですが・・・如何な
る攻略をもってしてノクターンを攻めるのでありますか?」
 その言葉に、邪悪な帝は威圧的な口調で返答した。その口調には、絶対的な命令服
従を強いる権威が篭っている。
 「作戦の詳細はお前達だけに伝える事となる。作戦の詳細は間違っても手下どもに
話すんじゃない、命令だけを伝えればいいんだ、わかったな?」
 簡潔なる指示ではあったが、非情なほどの服従が言葉に込められていた。命令に逆
らおうなら、問答無用の処罰が待っているのだ。
 両将軍は、ただ命令に従った。
 「り、了解しました帝様・・・」
 平伏する2人を、冷酷な視線が刺し貫く。
 「よく聞け。今回の作戦にはバーンハルド国の軍勢が我々に味方する事になった。
我が軍とバーンハルド軍の挟み撃ちでノクターンを叩き潰す。」
 突然聞かされた作戦の詳細に、両将軍は呆気に取られる。
 「ば、バーンハルドがですか?確か・・・バーンハルドのリスカー国王は、ノクタ
ーンのアルタクス王と盟友だった筈では?そんな奴が簡単に寝返るとは信じられませ
ん・・・」
 その言葉に、グリードル帝はニヤリと笑う。
 「フフン、お前達がそう言うのも無理はない。確かに奴等は盟友だ、しかし、如何
に盟友であろうとも肉親の身代には換えられまい・・・愛しい娘を人質に取られたと
なれば、盟友など簡単に裏切るだろうさ。フフフ・・・」
 帝の邪悪な笑いから、両将軍は作戦の裏を知った。バーンハルドの姫君が、ガルダ
ーンに人質として囚われているのだ。
 「なるほど・・・それなら納得がいきます。しかしバーンハルドが我が軍に加勢す
るとしても、ノクターン軍の動きを知らねば挟み撃ちもなりません。」
 ノクターン軍は、国王アルタクスの的確な指揮の元、数々の侵略を跳ね除けて来た。
 ガルダーン軍は、挟み撃ちによってノクターン軍を追い詰めようとした事も1度や2
度ではないが、そのいずれもノクターン軍の動きを読めずに大敗を喫してきたのだ。
 いくら挟み撃ちを労しても、相手の動きがわからねば何の意味もない。
 すると、グリードル帝は更に付け加えた。
 「案ずるな、それも既に手を打ってある。ズィルク参謀がノクターンの動きを知ら
せてくれる走狗を手配してくれたのでな。ノクターン軍の動きは全て我等の手の内と
言う訳だ。」
 グリードル帝の言葉に、傍らに控えていた参謀のズィルクが姿を現す。
 「レッカード、ゲバルド両将軍。お主達は懸念を抱く必要はないのだよ、帝様の懸
命なる御指示に従えばそれで良いのだ。」
 陰険な邪笑いを浮べるズィルクに、レッカード、ゲバルドの両将軍は顔を顰める。
 「チッ、陰険ジジィが・・・腰巾着のくせに図に乗りやがって。」
 いつもグリードルの影に控え、姑息な手段を労するズィルクの存在を、両将軍は快
く思っていない。
 そんな彼等の小声を知ってか知らずしてか、ズィルクは涼しい顔でグリードル帝に
言い寄る。
 「帝様、走狗のアントニウスですが、なかなか良好に動いておりますぞ。敵軍の作
戦会議の詳細なども、全て我等にもたらしてくれまする。」
 そして満足そうに頷くグリードル帝。
 「人選に間違いはなかったな。あの小心者には、それなりの報酬でもくれてやろう
か。」
 「そうですな、はした金と高官の椅子でも用意すれば十分喜ぶでしょう。まあ、あ
の男には多すぎる報酬ですがね。」
 「まったくだ、わっはっはっ。」
 そんな2人のやり取りを、両将軍は黙って見ている。こんな策略など幾度となく繰
り返されてきたが、今回は(ノクターン完全攻略)が確実なのを実感していた。
 (今度こそノクターン軍を叩き潰し、その手柄で地位を上げてやる。)
 そんな野望が、両将軍の胸中に沸き上がっていた。
 弱肉強食のガルダーン帝国にあって、自身の野望を適えるためには、如何なる手段
も辞さない事が常識であった。
 ガルア将軍とガラシャ将軍が失脚した今、次の戦いで功績を上げれば、軍の最高位
である元帥の地位を手に入れる事も可能だ。
 貪欲なゲバルドの濁った目がレッカードを睨む。
 (ガルアの下で媚びてたクソが・・・てめえに元帥の地位は譲らねえぜっ。)
 無論、小心ながらもレッカードは睨み返す。
 (ゲスめ・・・貴様に将軍を名乗る資格はないっ!!この俺が奈落に叩き落として
やるぞっ!!)
 睨み合う両将軍の間で、激しい火花が散っている。
 互いに相手を蹴落とそうと画策しており、今回の作戦で名を上げようと躍起になっ
ているのだ。
 彼等に仲間意識や協力など一切ない。ただ自身の地位向上のみしか興味はないのだ。
 それがグリードルの思惑であろう事など思いもしてはいない。邪悪な帝は、水面下
で凌ぎを削る両将軍を薄笑いを浮べて見ている。
 「ククク・・・食らいあうがいい・・・最後に残った奴が、この俺に最も多くの獲
物をもたらしてくれる。お前達は、使い捨ての手駒って事さ・・・フッフッフ・・・」
 多くの獲物が狩り集められ、それを全てグリードル帝が食らう。獲物を狩る狩人も
また、消耗品の道具として次々捨てられていく・・・
 それがガルダーン帝国の狂った秩序であった。凶悪な帝王、グリードルの作り上げ
た悪魔の秩序であった・・・
 
 宮殿で策略が練られている頃、ガルダーンに寝返ったアントニウスは、ノクターン
城で協議されている対ガルダーン戦の軍法会議を、密かに傍受してガルダーンへと流
していた。
 傍受した情報をメモに書き、城下の潰れた酒場でズィルクの手下に渡している。
 「これがバーンハルド軍への援軍の詳細だ。こっちは首都防衛隊の詳細。殆どの戦
力を援軍へ回してるから、一個師団で十分陥落できるよ。でもって、最も警護の薄い
のが首都の西側だ。」
 軍隊や、ノクターンの要と言える首都フォルテの状況を克明に伝えるアントニウス。
 その情報に、ズィルクの手下は満足げに頷いた。
 「よくここまで情報を手に入れる事ができたな。我々の精鋭でもフォルテ城に足を
踏み入れる事すらできなかったのに。振り付け師なんかやめて、諜報員として活躍し
たらどーだ?」
 手下の見え透いたお世辞に、アントニウスはヘラヘラ笑う。
 「えっへっへ〜、あんた達に借りた傍受装置が役に立ったよ。でも、僕にスパイの
素質があったとは自分でも以外なんだよね〜、でへへ♪」
 単純なアントニウスは、手下の言葉を真に受けている様だ。
 「・・・本気にするなよバーカ。」
 「え?なんか言った?」
 「いや、なんでもない。それより引き続き情報を頼む。重要なのはアリエル率いる
援軍はどう動くかだ。それによって勝敗は大きく変わる。」
 アリエルの名前に、アントニウスは興奮した様子で宣言する。
 「任せといてくれっ、ヘナチョコ姫の情報、何から何までぜーんぶ調べ尽くしてや
るってばよ。大船に乗ったつもりでいて頂戴っ。」
 妙に調子の良いアントニウスに、手下は苦笑いする。
 「あ、ああ、頼りにしてるぜ。それとコイツは最新型の写真器だ、感光紙を後ろか
らセットして、こう使うんだ・・・わかったか?」
 写真器を受け取ったアントニウスは、なにやらニヤニヤと笑っている。
 「なるほど、こーやって、こーして使うんだね?うんうん・・・これでアリエルを・
・・えへへ〜。」
 そのイヤラシイ笑いに、手下は嫌な予感を抱いた。そして多い目に感光紙を手渡す。
 「これは高いんだからな、無駄に使うんじゃねーぞ。わかってるとは思うが・・・
あくまでアリエルが指揮する軍の様子を映すのであって、アリエル本人を映す必要は
ないぞ。」
 「へいへい、わかってますって。フンフ〜ン♪」
 鼻歌交じりに酒場を出て行くアントニウス。それを見て胃痛の薬を飲む手下。
 「あいつ・・・本当にわかってンのか?あのバカのせいで、俺は胃潰瘍になっちま
うぜ全く・・・」
 手下の心労は、呑気なアントニウスには届かないのであった。
 
 手下の心配したとおり、後日アントニウスが持って来た写真は、全部アリエルを映
したものばかりだった。
 肝心な部分が映されていない写真ばかりだったため、それから軍の動きを知るのに、
手下が苦労したのは言うまでもないことだった・・・


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